Intrusion Countermeasure:protective wall

kawa.kei

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第352話

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 あまりモチベーションの上がらない訓練期間を経てイベント当日。
 ユニオンホームをぐるりと振り返ると、ふわわはようやく慣れたのか平常運転。
 マルメル、グロウモスはテンションが低く、早く元の機体に戻りたいといった様子が露骨に見て取れる。

 シニフィエはいつも通り。 
 ヨシナリはふわわと同様にようやくⅠ型の感覚に馴染んで来たので、テンションは高くはないが低くもなかった。

 「はい、取り敢えずこれからイベントが開始となります。 条件は全員ほぼ同じ、生き残れる可能性は比較的高いので賞金狙って頑張っていきましょう」

 ヨシナリがそう言って締めようかと思っていると不意にふわわが小さく手を上げる。
 こういった場面では何か言う事が珍しかったからだ。 何でしょうと促す。

 「なぁ、ヨシナリ君、賞金でたらユニオンの設備弄らへん? この殺風景な部屋からそろそろ卒業したいなーって思ってるんやけど」
 
 そう言えば前からふわわは設備を弄りたがってたなと思い出した。
 正直、喋るか感想戦をするだけの場所だったので、ヨシナリはあんまり気にならなかった事もあって後回しになってしまっていた。 少し悪い事をしてしまったなと思いつつ星座盤のユニオンホームをぐるりと見回す。

 人数分のパイプ椅子とソファー、小さなテーブルだけ。 
 壁はコンクリート打ちっ放しにしか見えない状態。 これは間違いなく殺風景だろう。
 せめて窓ぐらいは付けた方がいいかもしれない。

 「分かりました。 なら、勝敗の有無にかかわらず部屋のリフォームをしましょう」
 「おー、流石はリーダー! レイアウトとかは好きにしてええの?」

 前のイベント報酬がまだ残っているので少しぐらいは設備投資してもいいだろう。

 「お好きにどう――」
 「ちょっと待ったー!」

 正直、よほど変な事にならない限り、見た目はどうでもよかったヨシナリとしては好きにしてくれといった感じだったのだが待ったをかけた者がいた。 シニフィエだ。
 
 「お義兄さん。 姉を甘やかしてはいけません!」
 「いや、別に甘やかしたりとかは……」
 「いーえ、甘やかしています。 ですので、ここは全員に平等に機会を与えるべきです!」
 「――というと?」
 「このイベントで最もいい成績を残した者がこの部屋を好きに弄り倒せるというのはどうでしょうか? それと何でもかんでもお義兄さんの財布に頼るのも間違ってます。 その場合、費用は成績優秀者の賞金から出して不足分をお義兄さんが補填する。 これでどうでしょう?」
 
 ――ふむ。

 悪くない提案だった。 全体的にモチベーションが低かったのでそれを補う意味でもいい話だ。
 
 「いいアイデアだと思うけど、俺に装備やらパーツを強請ってたのはアリなのか?」
 「にゃん♪」
 「…………はぁ、アバターでやられても何も可愛くないからな」

 声は可愛いけど。

 「ふぅ、ともあれ提案自体は悪くない。 皆はどう思う?」
 「俺は全然いいぜ。 好きにしていいって事は誰も文句を言わないって事も条件に含まれてるんだよな?」
 「あぁ、一応は勝負の結果だからな。 どんな結果でも敗者は受け入れるべきだろ? 変更するにしても変えた当人の同意なしでは弄れないって事にしよう」
 「よっし、なら俺が勝ってこの部屋を俺色に染めてやるぜ!」
 
 マルメルはさっきまでのテンションの低さが嘘のようだ。
 
 「わ、私もいい、と、思う。 ――ってかお義兄さんって何? 何なの?? ついでにあのあざとさとか狙ってるでしょクソ、私もそれぐらいできるっつーの。 ヨシナリもヨシナリで鼻の下を伸ばしてる?私の事好きな癖に。私の事好きなんじゃないの??」

 グロウモスも乗り気のようだ。
 後半はブツブツと何を言っているのか分からないが、とにかく乗り気のようだった。
 ヨシナリはそれだけ分かれば充分なので彼女の全身から噴き出す負のオーラからは務めて目を逸らす。

 「ウチもそれで問題ないよ。 寧ろ、この条件の方が燃えるしな?」
 「そりゃよかった」
  
 やる気が出るなら何の問題もない。 ヨシナリとしても望むところなので、異論はなかった。

 「よし、なら一番いい成績を出した奴が賞金で好きにリフォームする。 で、足りない分は俺が出すって事で! 皆、頑張ろう!」

 やる気が出たのかさっきよりも少しテンションの上がったメンバーに内心で良かったと思いつつ、ウインドウを操作してイベント会場へ向かった。


 ――移動先は何もない空間で、目の前にはウインドウがあるだけ。

 そこにはチーム抽選中とだけ表示されている。
 どうやら参加者をランダムで組ませるようだ。 
 変なのと当たらないといいなと思いつつ待っていると決まったのか視界が変化する。

 移動先は小さな小部屋でパイプ椅子があるだけの殺風景な場所だ。
 そこにヨシナリを含めて三体のアバターが出現。 ヨシナリは二人を見る。
 片方には見覚えがあった。 プレイヤーネーム『まんまる』所属は『豹変』。
 ポンポンとよく一緒にいる印象で、得意レンジは中~遠距離戦。 

 機体はプリンシパリティを主に使用しているが、戦い方から中距離戦に適性が高いように見える。
 もう一人は――プレイヤーネーム『ホーコート』。 ランクはG、初見のプレイヤーなので詳細は不明。
 案内を見るとどうもこの二人がチームメンバーで、一緒に戦っていく事になるようだ。

 「ど、どど、どうも、まんまるですぅ。 よ、よろしくお願いしますぅ……」
 「あぁ、どうもです。 一緒に頑張りましょう」

 まんまるはBランクなので戦力としてはかなり期待できる。
 問題は残りだが――

 「どーも、ホーコートです。 アンタの事知ってるぜ? コバンザメして稼いでるって話じゃないっすか。 いいっすねー、俺もあやかりたい物っスわー」

 声の感じからして同年代ぐらいか。 明らかにヨシナリに対していい印象を抱いていないようだ。
 ヨシナリは内心で小さく溜息を吐く。 面倒そうな奴だなと思ったからだ。

 「まぁ、そこは否定しませんよ。 実際、助けて貰ってイベントでいい成績を出してるんで」
 「え? でも……」
 「ふーん。 じゃああんたは雑魚って事でいいんすよね? だったら、この場は俺が仕切ってもいいっすか? 俺、マジでアンタよりも強いんで、リーダーはこの場で最強の奴が相応しいっしょ?」
 
 まんまるが何かを言いかけていたが、ホーコートは威嚇するように顔を近づけてくる。
 プレイヤーとしての実力は不明だが、見た感じは非常に小物臭かった。
 ウインドウを操作してルールを確認すると確かにチーム結成に当たってリーダーを決定する必要があると書いてある。 

 ――どうしたものかな……。
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