地味子と蔑まれた私ですが、公爵様と結ばれることになりましたので、もうあなたに用はありません

有賀冬馬

文字の大きさ
1 / 4

しおりを挟む
私、エミリア・フォン・グロースターは、侯爵家の三女として生まれた。

姉様たちは、まるで絵画から抜け出してきたかのような美貌の持ち主で、社交界の華としていつも注目の的だ。でも、私は違う。

「エミリア、またそんな地味な色のドレスを着て。侯爵家の娘らしくないわよ」

母様はため息交じりにそう言う。鏡に映る私は、確かに地味だ。栗色の髪も、そばかすの浮いた肌も、どこかぼんやりとした印象を与えている。華やかな姉様たちの隣に立つと、私はまるで背景のようだった。

「地味子、地味子」

使用人たちの陰口も、もう慣れっこだ。私はただ、本を読んだり、庭の花を眺めたりして過ごすのが好きだった。社交界のきらびやかな世界よりも、静かな時間が私には合っていたのだ。

そんな私の人生に、たったひとつの光があった。

それが、私の婚約者であるアレクサンダー・フォン・エルウィン様だ。

アレク様は、子爵家の御曹司で、すらりとした長身に、切れ長の目が魅力的な、とても素敵な人。姉様たちからも「どうしてあんな地味な子と?」と不思議がられるほどだった。

「エミリア、今日の君も素敵だよ」

アレク様はいつもそう言ってくれる。それが社交辞令だと知っていても、彼の優しい言葉が私の心を暖めてくれた。私は、アレク様と結婚して、幸せな家庭を築くことを夢見ていた。

でも、最近のアレク様は少し冷たかった。

「エミリア、その…もっと、こう、社交的になってくれないか?」

いつものように庭で読書をしていると、アレク様が眉をひそめて言った。

「私、社交は苦手で…」

「侯爵家の令嬢として、それは困る。君がもっと華やかになってくれれば、僕ももっと出世できるのに」

彼の口から出た言葉は、私の胸を鋭く突き刺した。出世。そう、アレク様は私を踏み台にしているのだと、薄々気づいてはいた。でも、私は彼のことを信じたかった。

ある日のこと、私は偶然、姉様たちの会話を聞いてしまった。

「アレクサンダー様、最近は公爵家のカミーユ様とばかりお会いになっているらしいわよ」

「まぁ、あの美しくて才気溢れるカミーユ様と? エミリアったら、もう用済みってことじゃない?」

「ふふ、アレクサンダー様も、地味なエミリアじゃ出世は望めないものね」

私の胸は、凍りついた。アレク様が私を裏切っている。いや、最初から私を見てなどいなかったのかもしれない。

その夜、私はアレク様を訪ねた。

「アレク様…」

「ああ、エミリアか。ちょうどよかった。君に話したいことがあったんだ」

アレク様の顔は、いつもと違って、どこか冷たい。

「…私、姉様たちの会話を聞いてしまいました。カミーユ様のこと…」

私の言葉に、アレク様は顔色ひとつ変えずに言った。

「その通りだ。エミリア、君との婚約を破棄させてもらう」

私の世界は、音を立てて崩れ去った。

「な、どうして…」

「理由なんて明白だろう。君は侯爵家の令嬢でありながら、社交界にも出ず、何の役にも立たない。僕の出世の足かせにしかならないんだ」

アレク様の目は、私を真っ直ぐに見据えていたが、そこには何の感情も宿っていなかった。まるで、不要になった道具を捨てるかのように、淡々と告げられた。

「…っ、アレク様! 私、頑張ります! もっと、もっと華やかになってみせますから!」

私は必死に懇願した。でも、彼の心にはもう届かない。

「もう遅いんだ、エミリア。それに、君がどんなに努力したところで、カミーユ様には敵わない」

アレク様の言葉は、私の心をズタズタにした。私の一年にも及ぶ片想いは、あっけなく終わりを告げたのだ。

婚約破棄を告げられた翌日、侯爵家からも私への態度は一変した。

「エミリア、お前は侯爵家の恥だ」

父様は私を冷たい目で見て、そう言った。

「アレクサンダー様との婚約が破棄になった今、お前をここに置いておくわけにはいかない」

「…そんな、どこへ行けば…」

「知るか。好きなところへ行け。ただし、二度と侯爵家を名乗るな」

私は家を追い出された。持たされたのは、ほんのわずかなお金と、小さなカバンだけ。

「地味子のくせに、アレク様を射止められなかったのね」

「ほんと、使えない」

姉様たちの冷たい視線が、私に突き刺さる。私は、何も言えなかった。ただ、涙をこぼすことしかできなかった。

侯爵家を後にし、私は一人、あてもなく歩き始めた。

見慣れた街並みが、遠ざかっていく。私は、もう、侯爵令嬢エミリアではない。

私は、一体誰なのだろう。どこへ行けばいいのだろう。

途方に暮れながら、私は歩き続けた。私の心は、凍えるように冷たかった。

アレク様の裏切り。家族からの見放し。

私の人生は、もう終わってしまった。そう思っていた。

でも、これが私の新しい人生の始まりだとは、この時の私は知る由もなかったのだ。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**

鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、 突如として現れた「本物の聖女」。 空中浮遊、瞬間移動、念動力―― 奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、 王太子はその力に目を奪われる。 その結果、 王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、 一方的に婚約を破棄されてしまった。 だが、聖女の力は―― ・空中浮遊は、地上三十センチ ・瞬間移動は、秒速一メートル ・念動力は、手で持てる重さまで 派手ではあるが、実用性は乏しい。 聖女の力は、見世物レベル。 少なくとも、誰もがそう判断していた。 それでも人々は喝采し、 権威は少女を縛り、 「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。 そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、 ある違和感に気づき始める。 ――奇跡よりも、奪われているものがあることに。 派手な復讐はない。 怒鳴り返しもしない。 けれど静かに、確実に、 “正しさ”は明らかになっていく。 見世物にされた奇跡と、 尊厳を取り戻す少女たちの物語。 ---

婚約破棄?結構ですわ。公爵令嬢は今日も優雅に生きております

鍛高譚
恋愛
婚約破棄された直後、階段から転げ落ちて前世の記憶が蘇った公爵令嬢レイラ・フォン・アーデルハイド。 彼女の前世は、ブラック企業で心身をすり減らして働いていたOLだった。――けれど、今は違う! 「復讐? 見返す? そんな面倒くさいこと、やってられませんわ」 「婚約破棄? そんなの大したことじゃありません。むしろ、自由になって最高ですわ!」 貴族の婚姻は家同士の結びつき――つまりビジネス。恋愛感情など二の次なのだから、破談になったところで何のダメージもなし。 それよりも、レイラにはやりたいことがたくさんある。ぶどう園の品種改良、ワインの販路拡大、新商品の開発、そして優雅なティータイム! そう、彼女はただ「貴族令嬢としての特権をフル活用して、人生を楽しむ」ことを決めたのだ。 ところが、彼女の自由気ままな行動が、なぜか周囲をざわつかせていく。 婚約破棄した王太子はなぜか複雑な顔をし、貴族たちは彼女の事業に注目し始める。 そして、彼女が手がけた最高級ワインはプレミア化し、ついには王室から直々に取引の申し出が……!? 「はぁ……復讐しないのに、勝手に“ざまぁ”になってしまいましたわ」 復讐も愛憎劇も不要! ただひたすらに自分の幸せを追求するだけの公爵令嬢が、気づけば最強の貴族になっていた!? 優雅で自由気ままな貴族ライフ、ここに開幕!

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

王太子様が突然の溺愛宣言 ―侍女から王妃候補へ―

有賀冬馬
恋愛
王太子付き侍女として地味に働いていた私。 でも陰湿な嫌がらせに限界を感じ辞めたその日に、王太子が突然私のもとに現れて「お前がいないと息ができない」と涙ながらに求婚――

終わりから始まる恋――冷徹公爵に婚約破棄された令嬢は、愛されすぎて逃げられません!

nacat
恋愛
婚約者である公爵に公衆の面前で婚約破棄を宣言された伯爵令嬢リディア。 失意の中、国外で実力を発揮し、社交界に新星として返り咲く。 ところが――今度はあの冷徹だった公爵が、過去の過ちを悔い必死に彼女を追い始めて!? 「一度捨てた女を、二度も愛せると思わないでください」 皮肉にも、“ざまぁ”と“溺愛”が巡る愛の逆転劇が、今ここに始まる。

王太子から婚約破棄され、彼の新たな婚約者に努力の結晶を盗まれましたが、それが王都崩壊のきっかけでした。

水上
恋愛
王太子から理不尽に婚約破棄され、彼の新たな婚約者に研究成果を盗まれたエレノア。 そんな彼女を拾ったのは、辺境伯アレクセイだった。 その結果、エレノアは持ち前の知識と技術で辺境を改革して、領民から崇められることに。 一方、王都では、王太子たちがエレノアから盗んだ研究成果を利用しようとするも、それらを正しく扱いきれず、崩壊の兆しを見せ始め……。

「妹より醜い」と言われていた私、今から龍の神様と結婚します。〜ウズメの末裔令嬢の結婚〜

麻麻(あさあさ)
恋愛
妹より醜いと呼ばれていた双子の姉私、深子(みこ)と美しい妹の舞華(まいか)2人は天鈿女命の末裔だったが舞の踊り手は妹だった。 蔑まれる中、雷龍(らいりゅう)と言う雷を操る龍が言い伝え通りに生贄同然で結婚の話を聞かされる。 「だったらお姉様がお嫁にいけばいいじゃない」 と言われる中、雷龍がいる場所に生贄のつもりで行くが彼は優しく深子に接してくる。 今作はカクヨムに載せていたものを改題した作品です。

婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される

夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。 さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。 目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。 優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。 一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。 しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。

処理中です...