悲報、転生したらギャルゲーの主人公だったのに、悪友も一緒に転生してきたせいで開幕即終了のお知らせ

椿谷あずる

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7 図書館地味作業バトル改め暴言バトル

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 作業は、想像を絶する地味さだった。
 カードの名前を確認し、五十音順に並べるだけ。単純作業の極み。俺は今、拷問でも受けてるのか?

 しかもハルは、ほとんど喋らない。
 話しかけても、「うん」とか「そう」とか、そっけない返事が返ってくるだけ。もしかして俺、嫌われてる……?

 でもそんな事言ってる場合じゃない。このままだと精神が確実に崩壊する!
 俺は一か八かで、少し踏み込んで話をしてみることにした。

「なあ、ハルって、図書委員なの?」
「うん」
「本、好きなんだ?」
「まあね」

 おお、少しだけ会話のキャッチボールが成立した! 文明レベルが1上がった!

「じゃあさ、おすすめの本とか、ある?」

 ハルは少しだけ考えて、静かに答えた。

「……『吾輩は猫である』」
「渋ッ!!」

 思わず吹き出した俺に、ハルがきょとんとした顔をする。そして、ほんのり耳が赤くなって――そっぽを向いた。

 ……こいつ、もしかしなくても、人と話すの苦手なだけだな。

 嫌われているわけではないと確信した俺は、さらに雑談を仕掛ける。
 好きな作家とか、最近読んだ本とか、ゆるゆると。
 最初は警戒していたハルも、ちょっとずつだけど口数が増えてきた。俺は勝手に“会話レベルが1→2に上がった!”的なエフェクトを脳内で再生した。

「昔から図書館好きで、よく通ってた」
「へえ。静かなのが好き?」
「それもあるけど……居場所って感じがして、安心する」

 おおお、エモいやつきた。ギャップ萌えかよ。
 でもまあ、これはこれで嫌いじゃない。なんならちょっと親近感すらある。

「わかる。静かで、誰にも邪魔されない時間っていいよな」
「そうそう。あと、あまり読まれていない本の中に、自分に合う名作を見つけると、嬉しい」
「うん、それ最高!」
「だよね」

 ようやく打ち解けたような気がして、俺は心の中で謎のガッツポーズの決めた。俺が求めていた交流はこれだよ、これ。

 ――平和的な気持ちに包まれていた、その時だった。

 ガララッ!!

 図書室のドアが勢いよく開け放たれる。

「やあタツミ、予想外にもしっかり働いているじゃないか」

 厭味ったらしい声と共に、レンが登場した。
 タイミング悪すぎるだろ、貴様ァ!! よりにもよって今か! 空気を読め!

「騒がしい」

 案の定、ハルが冷たく言い放つ。心の壁モード発動。
 しかしレンは、そこでおとなしく「すみませんでした」と謝罪するような男ではない。
 新しいおもちゃを見つけたように目を輝かせ、それから話をふっかけた。

「なんだ、このクソ真面目なやつは。可愛くないな」
「可愛さなんて関係ないだろ。それとクラスメイトの顔と名前くらい覚えろ馬鹿」

 そこはすみません。俺も忘れてました。
 しかし君も強いね、ハル君? あいつにここまで噛み付くやつ、元の世界でも見たことなかったよ。

「大体お前、何しに来たわけ? 君、見るからに手伝う気がないよね」
「ああ、ないよ」

 にこやかにレンが煽る。やめろ。
 こいつはどんだけ周囲に迷惑をかければ気が済むんだ。

「ごめんな、ハル。こいつ、こういう奴なんだよ」
「……クソみたいなやつだな」

 うん、否定はしない。

「残念、惜しいな、言葉が足りない。『クソみたいに顔がいいやつ』までが正解だ」
「うざ……」

 ハルが明らかに眉をひそめ、ため息をついて窓の方をみる。
 ……あっ。これダメなやつだ。

 レンは普段は外面完璧なイケメンだけど、気に食わない相手には容赦ない。
 一方、ハルは口調はクールだけど、内心めちゃくちゃ負けん気が強そうだ。

(やばい……相性最悪かもこれ)

 二人の間には、明確に火花が見えた。
 やめて! 図書室は戦場じゃないのよ!?

「こっちは仕事してるんだ。用が無いなら帰れ」

 ハルの言葉に、レンがあからさまに面白そうな表情を浮かべる。

「残念。用ならある。こいつがちゃんと仕事してるか確認するっていう用がな」

 空気をぶち壊すようにそう言って、レンが俺の肩に手を置く。

「お前は俺のなんなんだよ……」
「もちろん前世からつながりのある仲だよ」

 嘘じゃないからたちが悪い。

「……ごめん麻布。悪いけど、こいつ本気で追い出していい?」
「待て、ハル。やめろ、その手に持った辞書を下ろせ! まだ購入したばっかだから!!」

 ギャルゲー世界だってのに、殺人事件の勃発するミステリーになるのは勘弁して。

「ほらほら、仕事しよう!? カード、あと200枚くらいあるからね! レンもほら!」
「は。俺はやらないと言っただろ?」
「やる! お前はやる!! なぜなら俺と一緒にいたいから! そうだろ!?」

 そう言って、無理やりぐいっと図書カードを握らせた。
 心なしか、一瞬驚いた表情を見せた気がした。

「……ふ。お前のそういうとこ、ずるいな」
「あーはいはいそうですね。きっとお友達に似たんでしょうよ」
「じゃあ仕方ないな」

 そう言ってレンはおとなしく席に座った。
 ハルもそれで少しは気持ちが収まったのか、黙って作業を始めた。

 それから始まって数分でぽそり。

「こんな単純な作業に時間をかけるとは、随分と効率が悪かったと見える」
「は?」

 だからやめろって!

 この後、図書室という密室空間に閉じ込められた第三者として、俺は必死にバランスを取りに右往左往するはめになったのだった。

===

 作業がすべて終わるころには、図書室の外はすっかり夕焼け色に染まっていた。
 窓の外の茜空が、ハルの横顔を照らして、やたら絵になっていた。

「……ありがと、手伝ってくれて」
「え、あ、うん」
「よかったらまた、来て。タツミなら歓迎する」

 そう言って軽く俯く。
 ちょ、なにそのほんのり照れた感じ!? デレた!?

「うむ、これは見事なフラグだな」
「何言ってんだよ」
「お前は二度と来るなよ」

 レンに対してはガチで拒絶。心の鍵、五重ロック。



「じゃ、またな」

 小さく手を振って去っていくハルの後ろ姿を見送った。
 その横で、レンがにやにやしながら囁いてきた。

「楽しそうで何よりだ」
「うるさいな」

 けどまあ、なんだかんだで、今日はほんのちょっとだけ青春してしまった気がする。
 男同士で。図書室で。沢山の図書カードと一緒に。

 なんかほんのり楽しかった気持ちを抱えながら、俺は教室に歩き出した。
 
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