異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス

第33話 ちょっといいか?その一言からすべてが始まった――

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朝の光が木々の隙間から差し込み、村に一日の始まりを告げていた。
ルノアは小屋の中で寝床に寝そべりながら、今日も変わらぬ日常が続くと思っていた。

――その時。

「ちょっといいか?」

外から聞こえてきた、低く静かな声。
アマトだった。

心臓が一拍、跳ねる。

(な、なんでアマト様が……!?)

胸の奥が急にそわそわしてきて、一瞬の焦りが湧いた。

「ちょ、ちょっと、待ってて!」

寝床から跳ね起きると、鏡代わりの金属板に向かってぼさぼさの髪を結び直す。
ポニーテール。いつもなら適当に束ねるだけだったが――今は、手を抜きたくなかった。

丁寧に髪をまとめて、手に取った金属板で、髪の毛全体を見まわす。

(……よしっ)

そうしてから、ようやく扉を開けた。

「ど、どうぞ……」

アマトは相変わらず淡々とした顔で、小屋の中に一歩入ってくる。
そして、唐突に言う。

「ちょっと試したいことがあるんだが、付き合ってくれるか?」

ルノアが、意外な言葉に反応する。

「えっ?」

「お前に、俺のスキルを渡したいんだが……いや、か?」

その言葉に、ルノアは一瞬、息を止めた。

「……オレ、に……?」

思わず“オレ”が出そうになって、慌てて咳払い。

「……あ、あたしに……?」

頬が熱くなるのを隠せず、視線を泳がせる。
けれど、すぐにほころぶ笑み――それは、抑えきれない喜びの証だった。

「うれしい……! ほんとに、アマト様……!」

だが。

「ミィナにも一つ渡しててな。同時に複数の者にスキルを渡せるかを試したいんだが」

アマトの何気ないその一言が、ルノアの胸に小さな棘を刺す。

「……そっか。ミィナにも」

少しだけ笑顔が翳る。ほんの一瞬の、静かな沈黙。
だが、彼女はすぐに顔を上げた。

「でも、それでもうれしいよ。アマト様が、"あたし"を……頼ってくれたってことだもん」

その声には、まっすぐな喜びが宿っていた。

アマトは優しく微笑み、右手をそっと差し出した。
その掌に、淡い光が宿っている。

「手を出してくれ」

ルノアは一瞬、指先を見つめたまま動けずにいた。

(……アマト様の手……)

何でもないふりをしているけど、胸の鼓動が止まらない。
それでも、自分から一歩、踏み出さなきゃと思った。

「……うん」

震えそうになる手を、ぐっと堪えて、ルノアはそっとアマトの手に触れた。

「”貸与”」

アマトがつぶやく。

その瞬間、ふわりと温かい何かが、指先から全身に流れ込んでくる。

「……あっ……!」

胸の奥がじんわりと熱くなる。
魔素。しかし、それだけじゃない。
アマトの力が、想いが、自分の中に染みこんでくるような――そんな感覚。

ルノアは、ぎゅっと目を閉じた。

「ありがとう……アマト様……」

アマトは何も言わず、ただ静かに手を離した。
そして、わずかに頷いたその顔は、どこか穏やかだった。

そのとき――。

「まっ、まったくお前ってやつはっ!なんでノーマルスキルの限界を超えていきやがるっ!……ああもう、わけがわからん……!」

精神の奥から、ゼルヴァスの叫び声が響いた。
まるで天地がひっくり返ったかのような調子で。


――昨日、ミィナにスキルを渡した直後のこと


アマトの精神空間――カオスの回廊へと繋がる場所に、相変わらず大の字で引っかかっている男、ゼルヴァスの姿があった。

「……ふむ。貸与、成功したか」

「よかったね。アマトちゃん!」

ティアマトが喜んで続く。

「ああ。思ったより、すんなりいったな」

「ミィナという器が適していたのだろう。相性というものもある」

ゼルヴァスの声は淡々としていたが、どこか満足気でもあった。

そして、アマトは、ためらうことなく次を告げた。

「俺は決めた。ルノアにもスキルを渡すつもりだ。“雷矢”を……」

わずかに間を置いて、ゼルヴァスが答える。

「わかった。あの娘もまた、適性はあるだろう」

だが、その声には一つの“前置き”が添えられていた。

「だが、言い忘れたが、ノーマルスキルの“貸与”は一度に一人だけだ」

「……一人だけ?」

「ああ。他者に渡したければ、既に貸与している者からの解除が必要だ」

アマトは目を細め、静かに確認する。

「解除ってのは……自分で戻すのか?」

「そうだ。“貸与”状態を解除しなければ、新たな“貸与”は成立しない。なにせ、ノーマルスキルだからな。他のノーマルスキルもだいたいそんなものだ」

「……なるほど」

アマトは一度、頷いた。

しかし、アマトは腑に落ちない面持ちだった。

そして、ゼルヴァスがさらに付け加えた。

「そうだ。スキルを与えただけだとあの者たちだけではまだ能力を出し切れない。魔素がまだ足りないからだ。そこで、お前があの娘どもに魔素を供給できるようにしろ。ミィナ、ルノア、そして、エメルダにだ。すぐにはできんだろうから、また特訓だな。俺様が教えてやる!」

(またかよ……)

アマトは、げんなりした気持ちとなった。


***


空は高く、陽はすでに天頂へと近づいていた。
開けた草地の上、アマトの前に、ミィナ、ルノア、エメルダがそれぞれの胸に複雑な想いを秘めながら静かに立っていた。

「……今日は、俺からの魔素供給の訓練をやる」

アマトの低い声が、場の空気を引き締めた。

ミィナがすっと背筋を伸ばし、穏やかな瞳でアマトを見つめる。

「はい。よろしくお願いします、アマト様」

ルノアも少し緊張しながらも、元気な声で応じた。

「アタシも、やるよ! アマト様。こういうの、ちゃんと練習しとかないと、だよねっ」

その横で、エメルダは僅かに唇を尖らせ、指をもじもじしながら、小声でぶつぶつと呟いていた。

「……なんで俺は、魔素の供給だけなんだ……。ミィナもルノアもスキルもらってるのに……。俺も欲しかったのに……、ブツブツブツ……」

――エメルダ回想

「エメルダ。ちょっといいか?」

その一言に、心臓が止まった。
……え? なに? 今、俺、呼ばれた!?

(つ、ついに来たーっ!!告白タイムぅーー!!!)

心の中で絶叫し、顔は真っ赤に燃え上がる。
何度も何度も夢見たシチュエーションが、ついに現実に!?

「は、はいっ!!」

と声が裏返りながらも、全力の笑顔を作る。

そして――アマトの口から放たれたのは、まさかの一言。

「お前と、俺の魔素供給訓練をしたいんだが」

一瞬、言葉の意味が理解できず、脳内にハテナが乱舞した。
しかし次の瞬間、理解が追いつき、頭の中で盛大な打ち上げ花火が炸裂した。

(きゃあああああああああああっ!!!!)
(アマト様と俺が! ついに二人きりで! しかも密着して魔素供給!? もう死んでもいいっ!!! いや、むしろ今死んだ方がいいのではっ!??)

と暴走し、本当に昇天しかけたその時……

「ミィナとルノアにはスキルを与えたから、あいつらも一緒に魔素の供給に付き合ってもらうことになっている」

とアマトが悪ぶれもなくつぶやく。

(んっ?……んっ!?…………チーン!?)

哀れ、エメルダ……
昇天しかけた意識ごと地の底へ叩き落とされ、精神的に逝ってしまった……。

――エメルダ回想終わり


エメルダが、

「はぁ……」

と深いため息をして、肩を落とす。

「エメルダはやらないのか?」

アマトの無表情な問いかけに、エメルダはびくっと肩を震わせた。
そして反射的に背筋を伸ばし、顔を真っ赤にしながら、なぜか大仰な敬礼をした。

「い、いえっ! 俺も”行く”でありますっ!」

意味不明な返事とともに、ピーンと伸びた右手がプルプルと震えている。

その様子に、ルノアが吹き出し、ミィナも口元に小さな笑みを浮かべた。
アマトは特に何も言わず、小さく目を閉じると、短く言った。

「じゃあ、始めるぞ」

そして、魔素供給の訓練がはじまった。
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