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2.崩れる論理
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「なっ……!?」
ジェラルドが言葉に詰まる。
畳み掛けるように言葉を続ける。
「ご記憶にありませんか? 『こんな面倒な書類見るだけで頭が痛くなる。リリエン、お前がやっておけ』と、私の執務机に山積みの書類を押し付けて、そのままご学友と街へお出かけになられたのを。新しい賭博場てしたかしら」
ジェラルドは答えなかったけれど顔が白くなった。青ざめるを通り越して白。同時に会場の空気も変わった。先ほどまでの私への非難の視線が、疑念の色を帯びてジェラルドへと向かい始めた。
「そ、それは……! だっだが、実際に俺がいない間にお前がやったという証拠はないだろう。お、お前は部下に押し付けて、学園でミアをいじめていたに違いない!」
「いいえ。王宮の入退室記録にも、執務室の使用記録にも私のサインがあります。それに、宰相閣下や財務大臣とも面会しておりましたわ。彼らが証人です」
完璧なアリバイに、ジェラルドの顔が今度は赤くなる。しかし、彼は引くに引けなくなったのか、さらに声を荒げた。
「だ、だとしてもだ! お前のその冷酷な態度が気に入らないのだ! 可愛げのかけらもない、常に私を見下すような目つき。それに比べてミアはどうだ。純粋で優しくて、俺を敬ってくれる。彼女こそが次期王妃にふさわしい!」
ミアが一歩前に出て、勝ち誇ったように私を見上げた。
「リリエン様。愛のない結婚なんて不幸なだけです。ジェラルド様を解放してあげてください」
その言葉に思わず噴き出しそうになった。
愛? 解放?
この女は、自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。
「……殿下。一つ確認させていただきたいのですが、婚約破棄というのは王命に背く行為であることはご理解されていますか?」
「ふん、父上も母上も、真実の愛を知れば許してくださるはずだ」
「そうですか。では、この婚約破棄によって、ウィンズロー公爵家からの支援も全て打ち切られることになりますが、よろしいのですね?」
ぽつり、つぶやくように言葉を放った。
これは矢だったのに愚鈍な王子は気づかない。片眉をひょいと上げ、余裕の笑みだ。
「支援? はっ、たかが公爵家の金など、王家の財力に比べれば微々たるものだろう」
鼻で笑っている。
その瞬間、会場のあちこちから「馬鹿な」「終わったな」と、有力貴族たちの絶望的なつぶやきが聞こえた。
哀れな王子。
可哀想なものを見る目で王子を見た。私だけでなく、今ではミレイア以外の人間たちが。
「殿下、ご存じないのですか? 現在の王家の予算の約六割は、我がウィンズロー家が所有する商会と領地からの納税、それに個人的な寄付によって賄われていることを」
「は?!」
「さらに言えば、殿下が湯水のように使っているその衣装代、ミレイア様に買い与えた宝石、毎晩のパーティー費用。それらは全て、『次期王妃の教育費および必要経費』という名目で、我が家の予算から捻出しておりますのよ」
ジェラルドの顔から血の気が引いていく。
ミレイアも状況が飲み込めないのか、キョトンとしている。
「つまり、婚約破棄となれば、それらの資金援助は即座に停止いたします。さらに、私が代行していた公務、年間およそ二千件の決裁業務も、全て殿下ご自身で行っていただくことになります」
私は優雅に微笑んだ。
「今まで私の無償労働(サービス残業)に甘えきっていたツケを、お支払いいただく時が参りましたわね」
ジェラルドが言葉に詰まる。
畳み掛けるように言葉を続ける。
「ご記憶にありませんか? 『こんな面倒な書類見るだけで頭が痛くなる。リリエン、お前がやっておけ』と、私の執務机に山積みの書類を押し付けて、そのままご学友と街へお出かけになられたのを。新しい賭博場てしたかしら」
ジェラルドは答えなかったけれど顔が白くなった。青ざめるを通り越して白。同時に会場の空気も変わった。先ほどまでの私への非難の視線が、疑念の色を帯びてジェラルドへと向かい始めた。
「そ、それは……! だっだが、実際に俺がいない間にお前がやったという証拠はないだろう。お、お前は部下に押し付けて、学園でミアをいじめていたに違いない!」
「いいえ。王宮の入退室記録にも、執務室の使用記録にも私のサインがあります。それに、宰相閣下や財務大臣とも面会しておりましたわ。彼らが証人です」
完璧なアリバイに、ジェラルドの顔が今度は赤くなる。しかし、彼は引くに引けなくなったのか、さらに声を荒げた。
「だ、だとしてもだ! お前のその冷酷な態度が気に入らないのだ! 可愛げのかけらもない、常に私を見下すような目つき。それに比べてミアはどうだ。純粋で優しくて、俺を敬ってくれる。彼女こそが次期王妃にふさわしい!」
ミアが一歩前に出て、勝ち誇ったように私を見上げた。
「リリエン様。愛のない結婚なんて不幸なだけです。ジェラルド様を解放してあげてください」
その言葉に思わず噴き出しそうになった。
愛? 解放?
この女は、自分が何を言っているのか理解しているのだろうか。
「……殿下。一つ確認させていただきたいのですが、婚約破棄というのは王命に背く行為であることはご理解されていますか?」
「ふん、父上も母上も、真実の愛を知れば許してくださるはずだ」
「そうですか。では、この婚約破棄によって、ウィンズロー公爵家からの支援も全て打ち切られることになりますが、よろしいのですね?」
ぽつり、つぶやくように言葉を放った。
これは矢だったのに愚鈍な王子は気づかない。片眉をひょいと上げ、余裕の笑みだ。
「支援? はっ、たかが公爵家の金など、王家の財力に比べれば微々たるものだろう」
鼻で笑っている。
その瞬間、会場のあちこちから「馬鹿な」「終わったな」と、有力貴族たちの絶望的なつぶやきが聞こえた。
哀れな王子。
可哀想なものを見る目で王子を見た。私だけでなく、今ではミレイア以外の人間たちが。
「殿下、ご存じないのですか? 現在の王家の予算の約六割は、我がウィンズロー家が所有する商会と領地からの納税、それに個人的な寄付によって賄われていることを」
「は?!」
「さらに言えば、殿下が湯水のように使っているその衣装代、ミレイア様に買い与えた宝石、毎晩のパーティー費用。それらは全て、『次期王妃の教育費および必要経費』という名目で、我が家の予算から捻出しておりますのよ」
ジェラルドの顔から血の気が引いていく。
ミレイアも状況が飲み込めないのか、キョトンとしている。
「つまり、婚約破棄となれば、それらの資金援助は即座に停止いたします。さらに、私が代行していた公務、年間およそ二千件の決裁業務も、全て殿下ご自身で行っていただくことになります」
私は優雅に微笑んだ。
「今まで私の無償労働(サービス残業)に甘えきっていたツケを、お支払いいただく時が参りましたわね」
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