天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

文字の大きさ
100 / 139

到着

しおりを挟む
翌日になり皆で食堂でゆったりと食事をしてから再び馬車に乗り走っていく。
王都に近づけば近づくほど自然は減っていきフィルニース国境からも離れていく。道も広くなって走りやすくなる。
長い道のりだが少しだけ余裕が出来た分、会話を楽しむことになった。専ら内容はアレンシカの置かれる状況や秘匿事項に反しない程度のソーンの商団のことだった。

少しずつ走ってまた休憩をして王都へ向かう。建物は少しづつ増えてきて王都らしくなっていく。

「その、僕を迎えることを立候補した方はお知り合いですか?」

「私の商会でも一番の顧客ではありますが……何よりアレンシカ様を迎えることを何よりも楽しみに自ら名乗り出た方です。」

「何故縁もゆかりもない僕を……。」

「直接聞いたほうがいいと思いますよ。アレンシカ様とお会いしたいと話していましたので。」

公爵家である以上隣国の者と会った経験もそれなりにはあるが、それでもほとんどは父や王国の関係で会ったくらいで、隣国に友人と呼べる立場もいない。父の関係者としてもアレンシカを迎えるほどの決意をする程の仲の人物がいるとは思えなかった。ライトン伯爵は領主として仕事上の付き合いの延長もあり快く迎えてくれていたが、それも自国だからの話だ。

「見当はつきませんが……こんな僕を迎えてくれるのですから良い人だと思います。会うのが楽しみです。」

知らない人に会う不安はあるが、それでも楽しみもある。どんな人なのか想像しながら馬車は長い日時の王都へ向かった。




何日もかけてとうとう王都へと入った。
隣国であるのでフィルニースと雰囲気は似つつもやはり別の国であり、街並みは違う。何より違うのは屋根だろう。様々な色の屋根があるフィルニースとは違い、ここは多少の差はあれど赤色の屋根で統一されている。

「とうとう来たんですね……ハンリビスに。」

家からも遠くフィルニースからも遠く離れた地。日数的にももう学園は始まっている。王都が華やかな分少し寂しい気持ちになる。

「さあ、もう少しで着きますね。」

王都へ行くと言われた時点で、隣国のことも勉強したアレンシカには向かう先がどこなのかある程度の推察できてしまっている。王都にある貴族専門の宿や騎士団の護衛対象専用の屋敷ということも考えれられなくはないが、ソーンの口ぶりから言ってどこかの貴族家へ向かうのだろう。そしてソーンが仕えるような人物。

馬車はゆっくりと目的地へ行き、そしてゆっくりと止まる。

「さあ、着きました。ようこそハンリビス王都へ。」

アレンシカが降りれば、目の前には豪奢な屋敷がそびえ建つ。

「ここは……、シルロライラ公爵家の屋敷ではないですか……?」

「屋敷を見ただけで当ててしまうとは。」

「ハンリビス王国の宰相である公爵と王妃の右腕である夫人の住む屋敷ですよ!フィルニース王家に携わる者なら必ず知っています。」

「まあ、こちらがアレンシカ様を迎えたいと立候補した方々の屋敷です。」

「まさか!」

まさか国でも重要人物からの申し出だとは思わずアレンシカはひどく狼狽した。隣りを見ればメイメイとジュスティも唖然としている。
屋敷から筆頭執事と思われる紳士がやって来てアレンシカ達に礼をした。

「フィルニース王国リリーベル公爵家のご子息様のアレンシカ様ですね。そちらはアレンシカ様のお付きであられるメイメイ様とジュスティ様。お待ちしておりました。ご案内いたします。」

荷物はいつの間にか傍らにいたシルロライラ家のメイドに預けられて屋敷の中へと案内された。後ろを見るとソーンがきちんといたので安心する。屋敷の主と顔見知りのソーンがいれば心強い。
執事は応接室と思われる部屋で止まりノックをした。

「奥様、リリーベル様をご案内いたしました。」
しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

見捨ててくれてありがとうございます。あとはご勝手に。

有賀冬馬
恋愛
「君のような女は俺の格を下げる」――そう言って、侯爵家嫡男の婚約者は、わたしを社交界で公然と捨てた。 選んだのは、華やかで高慢な伯爵令嬢。 涙に暮れるわたしを慰めてくれたのは、王国最強の騎士団副団長だった。 彼に守られ、真実の愛を知ったとき、地味で陰気だったわたしは、もういなかった。 やがて、彼は新妻の悪行によって失脚。復縁を求めて縋りつく元婚約者に、わたしは冷たく告げる。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

【完結】残酷な現実はお伽噺ではないのよ

綾雅(りょうが)今年は7冊!
恋愛
「アンジェリーナ・ナイトレイ。貴様との婚約を破棄し、我が国の聖女ミサキを害した罪で流刑に処す」 物語でよくある婚約破棄は、王族の信頼を揺るがした。婚約は王家と公爵家の契約であり、一方的な破棄はありえない。王子に腰を抱かれた聖女は、物語ではない現実の残酷さを突きつけられるのであった。 ★公爵令嬢目線 ★聖女目線、両方を掲載します。 【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう 2023/01/11……カクヨム、恋愛週間 21位 2023/01/10……小説家になろう、日間恋愛異世界転生/転移 1位 2023/01/09……アルファポリス、HOT女性向け 28位 2023/01/09……エブリスタ、恋愛トレンド 28位 2023/01/08……完結

徒花伐採 ~巻き戻りΩ、二度目の人生は復讐から始めます~

めがねあざらし
BL
【🕊更新予定/毎日更新(夜21〜22時)】 ※投稿時間は多少前後する場合があります 火刑台の上で、すべてを失った。 愛も、家も、生まれてくるはずだった命さえも。 王太子の婚約者として生きたセラは、裏切りと冤罪の果てに炎へと沈んだΩ。 だが――目を覚ましたとき、時間は巻き戻っていた。 この世界はもう信じない。 この命は、復讐のために使う。 かつて愛した男を自らの手で裁き、滅んだ家を取り戻す。 裏切りの王太子、歪んだ愛、運命を覆す巻き戻りΩ。 “今度こそ、誰も信じない。  ただ、すべてを終わらせるために。”

奇跡に祝福を

善奈美
BL
 家族に爪弾きにされていた僕。高等部三学年に進級してすぐ、四神の一つ、西條家の後継者である彼が記憶喪失になった。運命であると僕は知っていたけど、ずっと避けていた。でも、記憶がなくなったことで僕は彼と過ごすことになった。でも、記憶が戻ったら終わり、そんな関係だった。 ※不定期更新になります。

生まれ変わりは嫌われ者

青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。 「ケイラ…っ!!」 王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。 「グレン……。愛してる。」 「あぁ。俺も愛してるケイラ。」 壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。 ━━━━━━━━━━━━━━━ あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。 なのにー、 運命というのは時に残酷なものだ。 俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。 一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。 ★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!

【完結】トルーマン男爵家の四兄弟

谷絵 ちぐり
BL
コラソン王国屈指の貧乏男爵家四兄弟のお話。 全四話+後日談 登場人物全てハッピーエンド保証。

処理中です...