近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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王都ヴァルリン

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 はてさて、極めてどうでも良い兄弟喧嘩が終わり、全く休めない二週間の休暇も終わり。
 俺は名残惜しくも、書類の山が山積する我が駐屯地に戻ることになってしまった。

「……任命式?」
「ハッ、改めて王都に凱旋し、子爵位を賜うことになっております。その際に、王国の英雄である魔法使い旅団にも同様に勲章を授与することになっており……」
 
 王都からやってきた伝令を前に、俺は内心でうげぇと表情を歪めることになる。
 名目上は《ポラーブ戦の戦勝に対する授与式》ということになっている。何せ、わずか1回の戦で国を滅ぼしたのだ。それも、形骸化していたとはいえ、図体だけは神聖グロウス帝国並みにあった大国である。
 リヴォニア、ラトニエンを手に入れたヴァロイセン王国は現地の諸侯の統廃合を進め、結果としてヴァロイセン化を断行する腹積もりでいた。行政へのライヒ語の導入や、商人や貴族のライヒ化などを行い、現地を徹底的にライヒ化するのは東方植民時代から続けられた、ライヒの天明である故に。

 民族意識があるリヴォニア人はともかくとして、ラトニエン人は比較的ライヒ的教育を行いやすいだろう。リヴォニア人にも、最低限第二言語をライヒ語にしてもらわないと困るわけだ。

 腐敗していたポラーブ軍を討伐することは容易だった。
 弱兵と成り下がっていたポラーブ兵を掃討することは容易で、それ相応の戦果を立てた諸侯たちも多く、また同時に手に入れた領地は広大故に、適切な割り振りが必要であり…んまぁ、結果としてそれらの授与式を行うのに半年はかかったというわけである。

 だからこそ、内々の予定で1000エーカーの農地の授与や子爵位の昇進が行われることになっているわけで。

「それに伴い、民族的な決戦であるターネンベルクの戦いに勝利した魔法使い旅団の凱旋が行われる予定となっております」
 うん、でしょうね。だからこそ、俺は部隊の細分化と訓練を続けたわけだ。今は行進に注力しているからこそ、外見だけは立派な部隊になっていることだろう。ヴァロイセン兵らしい同一歩調行進が実現できている。
 しかし、あくまでもガワだけ立派に整えている状態だから、実戦に参加したら、恐らく大変悲惨なことになるだろうが。

「了解した、至急部隊の編制を急ぐことにする」
 行きたくねぇなあという本音を包み隠し、伝令を労うと来賓用の宿舎を割り当てる。これまで馬を駆って急いできた人たちにはまぁできるだけ休んでほしい。

 
「…あまりうれしそうではありませんね」
「当たり前だ。昇進程面倒くさいものはないぞ?成り上がり者だってお偉いさんからは舐められるわ、同輩たちからは成り上がり者だって謗られるんだ」

 同輩に敵視されるという所は、つまりは実家の長男がいい例だ。
 しかも昇進すると王国政治のメンドい部分に触れることになるわ、御上との人付き合いが増えるわ。お金持ちになったり、権力者になっても、好き放題な生活なんてできっこない。結局はメンドくさいものから逃れることは絶対にできないのだ、とても悲しいことに。

「ハァ……頭が痛くなる。とはいえ、欠席したら不敬罪だし。そうじゃなくても顰蹙が凄いことになるし。そうなると貴族じゃ実質死んだようなモンだし…今から隠居しても許されるかな?」
「28のセリフじゃないねぇ…」

 フリードリヒが呆れ、ピウスツキは苦笑する。土地なしユンカーに降格していた彼も祖先を辿っていけばかつてのポラーブ王家の一員であったからこそ、貴族の面倒くささというのが身に染みて理解できるのだろう。

「グラウスの言いたいことは分かる。俺もポラーブ貴族の時よりも今の土地なし貴族の方が生きていきやすい。そりゃ多少侮蔑の目はあるけど、背負ってるもんが少ないと楽なんだよなあ…」
「ピウスツキ、お前もか?俺はそんなこと考えたこともないんだけど…」

 生まれながらの貴族に向いた男、フリードリヒが心底羨ましい。
「はてさて、今日もメンドい勤労に励むとしますか」
「俺の方は騎兵隊の訓練に勤しむ」
「俺は…ちょっと領分外だけど歩兵の行進を教育するよ。これでもグースステップはたっぷり嫌になるくらいに躾けられたからねぇ」

 そして、一ヶ月かけて歩兵たちに改めてグースステップについての教練を重ね、王都凱旋当日。

 王都ヴァルリンは、本当の意味での戦勝パレードに湧いていた。
 露店が立ち並び、国王フリードリッヒ二世の勅令によって、国家的な安息日…要するに祝日とされた日を王都の民は一斉に祝い、エール、ビール、ワインで乾杯していた。
 各地で塗擦された新鮮な家畜の肉が焼かれていて、市民たちは滅多に食べられない御馳走を我先にと奪い合い、祝日だからと教会では聖歌を唱え、この日を厳粛に、宗教的に祝う敬虔な聖教徒もいる。

 しかし、彼らが何故それをするのか?ということに関して、国民にとって目出度い日を祝い、全力で楽しむためという理由は変わりなかった。

「お、来た来た!ターネンベルクに勝った英雄たちの凱旋だ!」
 魔法使い旅団の行軍だ。王都や大都市圏では、差別されてきた魔法使いたちに対して悪感情を抱いている者たちや、彼らを税金の無駄使いだと嘲笑する者たちも多かった…が。活躍した諸将を差し置いて先頭を飾ることだけはあった。
 彼らは急増とはいえ、ちゃんとしたグースステップを披露し、男女混合でも一糸乱れぬ行軍は他の部隊と比べても遜色ない。更に、戦列歩兵特有の華やかな色合いの軍服に身を包んだ女性兵が、他の部隊とは違う華やかさも備えていた。

 何よりも、民衆を沸き立たせるのは……

『英雄、ユンガーに万歳!民族の英雄に万歳!』

 先頭に、かつての国家的大英雄の大王から下賜された馬に跨り、現国王から下賜された将校服に身を包み、そこらの方面軍司令官よりも多くの勲章を胸に飾る…誰が何処から見ても分かる《英雄》の姿だった。
 勿論、パレードを盛り上げるための多少のサクラもいるだろうが、それでもユンガーの姿は目立っていたし、民衆は一斉に歓呼していた。
 まずは、容姿が良いことがあげられる。壮年ではないからこそ、貴族政治で有利になる美形を求める貴族たちの風習が濃縮還元された恩恵でそれなりに美形と言えるユンガーは、年齢的にはギリギリ壮年到達前ということもあって《映える》のだ。
 おまけに、王から下賜されるだけあって、美しく、毛並みも立派な軍馬に跨っている。更に胸には立派な勲章がちりばめられているのだ。ぶっちゃけると、師団長よりも総合的な見栄えなら上だろう。

 もうなんか《凄い奴が来た!》と一目で分かる上、おまけに戦績は民族の英雄ときた。
 今、パレードを見ている物好きや詩人たちから見れば、遊園地のパレードで主役がやってきたようなものだ。歓呼の声で出迎えるのは当然の話だった。

「見ろよ、あの緩んだ様子もない顔。流石英雄に率いられることもあって、違うんだなぁ」

 更に、自らが新兵出ることを知っているが故に緊張しているからこそだが…行進する旅団兵の顔に一切のゆるみも隙もないからこそ、彼の率いる旅団は《映える》のである。

 そして、次に騎兵が進む。元々ポラーブ人の彼らはヴァロイセン王国軍式のパレードには全く慣れていなかった…が。フリードリヒの必死の教練あって、それらしいモノにすることができていた。
 そして、馬が引っ張る砲兵部隊が続き、それに並んで高名な師団の中で選抜された精鋭たちが行進するわけだ。

 現代では、何時間も続くパレードは、ミリタリーが大好きなオタク以外には退屈極まるモノだろう。
 しかし、テレビ、ラジオすらなく、メディアが新聞くらいしか存在しない中…こういったパレードは市民たちにとっては重要な娯楽であった。
 
 そして、俺たちは王宮前の広場に行進し、国王陛下から有難い御言葉を賜うことになる。
 まぁ、それらは長ったらしいからスキップするとして…周囲が英雄たちの凱旋…そして、それにかこつけて全力で好き勝手出来る時間に湧いている中、めんどくさい祝勝会が開始されることになる。



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