天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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帰宅

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二人の王子が屋敷から出て行き馬車の音が遠ざかってから、やっと屋敷には静寂が訪れた。嵐のような波乱が過ぎ去り公爵の身にドッと疲れが押し寄せる。それは今までやってきたどの仕事よりも大きな疲れだと思った。

「……やっと静かに休むことが出来る。」

「お疲れ様でした公爵様。」

「ディオールも王子に対して楯突かせてすまなかった。」

「主人のお役に立つことが執事の仕事ですのでお気遣いは無用です。」

「プリムも遅くにすまなかった。寮に帰す準備はすぐにしよう。」

「いえいえー。楽しかったですー。」

「もし二人に何か罰が与えられることになれば、その前に必ず私が守る。不安を与えてしまうが申し訳ない。」

「いいえ。もし何かあればご主人様と共に。」

「へーきですー。」

二人は公爵の目を真っ直ぐ見て答えた。執事は執事らしく取り乱すことなく平静に。プリムは先程までの恐怖に震える演技をすっかりやめてケロリとしている。しかし心の中ではどう思っているかまでは分からない。やはり自分は公爵、甘えることなくしっかりと守ろうと気を引き締めた。
アレンシカの部屋に荒らされた形跡がないかを確かめた後すぐに扉を締める。

「事前に王の遣いがいなければどうなっていたか……。あの様子では私がいなければ屋敷中荒らされながらアレンシカを探し回されていたかもしれないな……。」

翌日に仕事を控えていた為、明日早くに屋敷を出なければならず夜も準備があった。しかし突然王の遣いから王子二人が急にこちらに来るという連絡が入り慌てて用意していたのだ。ただ本人達から直接の連絡が来ないとは思わず気持ちは慌てていたのは間違いない。日頃から様々な準備をしているので問題はなかったとはいえ、もし公爵がいない屋敷だったなら、筆頭執事でも王族を抑えきれず、プリムがいてもクラスメイトのウィンノルは何とか言いくるめていてもユースは抑えられなかっただろう。その上あの激昂具合では公爵が見ていない間に通常では考えられない罰が与えられていても不思議じゃない。何より愛する息子の楯とならなければとスケジュールは編成し直し、混乱や危害を加えられる可能性を考慮し他の使用人達は全て今晩は帰宅や自室に待機させて、二人の王子を待ち構えた。

「アレンシカも心配だが……余計な痕跡を残してしまえばアレンシカを辿られてしまう。こちらからも向こうからも連絡することが叶わないのは歯痒いな。」

「向こうが何とかしてくれますのでー大丈夫ですー。信じてくださいー。」

「もちろんあちらを信じていない訳ではないが、父親として心配は尽きないな。」

息子本人はあまり心配していないが、息子の周りがあまりにも心配事が多すぎて気が休まる気がしない。自分は休めなくてもつらいことが多かったアレンシカには少しでも王都から離れている間に心を落ち着かせ休めているようにと願わずにはいられなかった。その為に。

「ユース殿下の監視もあるはずだからアクシデントがない限り連絡や行動は起こさない。いつも通りで頼む。」

「かしこまりました。」

「はーい。」









「どうしますか兄上。まさかアレンシカがいなくなるなんて。」

「……あれはどう見てもあいつらが逃している。だがどうやって取り戻すか。」

「父上からの王命はやはり望めないでしょうか。」

「……あの話が本当なら父さんとリリーベルの話した内容が気になる。解消の話が本当になされていたら協力は望めないかもしれないな。」

帰りの馬車の中、兄弟は重要な話をする。これからのことを考えるとても大事な話だ。
アレンシカに会いに行ったのに、まさかアレンシカがいないとは思わなかった。徒労に終わり悔しさに包まれる。

「ではやはりアレンシカが戻るか突き止めるしかないでしょうね。アレンシカがどこに行ったのか辿らないと。どこを通ったか分かれば簡単に分かると思いますが。」

「だが問題はどう行ってどこに行ったかだ。普通ならすぐに調べはつくが……リリーベルは国土査察官。俺達の知らない場所をいくつも知っている。」

国土査察官はこの王国全土の実地調査をする仕事であり、その内容は国交、環境、農地、地質調査など国土にまつわることなら多岐に渡る。国の隅々まで赴かなければならないので、リリーベル公爵は領地を持たない代わりに国内の全ての領地に調査の為の自由な出入りや領主への指導の権限を持っている。それ故に国王以上に国土を知っていると言われており、またいくつもの政策に尽力していた。
もしそのリリーベル公爵しか知らないルートや土地を使われていれば追えない可能性も高い。

「……父上はこの件に関与しているでしょうか。」

「分からないが、もしアレンシカの逃亡に一枚噛んでいたらますます追えないだろうな。……だが父さんだぞ。さすがに息子の足を引っ張ることはしないだろう。」

「そうでしょうか。」

「そもそもあの話が本当の証拠も現時点では無い。本当だとしても婚約解消を止めている。どちらにせよ息子の味方であるのは変わらない。」

「……そうですよね。」

自信を持っているユースに対してウィンノルはどこか心ここにあらずで落ち込んでいるようにも見える。
アレンシカがいなかったこともショックだが、ウィンノルは公爵の言っていた国王と公爵が話していた内容だった。許可がなければ王子にも言えない話とは何だろうか、馬車に落ち着けて座ってみればそればかりだった。

「二人で父さんと話そう。もし違ったとしても親なんだから息子の顔を見れば気の毒に思って王命のひとつふたつ出してくれるさ。」

「そうですね。リリーベル公爵家を気を遣ってるんでしょうけど、もっともっと周りを見てくれないと。」

「まったく……アレンシカは何を考えているのか……国王の手まで煩わせてしまうなんて。やっぱりウィンノルがいないとな。」

だが国王と話せば全ていい方向に解決する。漠然としつつ確信を持った明るい希望を持った二人を乗せながら馬車は王宮へ帰って行った。。
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