異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第71話 "無音"という名のレクイエム

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「リーファッ!」

グラントの叫びが響いた。

アマトも、一瞬、態勢を落とし、駆け出そうとする。

すると、濛々と立ち込める粉塵の中から、リーファの姿がゆっくりと現れる。

かろうじて意識はあるようだ。

弾き飛ばされる瞬間、彼女はとっさに光の矢の魔素を防御に転じていた。

その判断が、致命傷をわずかに防いだのだ。

だが、瀕死であることに変わりはない。

(やってくれたわね……)

リーファがほくそ笑んで、目の前にいる魔獣を見上げる。

先ほど光の矢を受けたはずの右目――そこには、傷一つなかった。

漆黒の巨獣は恍惚とした笑みを浮かべ、ゆっくりと首を傾けた。

まるで、獲物を追い詰める狩人のように。

(ふっ……ここまでかもしれないわね)

リーファは自嘲気味に微笑んだ。

(でも、私にしては……よくやった方よ)

不思議と恐怖はなかった。

むしろ、安堵の気持ちにも似ていた。

(これで”悩むことなんてなくなる”わね……)

そう思うと、体から力が抜けて、その場に片膝をつく。

そして、魔獣が獲物にとどめを刺そうと右手を振りかざしたその時だった――

洞窟の入り口から、無数の光の結晶が舞い上がった。

その輝きの束がリーファと魔獣の間に集まり、一人の女性のエルフが静かに姿を現したのだった。

彼女は、静かに右手を魔獣へと掲げると、次の瞬間、魔獣は、右手を上げたまま動きが止まった。

まるで見えない鎖に縛られたかのように、巨体は微動だにしなかった。

息を呑むリーファ――その背中に見覚えがあった。

「お姉ちゃん……!?」

リーファが驚きの声を発すると――

そのエルフが、ゆっくりと振り向き、どこか悲しげな眼のまま優しく微笑んだ。

「……大きくなったわね」

その顔は、ミルファによく似ていた。

「きっとこれまで、ずっと頑張ってきたのね……偉かったわ、リーファ」

不思議とそのエルフは、リーファの名を口にしたのだった。

リーファは茫然とそのエルフの顔を見続けて動かない。

エルフの瞳が、優しく細められる。

「グラントの叫び声が聞こえたの……意地を張ってはダメよ」

と、にっこりと笑みを浮かべた。

(私……この人を知っている……)

リーファの心が動き出す。

「これからは、もっといろんな人を信じて、頼りなさい……」

優しく、それでいて力強く、エルフがリーファに言うと、膝をつけてリーファの手を取る。

「そして頼った分……その人にお返しをするの」

リーファの目から涙が溢れ出す。

「それが……本当の強さなのよ」

リーファの唇が震える。

「……お母……さん!?」

リーファには、母の記憶はない。

それに、なぜ突然、ここにその人がいるのかもわからない。

しかし、リーファは直感で理解した。

この目の前にいる悲しげで美しい女性こそが、自分の母親であると――

そして、ここに実体がないことも――。

そのエルフは、笑みを浮かべて頷いた。

「さぁ、向こう岸に向かって言うのよ」

ミオルネの声が、リーファの心を優しく包む――。

リーファは、母を見上げると、口を開ける。

「ア……マ……ト」

涙で声にならない。

「大丈夫、あなたならちゃんとできるわ」

励ますミオルネ。

「ア……マト!」

「もっと大きな声で」

リーファは目をつむり、渾身の力を振り絞り叫んだ。

「アマトォォォッ!!」

リーファの声が泉の水面を揺らした――

アマトは、その言葉を聞き逃さなかった。

ふと、笑みを浮かべた瞬間、アマトの姿がその場から消えたかと思うと、次の瞬間にはリーファの横に立っていた。

あっけに取られるグラント。

リーファと魔獣の間、アマトが立ちふさがる。

ただ、アマトにはミオルネの姿は見えていないようだった。

すると、後ろからリーファの声が――。

「お願い……私に魔素を頂戴……」

アマトが振り向くと、リーファが立ち上がっていた。

「見せたいの……いまの私を……だからお願い」

リーファの瞳が、涙ではなく光を映していた。

「わかった」

理由は聞かなかった。

リーファの顔には、確かな覚悟があったのだ。

アマトが、リーファに手をかざすと、その手から魔素が流れ始めた。

(ありがとう……)

リーファの心もアマトの魔素で満たされていく――。

(なんて、強くて、暖かい魔素なの……これがアマトの魔素……)

そして――再び、空中へ飛び立つリーファ。

その身体からは、琥珀色の輝きが放たれている。

動くことのできない魔獣の目の前に止まると、リーファは弓矢を構えた。

徐々に光の矢が、その輝きと太さを増して行く――。

(見て、お母さん……これが今の私……)

そこには、もう涙を流さない戦士としての凜とした姿があった。

その姿を見つめ、優しく目を細める母ミオルネ。

魔獣の目が恐怖の色に染まったその時――

「"光柱"……」

リーファの手から巨大に膨れ上がった光が放たれた。

魔獣の断末魔の叫び、それとともに崩れ落ちていく漆黒の巨体――魔獣は立ち上がることはなかった。

リーファがどこか誇らしげに、微笑んで下を見つめる。

その眼差しの先にいたのは、歴代最高の精霊の守り人、母ミオルネ――

「最初からできるって分かっていたわ……だって、あなたは強い子だもの」

一筋の光がその頬を流れ落ちると、その身体が透け始めた。

そして、次にその瞳は、対岸のミィナが抱えるルクピーへと向けられていた――

「ルクク、お願いしたわよ……」

透けゆく身体のまま、再びリーファを見つめ、そっと微笑んだ。

「私の……ちょっぴりいじっぱりで可愛い、最愛の娘を……」

そして、ミオルネの姿がスッと消えた。

リーファは、その姿を見届けると、ふっと意識が遠のいて人間の姿に戻り、静かに地上へ落ちていった。

次の瞬間、アマトは、空中でリーファを受け止め、ゆるやかに地上に舞い降りたのだった。

薄れゆく意識の中でリーファは思う。

(誰?暖かくて落ち着く……お母さん、まだそこにいたの……?)

アマトは、リーファを抱えたまま、しばらくそこに立ち尽くしていた。

あたりは、先ほどまでの轟音が嘘であったかのように静寂に包まれる。

それはまるで――ミオルネへの"無音"という名のレクイエムを奏でているようであった――
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