天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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友として

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エイリークはアレンシカとまず仲良くなろうと思った。
何も知らないまま遠ざかればまたいつ傷つけてしまうか分からない。それなら仲良くなって絶対に傷つけない立場になれればいい。
そんな理由は建前で、本当はただ仲良くしたいだけだった。
アレンシカは不躾に平民が話しかけているのに優しく笑ってくれるのだ。そんな清廉で柔らかいアレンシカの笑顔が見たい。まだ実際に会えてから少ししか経っていないのに、笑顔が見られれば舞い上がった。



(何アイツ!信じらんない!)

寮から出て学校に向かうと周りにいる学園生たちが何故か一方向ばかり見ているのが気になり自分もつられて見ると、そこには知らない生徒を侍らしている王子がいた。ニコニコ笑いながらよく知らない生徒と一緒に歩いている。

(なんで?オレが誑かしてめちゃくちゃにしたから将来アレンシカ様は婚約破棄されちゃうんじゃなかったの?オレのせいでアレンシカ様は泣いてるんじゃないの?)

驚きと疑問を持って見ていると、離れた後ろからアレンシカがじっと静かに見ていた。
その姿は淋しげで羨ましそうで、話しかけたいと思っていても話しかけられない諦めが伝わってくる。眉毛は下がり泣き出しそうに見える。

(何?じゃあオレがアイツに近づこうが離れようが結局アイツはアレンシカ様を傷つけるってこと⁉)

アレンシカがあんなに悲しそうなのに一切気づかず、他の生徒に囲まれ始めている王子。普通だったら公爵家で何より婚約者なのだから堂々と近づいて「自分は婚約者なんだ」ってアピールしたっていいはずだ。その権利は絶対にある。
それなのにただ遠く離れたところで見ているしかしないなんて、理由があって近づけないと言っているようなものだ。

(何もかも持ってるくせに、アレンシカ様を泣かせていいと思ってるの?!何でも持ってるのにアレンシカ様はいらないの?!)

元から心象は悪かったけどそれは自分の天啓のせいだと思っていたところも少なからずあったけど、実際の光景を見てからはただでさえ最低のウィンノル王子への心象は最底辺に落ちた。

(あんな奴にアレンシカ様を任せたくない!)

エイリークの心の中には今までにない激情が生まれた。
心の中だけでは何度も殴りつけていたが実際には殴ることは出来ない。雲の上の存在にそんなことをすれば処罰されてしまう。平民なら最も苦しくつらい処刑ものだ。
それよりもエイリークには今やることがある。

(あんな悲しそうなアレンシカ様をひとりにしたら絶対にいけない!)

そうしてアレンシカが王子を見て泣きそうになれば何でもないように話しかける。アレンシカの気分が少しでも晴れたらいい。
ほんの少しおどけて話しかければ、キョトンとした後で柔らかく笑うアレンシカが好きだった。




何故かアレンシカに迷惑をかけようとしている子爵家の息子のプリムはその夜、嫌な顔をしているくせに突拍子もない方法でアレンシカと王子の縁を壊そうとしていた。
プリムは捨て身で浮気相手として噂を作り上げれば、嫌になってアレンシカの方から見捨ててくれるのではないか、そう期待しているようだった。
何の理由でアレンシカの縁を壊そうとしているのかは分からないが、利害は一致していても自分のやり方とは違かった。

「アンタさ、本当はそんなことやりたくないんじゃないの?」

「……なんのことかさーっぱりですー。」

エイリークだってアレンシカとウィンノルの縁が消えるのは賛成だ。でもやり方がよくない。たとえアレンシカの為になろうともアレンシカが泣く未来になるのは嫌だった。
だから止めた。

「ボクは絶対にアレンシカ様が傷つく方法はやめてほしい。」

「なんでですー?」

「……アレンシカ様に泣いてほしくないから。」

「ふうん。」

「他に方法があるんじゃないの。こんな方法とらなくても。」

「やだーエイリーク君怖いですー。」

おちょくりながらもプリムがやりたくないことをやろうとしていることは分かる。丁度いいのだから止めなくてもいいのにエイリークは腕を掴んで止めていた。
あんな奴の為に自分自身を壊さなくてもいいと思ったのかもしれない。

「ねえ、……アンタはアイツを引き離したいんだよね。ボクもなんだよね。」

「……エイリーク君もー?」

「そうだよ。」

「エイリーク君ってー庶民でしょー?しょ・み・ん。出来ると思ってるんですか?」

「……そうやって言って楽しい?」

「え?」

「楽しい訳?」

「ヒッ!」

プリムはエイリークの顔を見て青褪めていた。
いつも地元では可愛い可愛いと言われてきたのにその怖がりようは何なのか。

「楽しくない……。」

「……そうでしょ。そんな顔してる。」

プリムの腕を離してあげた。そういえば思ったよりも力を加えてしまって申し訳ない。
腕を離した瞬間プリムはものすごい勢いでエイリークから離れた。

「ふーんだ!べー!じゃあ私を追い返すなら絶対ぜーったいエイリーク君が何とかしてくださいね!」

「はあ?」

「絶対ですよ!」

「……子爵家の人間が平凡な平民に頼みごとですか。」

「約束してくださいね!」

「……わかーったよ。約束すればいいんでしょ。すれば」

「ぷーんだっ!」

怖がりながらも頼みごとをしてまるで負け惜しみのように帰っていった。初めての反応をされて少しだけ面白かった。
しばらくしたらもう怖がることはなくなり、逆に何故かよくおちょくってくるようになったけど。まさかこの後で貴族の子息と悪友のような関係になると誰が想像できただろう。
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