近世ファンタジー世界を戦い抜け!

海原 白夜

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受勲式と未来の勲章

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 さて、祝勝会の前にあるものといったら、王宮で行われる勲章の授与となるだろう。
 何せ、あの合同共和国…かつての列強を一撃で粉砕した稀に見る快挙であり、国土を立憲王国を含めたら、国土を実質倍ににも拡張した大戦果なのだ。王自らが授与する…つまりは七年戦争クラスの大規模になるのは至極当然の話と言えただろう。

 この場の空気の何が嫌かって…マジで身動き1つ許されない厳粛すぎる空気感そのものなんだよなあ。しかも、並んでいるのは師団長とか、形式的にとはいえ総大将を務めた侯爵とか、大貴族ばっかりなのもイヤーな空気感を加速させる。俺なんて騎士爵だぞ?木端ぞ?

 他の貴族たちが次々と表彰され、勲章を胸に着けてもらっている中…ついに俺が呼ばれる番が来た。

《余の騎士、グラウス=リッター=フォン=ユンガーよ。前に》
『ハッ!』

 足音を立てず、静かに、それでいて速やかに国王陛下の眼前に立つ。
 金銀財宝に飾られ、装飾された部屋とシャンデリアの明かりが眩しいが、目を細めることすら許さない。そんな中、俺は段差もあって俺の高みに坐する国王陛下を見上げる形になっていた。
 …っていうか、余の騎士って何?その《余の騎士、グラウス…》っている?普通に《騎士グラウス…》で良くね?

《騎士グラウスは3倍の敵兵を前に退くことなく、溢れんばかりの勇気と知略、騎士道精神をもって未熟な部下を奮い立て、ライヒ民族とスラヴァ民族の決戦たるターネンベルクの戦いにて赫赫たる戦果と勝利をおさめ、かつてのライヒ騎士団の雪辱を注いだ。
 また、ポラーブ一般ラント法典の制定に関しても深いかかわりを見せており、戦場では獅子奮迅の如く奮闘し、平穏なる時は民や国のことを慮る、まさに騎士道を体現した類稀なる知性を示し、七年戦争のように褒賞を民のためにと辞退する徳の深さも持ち合わせている》

 ……んん?あれあれ?なんか俺に対する褒賞の言葉が滅茶苦茶長いんだが?他の貴族たちの倍近く長いんだが?
 
《それ故に、余は騎士グラウス=リッター=フォン=グラウスに異例ではあるが、新たに余の恩寵が届く地になったリヴォニア領、カーナスシュタットと呼ばれていた地を中心に、新たにヴァルト子爵領を創設し、それを封じる。子爵領の統治を余に変わって任せたい。
 これからは、騎士にして子爵、グラウス=フォン=リッター=ヴァルト=ユンガーと名乗りたまえ》
 
 うん、ここまでは事前に王直属の人から聞いた台本通りだ。なんか聞いている台本と違って3倍くらい長いけど、内容自体は俺の知っていることと全く同じである。
 …周りの貴族から浴びせられる驚愕、感心、尊敬、嫉妬、憎悪等のバリエーション豊かな目線を除いて。

《確かに騎士爵から子爵へは異例で、しかしてその成果に釣り合う褒賞であるのは間違いない。しかし、これだけしても不十分であると余は思うのだ。余はこの場に列している貴族諸君に問いかけたい。この民族的英雄であり、素晴らしい騎士に相応しい褒賞とは何であろうか?》

 王フリードリッヒ二世からの問いかけに、玉座の間に集っている貴族たちが揺れ動く。
 これまで国王から一切目をそらしていなかった彼らが、始めて他の貴族に目をやったり、本来なら不敬であろうがヒソヒソ話をするくらいには。
 なお、当然王の御前にいる俺には目線をどっかにやる権利も、1ミリも姿勢を動かす権利も、微かなうめき声でも漏らす権利は存在しないわけで。台本から外れて、変なことを宣っている国王陛下に心の中で抗議しまくっていた。

「国王陛下、発言よろしいでしょうか」
《テンペルホフ、発言を許す》

 ……ファッ!?一瞬、体がピクリと動いた。テンペルホフは二世代後にはルーデンドルフ家を生み出すことになる…つまりは、総力戦を提唱し、実践し、ルーデンドルフ独裁を築いた《エーリヒ=フォン=ルーデンドルフ》を生むことになる家なのだ。

 緊張と衝撃の余り、俺はテンペルホフがどのような意見を具申したのか…それを聞く余裕は一切なかった。

《成る程、王国に尽くした騎士には、これまでの勲章よりも高位の勲章が必要であると…余も同じことを思っていたのだ。そのため、勝手ではあるが、新たなる勲章を作った。余はこれを騎士にして、子爵グラウス=リッター=フォン=グラウスに授与したいと考えている》

 成る程といった声にならない溜息が、玉座の間で僅かに漏れた。
 実を言うと、騎士グラウスには授けられる勲章は授け切ってしまったのである。
 まず、ケルニヒス防衛に参加し、生き残ったことで勲章1つ。
 次にポラーブ軍の日誌から一個増強中隊の兵力で、ヴァルリンの国王軍まで馳せ判じたことで勲章2つ。
 戦後だが、ポラーブ軍の日誌、報告書では、1個増強中隊で敵軍の陣中を突破している中、合計で大隊規模の兵力を撃破していることが発覚し勲章3つ。
 ヴェルーシ帝国軍参戦直後、王都ヴァルリン付近で実施した大反撃でポラーブ兵を血祭りにあげたことで勲章4つ、返す刀でブランタリア王国軍、神聖グロウス帝国軍連合軍と衝突したシュヴァルトニッツ包囲戦でも武勲をあげて5つ。その際に高級将校を討ち取っており、勲章6つ。
 ついでに予言その他諸々の献策を考慮すれば、更に勲章に値する戦果がポンポン湧いてくるのが七年戦争での彼の働きであった。

 この時点で大王フリードリッヒはあらゆる方策を用いて、既存の勲章を与えまくる例外を用いて、なんとか彼に報いたわけである。何せ、これまで《たかが中隊長》が《騎士爵》に任じられたことですら異常事態であったのだ。
 これで新しい勲章まで作っては、貴族たちの反発によって人口の10%を失ったヴァロイセン王国の内政に混乱が生じかねない。

 これで止まってくれたらそれで良かったのだが…よりにもよって、ポラーブとの戦いで彼は一級品の戦果を挙げてしまい、さらに政治的配慮のせいでもあったが、彼の戦果はそこらの戦いの数倍上で、民族的英雄だと喧伝されまくってしまった。
 それを知ったフリードリッヒ二世も苦悩した。もう彼に与える勲章がないのである。そのため、フリードリッヒ2世は某チョビ髭伍長がルーデル閣下1人1個師団の戦力に対して新しい勲章を作ったように、新しい勲章を作る羽目になってしまったのだ。

《余は騎士にして、子爵であるグラウス=リッター=フォン=ヴァルト=ユンガーに、
黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章Ritterkreuz des Eisernen Kreuzes mit goldenem Eichenlaub, Schwertern und Brillanten』を授与する。この勲章に恥じぬ働きを期待する》
「ハッ、国王陛下の御期待に応えるべく、これよりもいっそう励んでまいります」

 言葉少なく答えると、俺は過呼吸になりそうな肺と喉を懸命に抑えながら、身動きせずに勲章が飾られるのを見守り、そして静かに後ろに下がる。
 後に《ライヒ帝国の建国以来12人の英雄に下賜される勲章》であり、創生歴2025年になっても《受勲者が5人しかいねぇ》と揶揄されることになる勲章が誕生し、史上初の受勲者として飾られた瞬間であった。

———
——


「用語解説」

《黄金柏葉剣ダイヤモンド付騎士鉄十字勲章》
 地球世界ではルーデル閣下に初贈呈される予定の勲章がバタフライエフェクトによって誕生しちゃった☆
 なお、受勲選定に選ばれる者でさえ『ユンガー基準』に侵されてしまっているため、この世界の受勲者たちは赤い男爵リヒトホーフェンとか、1個師団のスツーカ大佐ハンス=ウルリッヒ=ルーデルとか、小隊で大都市堕とす奴フリッツ=クリンゲンベルクとか、1個師団でアフリカを渡り歩いた怪物パウル=フォン=レットウ=フォルベックになる。
 2025年の現代・・ライヒ帝国ではこの勲章の受勲者は襲名貴族に昇進し、貴族は称号がワンランク上がるという、桁が違う栄誉を賜ることになる。
 なお、秋津洲皇国の民たちからは《円卓騎士モチーフなのに肝心の騎士が300年近く経っても半分も埋まってないんですがそれは》や《人外証明勲章》《チーターの集まり》《こいつらだけで国を堕とせそう》などと、勲章や受勲者たちを揶揄しているらしい。

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