異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第69話 悩みなんてなくなるはずさ

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ミルファの顔を見ていたグラントが、再び前方に顔を向けて言った。

「リーファには……なんて言うつもりじゃ?」

ぴくついていた耳が止まると、ミルファは目をつむってほくそ笑んだ。

「ふっ、黙っていくさ……」

すると、グラントが額に手を当てて、深いため息をついた。

「うーむ。やはりそうなるか……じゃが、その後のわしの苦労も考えてもらいたいもんじゃ」

「そう言って、いつもやってくれるだろ?」

ミルファのまなざしがグラントに向けられ、茶目っ気たっぷりに笑う。

「かなわんのう。じゃが……」

とグラントが続けた。

「いつも置いてきぼりで、森と里を任されるリーファの気持ちも察してやってくれ」

目を伏せ、ミルファが微笑む――。

「大丈夫さ。確かに今は、母さんや私の背中だけを見てしまっているがな……でも、あいつの実力はあんなもんじゃない。いつも言っているだろ?いずれ私や母さんを……」

とミルファが言いかけたその時。

「グラントォ!大変だ!」

ドルマが大声をあげて駆け込んできた。

グラントとミルファが、話をやめてドルマを見る。

「なんじゃ?慌ておって」

「魔素探索の地下抗で水柱が上がった!地下水脈にぶつかったかもしれん!」

「なんじゃと!?こうしてはおれん。ミルファ、すまんがわしは行く。気をつけて行ってこい!」

「あぁ、わかった」

小太りのグラントが上下に跳ねるようにしながら、ドルマの方へ駆けていく。

その様子を、ミルファは静かに笑みを浮かべた。

そして――

「リーファに、外界好きの姉を許せ、って言っておいてくれ!」

グラントは、振り向かずに右手を振って走り去っていった。

その日、ミルファはエルシアの森とドルムの里から姿を消した――。



アマトたちの話し合いの場――



「……ということじゃ」

グラントが言った。

「そうか……アルグレイドがミルファに頼んだのか」

「なに、ミルファとログレイドのことじゃ。突然、ケロッとした顔で戻って来るじゃろ」

「そうだな」

ルダルとグラントはわかっていた。

あの二人なら問題ないということを――。

「ところで……」

とルノアが声をかける。

「その後、リーファはどうなったんだ?」

「なんとなく、想像できるがな」

とエメルダがニヤリと笑う。

「はっはっ。やはりそこが気になるか」

グラントが笑って続ける。

「おそらく想像している通りじゃが、姉を馬鹿呼ばわりするわ、わしは叱られるわで大変じゃった」

突如――

「なぜ、そんなに騒ぐんだ……?」

アマトが、初めてグラントへ言葉をかけた。

グラントが一瞬、驚いたように目を丸くする。

だがすぐに、穏やかな笑みを浮かべて言った。

「あいつはのう……いろいろとコンプレックスを抱えていて、いっぱいいっぱいなんじゃ」

「コンプレックス?」

アマトが呟く。

「あぁ、そうじゃ」

両手を組み、肘を膝に充て、前かがみになってグラントが話を続ける。

「ミルファは、文武両道に加え、容姿端麗で人間性も抜群じゃ。その上、セルヴァス十傑ときている。誰もが憧れる、まさしくカリスマそのものよ。リーファは、そんな姉を慕っている反面、どうしても自分と比べてしまうんじゃな」

グラントが一呼吸すると、体を起こし、少し遠くを見るように言った。

「加えて、母親のミオルネさんじゃ。彼女は、歴代の精霊の守り人の中でも群を抜いた才を持っていた。おまけに超美人でのぉ……わしも若かりし頃は、よう憧れたもんじゃた」

と言って笑うも、すぐにトーンを落として付け加えた。

「ただな……リーファにとって、そんな母親の存在そのものは、自分を卑下する理由にしかならんのじゃ」

そして、グラントはアマトを見て、穏やかに言った。

「要するに、自分の血族との力の差……それこそが、あやつの抱える一番の重荷なんじゃよ。それをいつも一人で抱えておる」

アマトは、グラントをじっと見つめ返す。

「ミルファがいつも言っておったわ。せめて、その悩みに寄り添える仲間がいればいいのにと……自分は、良い仲間に恵まれていたから、と」

しばしの静寂――

「そのぉ、ミオルネさんという方は今はどうされているのでしょうか」

ミィナが素朴な疑問をぶつけた。

「いない……200年前に……」

と、なぜかグラントが言いよどみ、わずかに視線を伏せると、そのまま言葉をつないだ。

「病気で死んだ。リーファはおそらく顔すら覚えておらんじゃろうて」

ミィナは、ハッとし顔になって言葉を失う。

アマトは少し、考えるそぶりを見せた後、グラントに言った。

「あいつと少し話してきていいか?」

その言葉には、どこか使命感のような響きが伴っていた。

少し驚いた様子のグラントではあったが、顎髭を撫でるとアマトに返した。

「何か、思い当たるところがあるのかの?」

「あぁ」

とアマトが短く答える。

するとグラントが

「そうじゃな。さっきの様子だと、もうお主をそれほど敵視しなさそうだし、大丈夫じゃろ」

と朗らかに言った。

その目には、年を重ねた者だけが持つ、物事への深い洞察力が宿っていた。

アマトが席を立つと

「行ってくる」

と言って、泉の方へ歩き出した。

その後ろ姿を、ミィナが心配そうに見つめていた。



―――



リーファへの足取りの途中、

『アマトよ。何をするつもりだ。間違っても、赫夜のことは話せんぞ』

とゼルヴァスが語り掛ける。

『そうよ。前世の記憶をリーファちゃんに話したら、"記憶封じの楔”によってどっちかが呪われちゃうわよ』

ティアマトが心配そうに話す。

『大丈夫だ。前世の話は、この先、誰にも話さない』

アマトは確固たる決意を口にする。

『俺がここで経験したことを話す。ただ、それだけだ』

ゼルヴァスもティアマトも、それ以上何も言わなかった……。



―――



泉のほとりには、一人、空を見上げているリーファの姿があった。

「いくら精霊の結界が弱まってるとはいえ、よりによって異世界人の魔素で補うなんて……絶対に、あり得ない」

リーファが小さく呟く。

「でも……確かに敵ではなさそうよね」

目を閉じ、首をゆっくり下げる。

「現実的に考えて……そんな都合よく、結界の魔素を満たせるような魔石がそう簡単に見つかるはずなんてないわよね。だったら、いっそのこと……」

一瞬の沈黙。

「わーっ、バカバカ、私のバカっ。こんなこと考えるなんて!」

と、両手で自分の頭をポカポカ叩く。

「そ、そうよ。そもそもしきたりがあるじゃ……」

と言いかけたところで思い出す。

(そもそも、私だってしきたり破っちゃったじゃない……)

そう心の中でつぶやいた。

その時だった――。

ポキッ。

小枝の折れる音がリーファの背後から響いた。

リーファは、ハッとして後ろを振りむくと、

そこにはアマトがゆっくりと近寄ってくる姿があった。

驚くリーファが、声を発し、

「あ、あんた……何しに来たのよ」

と弓に手をかける。

それに対して、アマトは、落ち着き払って答えた。

「少し話をしないか」

思いがけない一言に、リーファが目を瞬かせる。

アマトはそのまま、彼女の隣まで歩み寄り、泉を見つめながら静かに言った。

「グラントから、お前のことを少し聞いた」

その言葉に、目を丸くするリーファ。

「あ、あいつ……何を言ったのよ!」

リーファが声を荒げる。

アマトは視線を動かさず、淡々と告げた。

「お前が、姉や母親との力の差に、悩んでいるって話だ」

その言葉に、顔がみるみる真っ赤になるリーファ。

「そ、それが……あんたに何の関係あるって言うの!」

そう言って、後ろに振り向き、歩きだそうとする。

その背に、アマトの静かな声が届いた。

「俺も……力に対するコンプレックスがある」

アマトの意外な言葉に歩みを止め、リーファはアマトの方へゆっくりと顔を向けた。

「もっとも、俺の場合……」

アマトの口元が少し緩む。

「力がありすぎて、制御できないってことだけどな」

「な、なによそれ。……自慢話?」

あきれたようにリーファが言った。

アマトは肩をすくめ、少し笑った。

「そう聞こえるかもしれないが、本質はお前の悩みと同じだ」

「どういうこと?」

リーファが目を凝らしてアマトを見返す。

「周りの評価が高い中、俺自身、力を使おうとしてもその強大な力をコントロールできず、使い物にならなかった」

アマトが静かに語り続ける。

「そんな中、俺のせいであることが勃発して、俺は一人でそれに対処しようとしていたんだ」

アマトが小石を拾い、泉の水面に向けて投げようとする。

刹那――

『やめろ、アマト!』

アマトの精神世界で、ゼルヴァスの鋭い声が響いた。

(……そうだった。ふっ、言っているそばからこれか……)

アマトは自嘲して、小さく息をつき、投げかけた手を止める。

そのまま手の中の小石を見つめた。

リーファはその動作を不思議そうに見ていた。

『危なかったわね、アマトちゃん。泉がなくなっちゃうところだったわ』

ティアマトが胸をなでおろす。

それもそのはず――アマトの小石の一投は、魔獣をもほうむる威力を持つ。

『あぁ、そうだな。俺も、リーファを前にまだ動揺しているようだ……』

アマトは小石を指先から落とし、そのまま真っすぐに対岸に顔を向ける。

するとそこには、少し周りと異なる岩肌が目に留まった。

しかしアマトは、特に気にすることもなく現実空間で話を続けた。

「だがそれは間違いだった。それを気づかせてくれた奴らがいるんだ……」

精神空間で、ゼルヴァスとティアマトが目を見合わせる。

その表情には、わずかな驚きと、どこか誇らしさが混じっていた。

「そして、俺もそれに従って……あいつらと仲間になったんだ」

アマトがミィナたちがいる方角に顔を向ける。

ハッとするリーファ。

――お前も仲間を作って、喜びも悲しみも分かち合え。そうすれば、”悩むことなんてなくなる”さ――

彼女の脳裏に、かつて姉ミルファが口にした言葉がよぎる。

そして――

「仲間……」

リーファが、そっと呟いた。

アマトが頷く。

「そうだ。俺は仲間に出会って変わったんだ。今では、仲間を信じて、共に歩いている」

リーファは、その言葉の一つひとつを噛みしめるように聞いていた。

「リーファ、お前にはそういう仲間はいるのか?」

その言葉に目を見開くリーファ。

「わ、私には……」

と言いよどむと、アマトが言った。

「であれば作ることだ。そうすれば、力で”悩むことなんてなくなる”。まぁ、今は信じてもらえんだろうがな……」

”悩むことなんてなくなる”――その言い回しが、どこか姉の声色と重なる。

その言葉をアマトから聞いたことへの驚きがあからさまに顔に出た。

「ふ、ふん、偉そうなこと言って」

と言ってそっぽを向いてごまかす。

しばらく黙ったのちに、再びアマトをチラッと見て――

「で、でも……一応、覚えておくわ」

リーファの耳が、ほんのわずかにぴくついた。

その様子を見てアマトが微笑んだ。



だが――その時だった。



突如、泉の上空が爆音とともに裂け、漆黒の身体に包まれた巨大な影が二人の前に現れたのだ。

「なんで、また魔獣が現れたの……?」

リーファの顔が引きつる。

そして、アマトは、魔獣を睨めつけていた――。
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