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契約
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アレンシカ達が部屋に入ると、赤色のソファに座っていた女性が立ち上がって微笑んだ。
「ようこそお待ちしておりました。私はリディス・シルロライラ。貴方がアレンシカ・リリーベル様ですね。」
「初めてお目にかかります、シルロライラ公爵夫人。アレンシカ・リリーベルと申します。」
「長旅でお疲れのところお呼び立てして申し訳ありません。すぐにでも休ませたいところではありますが、どうしてもアレンシカ様にお会いしたくて。でもお疲れですわよね、すぐに……、」
「あ、いいえ!公爵夫人にお会いしたかったので問題ありません。それにお話もしたかったので……。」
「せめて楽にしてくださいね。ここはただの家ですから。疲れているのですからのんびり足だって伸ばしてくださいませ。そちらの方々もどうぞここへ。先にお二人にお話がありますの。」
「は、……はい……。」
アレンシカはリディス夫人の正面に座る。メイメイとジュスティはメイドと護衛の身であるからか躊躇ったがそれでもレリック夫人が促しているとようやく座った。
リディス・シルロライラはハンリビス王国で宰相を勤める公爵の伴侶である。数年前に国王と共に即位した王妃の友人兼右腕であり、現在は社交界を牽引し貴族達を束ねるリーダーと言える。
当然アレンシカにも活躍は知っており、いざ目の前にすると緊張するばかりだった。
アレンシカは何故自分を公爵であり宰相の屋敷に呼んだのかが分からなかった。トラブルがあり逃げるようにハンリビス王国に来た自分はデメリットでしかなく、リリーベル公爵家や父が王宮勤めであることを差し引いても問題を抱えることにしかならない。
事情を聞こうとしているアレンシカに気づき、リディス夫人はアレンシカに笑った。
「聞きたいことはたくさんあるのでしょうが……それは後で。申し訳ありませんが、私とアレンシカ様との間でしか口に出せないことなのです。」
「分かりました。」
「まずはそちらの二人の契約についてです。」
「契約ですか。」
「ええ。シークス伯爵から聞いておいででしょうが、ここにアレンシカ様がここに滞在する間メイメイ様とジュスティ様には我が家と雇用契約を結んでもらいます。ですが仕える相手はアレンシカ様です。」
「えっ。」
「これはアレンシカ様の身を守るという点において大切なことですわ。アレンシカ様個人と結ぶよりもシルロライラに仕えている方がよりアレンシカ様を守れる、という理由ですわね。」
万が一アレンシカにフィルニース王国の王子が接触してきた場合、アレンシカ個人に仕えていれば難なくメイメイとジュスティを制し咎めもなく罰することも出来るが、他国の貴族であるシルロライラ公爵家に仕えている形であれば、下手をすれば国際問題にも発展する恐れもあり、おいそれと手出しは出来ない。メイメイとジュスティはシルロライラ家に守られることが自由に動けアレンシカを守ることに繋がる。その為のシルロライラ家との契約なんだろう。
リディス夫人は執事を呼びつけると二人に雇用契約書を渡した。
「不当なことは何もありません。お二人ともそちらをよくご覧になって決めてくださいませ。もちろん拒否も出来ますわ。その場合はこちらでアレンシカ様の付き人は決めましょう。」
「はい。」
「もう心は決めております。」
「よろしい。分からないことは執事に聞いてから納得の上でサインをしてくださいませね。」
二人が契約書を手に持ったのを確認すると再度執事に指示を出す。
「ではお疲れでしょうからお二人をそれぞれ部屋にご案内してらして。」
「承知いたしました。」
執事に連れられて二人が去るとリディスは再びアレンシカの方へ向き直る。
「お待たせいたしました。アレンシカ様のお話を聞きましょう。」
「はい。」
アレンシカは唇をぎゅっと結んでから、勇気を出した。
「あの……ソーン様から僕を預かると立候補したと聞きました。しかし今、僕はトラブルを抱えています。シルロライラ公爵家へ多大なるご迷惑をおかけしてしまう可能性が高いです。それなのに、何故僕を預かる選択をしたのでしょう。」
言葉に出せば自分の置かれている状況に落ち込むが事実だ。無関係の他の人に、その上他国に迷惑をかける訳にはいかない。自分に落ち込む権利はないとアレンシカは心で自分に叱りつけて、自分の状況を話す。
「そうね……。」
それでもリディス夫人は特に焦りも心配も見せることなく優雅な仕草でお茶を一口飲んでアレンシカの目を真っ直ぐに見た。
「まず、私はアレンシカ様の置かれている状況を全て知っています。全て承知の上でお引き受けしました。」
「ようこそお待ちしておりました。私はリディス・シルロライラ。貴方がアレンシカ・リリーベル様ですね。」
「初めてお目にかかります、シルロライラ公爵夫人。アレンシカ・リリーベルと申します。」
「長旅でお疲れのところお呼び立てして申し訳ありません。すぐにでも休ませたいところではありますが、どうしてもアレンシカ様にお会いしたくて。でもお疲れですわよね、すぐに……、」
「あ、いいえ!公爵夫人にお会いしたかったので問題ありません。それにお話もしたかったので……。」
「せめて楽にしてくださいね。ここはただの家ですから。疲れているのですからのんびり足だって伸ばしてくださいませ。そちらの方々もどうぞここへ。先にお二人にお話がありますの。」
「は、……はい……。」
アレンシカはリディス夫人の正面に座る。メイメイとジュスティはメイドと護衛の身であるからか躊躇ったがそれでもレリック夫人が促しているとようやく座った。
リディス・シルロライラはハンリビス王国で宰相を勤める公爵の伴侶である。数年前に国王と共に即位した王妃の友人兼右腕であり、現在は社交界を牽引し貴族達を束ねるリーダーと言える。
当然アレンシカにも活躍は知っており、いざ目の前にすると緊張するばかりだった。
アレンシカは何故自分を公爵であり宰相の屋敷に呼んだのかが分からなかった。トラブルがあり逃げるようにハンリビス王国に来た自分はデメリットでしかなく、リリーベル公爵家や父が王宮勤めであることを差し引いても問題を抱えることにしかならない。
事情を聞こうとしているアレンシカに気づき、リディス夫人はアレンシカに笑った。
「聞きたいことはたくさんあるのでしょうが……それは後で。申し訳ありませんが、私とアレンシカ様との間でしか口に出せないことなのです。」
「分かりました。」
「まずはそちらの二人の契約についてです。」
「契約ですか。」
「ええ。シークス伯爵から聞いておいででしょうが、ここにアレンシカ様がここに滞在する間メイメイ様とジュスティ様には我が家と雇用契約を結んでもらいます。ですが仕える相手はアレンシカ様です。」
「えっ。」
「これはアレンシカ様の身を守るという点において大切なことですわ。アレンシカ様個人と結ぶよりもシルロライラに仕えている方がよりアレンシカ様を守れる、という理由ですわね。」
万が一アレンシカにフィルニース王国の王子が接触してきた場合、アレンシカ個人に仕えていれば難なくメイメイとジュスティを制し咎めもなく罰することも出来るが、他国の貴族であるシルロライラ公爵家に仕えている形であれば、下手をすれば国際問題にも発展する恐れもあり、おいそれと手出しは出来ない。メイメイとジュスティはシルロライラ家に守られることが自由に動けアレンシカを守ることに繋がる。その為のシルロライラ家との契約なんだろう。
リディス夫人は執事を呼びつけると二人に雇用契約書を渡した。
「不当なことは何もありません。お二人ともそちらをよくご覧になって決めてくださいませ。もちろん拒否も出来ますわ。その場合はこちらでアレンシカ様の付き人は決めましょう。」
「はい。」
「もう心は決めております。」
「よろしい。分からないことは執事に聞いてから納得の上でサインをしてくださいませね。」
二人が契約書を手に持ったのを確認すると再度執事に指示を出す。
「ではお疲れでしょうからお二人をそれぞれ部屋にご案内してらして。」
「承知いたしました。」
執事に連れられて二人が去るとリディスは再びアレンシカの方へ向き直る。
「お待たせいたしました。アレンシカ様のお話を聞きましょう。」
「はい。」
アレンシカは唇をぎゅっと結んでから、勇気を出した。
「あの……ソーン様から僕を預かると立候補したと聞きました。しかし今、僕はトラブルを抱えています。シルロライラ公爵家へ多大なるご迷惑をおかけしてしまう可能性が高いです。それなのに、何故僕を預かる選択をしたのでしょう。」
言葉に出せば自分の置かれている状況に落ち込むが事実だ。無関係の他の人に、その上他国に迷惑をかける訳にはいかない。自分に落ち込む権利はないとアレンシカは心で自分に叱りつけて、自分の状況を話す。
「そうね……。」
それでもリディス夫人は特に焦りも心配も見せることなく優雅な仕草でお茶を一口飲んでアレンシカの目を真っ直ぐに見た。
「まず、私はアレンシカ様の置かれている状況を全て知っています。全て承知の上でお引き受けしました。」
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