異世界ラグナロク 〜妹を探したいだけの神災級の俺、上位スキル使用禁止でも気づいたら世界を蹂躙してたっぽい〜

Tri-TON

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第三章 咆哮の誇り ※序盤、シリアス、途中、切ない系、終盤、怒涛のカタルシス

第34話 ルダル、迷いの果てに

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診療室の一室。
窓際に立つルダルの姿が、外から差し込む穏やかな陽光に包まれ、床に淡い影を落としていた。

窓の外では、風に揺れる木々の葉がさやさやと音を立てている。
遠くで子どもたちの笑い声が微かに響き、村の穏やかな日常が広がっている――
だが、その穏やかさが、今のルダルには胸を締めつけるように響いていた。
胸にあるのは、重たい後悔、そして呑み込まれそうな無力感だった。

(私はあのとき、何もできなかった)

魔獣の咆哮、吹き飛ばされた衝撃。
思い出すたび、胸の奥が重たく沈み、息が浅くなる。
それに抗うように拳を握り締める。

だが、その力は微かに震え、指先に込めたはずの力が、どこかで抜け落ちていく感覚。
そして――体が癒えるまでの時間が、半ばあきらめの境地へといざなおうとする。

(今の私が戻ったところで、何ができる?それに、いまさら戻っても……もう、すべてが終わってしまっている)

しかし、その奥で、小さな何か――
そう、かすかな棘のようなものが、微かに疼いた。

(……いや、違う)

胸の奥に渦巻くのは、消えかけた火種のような悔しさだった。
無力を思い知るほどに、過去の自分を責めるほどに、それでも抑えきれずに湧き上がってくる想い。

(せめて、昔の魔素量が私にあれば、あの程度の魔獣に……)

そして――。
もう一つの疑念が、頭の奥で重く渦を巻いていた。

(ポタ村では、フィリアは平和と恩恵の象徴だと言われている。しかし、私が育ったガルテラ村の”災厄のフィリア伝承”は真逆だった)

ルダルは眉を寄せ、窓の外を睨むように見つめた。

(……だとすれば、あいつは何だ?)

あの男――アマト。

(ゼルミスが、言っていたな……)


――回想:診療室をミィナが駆け出して行った後の静かな時間


「ところで、お主、この村の者たちの魔素力をどう思っておる」

ゼルミスが、湯呑をすすりながら、穏やかに語りかけてきた。
その声は低く落ち着き、だがどこか真相を問いかけるような響きを帯びていた。

ルダルはわずかに眉をひそめ、そして言葉を絞り出した。

「……あのゴブリン族の女。確か、エメルダだったか……間違いなく、今の私のはるか上をいく力だ」

その声には、信じがたいものを目にした者特有の、かすかな震えが混じっていた。

「傷ついていたとはいえ、あのときの私は、本能的な力で動いていた。それをあの娘は、いとも簡単に沈めた」

ゼルミスが、湯呑を片手に話す。

「エメルダは、ついこの間までは、ただのゴブリンであったよ。確かに、ゴブリンの中では強かったがな……。だが、アマト様に出会い、この村に来て、あの娘は、ものすごい成長を遂げたのじゃ」

ルダルが顔をわずかに上げると、ゼルミスはさらに続けた。

「先ほどの聖泉、あれは実は温泉でのぉ。いまでは村の憩いの場となっておるが、その聖泉につかるにつれて、みるみるうちに村の者たちが変わっていったのじゃ」

ゼルミスは目を細め、諭すように言った。

「それもこれも、アマト様のお力のおかげじゃ。お主が“異世界人”とさげすむお方だがな」

ルダルが息を呑む。

そして、ルダルは噛みしめるように言う。

「いや、しかし、災厄のフィリア伝承では、”異世界人が現れるとき、魔獣が現れる”と伝えられている。事実、私は、異世界人たちとの戦いで、やつらが魔獣を手なずけているのを見た。だから伝承は事実なはずだ」

その言葉に、ゼルミスは穏やかな口調で言う。

「言っておらんかったが、アマト様は、これまでに二度も魔獣の襲来から、この村を救ってくださっておる」

「……なんだと!?」

ルダルの声が震える。
ゼルミスは一呼吸置き、淡々と告げた。

「わしは、目にはしておらぬがな。いずれも、たった一撃――小石の一投で終わらせたと聞いておる」

その声音には、静かな確信と重みが宿っていた。

「それは、伝説ではなく、間違いなく、今、起こっている事実じゃよ」


――回想終わり。


(小石の一投で、二度も魔獣を……)

ゼルミスの言葉が、脳裏に何度も響いては消える。

(本当に、あの男は、災厄なのか?それとも……)

過去の信念と、目の前の現実が、激しくせめぎ合う。
だが、その中で、確かに一つの想いが頭をもたげた。

「私も、あいつに会って、確かめなければならないな……」

低く、だがはっきりと呟かれた言葉は、まるで誓いのように、診療室の静けさの中に染みわたっていた。


***


昼過ぎ、草地の上で、アマトの前に、ミィナ、ルノア、エメルダの三人の娘たちが並んでいた。

「……いくぞ」

アマトが短く告げた。
その掌がゆっくりと持ち上がり、薄い光の粒が溢れるように広がっていく。

そして、魔素が解き放たれた――。

瞬間、空気が震えた。
まるで空間そのものが熱を帯び、鼓動を打ちはじめたような、濃密な魔素の奔流。

「っ……!」

ミィナの肩がかすかに揺れ、頬が淡く染まった。
静かに目を閉じ、震える唇をそっと引き結ぶ。
耐える姿勢は崩さずとも、細い指先が微かに震え、胸の鼓動が激しくなっていた。

「な、なにこれっ、すご……!っ、あ、アマト様の魔素が……オレの体の中にっ……!……もう、ダメっ……」

ルノアは最初の驚きを飲み込みきれず、顔を紅潮させ、腰を引きながら膝を折り、地面に手をついた。
脚が小刻みに動き、息を切らしながら、肩で必死に呼吸を繰り返す。

「お、俺は……これごときで……ひざはつか……っ、あ、ああ……あっ……あんっ……!」

エメルダは歯を食いしばり、顔を真っ赤にしながらも立ち続けようとした。
だが、膝ががくりと崩れ、ついには腰が抜けてその場に座り込んでしまう。

その光景に――精神空間で、ゼルヴァスが叫ぶ。

『バカヤロ―!魔素量が多すぎて、こいつら、気持ちよさで昇天しちまうぞ!調整しろ、アマト!』

アマトは眉をわずかに寄せ、呼吸を一度整えると、低く呟いた。

「……すまん。力を落とす」

魔素の流れが少しずつ弱まり、空気がゆっくりと和らいでいく。
しかし、三人の娘たちはなおも肩を上下させ、息を整えるのに必死だった。

「……アマト様……、これ……なかなか……」

ミィナが息を整えながら、かすかに笑みを浮かべた。

ルノアは肩を震わせながらも、満足げな笑みを見せる。

「……くそっ、俺だって……」

エメルダは悔しげに顔を背けるが、その耳まで赤く染まっているのを、誰もが気づいていた。

こうして、魔素供給の訓練は繰り返され、三人は少しずつ、その強大な力に体を慣らしていった。

夕暮れが深まり、遠くの空が星を散らしはじめる頃、三人の娘たちはようやく、静かに肩で息を吐きながらも、立っていられるようになっていた――
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