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第80話 【閑話】教皇の死
しおりを挟む今、この国に何が、いえこの世界に何が起こっているのでしょうか?
此処は聖教国イシュタリカ、女神の名を冠した国。
此の世界の教えの中心、宗教国家。
女神の加護があるこの国は今迄決して困った事など起きなかった。
魔王の住む魔国から一番遠い国だから魔族が踏み込んでくる事は無い。
この世界で一番安全で、豊かな国。
それがイシュタリカ。
そして、私はこの国の教皇ロマーニ8世。
王ですら私の前には跪く。
勇者達を除くならこの世界で一番尊い存在。
私からの『破門』を受ければこの世界で生きて等いけない。
それは王や貴族とて一緒の筈…
それなのにこれは何でしょうか?
目の前に信じられない数の破門状が来ています。
私や司祭やシスターが破門にしたという手紙以外に自らの破門願いが多数。
中にはシスター自らが『破門願い』ではなく『破門届け』として出してきた物もあります。
まるでこの世界の全てが女神や私の敵に回った様に思えます。
可笑しい。
何が起きてしまったのか全く解らない。
私が幾ら祈ろうと神託がおりて来ない。
こんな事は今迄全く無かった。
しかも、この国に来る商人が著しく減っていた。
「皆さん、今この国、いやこの世界に何が起きているのか知っている者はおりますか?」
私が司祭たちに尋ねると静かに1人の司祭が話し始めた。
「それが、ルブランド帝国を中心にテラス教という邪宗が存在しておりまして日に日に勢力を増しているそうです」
テラス教…北の大地近辺にある数少ない邪宗の一つでしょうか?
「それが数を増しているのですか? そんな物に惑わされるなんて…まぁ良いでしょうお望みどうり破門にしてあげましょう…それも絶対に戻れない『永久破門』にしてくれます」
これは流石に怖いでしょう。
『永久破門』これを受けた者は死よりも辛い人生が始まるのです。
きっとここ迄詫びに来るに違いありません。
「多分、それは意味を成しません」
「何故ですか?」
「テラス教団の中心には聖女塔子様がおります。そして塔子様自らが、イシュタス様を非難しているのです」
「聖女様、自らがですか? そんな馬鹿な」
「事実でございます」
勇者達が死んで…聖女が敵に回る。
そんな事があるわけが無い…しかも勇者達からジョブが消えたという話も上がってきた。
女神様ですら先が読めない何かが起きているというのですか。
そうだ、まだ一人います。
「大魔道様、大魔道様は今何をしているのですか? 今直ぐ保護を」
「無駄です。大魔道様もテラス教団の幹部の1人です」
そんな女神の使いたる五職のうち3人が死に、2人が背信…一体どういう事なのでしょうか。
私にも解りません。
◆◆◆
日に日にこの国から商人が消えていきました。
御用達の大商会までが『破門届け』を出して去って行く。
理由をきけば、皆テラス教絡みだ。
「貴方の娘が死に掛けた時命を助けたのは司祭達だった筈です、それが何故…」
「ふんっ、その時は莫大な寄進をした。対価は払っているのに何故感謝が必要なんだ?テラス教のシスターや司祭たちは無料で治療をするばかりかお金迄くれる。どっちが正しいか子供だって解る」
「そんな、無料で治療してお金迄出す、なんてあり得ません」
そんな事等出来る筈はありません。
「それが出来るからこそ、本物の神の使いなんじゃないんですかね」
振り返りもせずに去っていった。
このままでは聖教国であるこの国が滅んでしまうかも知れない。
今迄の邪教とは全く違う。
◆◆◆
とうとうここ迄大きな事になりましたか。
教皇である私がこんな粗食を食べると言う事は…他の者はもっと厳しい生活をしているのでしょうね。
最早、もうどうする事も出来ないのかも知れませんね。
「良いですか、皆さん…我々は宗教者です。今の状況は女神イシュタス様に縋るしかありません。それ以外に救われる方法が考えつかないのです。そこで私は断食の儀式をしようと思います」
「そんな教皇様、死ぬ気ですか」
断食の儀式とは命懸けで神に問う方法で、食事や水を一切取らずに祈り続ける方法です。
これは神託が行われるか、自身が死ぬまで行う儀式だ。
「最早、これしかあり得ません」
そして私は教会に閉じこもり祈り続けました。
どの位祈り続けたか解りません。
3日、4日なのか7日なのか…
そして奇跡はおきました。
私の前に光が降りそそいできました…
そして私の目の前には…嘘だ、何故天使が…
これは本来、女神様が…可笑しい。
「人間よ、私の名はシラン。イシュタス様に仕える最上級の天使である」
知っている。イシュタス様の右後ろに描かれている天使様だ。
「シラン様…一体何が起きているのでしょうか?我々をお救い下さい」
「それは無理だ、今の我々にお前達を救う力はない」
「何が起きたのでしょうか」
「イシュタス様が今現在、その力が振るえなくなった。そしてそれに伴い我々眷属もこの世界に関与できない」
「そんな、それでは我々は今後どうすれば良いのですか」
「…それは答えられない。今回は、長年仕えてくれたお前の願いに特別に答えただけだ…今後はいかなる願いも我々に届く事は無い」
「そんな、我々を見捨てるのですか…」
「すまない、それに対して我は答える事が出来ない」
それだけ言うとシランは消えていった。
◆◆◆
「わはははははっ女神はこの国をいや、此の世界を見放したのだ。この世界に生きる価値はない…私はこの世界から消える事にする。皆の者よくぞ今迄仕えてくれた…強制ではない、だがこの世界に女神様が居ないなら、死ねば良いのだ。死ねば我々は天界に召される。そこにイシュタス様やシラン様がおられる…天界で待つぞ…」
それを皆の前で高らかに宣言をすると教皇は、首にナイフを当て一気に引き裂いた。
その言葉を聞き、次々と司祭やシスターも自殺していった。
聖教国の中央教会には最早死人しか居ない。
まだ国には事情を知らない人間は沢山いる。
だが治める教皇や司祭、その縁者は全員が死んでしまった。
事実上、イシュタリカが滅んだ瞬間だった。
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