天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
102 / 138

味方

しおりを挟む
「知っている……⁉」

「ええ。」

「そんな、それでは迷惑をかけられてしまうことも考慮した上で僕をお招きいただいたのですか?!」

「もちろん、我が夫でありシルロライラ公爵であるレリックも知っているわ。」

リディス夫人は何でもないことのように口にした。

まさか他国の騒動を分かっていて引き受けてしまうなんて普通ならしない。まして王家と婚約している人間では非常にリスクがある。
まだ聞きたいこともあるがそれも察知され笑顔でやんわりと制された。それはまだ話さないということだろう。

「私はソーン・オルト男爵を通じてリリーベル公爵様とお話し、全てを知ってお引き受けしました。リリーベル公爵様も私が預かることをご存知ですわ。」

「そんな……。」

「オルト男爵は商団を営んでいるだけあり、他国へ行っても疑われません。本当は直接こちらへご案内して差し上げたかったのですが、まさかアレンシカ様へ渡航制限がかけられているとは思わずに、おいでいただけるのに時間がかかってしまいました。追っ手が迫る前にはこちらへお連れできて良かったですわ。」

「最大の顧客であるシルロライラ公爵夫人の頼みですからお断りする訳には参りません。……まあ弟がアレンシカ様にお世話になっているからというのもありますが。」

「まあ、お互いにリリーベル家に縁があるというのもまた運命ですわね。」

二人には共通点があるらしい。だがアレンシカにとってはよく分からないことだ。
ソーンはもちろんプリムの兄であるからリリーベル家に関係があるということは理解できた。しかし国の重要人物であるリディス夫人がリリーベル家を助ける程の縁だということが分からない。
もちろん父は王宮に仕えているから宰相であるシルロライラ公爵なら外交的な縁があるかもしれない。しかしそれでもいくらリリーベル公爵家の人間であろうとその息子を危険を承知で連れてくる程の縁があるとはどうにも思えなかった。

「そういえば、向こうでいいものを手に入れたんです。レイシーラで作られている細工物なんですが。」

「まあ、きちんとお仕事もしてらしたのね。」

「せっかく向こうに行きましたからついでに。」

連れて来るだけなら馬車だけを派遣し、アレンシカ達だけを連れて来ればいい。わざわざソーンを派遣させる理由がない。

「ああ、私があちらに向かった理由はもう一つ、もちろん仕事はしていましたがそちらはカモフラージュの意味合いが強いですね。」

アレンシカの疑問にソーンは答える。

「今回の一連の件にフィルニース王国側で関わっているのは、リリーベル公爵家、ミラー子爵家、シーラ侯爵家とその家門であるシークス伯爵家ですが他にもあとお二人いらっしゃいます。私はシルロライラ公爵家の外交役として表向きは商団の仕事としてその方と話をしに。」

「二人……。」

「本当ならリリーベル公爵家やシーラ侯爵家を通じたほうがよかったのだけど、すでにフィルニース王子殿下の手が迫り干渉されているのではと思って。」

「実際、監視だけでなくリリーベル家は手紙に関しても無断で検閲されていたようです。」

「そんな!」

「手紙が届く前に渡された相手を懐柔し手に入れてたんでしょうね。これではもう直接話をしに行くしかありません。」

「リリーベル家もそれは予想されていたのでしょう。極力手紙を出されることはなかったそうですが。」

まさか手紙まで手を出すとは思わずアレンシカはショックを受けるしかなった。
少なくとも婚姻前にそこまで干渉される謂れはない。

「あの……。」

「はい。」

「もうお二方というのは……。」

そう、先程確かにソーンはもう二人と言った。アレンシカにはなんとなく想像はつくがいまいち結びつかない。本来ならその二人はあちら側についていておかしくないからだ。

「……私も元はフィルニース王国民ですからね。私ではとてもとても。」

わざと濁していてもその言葉で全てが分かった。
王子が渡航制限を出していたのに隠れずに乗って国のから出ることが出来た。レイシーラから出発し乗り換える前の馬車の御者は王宮を訪れる度に必ず側にいた人物。姿を変えていても側近として養われた洗練さは消えない。つまりその二人は――。

(国王陛下と王配陛下……。)
しおりを挟む
感想 75

あなたにおすすめの小説

婚約破棄を望みます

みけねこ
BL
幼い頃出会った彼の『婚約者』には姉上がなるはずだったのに。もう諸々と隠せません。

腐男子ですが何か?

みーやん
BL
俺は田中玲央。何処にでもいる一般人。 ただ少し趣味が特殊で男と男がイチャコラしているのをみるのが大好きだってこと以外はね。 そんな俺は中学一年生の頃から密かに企んでいた計画がある。青藍学園。そう全寮制男子校へ入学することだ。しかし定番ながら学費がバカみたい高額だ。そこで特待生を狙うべく勉強に励んだ。 幸いにも俺にはすこぶる頭のいい姉がいたため、中学一年生からの成績は常にトップ。そのまま三年間走り切ったのだ。 そしてついに高校入試の試験。 見事特待生と首席をもぎとったのだ。 「さぁ!ここからが俺の人生の始まりだ! って。え? 首席って…めっちゃ目立つくねぇ?! やっちまったぁ!!」 この作品はごく普通の顔をした一般人に思えた田中玲央が実は隠れ美少年だということを知らずに腐男子を隠しながら学園生活を送る物語である。

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

【完結】第三王子、ただいま輸送中。理由は多分、大臣です

ナポ
BL
ラクス王子、目覚めたら馬車の中。 理由は不明、手紙一通とパン一個。 どうやら「王宮の空気を乱したため、左遷」だそうです。 そんな理由でいいのか!? でもなぜか辺境での暮らしが思いのほか快適! 自由だし、食事は美味しいし、うるさい兄たちもいない! ……と思いきや、襲撃事件に巻き込まれたり、何かの教祖にされたり、ドタバタと騒がしい!!

『君を幸せにする』と毎日プロポーズしてくるチート宮廷魔術師に、飽きられるためにOKしたら、なぜか溺愛が止まらない。

春凪アラシ
BL
「君を一生幸せにする」――その言葉が、これほど厄介だなんて思わなかった。 チート宮廷魔術師×うさぎ獣人の道具屋。
毎朝押しかけてプロポーズしてくる天才宮廷魔術師・シグに、うんざりしながらも返事をしてしまったうさぎ獣人の道具屋である俺・トア。 
でもこれは恋人になるためじゃない、“一目惚れの幻想を崩し、幻滅させて諦めさせる作戦”のはずだった。 ……なのに、なんでコイツ、飽きることなく俺の元に来るんだよ? 
“うさぎ獣人らしくない俺”に、どうしてそんな真っ直ぐな目を向けるんだ――? 見た目も性格も不釣り合いなふたりが織りなす、ちょっと不器用な異種族BL。 同じ世界観の「「世界一美しい僕が、初恋の一目惚れ軍人に振られました」僕の辞書に諦めはないので全力で振り向かせます」を投稿してます!トアも出てくるので良かったらご覧ください✨

ある日、木から落ちたらしい。どういう状況だったのだろうか。

水鳴諒
BL
 目を覚ますとズキリと頭部が痛んだ俺は、自分が記憶喪失だと気づいた。そして風紀委員長に面倒を見てもらうことになった。(風紀委員長攻めです)

処理中です...