異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第70話 泉に魔獣現る時、岸壁が崩れ行く

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ガルドリア王国・魔獣召喚装置の設置場所――

「では、最後の囚人を連れてこい」

アークリオスへ報告をしていたリーダー格の科学者が、部下に冷たく命じた。

「し、しかし……大丈夫なのでしょうか。我々だけで修理しましたが、装置の仕組み自体、理解しきれていません」

部下が不安げに言う。

「背に腹は代えられんのだ!」

科学者は震える声で叫んだ。

「次の召喚を急がなければ、今度は我々が“魔素”にされるのだ!」

その言葉に、場の空気が凍りつく。

部下たちは震えながらも、命令に従うしかなかった。

やがて、複数の兵士に両脇を抱えられた100人目の囚人が引きずられて現れた。

顔には袋をかぶせられ、手足は縛られている。

「離せッ!畜生、なんで俺たちがこんな目に!」

囚人は必死に暴れるが、兵士たちは無言のまま。

そのまま彼を装置へつながるカプセルの前へと引きずり出した。

重い音を立ててカプセルが開く。

抵抗むなしく、囚人は押し込められ、冷たい透明な蓋がゆっくりと閉じていく。

「国賊アークリオス!お前を呪ってやるぞ!」

男の叫びが室内に反響した。

そして、カプセルが完全に閉じきる直前――

「ラーディルス陛下、万歳!!」

男の絶叫が、冷たいこの空間に響き渡った――

次の瞬間――ピカピカピカッ!

カプセルの内部から強烈な閃光が弾けた。

すべての音が止む。

そこへオペレータの極めて事務的な声が反響する。

「最後の囚人の魔素充填が完了しました」

一瞬の静寂が、この場を支配する。

沈黙の中、

「よし。これより魔獣召喚を開始する」

リーダー格の科学者は顔を引きつらせながらも、ニヤリと笑うと、声を張り上げて命令を出す。

「……魔獣召喚装置、起動!」

オペレーターが、

「魔獣召喚装置、起動します」

と応じて、スイッチを押した。


グウィィィン――――。


重低音の起動音が唸りを上げると、


ピカピカピカッ――。


装置全体に青白い光が走る。

次の瞬間、


プシュゥゥゥ――――。


と鳴って、装置が静かになった。

「魔素補充率0%となりました。召喚完了です」

無感情なオペレータの報告が上がった。

「……成功、したか?」

リーダー格の科学者が、ゴクリと唾をのむ。


まさにその直後――


ドカァァァン!!


爆音が部屋を揺るがし、装置の一部が吹き飛んだ。

炎と破片が研究員たちを襲い、悲鳴が交錯する。

「うわあああっ!!」
「逃げろッ!!」

金属片が肉を裂き、魔素の火花が走る。

リーダー格の科学者は、崩れゆく装置を見つめながら、ただ青ざめた顔で立ち尽くすしかなかった。



アマトとリーファがいる泉――



魔獣が宙を裂いて出現すると、

バッサァァンッ――!

漆黒の巨体が泉へと降り立った。

水しぶきが吹き荒れ、泉が大きく波打つ。

飛沫がアマトたちの立つ泉のほとりにまで押し寄せた。

アマトは濡れた髪をかき上げてかがむと、先ほど拾った小石を再びつかみ、その漆黒の魔獣に狙いを定める。

そして、まさに小石を投げようとしたその時――

「待って!」

リーファの声が、泉の空気を裂いた。

「ここは、私たちの領域。異世界人の力は借りない」

凛としたその声に、アマトは動きを止めた。

手の中の小石をゆっくりと地面に落とし、リーファの横顔を見つめる。

『うむ。なかなかいい目つきではないか』

精神世界のゼルヴァスが、アマトの視界越しの映像に映るリーファを見て呟いた。

今のリーファは、先ほどまでの戸惑いの様子は消え、歴戦の戦士を思わせるほどの気迫がこもっていた。

それでも、

『リーファちゃん……魔素は十分あるのかしら』

ティアマトが心配そうに声を漏らす。

『とにかく、いざというときにすばやく動けるようにしておけ』

とゼルヴァスが落ち着いた声で言うと、

『あぁ……そのつもりだ』

と短くアマトが答え、魔獣を見据えた。

一方、魔獣が二人の存在に気づき、咆哮を上げると、二人の方へ水中を歩き始めた。

その一歩ごとに、泉の水面が大きくうねる。

リーファは、弓矢を取り出し、空中へ舞い上がった。

「まずは視界を奪うわ」

そう言って、空中で光の矢を構えるリーファ。

魔獣は、飛び上がったリーファを目で追うも、リーファの攻撃が一歩先を行く。

リーファの放った一本の矢が、空中で光の筋を描いて分裂した。

無数の光の矢が雨のように降り注ぎ、その一本が魔獣の片目を射抜く。

グォォオオオオ!

魔獣は手で傷ついた片目を覆い、悲痛な雄たけびを放つ。

暴れながら、もう一方の腕で泉の水をかき上げ、リーファに水柱を浴びせかけた。

だが、それを巧みにかわす。

リーファは、そのまま次の攻撃態勢へ移り、

「次は……その腕」

と言って、光の矢を強く引き貯める。

その様子をもう一方の目でとらえた魔獣が片手を振り上げ、リーファを威嚇する。

その瞬間を狙っていたかのようにリーファが引き貯めた光の矢を放つ。

一本の太い光の矢は宙を裂き、一直線に野獣の片腕を目掛けて飛んでいった。

バシィッ!

リーファの渾身の一矢が魔獣の片腕に命中した――

はずだった。

だが、命中したはずの光の矢は、その漆黒の表層に弾かれ、光の粒となって散ったのだ。

「……チッ」

リーファが舌打ちした。

(距離が離れすぎ……間合いを取っていては勝てないわ)

彼女は決意とともに魔獣との距離を一気に詰める。

その時、泉のほとりでは――

「あの魔獣、身体が硬いんじゃね!?」

ルノアの叫び声が聞こえた。

魔獣の出現に気づいた三人娘とルダルが駆け付けてきたのだ。

アマトの横に走り寄ると、魔獣を見るルダル。

「アマト様、状況は?」

「手を出すなと言われてる」

アマトも魔獣を見据えて短く答えた。

「あいつ、大丈夫なのか?」

エメルダが不安げに呟く。

ほどなく、息を切らしながらグラントがやって来た。

両手を膝に当て、肩で息をしながら言う。

「リーファは……ほとんど……魔素が……つきかけて……おるのじゃ……」

グラントの声は、息の切れた中でかすれていた。

「まずいんじゃないの?」

ルノアが小声で言って、アマトの顔を見る。

他の者もつられるようにアマトに顔を向けた。

だが――アマトは言い放った。

「あいつが助けを求めるまでは、動かない」

その言葉に、全員が息を呑んだ。

あたりには、リーファと魔獣のぶつかり合う轟音だけが響き渡っていた。

一方そのころ、

魔獣に接近したリーファは、魔獣の振りかざす腕とその風圧に阻まれ、なかなか弓を構えることができずにいた。

次第に体力を消耗し、息が荒くなってくるリーファ。

そんなリーファの姿を、ほとりから見ていたグラントがついに堪えきれず叫んだ。

「リーファッ!意地を張るな!アマト殿に魔素を分けてもらえ!」

その声が泉の対岸の岸壁にまで到達すると、周りとは岩肌の異なる箇所の岩壁から、なぜか少量の小石が崩れ落ちたーー。

しかし、その声は戦いの轟音にかき消され、リーファの耳には届かなかった。

重要な戦局の中で、ただ一人、リーファは思考をめぐらせていた。

(まずいわね。このままだとジリ貧だわ……)

だが同時に、彼女は魔獣のある行動に気が付いていた。

(こいつ、片目を覆っている腕は動かさないわ。なら……)

リーファは片目を覆う右腕側へと回り込む。

それに呼応するように、魔獣も右へと身体を向けた。

数度その動きを繰り返したところで――

(間違いないわ。この魔獣は右腕を使わない。だったら……)

リーファは弓を再び構え、魔獣の右腕の方にずれながら光の矢を引き貯めていく。

矢の輝きが次第に強まり、空気が緊張に満ちた。

そして、光が極限まで高まったその時――

魔獣の口元が、確かに笑った。

「えっ……!?」

一瞬の動揺。

その隙を逃さず、魔獣の右手がリーファを強く弾き飛ばした。

ドカァァァン――!

轟音とともに、リーファの身体はアマト達とは反対側の岸壁へ叩きつけられた。

衝撃で岩肌が裂け、水飛沫と粉塵が一気に舞い上がった。

直後、

ドシャドシャドシャーーーッ。

グラントが叫んだときに小石が落ちた個所の岸壁が崩れ、暗く口を開ける洞穴が姿を現したのだった――。
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