災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

文字の大きさ
13 / 27

13.親の顔よりもみたような風邪回

しおりを挟む
 
 昨日の雨は朝方には止んでいた。
 ゼルファスはいつもと変わらない平穏な一日の朝を送るはず……だったのだが。

「へくしゅっ!」
「……おい」

 部屋のドアを開けながら、ゼルファスは半眼で相手を見る。
 片手にはおかゆを乗せたお盆。目の前には、顔がほんのり赤くなっているパジャマ姿のリアン。

「だから帰った後、ちゃんと髪を乾かせって言ったよな?」
「面倒だった」
「服も」
「自然乾燥でいいかなって」
「よくなかっただろ」

 その結果がこれである。
 38度の熱。どう見ても風邪だ。
 『馬鹿は風邪をひかない』なんてどこかで聞いたが、そんなことはなかった。

「はあ」

 ゼルファスは深くため息をついた。

「あ、ご飯だ。わーい」
「……食欲はあるのな」

 ゼルファスは食事のお盆をリアンの布団の上に置いた。

「食べ終わったら、ちゃんと薬も飲めよ」
「分かってますよ。薬師様ー」

 リアンはひょいっとスプーンを手にし、おかゆを口に運ぶ。
 本当にこいつ病人か?
 あまりにお気楽な態度に疑問が浮かぶゼルファスは、呆れながら自分の手のひらをリアンの額へと当てた。

「熱は……あるな」
「あははー、ひんやりー」
「こいつ」

 反省の「は」の字も見えない。
 ゼルファスの手を取って、勝手に頬に当てて保冷剤代わりにしている。

「これだから誰かと一緒に暮らすのは嫌なんだ。早く風邪治して、さっさとこの家を出てけよ」
「そう言って、今の状態の俺を追い出さないの、優しいよね。ゼルファスは」
「……」

 いつもよりも表情を緩ませて笑うリアンに、ゼルファスは何とも言えない気持ちになった。

「ほんと、不器用な優しさだよねぇ」
「……あーもう! 無駄口はいいから早く食えって!」
「まーまー怒らないで。ね? ゼルファスが風邪をひいた時は、ちゃんと俺が面倒見てあげるからー」
「俺は風邪ひきません!」
「分からないじゃん」

 けたけたと楽しそうに笑うリアン。
 ゼルファスは心なしか、自分の顔が少し熱くなったような気がした。

「……はあ、もういいや。お前を相手にしてると、なんだか本当に具合が悪くなった気がする」
「ほんと? じゃあ一緒に寝る?」
「誰が寝るか。早く飯食って、片付けさせてくれ」

 そう言いつつも、ゼルファスはリアンの枕元の水差しを整え、よれてしまった布団を綺麗に直した。
 本人も無自覚なうちに、気付けば手が動いている。

「……ったく、面倒なやつだな」
「あ、俺病人だから、なんならご飯食べさせてくれてもいいよ?」
「やらねぇよ! 子供か!」
「えーっ、食べさせてくれないの? おかーさーん」
「そこはせめてお父さんだろ!」

 こうして今日も馬鹿みたいな一日が終わっていく。
 外では、雨上がりの空に小さな虹がかかっていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

この俺が正ヒロインとして殿方に求愛されるわけがない!

ゆずまめ鯉
BL
五歳の頃の授業中、頭に衝撃を受けたことから、自分が、前世の妹が遊んでいた乙女ゲームの世界にいることに気づいてしまったニエル・ガルフィオン。 ニエルの外見はどこからどう見ても金髪碧眼の美少年。しかもヒロインとはくっつかないモブキャラだったので、伯爵家次男として悠々自適に暮らそうとしていた。 これなら異性にもモテると信じて疑わなかった。 ところが、正ヒロインであるイリーナと結ばれるはずのチート級メインキャラであるユージン・アイアンズが熱心に構うのは、モブで攻略対象外のニエルで……!? ユージン・アイアンズ(19)×ニエル・ガルフィオン(19) 公爵家嫡男と伯爵家次男の同い年BLです。

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

最弱白魔導士(♂)ですが最強魔王の奥様になりました。

はやしかわともえ
BL
のんびり書いていきます。 2023.04.03 閲覧、お気に入り、栞、ありがとうございます。m(_ _)m お待たせしています。 お待ちくださると幸いです。 2023.04.15 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m 更新頻度が遅く、申し訳ないです。 今月中には完結できたらと思っています。 2023.04.17 完結しました。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます! すずり様にてこの物語の短編を0円配信しています。よろしければご覧下さい。

【完結】巷で噂の国宝級イケメンの辺境伯は冷徹なので、まっっったくモテませんが、この度婚約者ができました。

明太子
BL
オーディスは国宝級イケメンであるにも関わらず、冷徹な性格のせいで婚約破棄されてばかり。 新たな婚約者を探していたところ、パーティーで給仕をしていた貧乏貴族の次男セシルと出会い、一目惚れしてしまう。 しかし、恋愛偏差値がほぼ0のオーディスのアプローチは空回りするわ、前婚約者のフランチェスカの邪魔が入るわとセシルとの距離は縮まったり遠ざかったり…? 冷徹だったはずなのに溺愛まっしぐらのオーディスと元気だけどおっちょこちょいなセシルのドタバタラブコメです。

魔王の下僕は今日も悩みが尽きない

SEKISUI
BL
魔王の世話係のはずが何故か逆に世話されてる下級悪魔 どうして?何故?と心で呟く毎日を過ごしている

悪役令息の兄って需要ありますか?

焦げたせんべい
BL
今をときめく悪役による逆転劇、ザマァやらエトセトラ。 その悪役に歳の離れた兄がいても、気が強くなければ豆電球すら光らない。 これは物語の終盤にチラッと出てくる、折衷案を出す兄の話である。

処理中です...