異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第四章 森の精霊

第86話 真実は夢の中で――前編

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泉の畔にある静かな洞窟――その入り口にアマトたちはいた。

その静けさの中で、エアデランは深く沈んでいくように眠っている。

「なぁ、ルダル。このジイさん、大丈夫かなぁ」

ルノアが目の前に寝ているエアデランを見ながらぼやくように言った。

「丸一日寝てんぞ」

エメルダも同じような感じだ。

「でもさっ。頭ぶつけたから、案外、記憶を取り戻したりして!」
「そうだなっ!ぷっ」

そう言って笑う二人に、ルダルは落ち着いた口調で返した。

「そんなうまくいくわけないだろう。しかし、息はしているし、ときどき寝言のようなことを言っている。放っておいてもいずれ目覚めるだろう」

それを聞いて二人は、ハァ、とため息をつく。

その時だった。

「うっ、うぅぅぅっ」

突如、エアデランのうめき声が聞こえると、

「「ひっ!」」

と驚いて抱き合う二人。

次の瞬間、エアデランは口をくちゃくちゃすると、再びスース―と寝息を立てて寝続けたのだった。

「こ、このジジィッ!」
「お、脅かしやがって!」

どうもこの二人は小心者の時があるようだ。

「こいつ、今、絶対変な夢、見てるぞ」
「まったくだ。ぶったたいて起こすか」

そして発想も成長しない二人である。

「やめておけ。打ち所が悪けりゃ、二度と記憶も戻らなくなるかもしれんぞ」

ルダルの鋭い気配に二人はしょんぼりと黙ると、アマトが苦笑した。

その時、エアデランの身体がぴくりと震えた。

「うっ……う、ぅぅ……っ」

押し殺したようなうめきが漏れる。

苦しげに眉を寄せ、喉の奥から搾り出すような声だった。

ルノアが顔を引きつらせる。

「な、なんか……苦しんでるみたいだけど?」

エメルダも青ざめてうなずく。

「ぜ、絶対やばい夢見てるって……!」

エアデランの指先が小刻みに震え、まるで逃れられない何かに縛られているようだった。

次第に呼吸は浅くなり、その表情からゆっくりと血の気が引いていく。

そして、エアデランの意識は深い闇の中へ落ちていった――誰にも届かぬ、遠い記憶の底へ。



二百年前、エルシアの森――



「ずいぶんと贅沢な食事じゃな」

エアデランが、目の前に広がる豪華な料理を見て目を丸くしていた。

「まぁ、今日は、私の夢への一歩の日だ。それをお前たち二人と分かち合いたい」

そう言って笑ったのはセイラスタンであった。

「それでも、少し量が多すぎませんか?」

微笑みながら穏やかに話したのはミオルネだった。

透き通るような白銀の髪は泉の水面をなでる風のように柔らかく揺れ、その瞳は夜明け前の空を思わせる淡い藍色を示す。

そして、細い指先ひとつの動きまでもが静かな品を帯びており、そこにいるだけで空気が澄むような気配をまとっていた。

一度見れば誰もが感嘆する、そんな容姿の持ち主であった。

「まぁ、良いではないか。まずは飲んでくれ」

そう言ってセイラスタンがグラスを掲げる。

すると、二人もグラスを持って同じように掲げた。

「乾杯!」

三人はグラスを空にする。

エアデランが満足げに息をついたその時、ふと疑問を口にした。

「ところで……いまさらじゃが、お前の言う“夢”とはなんなんじゃ」

ミオルネも穏やかに笑いながら、エアデランの言葉に続く。

「あなたがここまで言うのですもの。さぞ素晴らしいことなんでしょうね」

セイラスタンは肩をすくめ、わざとらしく照れたように笑った。

「それほどすごいことではないがな。まぁ、後で話す。楽しみにしておけ」

軽い口調だった。

「ところで、この肉もうまいぞ。食べてみろ」

と言って二人に差し出すセイラスタン。

二人は、疑いもなく肉を取り、口に運んだ。

そして、二口、三口食べた時だった――

エアデランとミオルネの身体に異変が走った。

「ぐっ……なんじゃ……これは……!」

エアデランは胸を押さえ、膝をつく。

ミオルネも同じように、耐えきれぬ痛みに顔をゆがめた。

「う……ぁ……っ……!」

椅子から崩れ落ち、震える指先で床を掴む。

セイラスタンはそんな二人を見下ろし、口元をゆっくりと吊り上げた。

「毒が効いたようだな」

その声には、これまで一度も見せたことのない冷たさがあった。

「ミオルネに毒を感づかれるかとヒヤヒヤしていたが……酒と肉に仕込んだ”二つの薬”が反応して毒になる、などとは思うまい」

セイラスタンは愉悦を隠そうともせず、低く笑った。

そして彼は、ゆっくりと腰の剣を抜いた。

銀の刃が宴の灯りを受け、ぞっとするほど冷たく光った。

「今日は、五百年待ち続けた私の夢……“不老不死”を手に入れる、その第一歩だ」

刃先を向けられながら、エアデランは血の気が引くのを感じていた。

「ど……どういうこと……じゃ……セイラスタン……」

ミオルネは苦痛の中、まっすぐ彼を凝視していた。

信じていた者に裏切られたその眼差しは、言葉よりも深く刺さった。

エアデランとミオルネは、セイラスタンの差し出すものを疑うという発想すら持っていなかった。

それほどまでに彼を信じていたのだ。

セイラスタンは二人を冷ややかに見下ろし、言い放つ。

「精霊の情報を話せ、エアデラン。永劫に生きるために必要な情報をな」

エアデランは、震える手で床を押さえながら声を絞る。

「ま、まさか……ティル・ナ・ノーグか?」

セイラスタンは何も答えなかった。

ただ、その口元がわずかに吊り上がった。

「は、話すわけ……なかろう。それは長老であるわしと、守り人であるミオルネだけの……」

その言葉が終わる前に、鋭い音が響いた。

次の瞬間――セイラスタンの剣がミオルネの右脚に突き立っていたのだった。
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