追放された聖女は鬼将軍の愛に溺れて真実を掴む〜偽りの呪いを溶かす甘く激しい愛〜

有賀冬馬

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王都の門をくぐった瞬間、私の心はドキドキと高鳴った。
ここは、私がかつて「偽りの聖女」として追放された場所。
けれど今は、違う。私はただの追放者じゃない。真実を証明する者。
それに、何より――ディランがいる。あの“鬼の辺境伯”が、私のそばにいる。

「リュシア様、大丈夫ですか?」
ディランの低く優しい声が耳に響く。

私は深く息を吸って、笑顔を作った。
「はい。怖くない。……もう、逃げたりしない」

城へ向かう途中、目に映る景色は昔と同じでも、私の気持ちは違った。
かつて私を貶めた人々。王宮の高い塔。冷たい視線。

“あの時、私を裏切った人たち、今さら何を言うの?”
“私の痛みも苦しみも知らずに、偽りの神託を信じていたくせに……”

ディランは黙って馬車を進めていたが、私は彼の背中に心強さを感じていた。
何度でも戦うつもりだ。絶対に真実を明かして、あの人たちを見返してやる。

城に到着すると、すぐに王都の聖堂へ案内された。
そこで待っていたのは、神官長――カミロスだった。

彼は私を冷たい目で見下ろし、嘲笑した。

「リュシア、お前がここに戻ってくるとはな」
「カミロス神官長、今日ははっきりさせたいことがあります」

私は強い目で言った。

「神託は偽りでした。私を陥れるための嘘だった」

神官長の表情がわずかに変わる。

「証拠はあるのか?」
「あります」

そう言って、私はミレイナから受け取った古い巻物を取り出した。

それは、神託が下される前の記録を写したものだった。

内容は――私の潔白を証明するものだった。

「この巻物にある通り、神託は人為的に改ざんされたものです。私を貶めるために」

場の空気が一気に変わった。

神官たちがざわめき始め、カミロスは顔を青ざめさせた。

「おまえ……どうやってこの証拠を手に入れた?」

私はにっこりと笑った。

「その秘密は、いずれ明かします。今は、私の名誉を回復してください」

カミロスは激しく顔を歪めたが、証拠の前に反論できなかった。

彼は動揺しながらも、必死に言い訳を並べた。

「こんな証拠があっても、神託の力は絶対だ。おまえの言うことは認められない」

「そんなこと、もう通用しません!」

私は声を震わせながらも、堂々と言い返した。

「私は真実の聖女です。もう偽りの烙印は消えました。証明できたのですから」

ディランも強い声で言った。

「辺境伯ディランが証言します。彼女は私が直接見守ってきた。神託の嘘は、あの神官長の陰謀だ」

聖堂内の空気は緊迫し、数人の神官がざわついた。

そして、カミロスが大声を上げた。

「黙れ! おまえら二人とも、この場で拘束だ!」

しかし、ディランは素早く剣を抜いた。

「俺は辺境伯だ。ここで無茶は許さない」

その威圧感に押され、神官たちは手を引いた。

私はディランに視線を向けて、静かに言った。

「ありがとう、ディラン」

ディランは少しだけ頬を赤らめて、剣を鞘に収めた。

その夜、私は城の一室で眠れずにいた。

思い返すと、あの神官長やかつての仲間たちの顔が浮かんで、怒りがこみ上げた。

「裏切ったくせに、今さら何を言うの?」

でも、同時に心のどこかで、寂しさも感じていた。

あんなに信じていた人たちが、あんなにひどいことをしたんだもの。

涙がぽろりとこぼれた。

「もう、傷つきたくない」

けれど、そっと手を握るディランのぬくもりが、私を強くした。

「俺がいる。もうひとりじゃない」

私は静かに頷いた。

「ありがとう。これからは、私も自分のために戦う」

翌日、聖堂での告発は一気に広まった。

人々の視線が私を見る目が少しずつ変わっていくのがわかった。

「偽りの聖女」だった私は、今や「真実の聖女」として復活し始めていた。

そして、噂が王宮中に広まるにつれて、私を追い詰めた人たちの態度も変わり始めた。

ある者は必死に取り繕い、ある者は顔を伏せて私を避けた。






数週間後、私とディランは王都の広場で、人々の前に立った。

「私は、偽りの聖女として追放されました」

私は声を震わせながらも、堂々と話した。

「でも、真実は違いました。神託は改ざんされていたのです」

人々の目が輝き、ざわめきが起きた。

「これからは、私が本物の聖女として、この国を守っていきます」

私は胸を張った。

ディランが隣でにこりと微笑む。

「リュシア様、私もあなたの傍で戦います」

その言葉に、私はもう一度大きくうなずいた。

「ありがとう、ディラン。あなたと一緒なら、怖くない」

太陽がまぶしく照らす中、私は強く誓った。

もう二度と、偽りの聖女には戻らない。

真実の光を、この手でつかみ取るのだと。







王都での告発から数日後。
私の心はずっとざわざわしていたけれど、今日は何だか違った。
ディランが私の隣にいるから。

彼はいつも無口で、冷たく見えることも多い。
だけど、あの騎士の強さの奥には、優しさがぎゅっと詰まっているって、最近気づいた。

今日は城の庭園で二人きり。
初めて、こんなに穏やかな時間を過ごしている。

「リュシア、今日は休め。お前が疲れているのはわかっている」
ディランは鋭い目で私を見つめるけど、声はいつもよりずっと柔らかかった。

「ありがとう。でも、まだやらなきゃいけないことがたくさんあるの」
私は小さく笑って答えた。

「俺が助ける。お前を一人にはしない」

そう言われて、胸がじんわり温かくなる。

彼の隣で過ごす時間が、こんなにも幸せだなんて思わなかった。

庭園には色とりどりの花が咲き誇り、そよ風が優しく吹いていた。

「ねえ、ディラン」
私はちょっと勇気を出して声をかけた。

「はい?」
彼がこちらを向く。

「あなたはどうして、私にそんなに優しくしてくれるの?」

ディランは少し考えてから答えた。

「お前は特別だからだ。偽りの聖女と言われて、誰にも信用されなかった。だが俺は、お前の本当の強さを知っている」

その言葉に胸がきゅっと締めつけられた。

「ありがとう……ディラン」

私は顔を赤らめて、そっと彼の手に触れた。

ディランもぎゅっと私の手を握り返してくれた。

「お前のことを守る。それが俺の役目だ」

そう言われて、私の胸の奥に小さな勇気が灯った。

それから、私たちは庭園をゆっくりと歩いた。

ディランが私のそばで、時折微笑んでくれる。

こんなふうに誰かと心を通わせるのは久しぶりだった。

かつての私なら、疑い深くて、誰も信じられなかった。

でも今は違う。

ディランの存在が、私の世界を少しずつ明るくしてくれる。

「リュシア、お前のことをもっと知りたい」
彼がぽつりと言った。

「私も……あなたのことを知りたい」

そう言うと、ディランは少し照れたように目を伏せた。

「昔は孤独だった。誰にも心を開けなかった」

「私も、そうだった」

二人は笑い合い、自然と距離が縮まった。

その夜、私たちは城の小さな書斎で話し込んだ。

ディランが少年時代の話をしてくれた。

「俺は辺境で育った。人も少なくて、孤独だった」

私は静かに聞き入った。

「だから、リュシアと出会ったとき、驚いたんだ。こんなに強くて優しい人がいるなんて」

彼の目が真剣で、私は胸が熱くなった。

「ディラン……私、あなたと一緒にいられて幸せ」

「俺もだ」

ディランがそっと私の髪を撫でてくれた。

その指先の温もりに、心が震えた。

次の日、城の庭園で初めての花摘みをした。

ディランが選んだ一輪の赤いバラを、私にそっと差し出した。

「お前に似合うと思った」

私は恥ずかしくて顔を背けたけれど、心の中はとても嬉しかった。

「ありがとう、ディラン」

二人の間には言葉にならない温かさが流れていた。

だけど、幸せな時間は永遠じゃないことも知っている。

まだ国には敵もいるし、私たちを貶めた人たちはじっと機会を狙っている。

だからこそ、今この瞬間を大切にしたい。

ディランがいることが、何よりも心強い。

私は彼の腕にそっと寄り添い、目を閉じた。

「ずっと、一緒にいてね」

ディランが優しく頷いた。

「ああ、約束する」

これからもたくさんの試練が待っている。

でも、二人なら乗り越えられる。

そう信じて、私は新しい日々を歩き出す。

真実と愛を手に入れた私の物語は、まだまだ続くのだから。

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