天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ

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まさか国王陛下と王配陛下が息子である王子を妨害し、その婚約者の逃亡を手助けしているとは可能性までは考えても真実とは思わない。
本来なら逆に王子を助け、婚約者と仲違いしないように努めるはず。王子が婚約者に逃げられるなど、たとえ身分が上の方がダメージは少なくとも醜聞には変わりない。
何故両陛下がアレンシカを手助けしているのか、いち国民には測りしれない。ただ必ず意図はあるはず。それでも口にするのは躊躇われた。

「さて、私はそろそろ溜まっている仕事もありますからこれでお暇させていただきます。」

「あら、ご苦労様ね。一日くらいはゆっくりお休みになられなさいね。」

「今日だけはもう寝ます。」

「そうしなさいな。」

「あの!」

立ち上がったソーンにアレンシカは咄嗟に声をかけた。

「あの……僕の為に危険を掻い潜り助けてくださりありがとうございます。」

アレンシカはソーンに頭を下げた。想像よりもずっと大変な思いをしたに違いない。弟のプリムも関わっているからといっても、それ以上に労力も危険も伴う。元フィルニース王国民といえども今は隣国の男爵なのだから知られてしまえば国際問題だ。

「公爵家の方が私に頭を下げるべきではありません。……ですが、……お言葉、ありがたく頂戴します。」

そう言うとソーンもアレンシカに頭を下げて部屋から出ていった。

「オルト男爵は少し照れ屋さんな面があるものね。」

リディス夫人はその二人を見てふふふと堪え笑った。

「付き合いは長いのですか?」

「オルト男爵がハンリビスに来てからなのでそれなりにですがね。」

微笑みながらもお茶を飲んでいたがカップを下ろす時には真剣な顔になる。

「さあ……アレンシカ様もずっと聞きたかったでしょう。何故私がアレンシカ様をお招きしたか、という話をいたしましょう。」

「はい。」

アレンシカもリディスに向き直りお互いに真っ直ぐに目を見つめた。

「緊張なさらずとも、裏があるとか何か取引とかそういった話ではございませんわ。」

「いえ……僕にはリリーベル家とシルロライラ家との繋がりが見当がつかなくて。」

「無理もありませんわ。これは両家同意の元長年隠されていたことですもの。」

リディス夫人は優しく微笑んでいるが、それでも湧き出てくる緊張感を消そうとアレンシカも一口お茶を飲んだ。

「繋がりがあるのはシルロライラ家……というより私の生家ですわ。」

「リディス公爵夫人のご生家というと……モンド公爵家ですね。」

リディス夫人の生家はハンリビスでも長い歴史を持つモンド公爵家。ただモンド公爵家のことを考えてもリリーベル公爵家と繋がりがあるとはやはり思えなかった。

リディス夫人はそこで何か楽しいことを思いついたかのようにふふっと笑う。

「アレンシカ様、私とアレンシカ様のルーツが同じ、と言ったら驚くかしら?」

「ルーツとはつまり……?」

「先祖よ。」

「えっ!」

予想外のことにアレンシカは公爵夫人を前に出すべきではない大きな驚きの声をあげてしまった。

「そんなことはないはずです!リリーベル公爵家の歴史にモンド公爵家と連なる記述のあるものはありません!」

「その通りです。本当に繋がっていないのですから記述しようがありませんわ。」

先程とは一転してしれっとアレンシカの反応に肯定した。

「リリーベル公爵家とモンド家は繋がってはいない。だけど繋ぐ縁はありましたわ。それは……かつてのフィルニース王国国王の従兄弟君です。」

「それは……リリーベル公爵家が王家から迎え入れたという従兄弟君のことですか?」

「ええ。ですがそれは真実ではないのです。」

「まさか……でも確かに……。」

アレンシカは頭の中でリリーベル家の歴史を思い出していくが、記述のあったものは確かに名前は従兄弟君のものだった。

「真実は従兄弟君と婚姻したのはモンド家の人間であり、アレンシカ様が知っているのはリリーベル公爵家が守った歴史なのです。」
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