異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第一章 光の雪

第15話 ルノアとの勝負――そして、ウロボロスの痣がほくそ笑む

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アマトの意識の内側――赤と黒が入り混じる、揺らぐ精神の空間。

ティアマトは、なぜか冷や汗を浮かべながら、しどろもどろに口を開いた。

『ね、ねぇ……アマトちゃん? ちょーっと、小耳に入れておきたいことが…ごじゃります…のでありますが……』

『なんだよ』

いつものように無愛想なアマトの返事。

ティアマトは視線を泳がせながら、言い淀む。

『さっき、ルノアちゃんとの会話で……赫夜ちゃんの話、してたでしょ?』

『……ああ』

『えっとぉ……あんまり、前の世界のこと……他人に話しちゃダメかも……っていうか、ほんとはダメ……っていうか……』

アマトの目が鋭くなる。

『……どういう意味だ?』

ティアマトは、言いづらそうに続けた。

『カオスで出会った魔素体の人から聞いたんだけど

……オリンポスのルールで、転生者が“前の世界の記憶”を他人に話すと

……話した本人か、聞いた相手に“呪い”がかかるらしくて……』

『なに……?』

『しかも、最悪、死んじゃうくらいの……強い呪いらしくて……てへ☆』

『……てへ、じゃねぇ!!!!』

アマトの怒声が精神空間を震わせた。

『なんでそれを今言う!? もっと早く言えたろうが!!』

『ごめんなさぁぁいっ! 私もよく知らないのぉぉぉ!!』

ティアマトは涙目でバタバタと後退し、そのままカオスの霧の中へ逃げ込んでいった。

その背中が完全に霧に消えかけた頃――

『ふっ……あの馬鹿女神の代わりに、俺様が説明してやろう。ありがたく思え』

まるでアマトの精神空間の主《あるじ》であるかのように、空気を読まないゼルヴァスが得意げに言った。

アマトはジロリと睨みつけた。

ゼルヴァスは気にする様子もなく、語り始める。

『この“呪い”ってやつは、神々が仕込んだ“記憶封じの楔”ってシステムだ。

呪われた者には、体のどこかに“ウロボロス”の文様の痣が現れるらしい』

『ウロボロスの痣……?』

アマトが繰り返す。

『昔、前世の記憶を持つ転生者たちが結託して、神々に反旗を翻したことがあってな。

世界を滅ぼしかけたらしい。慌てた神どもは、転生者同士が“記憶を共有する”ことそのものを禁じた。

語れば呪い。聞いても呪い。そういう仕組みさ』

アマトは無言のまま、表情を険しくする。

ゼルヴァスは肩をすくめながら、さらに言葉を重ねた。

『この呪い、神の力でシステムに組み込まれてるから、簡単には解除できねぇ。

昔は“破呪”ってスキルが存在したんだが、神々がそれも潰した。今じゃどうしようもねぇ』

『……』

『しかも発動条件が曖昧なんだよ。

話の内容とか、相手とか、タイミングとか……何かが引き金になって発動する。

軽いものなら重傷程度で済むが、最悪の場合は命に関わる。

オリンポスにとって“重大な前世での記憶”ほど、強い呪いが発動しやすいって噂もある』

その瞬間、アマトの拳がゼルヴァスの顔面をぶち抜いた。

ぐふっ!?

『な、なぜっ!? 俺様は……善意で説明しただけで……』

情けない声だけが空間に虚しく響いた。

アマトは、ゼルヴァスに物理攻撃が効かないことをわかっていながら、それでも殴らずにはいられなかった。

アマトは、拳を握ったまま、しばらく動かなかった。

(俺に呪いがかからなかったとしたら、ルノアは……どうなる……)

自分のせいで、他人が傷つくかもしれない――それが、どうしようもなく苛立たしい。

「……呪い、か」

目を伏せたその顔に、今までにない深い影が差す。

そして、もうひとつの重大な事実が浮かび上がった。

「……赫夜を探すにも、その“名前”を口にするだけで、相手が呪われるってことか……」

呆然と、ただ一人、悔しがるように。

(……なんなんだよ……それじゃ、探しようがねぇじゃねぇか……!)

拳が震える。

だが――

次の瞬間、アマトの瞳に再び光が灯った。

「……ふざけんな。だったら、全部、俺が背負ってやる」

静かに、しかし確かに、言い放った。

「呪いでも、なんでも来い……ルノアは俺が守る。赫夜も――必ず俺が見つけ出す」

その言葉は、誰に向けるでもなく、精神の空間に、確かに響き渡っていた。


―――


空は晴れわたり、野球場に仕立てられた広場には、村人たちの熱気が満ちていた。

即席の観客席では、ゼルミスが大きく手を広げて試合の開会を宣言する。

「村の皆の衆! いまここに、第一回“ポタ村野球試合”の開幕を宣言する!」

ミィナは応援団長として、やや露出の多い応援服に身を包み、派手なリボンと手作りの応援旗を振って叫んでいた。

「いっけーアマト!」「勝てーアマトーッ!」と、テンションはすでに限界突破。

その隣では、ネトが跳ね回っている。

「アマト様、すっげーかっこいい! 絶対ホームランだよ!」

ネネは落ち着いた口調でたしなめる。

「お兄ちゃん、うるさいから一回落ち着きなさい。あと帽子落ちてる」

「えぇ~!?」

それで、アマトの精神空間内では、

『キャーッ、アマトちゃん、がんばれーっ!!』

『お、面白そうだぞ、野球!』

とティアマトとゼルヴァスがはしゃぎまくっていた。

そんな喧騒の中、試合が始まった。

試合はルノアのチームの先行。一回表、ピッチャーのアマトは、力加減に細心の注意を払っていた。

強く投げれば魔素が暴走する――だから、抑え気味の投球で様子を見る。

しかし、相手は魔物。打撃の威力も、人間の野球とは段違いだった。

ツーアウト走者一塁の場面で、ルノアがバッターボックスに立つ。

4番バッターとしての風格すら感じさせる。

目が合う。まっすぐな視線を交わし、緊張感が高まる。

ルノアは、遅れて練習を始めたとは思えないほど、堂々としていた。

半袖半ズボンのユニフォームから見える腕や脚には、打ち身や擦り傷が絶えず、相当な練習を積んできたことが一目でわかった。

(この一週間……もう、特訓してきたんだな)

アマトの渾身の球を、ルノアはわずかに振り遅れながらも、強烈な打球でセンター奥へ弾き返した。

しかし、アウト。辛くも一回表を終える。

一回裏。今度はルノアがマウンドに立つ。剛速球を次々に投げ込み、アマトのチームは手も足も出ない。

球に宿る魔素の密度と制御は、明らかにアマトを上回っていた。

3番、アマトの打席。

「来いよ、ルノア」

ルノアは口元をわずかに上げ、魔素をまとった球を放る。一球――アマトのバットは空を切った。

「……チッ」

ベンチに戻ったアマトの胸に、焦りが渦巻く。完全に打ち取られた。

その後の試合は、まさに一進一退。互いに魔素を駆使し、スライムの特性を活かした走塁や、伸びる腕による奇抜なプレーが続出。

まさに、ファンタジーと野球の融合だった。

そして、運命の九回表――スコアは2-2。

再びルノアが打席に立つ。アマトの投げたストレートが、わずかに甘く入った。

乾いた金属音が広場に響く。打球は高く弧を描き、そのまま場外へと消えていく。

「くそっ……!」

観客席から歓声が巻き起こる。ルノアは静かにベースを一周し、最後に拳を握って見せた。

一点を追う九回裏。アマトたちの攻撃。

ツーアウト、走者一塁という場面。

そして、アマトが打席に立つ。

(集中しろ……この一打に、全部かける)

アマトは精神を統一し、魔素の流れを最適化する。目を閉じ、ルノアの投球をイメージ。

目を開いた瞬間、空間が静まり返った。

投じられた球は、ルノアの渾身の一球。

だが――

アマトのバットが芯でとらえたその瞬間、打球は一直線に空を裂き、遥か彼方、青空の彼方へと消えていった。

逆転、サヨナラ。

広場が揺れるほどの歓声。ミィナが叫び、ネトが飛び上がり、ネネが喜びながら拍手した。

アマトはベースを一周しながら、ルノアを見た。

ルノアは悔しそうに笑いながら、アマトの方に顔を向ける。

ただ、そこにはすがすがしい顔をしたルノアがいた。

ホームを回りながら、アマトは、ふと我に返り、

『本当に、これで魔素の操作強化になってたのか?』

と疑念をいだくと、

ゼルヴァスが

『だ、大丈夫だ。間違いなく成長しているぞ』

とややごまかし気味に言った。

アマトがホームベースを踏むと、チームメイトの歓喜の喜び合い。

その最中に、向こうの方から

「おいっ!おまえら!聞こえてんだろ!?」

という叫び声が聞こえる。

アマトはそちらを向くも、

(ん?ゴブリンもやはりいるのか)

と思いながら、特に驚く様子もなく、ベンチに腰を下ろした。

ゼルミスとルノアがゴブリンたちのところまで行き、何かを言っていたかと思うと、ゼルミスは大声で言った。

「さて……、試合はアマト様チームの勝ちじゃ。今日は、皆の者、ご苦労であった」

そして、ルノアはアマトのもとへ笑顔で駆け寄ってきた。

「負けちまったけど、気持ちいい負けだったよ。

アマト様、オレ、本当は、この村を救ってくれたアマト様のこと、大好きさ」

言葉のあと、ルノアはくるりと一回転しながら笑った。

普段はボーイッシュだが、ポニーテールをふわりと振って、いまは年相応の少女のように。

だが――

アマトの視線は、その一瞬を見逃さなかった。

ポニーテールの影。振り返る背中の、その首筋の根元に――

黒く、禍々しい“ウロボロス”の痣が、かすかに浮かんでいた。

それはまるで、静かにほくそ笑んでいるかのように。

(……っ)

声にならない衝撃が、アマトの胸の奥を鋭く突き刺す。

歓声と笑顔に包まれる広場の中で――

アマトだけが、まるで時が止まったかのように、静かに立ち尽くしていた。
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