23 / 94
2
理由
しおりを挟む
彩世は、どもってしまう那月を鬱陶しがらないどころかいつも話せるまで待つ。言いたいことが上手くまとまらないと、「一一ってこと?」と要約して分かろうとしてくれている。
態度や話し方はぶっきらぼうでも、やはりこの人は優しい人だと思いながら、那月は自然とそれに応えられるようになっていた。現に、ここまで世間話ができるのも今までの事を考えたら奇跡に近い。
この遠くて近い距離は、2人しか知らない心地良さと雰囲気が纏っている気がした。
だけど、那月はずっと疑問に思っていた。なぜ彩世は、ここへ来て自分と一緒にいてくれるのか。話してくれるのか。年下の、ましてや男が怖くて他の人より関わりづらい自分とどうして関わってくれるのか。
「……あ、あっえっと、あの、い、彩世先輩」
「なに?食べ終わった?」
「は!!は、はい。それは、なん、は、はい…あの。聞きたい、ことが…」
「ん?なんて?」
「せ、先輩は……なん、で、ここに来て……その、ぼ、僕と…っこうやって…?」
思えば、こうなる前から。那月は彩世に聞きたいことが色々とあった。会っただけで尻餅をついていた時は一言も聞けなかったが。今こうして自分から口を開けられるのも、彩世に慣れてきたということだろう。
失礼な例え方をするなら、襲ってきたり脅かしてくるお化けは怖い。だが、優しかったり普通に話してくれるお化けなら、怖いながらも何度も接していれば慣れてくるような。そんな感覚だと思う。
「あー…、なんでって特に理由はない」
「…えっ」
「ああ、別にからかってる訳じゃないよ。俺も何となくここに来たいだけ」
「あ……そ、ですか、」
質問の答えに拍子抜けていると、彩世は音を立てて立ち上がった。那月がそれに驚いて肩を跳ね上げると、彩世の足はこちらを向く。
「ナツくんのためとかじゃないし、気遣ってる訳でもない。俺が来たい時に来てる。そこに偶然ナツくんがいる。それだけ」
「……は、あ、はい」
「じゃ、また」
ザクザクと足音を立てて、彩世は木々に隠れながら中庭を出て行った。あんなに怖かった男の人と過ごす時間。だが、いつしか那月の中で恐怖とは違う変化が起こっていたのだろう。
気を遣って欲しいわけじゃない。ただ、さっきの彩世の回答は、自分との時間に理由は無いと言われたようなもので。それに少し心がザワザワしている。
一一一そうだ。僕だってここに来るのが好きで、そこに先輩がいるだけ。初めは戸惑ったし怖かったけど、明衣の言ってた通り、もしかしたらこのまま男の人に慣れるかもって頑張ってた。
一一一僕の理由だって、その程度なのに。先輩が僕といる時間に理由なんてあるわけない。別にそれでいいのに、僕は男の人に慣れて克服できればいいのに。先輩が僕をどう思ってるかなんて気にすることないんだ。だけど…
「彩世先輩が何考えてるか分からない以上に、自分が何を思ってるのか分からない…」
綺麗に空になった弁当箱を見つめながら、那月の独り言は風の音でかき消されていく。
慣れる、克服する以上に、那月は彩世の存在から目が離せないような気がした。怖いのに、目を手で覆って見えなくしたいのに、指の隙間からつい覗いて見てしまうような。
そんな初めての感覚に、胸をぎゅっと握りしめた。
態度や話し方はぶっきらぼうでも、やはりこの人は優しい人だと思いながら、那月は自然とそれに応えられるようになっていた。現に、ここまで世間話ができるのも今までの事を考えたら奇跡に近い。
この遠くて近い距離は、2人しか知らない心地良さと雰囲気が纏っている気がした。
だけど、那月はずっと疑問に思っていた。なぜ彩世は、ここへ来て自分と一緒にいてくれるのか。話してくれるのか。年下の、ましてや男が怖くて他の人より関わりづらい自分とどうして関わってくれるのか。
「……あ、あっえっと、あの、い、彩世先輩」
「なに?食べ終わった?」
「は!!は、はい。それは、なん、は、はい…あの。聞きたい、ことが…」
「ん?なんて?」
「せ、先輩は……なん、で、ここに来て……その、ぼ、僕と…っこうやって…?」
思えば、こうなる前から。那月は彩世に聞きたいことが色々とあった。会っただけで尻餅をついていた時は一言も聞けなかったが。今こうして自分から口を開けられるのも、彩世に慣れてきたということだろう。
失礼な例え方をするなら、襲ってきたり脅かしてくるお化けは怖い。だが、優しかったり普通に話してくれるお化けなら、怖いながらも何度も接していれば慣れてくるような。そんな感覚だと思う。
「あー…、なんでって特に理由はない」
「…えっ」
「ああ、別にからかってる訳じゃないよ。俺も何となくここに来たいだけ」
「あ……そ、ですか、」
質問の答えに拍子抜けていると、彩世は音を立てて立ち上がった。那月がそれに驚いて肩を跳ね上げると、彩世の足はこちらを向く。
「ナツくんのためとかじゃないし、気遣ってる訳でもない。俺が来たい時に来てる。そこに偶然ナツくんがいる。それだけ」
「……は、あ、はい」
「じゃ、また」
ザクザクと足音を立てて、彩世は木々に隠れながら中庭を出て行った。あんなに怖かった男の人と過ごす時間。だが、いつしか那月の中で恐怖とは違う変化が起こっていたのだろう。
気を遣って欲しいわけじゃない。ただ、さっきの彩世の回答は、自分との時間に理由は無いと言われたようなもので。それに少し心がザワザワしている。
一一一そうだ。僕だってここに来るのが好きで、そこに先輩がいるだけ。初めは戸惑ったし怖かったけど、明衣の言ってた通り、もしかしたらこのまま男の人に慣れるかもって頑張ってた。
一一一僕の理由だって、その程度なのに。先輩が僕といる時間に理由なんてあるわけない。別にそれでいいのに、僕は男の人に慣れて克服できればいいのに。先輩が僕をどう思ってるかなんて気にすることないんだ。だけど…
「彩世先輩が何考えてるか分からない以上に、自分が何を思ってるのか分からない…」
綺麗に空になった弁当箱を見つめながら、那月の独り言は風の音でかき消されていく。
慣れる、克服する以上に、那月は彩世の存在から目が離せないような気がした。怖いのに、目を手で覆って見えなくしたいのに、指の隙間からつい覗いて見てしまうような。
そんな初めての感覚に、胸をぎゅっと握りしめた。
20
あなたにおすすめの小説
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる