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第四章 森の精霊
第87話 真実は夢の中で――後編
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「くっ――っ!」
ミオルネが苦痛に声をにじませる。
「や、やめろッ!」
エアデランは引き裂かれるような叫びをあげた。
セイラスタンは微動だにせず、淡々と刃を引き抜いた。
「エアデラン。お前が吐かねば、ミオルネはこれからも苦しみ続けるぞ」
その声音は、長年友として肩を並べた男のものではなかった。
「許さんぞ……セイラスタン!」
怒りと絶望が入り混じった怒声だった。
だがセイラスタンの眼は冷酷に光っていた。
「今の状況をわかっていないようだな。余計な言葉を発しているとミオルネの苦痛が増えるだけだぞ」
そう言うと、今度はミオルネの右腕に剣を突き刺した。
「くっ……ぁ……っ!」
ミオルネは声にならない悲鳴を漏らす。
毒も回り始め、血の気が急速に引いていく中で、かろうじて意識をつなぎとめているミオルネ。
彼女でなければ、とっくに意識を手放しているところだ。
「ま、待て!それ以上はならぬ!今ならまだ間に合う!」
エアデランが必死に手を伸ばす。
だがセイラスタンは、
「ならば、さっさと吐け。手遅れになるぞ」
と冷たく吐き捨てて続けた。
「安心しろ。殺しはしない。だがな……」
ミオルネの右腕に刺さっている剣をゆっくり動かす。
「痛みは別だ」
「くっ!」
ミオルネの身体がびくりと震え、短い悲鳴が漏れる。
その瞬間――
「わ、わかった!!」
エアデランの悲痛な叫びが洞窟を震わせた。
「話す……話すから、それ以上はやめてくれ……た、頼む……」
必死に肩で息をしながら、セイラスタンを見上げる。
「では、話してもらおう」
セイラスタンがニヤリとほくそ笑むと、剣を止めた。
「だが、わしとて……せ、精霊のことを……全てわかっているわけでは……ないぞ……何を知りたい」
息を途絶えながらなんとか話しているエアデラン。
そんな様子にはお構いなくセイラスタンが冷徹に言った。
「そうだな。まずは精霊の容姿や特徴を聞きたい」
すると、エアデランは力無く話し始めた。
「精霊は……手に収まるような……小動物のような……容姿……だ。身体全体が……白い毛でおおわれ……ておる」
「なるほど。意外な容姿だな。で、力は強いのか?」
「それは……わからん。わ、わしも精霊が戦っている……様子など見たことない……」
「ふーむ、そうか。では、他に特徴は?」
「……鳴き声が……独特だ」
そこへ、
「長老……そ……それ……以上……は……」
ミオルネが苦しみながら声を出してエアデランの制止を試みる。
すると、セイラスタンがミオルネの右腕に刺さっている剣をグイッと動かす。
「ぐぁっ」
血が噴き出して痛みに耐えきれず悲鳴を上げるミオルネ。
「ミオルネッ!」
目をカッと見開きミオルネに向かって叫ぶエアデラン。
そんな二人を気にも留めずセイラスタンが言った。
「鳴き声だと?どんな鳴き声だ」
エアデランは力なく答える。
「……”ルクク”と……は、発することが……多い」
苦しそうなエアデランが言い終えた時、ミオルネが左拳を強く握った。
「ほう。珍しい鳴き方だな。確かに特徴的だ」
そう言うと、口元を釣り上げるセイラスタン。
「し、知っていることはこれだけだ……さぁ、その剣を抜いて……くれ」
エアデランは顔を伏せがちに懇願した。
「……いいだろう」
そう呟き、ミオルネの右腕に刺さっている剣を抜いた次の瞬間――
「うがぁぁっ!」
ミオルネのさらなる苦痛の叫びが響いた。
セイラスタンがミオルネの左足を剣で貫いていたのだ。
「貴様っ!ミオルネを殺す気か?!」
眼から涙をこぼすエアデラン。
「ミオルネ……ミオルネよ……」
ミオルネに手を伸ばしながらエアデランの弱々しい声が、むなしく響く。
「まだ何か知っているだろう。言わねば、次は心臓を突き刺す」
セイラスタンの冷たい視線がエアデランを見下す。
その鋭い視線に抗えず、エアデランが弱々しく声を発した。
「精霊の居るところには、魔素が集まっていく……」
その言葉を聞き終えると、セイラスタンの顔が狂気の笑顔となった。
「それは重要な情報だ。精霊の場所を見つけ出せるかもしれん。最後の切り札を切って来たな」
そう言って、エアデランの目の前まで歩み寄るセイラスタン。
そしてーー
「ご老体にはこの毒はさぞ苦しかろう。今、楽にしてやる」
剣先をエアデランに向け高くかざすセイラスタン。
エアデランは目を強くつむり、拳に力を込める。
次の瞬間、セイラスタンが剣を勢いよく突き下ろした。
キィィーーン!
金属がぶつかり合うような音が部屋の中を切り裂く。
少し驚いた顔のセイラスタンが、気づいたかのようにミオルネに顔を向けた。
そこには、左腕をエアデランの方へ向けたままほくそ笑むミオルネの姿があった。
しかし、力尽きた彼女は、バタッと腕を床に落とし、肩で息をしはじめた。
「死にぞこないが結界を張ったか。手間をかけさせる。だが……」
そう言いながらミオルネに近寄るセイラスタン。
彼女の頭の位置まで来ると、
「お前を殺せば結界も消える。無駄なあがきだったな」
と剣を両手で持ち、高く振り上げると、次の瞬間――
ズサッ!
剣がミオルネの身体に突き刺さっていた。
「ミオルネェェ―――ッ」
エアデランの悲痛な叫びが空を裂いた。
ミオルネの身体から温かい血がゆっくりと広がっていく。
その赤が宴の皿を染めたとき、エアデランはようやく――彼女がもう戻らないことを悟った。
「ふっ。いい女ではあったが、私の物にならなかったのが悪かったのだよ」
セイラスタンの口元がつり上がった。
「さて、今度こそお前の番だ」
振り返りエアデランの元へ再び近寄るセイラスタン。
エアデランは、歩み寄って来る男の顔を睨み続けながら低く声を発した。
「お、おのれ……セイラスタン。いずれ"精霊の天罰"が……下るであろう……心して待つ……がいい」
だがセイラスタンはエアデランの元へ来ると、
「あぁ、そうか。だが、今度こそ終わりだ」
と言って剣を目の前の老体に振り下ろした。
すると――
カキィィーンッ!
再び金属のはじかれる音。
「なに!?」
驚きを隠せないセイラスタン。
エアデランはその甲高い音によって気絶をした。
しばしの沈黙の後――
「精霊の結界を張ったのか!くそっ!!」
セイラスタンがミオルネに顔を向けると怒声を上げた。
「だとすると、こいつを殺せないではないか。余計なことをしてくれる」
イラついた目つきでミオルネの亡骸を睨みつける。
「仕方ない……こいつとミオルネの死体を”あの場所”へ閉じ込めるしかないな」
そう言って気絶しているエアデランとミオルネを両肩に担ぐ。
そして、裏口から慎重に外へ出て行くと森の中へと入っていった。
セイラスタンがしばらく歩いていくと、岩壁の前にたどり着いた。
すると、彼は二人をその場にドサっと置く。
その時、エアデランが目を覚ました。
だが、意識は朦朧としてはっきりしない状態であった。
夢の中を漂う感じのエアデランにセイラスタンの姿が映る。
セイラスタンは、岩壁の前に手をかざし、
「”幻航”」
とスキルを唱えた。
次の瞬間、岩壁に扉が現れる。
セイラスタンがその扉を開けると、その先には薄暗く広がる空間があった。
そこからは水の滴り落ちる音だけが響いてくる。
エアデランは薄れ行く意識の中で呟いた。
(瞬間移動のスキル……そんなものを持っていたのか……)
そして再び気を失ってしまったのだ。
洞窟の入り口――
「うっ、ううぅーーーっ」
エアデランがうなされ続けていた。
「おい、大丈夫か?」
アマトがエアデランの肩を揺さぶる。
すると、ゆっくりとエアデランが目を開けた。
「ここは、どこじゃ?」
ボーッとした顔で当たりをゆっくりと見回すエアデラン。
「洞窟の入り口だ。お前はさっき頭をぶつけて気を失ってしまった」
アマトが静かに言った。
「洞窟?洞窟……」
エアデランが呟くように繰り返す。
そして、俄かに表情が強張ると次の瞬間。
「セイラスタンだ!あやつがミオルネを殺し、わしを洞窟に幽閉した犯人じゃっ!!」
エアデランの声が洞窟の奥まで響き渡ったのだったーー。
ミオルネが苦痛に声をにじませる。
「や、やめろッ!」
エアデランは引き裂かれるような叫びをあげた。
セイラスタンは微動だにせず、淡々と刃を引き抜いた。
「エアデラン。お前が吐かねば、ミオルネはこれからも苦しみ続けるぞ」
その声音は、長年友として肩を並べた男のものではなかった。
「許さんぞ……セイラスタン!」
怒りと絶望が入り混じった怒声だった。
だがセイラスタンの眼は冷酷に光っていた。
「今の状況をわかっていないようだな。余計な言葉を発しているとミオルネの苦痛が増えるだけだぞ」
そう言うと、今度はミオルネの右腕に剣を突き刺した。
「くっ……ぁ……っ!」
ミオルネは声にならない悲鳴を漏らす。
毒も回り始め、血の気が急速に引いていく中で、かろうじて意識をつなぎとめているミオルネ。
彼女でなければ、とっくに意識を手放しているところだ。
「ま、待て!それ以上はならぬ!今ならまだ間に合う!」
エアデランが必死に手を伸ばす。
だがセイラスタンは、
「ならば、さっさと吐け。手遅れになるぞ」
と冷たく吐き捨てて続けた。
「安心しろ。殺しはしない。だがな……」
ミオルネの右腕に刺さっている剣をゆっくり動かす。
「痛みは別だ」
「くっ!」
ミオルネの身体がびくりと震え、短い悲鳴が漏れる。
その瞬間――
「わ、わかった!!」
エアデランの悲痛な叫びが洞窟を震わせた。
「話す……話すから、それ以上はやめてくれ……た、頼む……」
必死に肩で息をしながら、セイラスタンを見上げる。
「では、話してもらおう」
セイラスタンがニヤリとほくそ笑むと、剣を止めた。
「だが、わしとて……せ、精霊のことを……全てわかっているわけでは……ないぞ……何を知りたい」
息を途絶えながらなんとか話しているエアデラン。
そんな様子にはお構いなくセイラスタンが冷徹に言った。
「そうだな。まずは精霊の容姿や特徴を聞きたい」
すると、エアデランは力無く話し始めた。
「精霊は……手に収まるような……小動物のような……容姿……だ。身体全体が……白い毛でおおわれ……ておる」
「なるほど。意外な容姿だな。で、力は強いのか?」
「それは……わからん。わ、わしも精霊が戦っている……様子など見たことない……」
「ふーむ、そうか。では、他に特徴は?」
「……鳴き声が……独特だ」
そこへ、
「長老……そ……それ……以上……は……」
ミオルネが苦しみながら声を出してエアデランの制止を試みる。
すると、セイラスタンがミオルネの右腕に刺さっている剣をグイッと動かす。
「ぐぁっ」
血が噴き出して痛みに耐えきれず悲鳴を上げるミオルネ。
「ミオルネッ!」
目をカッと見開きミオルネに向かって叫ぶエアデラン。
そんな二人を気にも留めずセイラスタンが言った。
「鳴き声だと?どんな鳴き声だ」
エアデランは力なく答える。
「……”ルクク”と……は、発することが……多い」
苦しそうなエアデランが言い終えた時、ミオルネが左拳を強く握った。
「ほう。珍しい鳴き方だな。確かに特徴的だ」
そう言うと、口元を釣り上げるセイラスタン。
「し、知っていることはこれだけだ……さぁ、その剣を抜いて……くれ」
エアデランは顔を伏せがちに懇願した。
「……いいだろう」
そう呟き、ミオルネの右腕に刺さっている剣を抜いた次の瞬間――
「うがぁぁっ!」
ミオルネのさらなる苦痛の叫びが響いた。
セイラスタンがミオルネの左足を剣で貫いていたのだ。
「貴様っ!ミオルネを殺す気か?!」
眼から涙をこぼすエアデラン。
「ミオルネ……ミオルネよ……」
ミオルネに手を伸ばしながらエアデランの弱々しい声が、むなしく響く。
「まだ何か知っているだろう。言わねば、次は心臓を突き刺す」
セイラスタンの冷たい視線がエアデランを見下す。
その鋭い視線に抗えず、エアデランが弱々しく声を発した。
「精霊の居るところには、魔素が集まっていく……」
その言葉を聞き終えると、セイラスタンの顔が狂気の笑顔となった。
「それは重要な情報だ。精霊の場所を見つけ出せるかもしれん。最後の切り札を切って来たな」
そう言って、エアデランの目の前まで歩み寄るセイラスタン。
そしてーー
「ご老体にはこの毒はさぞ苦しかろう。今、楽にしてやる」
剣先をエアデランに向け高くかざすセイラスタン。
エアデランは目を強くつむり、拳に力を込める。
次の瞬間、セイラスタンが剣を勢いよく突き下ろした。
キィィーーン!
金属がぶつかり合うような音が部屋の中を切り裂く。
少し驚いた顔のセイラスタンが、気づいたかのようにミオルネに顔を向けた。
そこには、左腕をエアデランの方へ向けたままほくそ笑むミオルネの姿があった。
しかし、力尽きた彼女は、バタッと腕を床に落とし、肩で息をしはじめた。
「死にぞこないが結界を張ったか。手間をかけさせる。だが……」
そう言いながらミオルネに近寄るセイラスタン。
彼女の頭の位置まで来ると、
「お前を殺せば結界も消える。無駄なあがきだったな」
と剣を両手で持ち、高く振り上げると、次の瞬間――
ズサッ!
剣がミオルネの身体に突き刺さっていた。
「ミオルネェェ―――ッ」
エアデランの悲痛な叫びが空を裂いた。
ミオルネの身体から温かい血がゆっくりと広がっていく。
その赤が宴の皿を染めたとき、エアデランはようやく――彼女がもう戻らないことを悟った。
「ふっ。いい女ではあったが、私の物にならなかったのが悪かったのだよ」
セイラスタンの口元がつり上がった。
「さて、今度こそお前の番だ」
振り返りエアデランの元へ再び近寄るセイラスタン。
エアデランは、歩み寄って来る男の顔を睨み続けながら低く声を発した。
「お、おのれ……セイラスタン。いずれ"精霊の天罰"が……下るであろう……心して待つ……がいい」
だがセイラスタンはエアデランの元へ来ると、
「あぁ、そうか。だが、今度こそ終わりだ」
と言って剣を目の前の老体に振り下ろした。
すると――
カキィィーンッ!
再び金属のはじかれる音。
「なに!?」
驚きを隠せないセイラスタン。
エアデランはその甲高い音によって気絶をした。
しばしの沈黙の後――
「精霊の結界を張ったのか!くそっ!!」
セイラスタンがミオルネに顔を向けると怒声を上げた。
「だとすると、こいつを殺せないではないか。余計なことをしてくれる」
イラついた目つきでミオルネの亡骸を睨みつける。
「仕方ない……こいつとミオルネの死体を”あの場所”へ閉じ込めるしかないな」
そう言って気絶しているエアデランとミオルネを両肩に担ぐ。
そして、裏口から慎重に外へ出て行くと森の中へと入っていった。
セイラスタンがしばらく歩いていくと、岩壁の前にたどり着いた。
すると、彼は二人をその場にドサっと置く。
その時、エアデランが目を覚ました。
だが、意識は朦朧としてはっきりしない状態であった。
夢の中を漂う感じのエアデランにセイラスタンの姿が映る。
セイラスタンは、岩壁の前に手をかざし、
「”幻航”」
とスキルを唱えた。
次の瞬間、岩壁に扉が現れる。
セイラスタンがその扉を開けると、その先には薄暗く広がる空間があった。
そこからは水の滴り落ちる音だけが響いてくる。
エアデランは薄れ行く意識の中で呟いた。
(瞬間移動のスキル……そんなものを持っていたのか……)
そして再び気を失ってしまったのだ。
洞窟の入り口――
「うっ、ううぅーーーっ」
エアデランがうなされ続けていた。
「おい、大丈夫か?」
アマトがエアデランの肩を揺さぶる。
すると、ゆっくりとエアデランが目を開けた。
「ここは、どこじゃ?」
ボーッとした顔で当たりをゆっくりと見回すエアデラン。
「洞窟の入り口だ。お前はさっき頭をぶつけて気を失ってしまった」
アマトが静かに言った。
「洞窟?洞窟……」
エアデランが呟くように繰り返す。
そして、俄かに表情が強張ると次の瞬間。
「セイラスタンだ!あやつがミオルネを殺し、わしを洞窟に幽閉した犯人じゃっ!!」
エアデランの声が洞窟の奥まで響き渡ったのだったーー。
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