12 / 27
12.人畜無害と雨宿り
しおりを挟む村からの帰り道。
「ねー、ゼルファスー」
「なんだよ?」
「別にさー、堂々と凄い魔法が使えますって言ってもいいと思うんだけど」
先を歩くゼルファスの背中にリアンの声が追いかけてきた。少しむくれたような、どこか面白く無さそうな響き。
「まだ言ってんのか。別にいいんだって」
「なんで?」
「わざわざ目立つことしなくても、俺は大人しく生きられればいいの」
転生して、ようやく過去の呪縛から逃れた。
だからもう、無暗に力をひけらかすのとはおさらばしたかった。
「えー……」
残念そうにこぼすリアン。
お世辞じゃない。本心でそう思っているリアンの表情に、ゼルファスはなんとなく目を逸らした。
「でもさ、村の人、ゼルファスが本当は凄いってこと、たぶん気付いてると思うよ?」
「いや、さすがにそれはないだろ」
「かなぁ」
そうじゃなきゃ頼まなかったと思うけど。
小さく漏らしたリアンの言葉を、ゼルファスは聞こえないフリをして先に進む。
「……とにかく、余計なことは言うなよ。俺は人畜無害の平凡な薬師だ」
「はいはい、分かったよ。恥ずかしがり屋めー」
「聞こえませーん」
そんな他愛のないやり取りをしている時だった。
ぽつ、ぽつ、と冷たい滴が頬を打つ。さっきまでのやり取りが嘘のように、世界が無音になった。
「雨か……」
見上げた空は灰色に沈み、雨脚はあっという間に強くなる。
「もう少し急ぐか、なあリアン。……リアン?」
振り返ると、リアンが木の下で立ち止まっていた。
「ったく、そこで雨宿りでもするつもりかよ?」
やれやれと近づいていったゼルファス。その手を、リアンの手がぐっと掴んだ。
「じゃあいいや」
「じゃあいいやって、何が? ……っておい!」
強い力。引き寄せられた瞬間、息が詰まった。気付いた時には、背中が木の幹に押し付けられていた。
枝葉が雨を受け止めて、ぽたぽたと音を立てている。
思った以上に近い。
肩が触れる距離に、リアンの体温があった。
「な、何してんの。雨、除けのつもり……とか?」
ぽかんとするゼルファスに、リアンが小さく笑った。
「ゼルファスが隠しておきたいって思ってるうちは、俺がゼルファスの傘になってあげるよ」
「な……ん……」
冗談とも本気ともつかない声。
一瞬、何のことを言っているか分からなかった――が、すぐにさっきの「余計なことを言うな」の発言に対してだと気付いた。
「俺、そういうの得意なんだ。職業柄」
「職業柄って、お前さあ……」
ぼやきながら、ゼルファスはリアンの顔を見る。濡れた前髪。
一体どこからそんな自信が出てくるんだろう。
「あーもう……分かったよ」
どう表現したらいいのか分からない気持ちを抱えたまま、ゼルファスはうなだれ、そして答えた。
「そりゃどうもお願いしま……って」
「ん?」
「いや、違うだろ! お前は早く回復して、俺んち出ていくの! 分かったか!?」
リアンが声を上げて笑う。その明るい笑いが、しとしと降る雨の音の中に溶けていく。
――不思議と、悪くないと思った。
134
あなたにおすすめの小説
冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~
水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」
無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。
彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。
死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……?
前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム!
手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。
一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。
冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕!
【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】
【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。
明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。
新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。
しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…?
冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。
最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。
はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。
2023.04.03
閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m
お待たせしています。
お待ちくださると幸いです。
2023.04.15
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
更新頻度が遅く、申し訳ないです。
今月中には完結できたらと思っています。
2023.04.17
完結しました。
閲覧、栞、お気に入りありがとうございます!
すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。
もふもふ守護獣と運命の出会い—ある日、青年は異世界で大きな毛玉と恋に落ちた—
なの
BL
事故に巻き込まれ、雪深い森で倒れていた青年・ユナ。
命の危険に晒されていた彼を救ったのは、白銀の毛並みを持つ美しい人狼・ゼルだった。
ゼルは誰よりも優しくて、そして――独占欲がとにかく強い。
気がつけばユナは、もふもふの里へ連れていかれる。
そこでは人狼だけでなく、獣人や精霊、もふもふとした種族たちが仲良く暮らしており、ユナは珍しい「人間」として大歓迎される。
しかし、ゼルだけは露骨にユナを奪われまいとし、
「触るな」「見るな」「近づくな」と嫉妬を隠そうとしない。
もふもふに抱きしめられる日々。
嫉妬と優しさに包まれながら、ユナは少しずつ居場所を取り戻していく――。
悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます
水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。
しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。
このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。
そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。
俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。
順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。
家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。
だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる