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3. 真打ち登場
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「うっ、嘘だ……そんな……」
ジェラルドが首を横に振りながら後ずさる。ミレイアの腰を抱いていた手が離れている。
その時、ホールの扉が重々しい音を立てて開かれた。現れたのは、凍てつくような冷気を纏った長身の青年。
黒髪に紫の瞳、そして誰もが息を呑むほどの美貌を持つ男。
この国の若き宰相補佐であり、私の幼馴染でもあるアレクセイ・フォン・バークレイ公爵令息だ。彼は靴音を響かせながらやってきて私の隣に並ぶと、ジェラルドを一瞥もしないまま、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「お待たせしました、リリエン。国王陛下からの勅命です」
「相変わらず仕事が早いわね、アレクセイ」
「君が虐げられているとあっては、馬を飛ばさないわけにはいかないからな」
アレクセイは普段の氷のような無表情を崩し、私にだけ向けられる甘い微笑みを見せた。会場の令嬢たちがそのギャップに悲鳴を上げた。
黄色い声にここがどこか思い出したのだろう、彼は再び冷徹な顔に戻り、ジェラルドに向き直った。
「ジェラルド殿下。陛下は、今しがたの殿下の発言を通信魔法を通して全てお聞きになっておられます」
「なっ、父上が!?」
「ええ。我が息子ながら、これほど愚かとは、と嘆いておられました。よって、ここに勅命を読み上げます」
アレクセイの声が朗々と広間に響き渡る。
「第一王子ジェラルドより王位継承権を剥奪。王領シェラン諸島へ送り、海軍一兵卒としての再教育の開始を命じる。また、男爵令嬢ミレイアについては、王家への不敬罪および虚偽の告発の罪により、国外追放とする」
アレクセイが勅命を読み終わる頃には、ジェラルドとミレイアは二人揃って雪のように白い顔になっていた。呆けているわ。
黙って見ていたら先に意識を取り戻したのはミレイアだった。
「嫌よイヤ、王妃になるはずだったのに!」
ミレイアが泣き叫んでジェラルドの腕にすがりつくが、衛兵たちが即座に二人を取り押さえた。
「離せ! 俺は王子だぞ! リリエン、お前も何とか言え!」
ジェラルドが叫ぶ。情けない。
ゆっくりと彼に近づき、耳元で囁いた。
「残念ですわジェラルド様。貴方がもう少し賢く、あるいは私に対して誠実であれば、最後まで貴方を支えるつもりでしたのに」
私にとって、王子との婚約は義務だった。仕事だった。国のため、家のため、公爵令嬢として無能な彼を支え、王家を盛り立てる。それが私の義務だと信じていた。
けれど彼はその努力を可愛げがない、と切り捨て、私を公衆の面前で辱めようとした。
契約不履行は、そちらが先に行ったのよ。
「お連れしろ」
アレクセイの慇懃な合図で、ジェラルドとミレイアはズルズルと会場の外へ引きずられていった。
「リリエン!!」
「アレクセイさまあ!」
情けない断末魔のような叫びが遠ざかっていく。
ジェラルドが首を横に振りながら後ずさる。ミレイアの腰を抱いていた手が離れている。
その時、ホールの扉が重々しい音を立てて開かれた。現れたのは、凍てつくような冷気を纏った長身の青年。
黒髪に紫の瞳、そして誰もが息を呑むほどの美貌を持つ男。
この国の若き宰相補佐であり、私の幼馴染でもあるアレクセイ・フォン・バークレイ公爵令息だ。彼は靴音を響かせながらやってきて私の隣に並ぶと、ジェラルドを一瞥もしないまま、懐から一枚の羊皮紙を取り出した。
「お待たせしました、リリエン。国王陛下からの勅命です」
「相変わらず仕事が早いわね、アレクセイ」
「君が虐げられているとあっては、馬を飛ばさないわけにはいかないからな」
アレクセイは普段の氷のような無表情を崩し、私にだけ向けられる甘い微笑みを見せた。会場の令嬢たちがそのギャップに悲鳴を上げた。
黄色い声にここがどこか思い出したのだろう、彼は再び冷徹な顔に戻り、ジェラルドに向き直った。
「ジェラルド殿下。陛下は、今しがたの殿下の発言を通信魔法を通して全てお聞きになっておられます」
「なっ、父上が!?」
「ええ。我が息子ながら、これほど愚かとは、と嘆いておられました。よって、ここに勅命を読み上げます」
アレクセイの声が朗々と広間に響き渡る。
「第一王子ジェラルドより王位継承権を剥奪。王領シェラン諸島へ送り、海軍一兵卒としての再教育の開始を命じる。また、男爵令嬢ミレイアについては、王家への不敬罪および虚偽の告発の罪により、国外追放とする」
アレクセイが勅命を読み終わる頃には、ジェラルドとミレイアは二人揃って雪のように白い顔になっていた。呆けているわ。
黙って見ていたら先に意識を取り戻したのはミレイアだった。
「嫌よイヤ、王妃になるはずだったのに!」
ミレイアが泣き叫んでジェラルドの腕にすがりつくが、衛兵たちが即座に二人を取り押さえた。
「離せ! 俺は王子だぞ! リリエン、お前も何とか言え!」
ジェラルドが叫ぶ。情けない。
ゆっくりと彼に近づき、耳元で囁いた。
「残念ですわジェラルド様。貴方がもう少し賢く、あるいは私に対して誠実であれば、最後まで貴方を支えるつもりでしたのに」
私にとって、王子との婚約は義務だった。仕事だった。国のため、家のため、公爵令嬢として無能な彼を支え、王家を盛り立てる。それが私の義務だと信じていた。
けれど彼はその努力を可愛げがない、と切り捨て、私を公衆の面前で辱めようとした。
契約不履行は、そちらが先に行ったのよ。
「お連れしろ」
アレクセイの慇懃な合図で、ジェラルドとミレイアはズルズルと会場の外へ引きずられていった。
「リリエン!!」
「アレクセイさまあ!」
情けない断末魔のような叫びが遠ざかっていく。
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