異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

文字の大きさ
14 / 98
第一章 光の雪

第14話 繋がる村、孤立する者

しおりを挟む
「これが“野球”ってもんだ」

アマトは広場に集まった村人たちに向けて、野球の説明を一通り終えたところだった。

「ゲームを面白くするために、お前らはスライムになって跳ねてもいいし、伸びてもいい。

走って、投げて、棒で打つ。ただそれだけのシンプルな遊びだ。

そして……試合は今日から二週間後にやる。覚えとけよ」

「おおお! 面白そうじゃねぇか!」

「スライムになっていいのか!」

「俺、アマト様のチームに入りてぇ!」

村人たちは一斉に盛り上がり始め、その熱気に押されるように誰かが手を挙げた。

「……ところで、バットとボールって、どうすればいいんですか?」

「あぁ、それはな……フィリアの森にある材料で作れるはずだ。ミィナたちに頼めば、きっといいものができる」

その言葉に、ミィナはぱっと表情を明るくし、力強く答えた。

「承知しました! アマト様のお役に立てるのなら、何でもやってみせます!」

アマトから素材の特徴や形状を教わると、ミィナはすぐさま周囲の女の子たちに声をかけた。

「では、みんな準備して! 今からフィリアの森に材料を探しに行くわよ!」

その声に勢いを得て、少女たちは元気よく森の方へと駆け出していった。



―――



アマトの説明の日から、村はまるで祭りのような活気に包まれていた。

選手になろうと張り切る者、道具作りに精を出す者、そして野球場の整備に汗を流す者。

それぞれが自然と役割を見つけ、笑顔と掛け声が絶えず広場に響いていた。

日を追うごとに、“野球”という名の新たな楽しみが村を変えていく。

かつて魔素の枯渇で失われていた一体感が、少しずつ、しかし確かに戻りつつあった。

そして、広場の一角には、村人たちの手で形作られた“野球場”が姿を現しつつあった。

白い粉で引かれたライン、古布や木片で作られた即席の塁。

スライムたちが跳ねたり伸びたりしやすいように、草を踏み固めた柔らかな地面が丁寧に整えられている。

さらにフィールドの端には、干した木材を削って組み上げた簡易の観客席と、手作りのベンチが並んでいた。

座面には藁や柔らかな布が敷かれ、彩りとして小さな花飾りまで添えられている。

そして脇には、ミィナたちが苦労して作り上げたボール、バット、そして手縫いのグローブが並べられていた。

その光景は決して豪華ではない。だがそのすべてに、村人たちの工夫と希望、未来への期待が息づいていた。

そんな中、ネトが目を輝かせて叫ぶ。

「おれもやりたい! 野球、やる!」

しかし妹のネネがすぐに手を引き、笑いながらたしなめた。

「だーめ、お兄ちゃんにはまだちょっと早いの。私たちは応援席で応援よっ!」

「ええ~っ……」

不満げに唇を尖らせるネトだったが、ネネに手を引かれてできたばかりの観客席へ向かう。

腰を下ろし、完成間近の野球場を見つめたネトの瞳は、やがて期待と憧れにきらめいた。



そんな賑わいの中、ただ一人、輪に入らぬ者がいた。



「……何が野球だ」

そう呟いたのはルノア。

スライムたちのはしゃぎ声を遠くに聞きながら、ひとり木陰に背を預けていた。

(異世界人への恨み……みんな、忘れちまったのかよ)

顔を伏せる彼女の肩には、取り残されたような孤独と、消えぬ怒りがじっと燻っていた。



―――



一方、説明から一週間が経ったある日の光景。

ここは村から離れたフィリアの森の奥、静かな洞窟。

アマトは手製のバットを片手に、ひとり魔素の訓練を続けていた。

(魔素を出す……出しすぎず、少なすぎず、必要な分だけ)

棒がうっすらと青白く光る。

だが、次の瞬間――

バッ、バーンッ!!

洞窟の横穴から火柱が噴き上がる。

『馬鹿野郎! 人がいたら死ぬぞ!』

ゼルヴァスの怒号が飛ぶ。

「わかってる! でも、うまくいかねぇんだよ!」

『だから”動き”と”意志”で制御しろと何度言えば――!』

アマトの方は……、まだまだダメそうである。



―――



洞窟での訓練を終え、アマトは肩にバットを担ぎながら、村への帰路をたどっていた。

空は茜色に染まり、木々の隙間から射す夕日が、長く伸びる彼の影を照らしている。

魔素の扱いは、まだ思うようにはいかない。だが、少しずつ、手応えは感じ始めていた。

そんなことを考えながら、村の入り口まで戻ったそのときだった。

柵の前に、人影がひとつ――

誰かが、じっと立っていた。

「アマト……様」

その声に、アマトの足が止まる。

夕日の逆光の中、凛とした佇まいが浮かび上がる。

ルノアだった。

唇を噛みしめるようにして、彼女はゆっくりと口を開く。

「オレの名前はルノア。ミィナの親友だ。

……それと同時に、異世界人――あんたのことを、どうしても許せねぇ存在だ」

アマトの表情がわずかに引き締まる。

「……オレの兄貴はな、異世界人に殺されたんだよ」

その言葉は、鋭く、重く、アマトに突き刺さる。

「異世界人ってだけで、誰かを嫌いになりたくなんてねぇ。

……でも、どうしても、あんたを見ると、あのときの記憶が蘇る。」

拳を握りしめたまま、ルノアは続ける。

「でもな……ミィナは、あんたのことを心の底から慕ってる。

あいつの笑顔を、これ以上曇らせたくねぇ……。

本当は、あんたに村から出て行ってほしい。けど、それをしたら、一番傷つくのはミィナだ。

だから――」

ルノアの視線が、まっすぐアマトを捉える。

「オレは、あんたと正々堂々、勝負して……自分の中で、けりをつけてぇ」

アマトはしばし無言で彼女を見つめ、静かに問いかける。

「……勝負は、なんだ?」

「なんでもいい。あんたが決めろ」

「そうか……なら、野球でどうだ?」

「……野球?」

「そうだ。いまの俺は、魔素の扱いが不安定だ。

もし本気で戦ったら、村ごと吹き飛ばすかもしれねぇ。

だったら、ルールのある“競技”で決着をつけたほうがいい」

ルノアは息を吐き、頷いた。

「……いいだろう。野球で勝負だ」

「ただ、俺にとってはメリットがないな……」

「……わかった。あんたが勝ったら、オレはなんでも言うことを聞く。条件を決めてくれ」

「なら、一週間、重労働だ。食材集め、修理、雑用、全部。朝から晩まで。

……ここのところ、ミィナや他の奴らに負荷をかけすぎてるからな」

「……それだけでいいのか?」

「“なんでも言うこと聞く”って言ったよな?」

ルノアは一瞬の沈黙のあと、静かに応じた。

「……ああ、わかった」

アマトが背を向けかけた、そのとき――ふと足を止めて、振り返った。

「……俺もな。前の世界に、妹がいたんだ」

ルノアの肩が、わずかに震える。

「ただの、病弱な娘だった。ずっとベッドの上で……ずっと、世界の静けさだけを求めてた子だったよ」

アマトは遠くを見るように、静かに言葉を紡ぐ。

「……けど、ある日突然、大きな爆弾が落ちたんだ。

何百万もの命を、一瞬で消し飛ばすような、とんでもないやつだった」

彼の視線はどこか遠く、記憶の中の光景を見つめているようだった。

「ただ、光が差して……気づいたときには、俺も、あいつも、跡形もなかった。それだけのことだ」

その声には、怒りでも涙でもない、どこまでも乾いた虚無があった。

「……俺は、そのとき、戦争ってもんの“本質”を知った気がしたよ」

目を伏せ、アマトはゆっくりと続ける。

「たいていの場合、戦争を始めるのは、戦場になんか出ない“お偉いさん”たちだ。

そしていつだって巻き添えで命を落とすのは、何の罪もない、ただ静かに生きようとしていた人たちなんだ」

言葉に、かすかに力がこもる。

「もしあのときの“お偉いさん”が、この世界に異世界人としてのうのうと暮らしているんだとしたら……

俺だって、そいつらだけは絶対に許さねぇ」

その瞳には、怒りでも悲しみでもない――

戦争の不条理を知る者だけが持つ、凍てつくような静かな決意が宿っていた。

「だから……お前の気持ち、わからなくはないさ」

アマトは少しだけ口調を緩める。

「それと……妹も、この世界に来てるらしい。

でも、どこにいるのかはわからない。

いずれ、俺はこの村を出て、探しに行くつもりだ」

そして、夕暮れの中を歩き出しながら、最後に言い添える。

「……お前の“辛抱”も、それまでだ。安心しろ」

アマトの姿が、茜色の空にゆっくりと溶けていく。

その背中を、ルノアは無言で見送っていた――

「……なんなんだよ、あいつ……」

怒りも迷いも、悲しみも、すべてが混ざり合って、彼女の中で形を失っていくようだった。

そのときだった――。

気づかぬうちに、彼女の背後にほの暗いオーラが忍び寄っていた。

それはまるで意志を持つかのように、ゆらりと漂いながら、

ルノアのうなじ付近から、すっと体内へと染み込むように消えていく。

だがこのとき、ルノアも、アマトも、その異変に気づくことはなかった。

――そしてこのやり取りを、アマトの内側で、静かに見守っていた者たちがいた。

どこか気まずそうに沈黙している、ゼルヴァスとティアマトであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥
ファンタジー
町の電気屋として細々と暮らしていた俺、轟電次郎(とどろき でんじろう)。 ある日、感電事故であっけなく人生終了──のはずが、目を覚ましたら異世界だった。 そこは魔法がすべての世界。 スマホも、ドライヤーも、炊飯器も、どこにもない。 でもなぜか俺だけは、“電力を生み出し家電を召喚できる”という特異体質を持っていて── 「ちょっと暮らしやすくなればそれでいい」 そんなつもりで始めた異世界ライフだったのに…… 家電の便利さがバレて、王族に囲まれ、魔導士に拉致され、気が付けば── 「この男こそ、我らの神(インフラ)である!」 えぇ……なんでそうなるの!? 電気と生活の知恵で異世界を変える、 元・電気屋おっさんのドタバタ英雄(?)譚!

お助け妖精コパンと目指す 異世界サバイバルじゃなくて、スローライフ!

tamura-k
ファンタジー
お祈りメールの嵐にくじけそうになっている谷河内 新(やごうち あらた)は大学四年生。未だに内定を取れずに打ちひしがれていた。 ライトノベルの異世界物が好きでスローライフに憧れているが、新の生存確認にやってきたしっかり者の妹には、現実逃避をしていないでGWくらいは帰って来いと言われてしまう。 「スローライフに憧れているなら、まずはソロキャンプくらいは出来ないとね。それにお兄ちゃん、料理も出来ないし、大体畑仕事だってやった事がないでしょう? それに虫も嫌いじゃん」 いや、スローライフってそんなサバイバル的な感じじゃなくて……とそんな事を思っていたけれど、ハタと気付けばそこは見知らぬ森の中で、目の前にはお助け妖精と名乗るミニチュアの幼児がいた。 魔法があるという世界にほんのり浮かれてみたけれど、現実はほんとにサバイバル? いえいえ、スローライフを希望したいんですけど。  そして、お助け妖精『コパン』とアラタの、スローライフを目指した旅が始まる。

『異世界ガチャでユニークスキル全部乗せ!? ポンコツ神と俺の無自覚最強スローライフ』

チャチャ
ファンタジー
> 仕事帰りにファンタジー小説を買った帰り道、不運にも事故死した38歳の男。 気がつくと、目の前には“ポンコツ”と噂される神様がいた——。 「君、うっかり死んじゃったから、異世界に転生させてあげるよ♪」 「スキル? ステータス? もちろんガチャで決めるから!」 最初はブチギレ寸前だったが、引いたスキルはなんと全部ユニーク! 本人は気づいていないが、【超幸運】の持ち主だった! 「冒険? 魔王? いや、俺は村でのんびり暮らしたいんだけど……」 そんな願いとは裏腹に、次々とトラブルに巻き込まれ、無自覚に“最強伝説”を打ち立てていく! 神様のミスで始まった異世界生活。目指すはスローライフ、されど周囲は大騒ぎ! ◆ガチャ転生×最強×スローライフ! 無自覚チートな元おっさんが、今日も異世界でのんびり無双中!

異世界で鍛冶屋をやってるだけのはずが、神々に最強認定されてハーレムができてた件

えりぽん
ファンタジー
平凡な青年リクは、異世界に転生して鍛冶屋として静かに暮らしていた――はずだった。 だが、彼が何気なく作った剣は竜を貫き、魔王をも滅ぼすほどの威力を秘めていた。本人はただの職人のつもりでも、周囲からは「神の使徒」として崇められ、王女や聖女、果ては魔族までが次々と彼の元に集う。 「俺、本当にただの鍛冶屋なんですが……?」 気づけば彼は、闇の勢力も聖なる教団も巻き込む世界最大の戦争の鍵を握る存在に――。 これは、無自覚に最強となった青年が世界を変える、“作るだけ無双ファンタジー”。

異世界に転生した俺は英雄の身体強化魔法を使って無双する。~無詠唱の身体強化魔法と無詠唱のマジックドレインは異世界最強~

北条氏成
ファンタジー
宮本 英二(みやもと えいじ)高校生3年生。 実家は江戸時代から続く剣道の道場をしている。そこの次男に生まれ、優秀な兄に道場の跡取りを任せて英二は剣術、槍術、柔道、空手など様々な武道をやってきた。 そんなある日、トラックに轢かれて死んだ英二は異世界へと転生させられる。 グランベルン王国のエイデル公爵の長男として生まれた英二はリオン・エイデルとして生きる事に・・・ しかし、リオンは貴族でありながらまさかの魔力が200しかなかった。貴族であれば魔力が1000はあるのが普通の世界でリオンは初期魔法すら使えないレベル。だが、リオンには神話で邪悪なドラゴンを倒した魔剣士リュウジと同じ身体強化魔法を持っていたのだ。 これは魔法が殆ど使えない代わりに、最強の英雄の魔法である身体強化魔法を使いながら無双する物語りである。

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

グレート・プロデュース  〜密かに国をコントロールする最強のエージェントは、恋に落ちた王女を大帝王に即位させることができるのか?〜

青波良夜
ファンタジー
魔法と、魔導科学が進んだ強大な国、グランダメリス大帝国。 俺は、この国を陰からコントロールする秘密組織でエージェントとして働いている。 今回の任務は、豪華客船で行われる密売の現場を探ることだった。 その任務の途中、俺は第三継王家の王女『メリーナ・サンダーブロンド』と出会うことになる。 メリーナ王女は婚約しようとしていたのだが、俺の軽はずみな行動が彼女の運命を変えてしまった。 その後、なんやかんやあり、俺はメリーナ王女に惚れられることに……。 こんなことは、エージェントとしては絶対にあってはならないことだ。 というわけで、俺はメリーナ王女と別れ、二度と会わないよう工作をした。 それなのに、まさか再び出会うハメになるなんて……。 しかも次の任務は、メリーナを大帝王に即位させることだって!? ――これは最強のエージェントが、乙女の恋心に翻弄されながら、過去最難関のミッションに挑む物語である。 ※『ノベルアップ+』、『ネオページ』にも投稿してます。 ※『小説家になろう』『カクヨム』に投稿し、一度完結済みとなった作品です。

処理中です...