災厄の魔導士と呼ばれた男は、転生後静かに暮らしたいので失業勇者を紐にしている場合ではない!

椿谷あずる

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11.災厄の魔導士が聞いて呆れる

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 倉庫の扉の先は、一面の銀世界だった。
 穀物袋は全くの無傷、しかし天井からは氷柱が垂れている。床はまるでスケートリンク。ネズミの姿は一匹もいない。もちろん、魔物も。

「……まさかゼルファスがこんなに強かったなんて」

 リアンが感嘆とも驚きともつかぬ声を漏らす。
 ゼルファスは頭をかきながら、ため息をついた。

「お前はこれからは、剣を抜くときは周りを見てやってくれ。な?」

 二人は、すっかり静かになった倉庫の前で、ひっそりと反省会を行っていた。
 まだ若干ひんやりとしている倉庫を背景に、反省しているのはゼルファスの方である。

「ねえゼルファス、もっと凄い魔法使えるの?」
「……使えません。つーか、リアン。俺の話聞いてる?」
「ねー、俺にも魔法教えて」
「お前な……」

 ああ駄目だ。こいつ全然聞いてない。
 想像を超えた威力の魔法に興奮したのか、リアンの目は楽しそうにキラキラしていた。ゼルファスはもう一度ため息をつく。
 本当はあそこまでやるつもりじゃなかったのに。

「もー、いいからさっきのは忘れろ」
「なんでー?」
「いいから! 忘れろ! 事故……これは、事故です!」

 ついイラッとして怒り任せに放った魔法は倉庫一帯を丸ごと凍らせた。しかし、幸いなことに理性が残っていたらしく、倉庫の穀物はプロテクトの魔法を張っていたため無傷だった。
 酷い暴走だ。――災厄の魔導士が聞いて呆れる。
 こいつと一緒に行動するようになってから、何かがおかしい。

「俺は! 別に! どこにでもいる薬師のお兄さん! 凄い魔法とか使えないの! 分かった!?」
「使ってたじゃん」
「忘れろって言ってんだろ!!」
「……はーい」

 叫びながら頭を抱えるゼルファス。
 リアンは我慢を強いられた子供のように、つまらなさそうに返事をした。
 それから、魔法の氷が跡形もなく消え去っていった頃、退治を依頼した若い村人が様子を見に二人の元へ駆け寄ってきた。

「おお、さすがだな!」

 すっかり綺麗になった倉庫を見て、喜びの表情を見せる村人に、ゼルファスは苦笑した。

「まあ、なんとかな」
「これでみんな喜ぶよ、ありがとな。やっぱりお前に頼んで正解だったよ、ゼルファス。そっちの兄ちゃんも」
「どういたしまして……でもこれ、本当はゼルファスが凄い魔法で、全部退治し――」
「リアン?」
「……なんでもない」

 首を振って口をつむぐリアン。
 二人のやり取りを見て、村人はからから笑った。
 
「これはあくまで飯のためだからな。約束通り食材は……」
「ああいいよ、好きなの持っていけ!」
「じゃあ、この小麦を全部」
「リアン、お前は黙ってろ」

 即座につっこみが入る。
 こうして二人は、村人から食料の一部を分けてもらったのだった。

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