聖女を追放した国が滅びかけ、今さら戻ってこいは遅い

タマ マコト

文字の大きさ
4 / 20

第4話 公開断罪と婚約破棄

しおりを挟む


 その日は、朝から空気がおかしかった。

 聖堂に迎えに来た侍女は、いつもより口数が少ない。
 化粧を施す手も、わずかに震えていた。

「……リディア様。本日、王城で“聖女に関する重大な発表”があると伺っております」

 髪に櫛を通しながら、侍女が慎重に言葉を選ぶように告げる。

「重大な、発表……?」

「はい。陛下直々のご宣言だとか。
 ご出席は必須だと、殿下の侍従から……」

 鏡の中で、わたしの顔が強張る。

 ――重大な発表。
 嫌でも、先日の会議を思い出す。

『聖女の交代だ』

 あの言葉が、頭の奥で何度もリフレインする。
 記録を見に行ったときの冷たい羊皮紙の感触も、まだ手に残っていた。

(まさか、本当に……)

「リディア様」

 侍女が、そっと声をかける。

「お顔が、少し……」

「あ、ごめんね。大丈夫。ちょっと寝不足なだけ」

 自分で言って、自分で苦笑する。
 この数日、まともに眠れていないのは事実だった。

 瞼の裏には、書き換えられた記録、信じてくれない声、“意味がない”と言われた祈りが、ぐちゃぐちゃに混ざって貼りついている。

「それでも、綺麗ですよ。……聖女様ですから」

 侍女の言葉に、胸がちくりと痛む。

 ――“聖女様”。
 その呼び名が、まるで役に立たない飾りに思えてしまう自分が、嫌だった。



 大広間は、いつも以上に華やかだった。

 天井から吊るされたシャンデリアには、無数のクリスタルが光を反射してきらめいている。
 長い赤い絨毯の両側には、ぎっしりと貴族たちが並んでいた。
 色とりどりのドレスと礼服、香水の匂い。ざわめきが波のように行き来している。

「本当に聖女の件かしら」「交代だって話も」「いや、ただの噂に決まっている」

 断片的な言葉が耳に飛び込んでくる。
 全部が、自分のことを話しているようで、気分が悪くなりそうだった。

「聖女リディア様、ご入場――」

 侍従の声が響く。
 全員の視線が一斉にこちらを向いた。

(逃げたい)

 一瞬だけ、心臓が本気でそう叫んだ。
 この場から消えてしまいたい。
 誰にも見られたくない。
 全部見なかったことにして、聖堂の片隅でただ祈っていたい。

 でも、足は止まってくれない。
 慣れたはずの聖女の正装――白と銀の衣は、今日はひどく重く感じた。

 絨毯を進みながら、王の座する玉座を見る。
 その隣には、ユリウス。
 そして――その少し斜め後ろに、一歩下がるようにして立つエリシアの姿。

 淡い水色のドレス。儚げな雰囲気をまとい、視線を伏せている。
 けれど、時折上に向ける睫毛の影が、計算された角度で光を掬っていた。

(……本当に、上手いな)

 こんなときでも、そんなことを考えてしまう自分が情けない。

 定位置まで進み出て、深く一礼する。

「聖女リディア、参上いたしました」

 声は震えていない。
 まだ、大丈夫。



「本日、諸君を集めたのは――聖女に関する重大な事柄を告げるためである」

 王の声は、いつも以上に重々しかった。

 ざわめきが、すっと引いていく。
 広間中に静寂が落ちる。

「ここ数ヶ月、我がアルシェルド王国は、かつてないほどの困難に直面している。
 辺境での魔物被害の増加、作物の不作、疫病の蔓延……」

 読み上げられていく“問題”は、聞き馴染みのあるものだった。
 そのたびにわたしは、祈り、力を使い、できる限りを尽くしてきた。

「そして、聖堂および各地からの報告によれば――」

 そこで、王はわずかに目を閉じた。
 劇場の役者みたいな間の取り方だった。

「聖女リディアの力は弱まり、この国を支えるには不十分である、とのことだ」

 広間が揺れた。

「やはり……」「噂は本当だったのか」「そんな……」

 貴族たちのざわめきが、一気に膨れ上がる。

 ――聞いていた。
 “加護が弱まっている”と言われ続けてきた。
 報告書がそう書いているのも知った。
 けれど、“王の口から正式に宣言される”ということの重さは、想像していた以上だった。

 胃のあたりがきゅっと掴まれる。
 足の裏から、体温が抜けていく。

「陛下」

 耐えきれず、わたしは一歩前に出た。

「申し上げたいことがあります」

 王の視線が、重くのしかかる。

「……申せ」

「報告書の一部には、明らかな矛盾があります。
 わたしが確かに癒した兵士が、“死亡”と記されている例も――」

「記録の正当性については、既に調査済みだ」

 王の言葉が、ぴしゃりとわたしの声を切り裂く。

「聖堂の神官長、前線の隊長、文官たち――複数の証言が一致している。
 一人の記憶違いよりも、多数の記録が重んじられるのは当然のことだ」

「記憶違い……」

 自分の口の中で言葉が転がる。

 ――わたしの見たものは、全部“勘違い”にされた。

 喉がひりついた。
 言い返したい言葉はいっぱいあったのに、どれも声になる前に崩れていく。

「聖女リディア」

 ユリウスの声が響く。

 彼は一歩前に出て、わたしの正面に立った。
 紫の瞳は、冷えた湖みたいに静かだった。

「君は自らの力についてどう考えている」

 唐突な問い。
 でも、きっと答えは決まっているのだろう。

「……以前より負担は増えています。
 魔物も強くなっているし、祈りの回数も増えて……
 それでも、わたしは――今も全力で」

「“全力で”という言葉は、何度も聞いた」

 ユリウスは淡々と言う。

「だが、結果として“救えなかった命”が増えているのも事実だ」

 “結果”。
 先日の会議でも聞かされた、その言葉。

「国を導く立場として、“事実”から目を背けることはできない。
 君がどれだけ自分では全力だと言おうと、国全体から見れば“足りていない”」

 それは、“君の努力は評価しない”という宣告だった。

 胸の奥がじわりと熱くなる。
 悔しい。悲しい。
 でも、その感情を表に出した瞬間、きっと“感情的な聖女”という新しいレッテルを貼られる。

「だからこそ――」

 ユリウスはゆっくりと振り返り、広間を見渡した。

「我々は決断しなければならない。
 この国を守るために、最もふさわしい形を」

(ああ、来る)

 心のどこかで覚悟していた言葉が、もうすぐ形になる。

「聖女リディア」

 もう一度名前を呼ばれる。
 逃げられないよう、言葉で打ち込まれていく杭みたいだった。

「君は聖女としての責務を果たせなかった。
 よって、聖女の称号を剥奪し――」

 その瞬間、喉の奥がきゅっと締まる。
 “剥奪”という言葉が、耳から脳まで一気に染み込んでいく。

 それは、わたしの存在理由を無理やり剥ぎ取る宣告だった。

「王太子妃としての婚約も――ここで破棄する」

 時間が、止まった。

 音が消える。
 視界が少しだけ遠くなる。
 世界がガラス越しに見えるみたいに、薄くなる。

 ざわめきが遅れて押し寄せる。

「やはり……」「婚約まで……」「そこまで……」

 二重三重の衝撃に、足がふらついた。

(聖女……だけじゃなくて)

(ユリウスとの婚約まで)

「……理由を、伺ってもよろしいでしょうか」

 自分でも驚くほど、声は整っていた。

 ユリウスはわずかに視線を伏せ、それから淡々と答える。

「王太子妃は、国の象徴だ。
 民を導き、支え、安心を与える存在でなければならない」

 それは、わたしがその条件を満たしていないと言っているのと同じだ。

「今、“聖女の加護が弱まっている”と国中で囁かれている状況で――その聖女を王太子妃として迎えれば、民はどう思う?」

 彼は問いかけるような口調で言ったが、答えを求めてはいなかった。

「不安が広がる。王家の判断に疑念が生まれる。
 だから、君を王太子妃に迎えることは、もはやできない」

 ユリウスは一歩、距離を空けた。

 それは、形だけの距離じゃない。
 心の距離が、はっきりと視覚化された瞬間だった。

「君を嫌いになったわけではない」

 その言葉に、思わず顔を上げる。

 ――今、何て?

「だが、王太子として、国のために最善を選ばなければならない。
 個人の感情より、国の安泰が優先される。
 それが“王になる者”の責務だ」

 それは、“君より国が大事だ”という、あまりにも分かりきった答えだった。

 分かっていた。
 彼は昔から“国のため”を優先する人だった。

 それでも、心のどこかで――本当に小さな、愚かな部分で、わたしは期待していたのだと思う。

 “それでも君を選ぶ”と言ってくれる可能性を。

 その幻想が、今、綺麗に砕かれた。



「あ、あのっ……!」

 張り詰めた空気を裂いたのは、震える高い声だった。

 視線を向けると、エリシアが両手を胸の前でぎゅっと握りしめて立っている。
 大きな碧眼には涙が溜まり、その頬を一筋、透明な雫がつたっていた。

「お、お待ちくださいませ、殿下! わたくしは、そのような……!」

 彼女は必死に首を振る。

「聖女様の称号を奪ってまで、わたくしを……新たな聖女候補などと呼ばれるのは、恐れ多すぎますわ……!」

 “呼ばれていない”ものを、わざわざ自分から口にする。
 それが、どんな意味を持つ言葉なのか、理解した上で。

「誰も、君を責めはしない」

 ユリウスがなだめるように彼女の肩に手を置いた。

「君の敬虔さは、誰よりも知っている。
 君はただ、自分のできることをしてきただけだ。責めを負うのは――」

 そこでほんの一瞬、彼の視線がわたしをかすめる。

「聖女の責務を果たせなかった者だ」

 ――わたし、だ。

「で、ですが……」

 エリシアはさらに涙をこぼし、広間を見渡した。

「皆様も、ご覧になっていましたわよね……?
 わたくし、ただ聖堂で祈っていただけで……聖女様のお役に立てればと、本当にそれだけで……!
 それなのに、わたくしなんかの名前が“新しい聖女”だなんて、勝手にひとり歩きして……」

 “勝手にひとり歩き”させたのは、誰だろう。

 その噂の温度を誰よりも上手く操っていたのは、誰だろう。

 でも、今この場でそれを指摘したところで、誰も信じない。
 泣きながら自分を卑下する少女と、聖女の座から引きずり下ろされようとしている女。
 どちらの言葉に耳を傾けるかなんて、決まっている。

「エリシア殿。そなたに強制するつもりはない」

 王が、穏やかに告げる。

「ただ、国のために祈りを捧げてくれるその心が、我らにはありがたいのだ」

「陛下……」

 エリシアは震えるまぶたを伏せ、深く頭を下げた。

「わたくしにできることがあるのなら……
 聖女様のようには到底なれませんけれど……せめて、その、お隣に立たせていただけるのでしたら……」

 “隣に”。
 それが誰の隣なのか、言うまでもない。

 広間の視線が、ユリウスとエリシアの間に集まる。
 誰かが小さく、「お似合いだ」と呟いた。

 胸の奥で、何かが“バキッ”と音を立てた気がした。



「リディア」

 もう一度、名前を呼ばれる。

 ユリウスの声には、最初よりもわずかな躊躇いが混ざっているような気がした。
 けれど、それが気のせいかどうか確かめる気力は、もう残っていなかった。

「君自身の言葉を、聞かせてくれ」

「……わたしの、言葉」

 何を言えばいいのだろう。

 本音を言えば――

 悔しい。
 怖い。
 全部奪われるのが嫌だ。
 わたしの見てきたもの、救ってきた命、積み重ねてきた祈りを、“無能”の一言で終わらせないでほしい。

 ユリウスにだって、本当は聞きたいことが山ほどある。

「どうして、信じてくれなかったの」
「どうして、わたしより噂や記録を信じるの」
「どうして、婚約を、そんなふうに切り捨てられるの」

 でも、そのどれもが、この場にはふさわしくない感情だ。

 “聖女”は、個人的な感情を最優先にしてはいけない。
 “元王太子妃候補”は、惨めな姿を晒してはいけない。

 それが、この国の“正しさ”なのだと、今さら思い知らされる。

 喉の奥で言葉がぐるぐる回る。
 何かを言おうとしても、空気が通らない。

 静まり返った大広間に、自分の心臓の音だけが響いているような気がした。

 やっとの思いで、唇を開く。

「…………わかりました」

 絞り出した声は、驚くほど小さかった。
 けれど、静まり返った広間にははっきりと届いたはずだ。

 わたしの“了承”。
 全てを諦めた、たったひとつの言葉。

「今まで、聖女としての務めを与えていただけたこと……感謝しております。
 王太子妃としての婚約を結んでいただけたことも、光栄でした」

 口が勝手に、儀礼的な言葉を並べる。
 何度も練習した挨拶文みたいに、滑らかに。

「この先、わたしがこの国にとって害になるようでしたら……どうか、遠慮なく切り捨ててください」

 そこまで言って、息を吸う。

(ああ、わたし、今――)

 ようやく、はっきりと自覚する。

(自分で、自分を“捨てていい存在”だって認めたんだ)

 王も、ユリウスも、エリシアも、貴族たちも。
 誰も「そんなことはない」とは言わなかった。

 その沈黙が、答えだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

【完結】断罪された悪役令嬢は、本気で生きることにした

きゅちゃん
ファンタジー
帝国随一の名門、ロゼンクロイツ家の令嬢ベルティア・フォン・ロゼンクロイツは、突如として公の場で婚約者であるクレイン王太子から一方的に婚約破棄を宣告される。その理由は、彼女が平民出身の少女エリーゼをいじめていたという濡れ衣。真実はエリーゼこそが王太子の心を奪うために画策した罠だったにも関わらず、ベルティアは悪役令嬢として断罪され、社交界からの追放と学院退学の処分を受ける。 全てを失ったベルティアだが、彼女は諦めない。これまで家の期待に応えるため「完璧な令嬢」として生きてきた彼女だが、今度は自分自身のために生きると決意する。軍事貴族の嫡男ヴァルター・フォン・クリムゾンをはじめとする協力者たちと共に、彼女は自らの名誉回復と真実の解明に挑む。 その過程で、ベルティアは王太子の裏の顔や、エリーゼの正体、そして帝国に忍び寄る陰謀に気づいていく。かつては社交界のスキルだけを磨いてきた彼女だが、今度は魔法や剣術など実戦的な力も身につけながら、自らの道を切り開いていく。 失われた名誉、隠された真実、そして予期せぬ恋。断罪された「悪役令嬢」が、自分の物語を自らの手で紡いでいく、爽快復讐ファンタジー。

本物の聖女じゃないと追放されたので、隣国で竜の巫女をします。私は聖女の上位存在、神巫だったようですがそちらは大丈夫ですか?

今川幸乃
ファンタジー
ネクスタ王国の聖女だったシンシアは突然、バルク王子に「お前は本物の聖女じゃない」と言われ追放されてしまう。 バルクはアリエラという聖女の加護を受けた女を聖女にしたが、シンシアの加護である神巫(かんなぎ)は聖女の上位存在であった。 追放されたシンシアはたまたま隣国エルドラン王国で竜の巫女を探していたハリス王子にその力を見抜かれ、巫女候補として招かれる。そこでシンシアは神巫の力は神や竜など人外の存在の意志をほぼ全て理解するという恐るべきものだということを知るのだった。 シンシアがいなくなったバルクはアリエラとやりたい放題するが、すぐに神の怒りに触れてしまう。

『「毒草師」と追放された私、実は本当の「浄化の聖女」でした。瘴気の森を開拓して、モフモフのコハクと魔王様と幸せになります。』

とびぃ
ファンタジー
【全体的に修正しました】 アステル王国の伯爵令嬢にして王宮園芸師のエリアーナは、「植物の声を聴く」特別な力で、聖女レティシアの「浄化」の儀式を影から支える重要な役割を担っていた。しかし、その力と才能を妬んだ偽りの聖女レティシアと、彼女に盲信する愚かな王太子殿下によって、エリアーナは「聖女を不快にさせた罪」という理不尽極まりない罪状と「毒草師」の汚名を着せられ、生きては戻れぬ死の地──瘴気の森へと追放されてしまう。 聖域の発見と運命の出会い 絶望の淵で、エリアーナは自らの「植物の力を引き出す」力が、瘴気を無効化する「聖なる盾」となることに気づく。森の中で清浄な小川を見つけ、そこで自らの力と知識を惜しみなく使い、泥だらけの作業着のまま、生きるための小さな「聖域」を作り上げていく。そして、運命はエリアーナに最愛の家族を与える。瘴気の澱みで力尽きていた伝説の聖獣カーバンクルを、彼女の浄化の力と薬草師の知識で救出。エリアーナは、そのモフモフな聖獣にコハクと名付け、最強の相棒を得る。 魔王の渇望、そして求婚へ 最高のざまぁと、深い愛と、モフモフな癒やしが詰まった、大逆転ロマンスファンタジー、堂々開幕!

【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!

つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。 冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。 全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。 巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。

追放聖女ですが、辺境で愛されすぎて国ごと救ってしまいました』

鍛高譚
恋愛
婚約者である王太子から 「お前の力は不安定で使えない」と切り捨てられ、 聖女アニスは王都から追放された。 行き場を失った彼女を迎えたのは、 寡黙で誠実な辺境伯レオニール。 「ここでは、君の意思が最優先だ」 その一言に救われ、 アニスは初めて“自分のために生きる”日々を知っていく。 ──だがその頃、王都では魔力が暴走し、魔物が溢れ出す最悪の事態に。 「アニスさえ戻れば国は救われる!」 手のひらを返した王太子と新聖女リリィは土下座で懇願するが…… 「私はあなたがたの所有物ではありません」 アニスは冷静に突き放し、 自らの意思で国を救うために立ち上がる。 そして儀式の中で“真の聖女”として覚醒したアニスは、 暴走する魔力を鎮め、魔物を浄化し、国中に奇跡をもたらす。 暴走の原因を隠蔽していた王太子は失脚。 リリィは国外追放。 民衆はアニスを真の守護者として称える。 しかしアニスが選んだのは―― 王都ではなく、静かで温かい辺境の地。

婚約者を姉に奪われ、婚約破棄されたエリーゼは、王子殿下に国外追放されて捨てられた先は、なんと魔獣がいる森。そこから大逆転するしかない?怒りの

山田 バルス
ファンタジー
王宮の広間は、冷え切った空気に満ちていた。  玉座の前にひとり、少女が|跪い《ひざまず》ていた。  エリーゼ=アルセリア。  目の前に立つのは、王国第一王子、シャルル=レインハルト。 「─エリーゼ=アルセリア。貴様との婚約は、ここに破棄する」 「……なぜ、ですか……?」  声が震える。  彼女の問いに、王子は冷然と答えた。 「貴様が、カリーナ嬢をいじめたからだ」 「そ、そんな……! 私が、姉様を、いじめた……?」 「カリーナ嬢からすべて聞いている。お前は陰湿な手段で彼女を苦しめ、王家の威信をも|貶めた《おとし》さらに、王家に対する謀反を企てているとか」  広間にざわめきが広がる。  ──すべて、仕組まれていたのだ。 「私は、姉様にも王家にも……そんなこと……していません……!」  必死に訴えるエリーゼの声は、虚しく広間に消えた。 「黙れ!」  シャルルの一喝が、広間に響き渡る。 「貴様のような下劣な女を、王家に迎え入れるわけにはいかぬ」  広間は、再び深い静寂に沈んだ。 「よって、貴様との婚約は破棄。さらに──」  王子は、無慈悲に言葉を重ねた。 「国外追放を命じる」  その宣告に、エリーゼの膝が崩れた。 「そ、そんな……!」  桃色の髪が広間に広がる。  必死にすがろうとするも、誰も助けようとはしなかった。 「王の不在時に|謀反《むほん》を企てる不届き者など不要。王国のためにもな」  シャルルの隣で、カリーナがくすりと笑った。  まるで、エリーゼの絶望を甘美な蜜のように味わうかのように。  なぜ。  なぜ、こんなことに──。  エリーゼは、震える指で自らの胸を掴む。  彼女はただ、幼い頃から姉に憧れ、姉に尽くし、姉を支えようとしていただけだったのに。  それが裏切りで返され、今、すべてを失おうとしている。 兵士たちが進み出る。  無骨な手で、エリーゼの両手を後ろ手に縛り上げた。 「離して、ください……っ」  必死に抵抗するも、力は弱い。。  誰も助けない。エリーゼは、見た。  カリーナが、微笑みながらシャルルに腕を絡め、勝者の顔でこちらを見下ろしているのを。  ──すべては、最初から、こうなるよう仕組まれていたのだ。  重い扉が開かれる。

【完結】偽物聖女として追放される予定ですが、続編の知識を活かして仕返しします

ユユ
ファンタジー
聖女と認定され 王子妃になったのに 11年後、もう一人 聖女認定された。 王子は同じ聖女なら美人がいいと 元の聖女を偽物として追放した。 後に二人に天罰が降る。 これが この体に入る前の世界で読んだ Web小説の本編。 だけど、読者からの激しいクレームに遭い 救済続編が書かれた。 その激しいクレームを入れた 読者の一人が私だった。 異世界の追放予定の聖女の中に 入り込んだ私は小説の知識を 活用して対策をした。 大人しく追放なんてさせない! * 作り話です。 * 長くはしないつもりなのでサクサクいきます。 * 短編にしましたが、うっかり長くなったらごめんなさい。 * 掲載は3日に一度。

処理中です...