災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

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12.人畜無害と雨宿り

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 村からの帰り道。

「ねー、ゼルファスー」
「なんだよ?」
「別にさー、堂々と凄い魔法が使えますって言ってもいいと思うんだけど」

 先を歩くゼルファスの背中にリアンの声が追いかけてきた。少しむくれたような、どこか面白く無さそうな響き。

「まだ言ってんのか。別にいいんだって」
「なんで?」
「わざわざ目立つことしなくても、俺は大人しく生きられればいいの」

 転生して、ようやく過去の呪縛から逃れた。
 だからもう、無暗に力をひけらかすのとはおさらばしたかった。

「えー……」

 残念そうにこぼすリアン。
 お世辞じゃない。本心でそう思っているリアンの表情に、ゼルファスはなんとなく目を逸らした。

「でもさ、村の人、ゼルファスが本当は凄いってこと、たぶん気付いてると思うよ?」
「いや、さすがにそれはないだろ」
「かなぁ」

 そうじゃなきゃ頼まなかったと思うけど。
 小さく漏らしたリアンの言葉を、ゼルファスは聞こえないフリをして先に進む。

「……とにかく、余計なことは言うなよ。俺は人畜無害の平凡な薬師だ」
「はいはい、分かったよ。恥ずかしがり屋めー」
「聞こえませーん」

 そんな他愛のないやり取りをしている時だった。
 ぽつ、ぽつ、と冷たい滴が頬を打つ。さっきまでのやり取りが嘘のように、世界が無音になった。

「雨か……」

 見上げた空は灰色に沈み、雨脚はあっという間に強くなる。

「もう少し急ぐか、なあリアン。……リアン?」

 振り返ると、リアンが木の下で立ち止まっていた。

「ったく、そこで雨宿りでもするつもりかよ?」

 やれやれと近づいていったゼルファス。その手を、リアンの手がぐっと掴んだ。

「じゃあいいや」
「じゃあいいやって、何が? ……っておい!」

 強い力。引き寄せられた瞬間、息が詰まった。気付いた時には、背中が木の幹に押し付けられていた。
 枝葉が雨を受け止めて、ぽたぽたと音を立てている。
 思った以上に近い。
 肩が触れる距離に、リアンの体温があった。

「な、何してんの。雨、除けのつもり……とか?」

 ぽかんとするゼルファスに、リアンが小さく笑った。

「ゼルファスが隠しておきたいって思ってるうちは、俺がゼルファスの傘になってあげるよ」
「な……ん……」

 冗談とも本気ともつかない声。
 一瞬、何のことを言っているか分からなかった――が、すぐにさっきの「余計なことを言うな」の発言に対してだと気付いた。

「俺、そういうの得意なんだ。職業柄」
「職業柄って、お前さあ……」

 ぼやきながら、ゼルファスはリアンの顔を見る。濡れた前髪。
 一体どこからそんな自信が出てくるんだろう。

「あーもう……分かったよ」

 どう表現したらいいのか分からない気持ちを抱えたまま、ゼルファスはうなだれ、そして答えた。

「そりゃどうもお願いしま……って」
「ん?」
「いや、違うだろ! お前は早く回復して、俺んち出ていくの! 分かったか!?」

 リアンが声を上げて笑う。その明るい笑いが、しとしと降る雨の音の中に溶けていく。
 ――不思議と、悪くないと思った。
 
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