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特別な夜
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歩いて行った彩世達の背中をボーッと見届ける那月と、その様子をなんとも言えない表情で見ていた相野は一度歯を噛み締めてから、那月に手を差し伸べる。
「…那月くん、俺達も行こう。立てる?」
「あっ…ありがとう」
「落ち着くまで駅前のベンチに座ろう。俺ついてるから」
「…うん」
恐る恐る手に捕まり立ち上がったが、那月の足は微かに震えている。事が治まったことで一気に気が抜けたのだろう。ゆっくり駅の方へ歩み出した背中を支えようと手を回した相野だが、その手を触れる前に止めて引っ込めた。
一一一急に色んなことが起こって…びっくりした…。今も震えが止まらないけど…でも、夏希さんを止められてよかった。
「ここに座って、俺水買ってくるから」
「ご、ごめん…、ありがとう」
それから30分ほど駅前のベンチに座り、ようやく震えが治まった頃。相野が買ってきてくれたペットボトルの水も飲み干し、汗も引いて落ち着いてきたようだ。
「相野くん…今日はありがとう。ごめんね、巻き込んじゃって…」
「ううん、びっくりしたけど…俺は平気だよ。あの人…先輩の友達?」
「いや…夏希さんは彩世先輩の幼なじみで、僕達と同い年。僕も最近少し会ったことあって…僕をよく思ってなかったんだと思う」
「そうなんだ…」
もう日も暮れて薄暗くなっている。那月の頭の中は、先程の夏希の言葉と彩世と寄り添って歩いていく2人の後ろ姿がずっと映っている。それを思い出す度にチクチクと胸が痛む感覚がした。
「よし…、そろそろ帰ろ!暗くなっちゃうし…。あ、相野くんの方の電車が先に来るね」
「うん…。あのさ、那月くん」
「ん?」
「…いや、気を付けて帰ってね」
「うん!相野くんもね」
相野は悲しそうに笑顔を作り、那月に手を振って改札へと歩いて行く。その背中を見送り、那月も深く息を吐いた。
一一一先輩、怪我大丈夫かな…。僕を庇って腕のとこ切れてた…。あの時先輩が来てくれなかったら、僕はもっと怪我をしてたかもしれない。
「…先輩に助けてもらってばっかりだ」
一一一自分の気持ちはやっとハッキリしたけど…。こんな迷惑かけてばっかりな僕のこと…先輩はいよいよ呆れてないかな。
それにさっき夏希さんを家に送ってくって言ってたけど、2人でまた一緒に過ごすのかな。あの状態の夏希さんを1人にできないのは分かってるし、僕も心配だ。でも…。
はっきり先輩への気持ちを自覚してから、ずっと苦しい。この気持ち、どうしたらいいんだろう。
「とにかく…僕も帰らなきゃ」
悶々としたままベンチから立ち上がり、那月も改札へと入っていく。そこからは帰宅ラッシュの電車に揺られて帰路についた。
そして、すっかり辺りが暗くなった頃。家へ着いた那月は1人でリビングへ入った。
「ただいまー」
母は夜勤へ出ているため、家には誰もいない。暗い部屋の電気をつけ、ゆるいTシャツとスウェットパンツに着替える。そのままベッドへと倒れ込み、天井を見上げた。
一一一はぁ。なんだか今日は疲れたな…。先輩、夜連絡するって言ってたけど、いつ連絡くるのかな…。
「…だめだ、寝ちゃダメ…。起きて、なきゃ。連絡くる、かも…」
怒涛の一日で疲れが溜まっていたせいか、ベッドに寝転んだ那月は強烈な睡魔に襲われた。目を何とか開こうとするが、重くなった瞼を支え切ることができずあっという間に目を閉じてしまった。
「…すー、すー」
そして、その約2時間後。時刻は21時になろうとしている。眠っていた那月の枕元で携帯が突然激しく振動し始めた。
「…っ!はっ!?あ、あれ!?僕寝ちゃってた!?い、今何時…!」
その音で目が覚めた那月は、若干寝ぼけたまま慌てて携帯を開く。画面には彩世からの着信が表示されていた。
「わっ!!せ、先輩から電話!?」
受話器ボタンを押し、咳払いをしてから恐る恐る携帯を耳に当てる。
「…っは、はい!!もしもし、」
「あ、もしもし。ナツくん?ごめんね、急に電話して」
携帯から、いつもより低く感じる機械を介した彩世の声が聞こえてきた。突然の初めての通話で、那月の心臓はバクバクと音を立てている。
「い、いえ!!大丈夫です」
「メッセージより直接話したくてさ。今日…本当にごめん。怖い思いさせた」
「あ…、大丈夫、です。先輩の方が…怪我大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だよ。すぐ血も止まったし、大きめの絆創膏貼ってるから」
「…っ僕のせいで、怪我させちゃって…すみません」
「ナツくんが謝る必要ないよ。夏希が暴走したのは俺のせいだし…自分の責任だから。それよりナツくんを巻き込んじゃった方が、申し訳ないよ」
「…っそんな、」
「家にはちゃんと着いた?」
「はっ、はい…。もう部屋にいます」
一一一連絡ってメッセージかと思ったのに…まさか電話してきてくれるなんて…。初めて先輩と電話できてるのに、ちょっと複雑な気持ち…。
那月の部屋が静かなのもあり、彩世の方の声がよく聞こえる。その電話口からは声の後ろで風が吹いているような雑音と、車の走行音も聞こえてきている。
一一一あれ…。もしかして先輩、まだ外にいるのかな…。
「あ、あの…」
「あのさ…。ちょっとだけ外出てこれない?」
「…えっ?」
一一一外?家の外?なんで?
「今、ナツくんの家の前に着いたんだけど…」
「……え?ええええええ!?」
「…那月くん、俺達も行こう。立てる?」
「あっ…ありがとう」
「落ち着くまで駅前のベンチに座ろう。俺ついてるから」
「…うん」
恐る恐る手に捕まり立ち上がったが、那月の足は微かに震えている。事が治まったことで一気に気が抜けたのだろう。ゆっくり駅の方へ歩み出した背中を支えようと手を回した相野だが、その手を触れる前に止めて引っ込めた。
一一一急に色んなことが起こって…びっくりした…。今も震えが止まらないけど…でも、夏希さんを止められてよかった。
「ここに座って、俺水買ってくるから」
「ご、ごめん…、ありがとう」
それから30分ほど駅前のベンチに座り、ようやく震えが治まった頃。相野が買ってきてくれたペットボトルの水も飲み干し、汗も引いて落ち着いてきたようだ。
「相野くん…今日はありがとう。ごめんね、巻き込んじゃって…」
「ううん、びっくりしたけど…俺は平気だよ。あの人…先輩の友達?」
「いや…夏希さんは彩世先輩の幼なじみで、僕達と同い年。僕も最近少し会ったことあって…僕をよく思ってなかったんだと思う」
「そうなんだ…」
もう日も暮れて薄暗くなっている。那月の頭の中は、先程の夏希の言葉と彩世と寄り添って歩いていく2人の後ろ姿がずっと映っている。それを思い出す度にチクチクと胸が痛む感覚がした。
「よし…、そろそろ帰ろ!暗くなっちゃうし…。あ、相野くんの方の電車が先に来るね」
「うん…。あのさ、那月くん」
「ん?」
「…いや、気を付けて帰ってね」
「うん!相野くんもね」
相野は悲しそうに笑顔を作り、那月に手を振って改札へと歩いて行く。その背中を見送り、那月も深く息を吐いた。
一一一先輩、怪我大丈夫かな…。僕を庇って腕のとこ切れてた…。あの時先輩が来てくれなかったら、僕はもっと怪我をしてたかもしれない。
「…先輩に助けてもらってばっかりだ」
一一一自分の気持ちはやっとハッキリしたけど…。こんな迷惑かけてばっかりな僕のこと…先輩はいよいよ呆れてないかな。
それにさっき夏希さんを家に送ってくって言ってたけど、2人でまた一緒に過ごすのかな。あの状態の夏希さんを1人にできないのは分かってるし、僕も心配だ。でも…。
はっきり先輩への気持ちを自覚してから、ずっと苦しい。この気持ち、どうしたらいいんだろう。
「とにかく…僕も帰らなきゃ」
悶々としたままベンチから立ち上がり、那月も改札へと入っていく。そこからは帰宅ラッシュの電車に揺られて帰路についた。
そして、すっかり辺りが暗くなった頃。家へ着いた那月は1人でリビングへ入った。
「ただいまー」
母は夜勤へ出ているため、家には誰もいない。暗い部屋の電気をつけ、ゆるいTシャツとスウェットパンツに着替える。そのままベッドへと倒れ込み、天井を見上げた。
一一一はぁ。なんだか今日は疲れたな…。先輩、夜連絡するって言ってたけど、いつ連絡くるのかな…。
「…だめだ、寝ちゃダメ…。起きて、なきゃ。連絡くる、かも…」
怒涛の一日で疲れが溜まっていたせいか、ベッドに寝転んだ那月は強烈な睡魔に襲われた。目を何とか開こうとするが、重くなった瞼を支え切ることができずあっという間に目を閉じてしまった。
「…すー、すー」
そして、その約2時間後。時刻は21時になろうとしている。眠っていた那月の枕元で携帯が突然激しく振動し始めた。
「…っ!はっ!?あ、あれ!?僕寝ちゃってた!?い、今何時…!」
その音で目が覚めた那月は、若干寝ぼけたまま慌てて携帯を開く。画面には彩世からの着信が表示されていた。
「わっ!!せ、先輩から電話!?」
受話器ボタンを押し、咳払いをしてから恐る恐る携帯を耳に当てる。
「…っは、はい!!もしもし、」
「あ、もしもし。ナツくん?ごめんね、急に電話して」
携帯から、いつもより低く感じる機械を介した彩世の声が聞こえてきた。突然の初めての通話で、那月の心臓はバクバクと音を立てている。
「い、いえ!!大丈夫です」
「メッセージより直接話したくてさ。今日…本当にごめん。怖い思いさせた」
「あ…、大丈夫、です。先輩の方が…怪我大丈夫ですか?」
「全然大丈夫だよ。すぐ血も止まったし、大きめの絆創膏貼ってるから」
「…っ僕のせいで、怪我させちゃって…すみません」
「ナツくんが謝る必要ないよ。夏希が暴走したのは俺のせいだし…自分の責任だから。それよりナツくんを巻き込んじゃった方が、申し訳ないよ」
「…っそんな、」
「家にはちゃんと着いた?」
「はっ、はい…。もう部屋にいます」
一一一連絡ってメッセージかと思ったのに…まさか電話してきてくれるなんて…。初めて先輩と電話できてるのに、ちょっと複雑な気持ち…。
那月の部屋が静かなのもあり、彩世の方の声がよく聞こえる。その電話口からは声の後ろで風が吹いているような雑音と、車の走行音も聞こえてきている。
一一一あれ…。もしかして先輩、まだ外にいるのかな…。
「あ、あの…」
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「…えっ?」
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「今、ナツくんの家の前に着いたんだけど…」
「……え?ええええええ!?」
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