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Kapitel 03
再起 02
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ウルズの泉――――。
その泉は、只人では踏破が叶わない仙境の地にあった。行き交うのは獣や鳥ばかり。鬱蒼と生い茂る木々の葉に陽光が遮られて昼間でも薄暗く、何処からともなく風が吹き抜けて涼しい。時折、獣の足音や鳥の囀り、風の通る音が聞こえる以外は、清涼で静謐だった。そのような未開の森林の最深部にぽっかりと空いた空洞のように、その泉はあった。
その泉は清く、水底が目視できるほど大変透明度が高い。水底にはところどころから結晶が生え、それらはどれも薄紫や青緑に美しい。この世のものとは思えない幻想的な空間だ。
アキラは泉に横たえられていた。変わらず瞼を閉ざしたまま、岸辺を枕にして顔を水面から出し、その身体のほとんどは泉に浸かっていた。
天尊はアキラの傍、岸辺に生えた木に背中で凭りかかって座りこみ、アキラを見詰めていた。此処にやって来てアキラを横たえてから、この場からほぼ移動していない。
パキッ。――乾いた小枝を踏み割った音。
天尊の近くに黒いローブを纏った人物が立った。人相は頭から被った黒いベールに隠されている。ウェーブのかかった黒髪がベールの下から胸を過ぎるまで伸びる。
「ファシャオの倅。ティエンゾンの坊や」
黒いベールの向こうから聞こえたのは、落ち着いた大人の女性の声。若いのか年嵩なのか見当が付かない、不思議な声音だった。
娘の様子はどうだい、とローブの女性は泉のほうへ目を遣った。そして「変わらずか」と小さく呟いた。
「もうかなり長い時間浸している。ずっとこのまま浸し続けて身体は大丈夫か」
天尊はローブの女性を見ずに尋ねた。
「お前の目には泉のように見えていても、これは水ではない。浸かって冷たさもなければ濡れもしない。これの所為で身体が弱ることはない。そうさな、寝心地がいいとは言えんから、床ズレの心配でもしてやれ」
「ソルウィ・ヴィゾールヴ。泉でなければ、お前にはどう見えている」
天尊は目線をアキラに固定したままで、ローブの女性に再び尋ねた。
「ネェベルでできた蜜酒かな」
ソルウィが冗談のようにフフフと笑い、天尊は馬鹿馬鹿しいとでも言うように顎を左右に振った。とてもではないが冗談に付き合う気分ではなかった。
「どのくらいで醒める?」
「さあね。意識が戻らないのは怪我の所為じゃない。怪我ならいついつ頃と見積もれようが、これはそうはいかない。もうすぐかもしれないし、明日かもしれない。運が悪ければ数年かかるか、もしかしたら死ぬまでこのままかも……」
「次に同じことを言ったらこの森ごと燃やすぞ」
天尊は意識的に暴言を吐いた。
ソルウィはそれをフフフと笑って受け流した。
声音からは年齢が判らないと言ったが、冗談めかして笑うときのソルウィの声は少女のように甲高く、天尊の癇に障った。
「意識が戻らないのは怪我の所為じゃないと言ったな。お前には原因が分かるのか」
「坊やを見ればね、見当は付く」
天尊がようやくソルウィのほうへ顔を向けると、ソルウィの目がこちらを見ているのがベールの越しでも分かった。
ソルウィの腕がゆっくりと動き、生っ白い指先が天尊の肩に乗っかった。
「邪竜封じの法紋が千切れかけている。……いや、千切れたね」
天尊は肯定も否定もしなかったが、ソルウィは何らかの確信があって言葉を続けた。天尊の傍にしゃがみ込んで自分の太腿に肘を突いて頬杖にし、泉に横たえられた少女に目線を向けた。
「濃すぎるネェベルは弱い者には毒なのよ。特に、太古の気を纏った人ならざるネェベルなんかはね。見たところ、その子は元々この世界の住人でもない。この世界の在り様に馴染んでもいないところ、邪竜の瘴気に中てられでもしたんだろう」
ソルウィの見立ては、耀龍の仮説よりもよっぽど天尊を納得させた。
天尊はソルウィの横顔を、薄いベールに透けて見えるガラス玉のような眸を、ジッと見詰めた。
すべてを見透かしているような眸だ。目の前にいる人物の本性や心根だけでなく過去も未来も、この世の事象すべてを見たかのような。そのようなものは、天尊の性格上、通常なら最も気に入らないもののひとつに該当する。しかし、今は見透かされたかった。最早自分のものでさえない自分の過去を、自分の儘にはならなかった所業を、見通して包み隠さず教えてほしかった。
天尊は耀龍と麗祥のほんの少しの違和感を見落とさなかった。自分に何かを隠していると直感した。あの従順な弟たちが自分を欺いてまで隠したいもの、それは自分の決定的な過ちなのだろうと勘づいていた。勘づいてしまったからには、知らねばならない。目を伏せて知らない振りをしようとするのは、卑怯な臆病者のすることだ。
「ソルウィ。もうひとつ頼みがある。俺はここ一年くらいの記憶がハッキリしない。特に《邪視》が覚醒して何があったか、思い出させられるか」
ソルウィは横目で天尊をジロジロと眺めて、フゥン、と零した。
「あまり昔のは簡単にはいかないがね。物忘れの薬でも作ってやろう」
「薬でどうにかなるか?」
「儀式も少々必要だね。早ければ早いほうがいい。邪竜が目覚めている間、お前は隅に追い遣られ、夢を見ていたようなものだったろう。夢は思い出すのも憶えているのも簡単じゃあない。ただお前の場合は、お前が眠りこけていても肉体が記憶しているだろうよ。お前も邪竜も肉体はひとつだ」
ソルウィはベール越しに自分の目を指差して見せた。
「坊や。この泉が蜜酒に見える私の目に、お前がどのように映るか分かるかい。邪竜だよ。お前にはまだ、あの穢らしい邪悪が纏わりついている」
ソルウィのガラス玉のような澄んだ眸は、きっとすべてを見透かす。その人物の過去も未来も。隠そうと厭おうとに拘わらず、その本質も。どのように視えるかを知る術はない。
その双眸には、蛇のように身の長い黒い竜が、天尊に蜷局を巻いているのが視えた。
一度封印から解き放たれてしまった所為か、天尊の身体には、その徴候が色濃く表われている。紫水晶の双眸――《邪視》たる由縁――それこそが邪竜の持ち物だ。
「一時安定しているように見えても、いつまでも続くとは限らない。お前に宿るのは神代の邪竜。奇跡でも起きて人の身で御せるなど思わんことだ」
「……分かっている」
さてと、とソルウィは腰を持ち上げた。天尊からの依頼を果たすには準備が必要だ。
「お前も泉に浸かるといい。その身の瘴気が浄化されキレイになったほうが、きっとその娘の目覚めも早い。身がキレイになったら、ひとまず邪竜封じの法紋を繋ぎ直してやろうかね」
ソルウィからトントンと肩を叩かれ、天尊は返事こそしなかったが素直に立ち上がった。丈の長いコートのような上着を脱ぎ、シャツのボタンを外して脱ぎ捨て、自分が座っていた木の根元に放った。
天尊の背中には、邪竜封じの紋様を描いた――自由を得る為の代償――青黒い刺青が浮いていた。幼い頃に彫られ始め、成長とともに彫り進められ、成人したときには背中全面を覆っていた。これは〝まじない〟に精通した腕のよい彫り師が施した特別な彫り物。普段は鳴りを潜めているが、邪悪なる存在が暴れ出したときにそれを縛りつけて封じこめる為に紋様が表出する。
天尊は裸足になり、ソルウィに言われたとおり、バシャバシャと泉のなかに入っていった。アキラの横に並んで腰を落とした。腰の辺りまで泉に浸かってアキラにジッと視線を注いだ。
ソルウィは人形のように横たえられた少女と並んだ天尊の背中を眺めてフッと笑みを零した。
(青春じゃあないか。あの坊やが飽きもせず何時間も女の寝顔をただ眺めているなんて)
日没近くなった頃。
ソルウィは準備は整ったと告げた。
天尊を泉から上がらせ、その岸辺に胡座を掻いて座らせた。天尊の背中には変わらず刺青が浮いていたが、ソルウィ曰く、泉によって邪竜の瘴気はかなり浄化されたそうだ。
ソルウィは天尊の口に物忘れの薬と酒を含ませた。薬とは言っても、天尊にとっては得体の知れない木の実や葉を擂り潰してさらに生の葉で巻いたもの。非常に青臭くもあり煙草のような臭いもする。噛むとさらに悪い。仄かな甘さが合わさって気持ちの悪い味だった。たとえご馳走だと言われたって、自分から頼んだのでなければ決して口にしない酷い代物だ。
何度も噛んでいる内に頭痛がしてきた。グチャグチャと奥歯に力を入れる度に蟀谷に鈍痛が伝わる。頭蓋のなかから響いてくるような痛みだ。
ソルウィは天尊の額に手を置いて〝まじない〟の呪文を唱え始めた。それは天尊にも何ら理解できないものだった。
〝まじない〟を、麗祥は前時代的で非効率なものだと断じた。この世界の解明され定義された物理やエネルギーの法則に則った、天尊たちが扱うプログラムとは、まったく異なる摂理を頼るものだ。不確かで曖昧で摩訶不思議だが、ヒトがプログラムを確立するよりずっと昔、ヒトが存在する以前より存在する、名状しがたい力の懸河。神話の時代へとつながる言語、もしくは歌謡。それ故に、神代の邪竜に近しいものだ。
ソルウィ・ヴィゾールヴ――最も古き〝まじない〟の女――神々の舞い手にして歌い手。そして、神々の声を聞く者。
焚き火に照らされた人影が跳ね回るように踊り狂う。歌うような笑うような女の声が暗闇の森に谺し、獣の遠吠えが幾重にも輪唱した。
いつの間にか日が暮れていた。
天尊の意識も真っ暗闇に落ちていた。遠くのほうからいくつもの声が聞こえる。暗闇に映像がフラッシュした。あっという間に近づいてきて、目まぐるしく明滅し、ぶつかって四散した。
――「どうして帰ってきてくれないの」
――「ティエン、帰ってきてよ」
――「貴様は無能な愚図だ」
――「うああああーッ!」
――「もう一年近く変化がない。このままプロジェクトごと破棄されるんじゃないか」
――「私が使ってやらねば価値はないというのに、こうも手を煩わせるとは。まったく、愚鈍で穢らわしい化け物め」
――「ダメです。何をやっても覚醒しません。こんなはずはないのに……」
――「実験を次のフェーズへ移行する。対象を覚醒させろ」
――「投薬開始。対象の意識レベル、徐々に低下中。心拍数、脈拍、沈静化。ネェベル、安定しています。意識レベル、さらに低下――……」
――「まさか今回の研究対象がエインヘリヤル少佐殿とはな」
「ッ……! ぐああッ」
天尊は酷い頭痛のなかで覚醒した。頭部を鈍器で殴られたような頭痛だ。ガクンッと地面に手を突いた。起き抜けに反射的に頭を振ってさらに気分が悪くなった。
いいや、そのようなことはどうでもよい。自分のことなどどうでもよい。恐怖、憤怒、後悔、御しがたい感情が途轍もない勢いで渦巻いて臓腑が震える。土を握り締める手がぶるぶると震える。
この手で少女の細い首を絞めた。この顎で華奢な骨を噛み砕いた。この喉で温かい生き血を啜った。記憶とともに生々しい感触が蘇ってきた。脈打つ鼓動、柔らかさと温かさ、苦悶の表情、甲高い叫声。それらをすべて握り潰して、この少女を食べてしまおうとした。
あの血肉の味を、甘く覚えていることにゾッとした。自分自身に吐き気がする。虫唾が走る。憎らしい。殺してやりたい。罪悪感などとうに通り越して殺意を覚える。
――やはり俺は化け物だと思い知った。
「俺がッ……俺が……アキラをッ……!」
バチンッ。バチバチッ。バヂンッ!
天尊の周辺の空間を電流が走って弾けた。
巻きこまれてはたまらない、とソルウィはふわりと軽いステップで天尊から距離を取った。
「莫迦者。落ち着かんか。せっかく眠りこけておる邪竜を起こすつもりか。言ったろう。お前と邪竜は――」
ズドォオオンッ!
近くの木に雷が落ちた。一瞬にして黒く焼けた樹木は、メキメキメキッと軋みながら倒れた。
ソルウィは口を噤んで天尊を見詰める目を細めた。
(最早、坊やには私の声は届かんか)
天尊のちぐはぐな様は、非常に危ういバランスで維持されている。奇跡など期待するなと言ったが、拮抗している現状が奇跡のようなものだ。封印が綻びた状態で《邪視》が沈静を保ち、天尊が自我を保っていられるのは神々の気まぐれでしかない。《邪視》の存在を許容し、頼り、欲したときに、或いは、この世界や自分自身を呪ったときに、すぐさま取って代わられる。
己に眠る大いなる力の奔流を否定し、無視し、拒絶するのは、人の身にはとても困難だ。〝力〟は甘美な麻薬。目が眩まない者はいない。
ぴちゃんっ。――雫が落ちる音。
天尊はハッとして水音のほうへ目を向けた。
上半身を起こしたアキラが、こちらに背中を向けて泉に座って佇んでいた。その髪の毛の先端から、水滴がまたひとつ滴り落ちた。
「ア……アキラ……」
天尊はゴクリと生唾を嚥下した。名前を呼ぶだけで緊張した。
ややあって、アキラはゆっくりと天尊のほうを振り向いた。アキラの真ん丸な黒い目が天尊を見つけた。
天尊はその場に手足を縫いつけられたように動けなかった。喜ばしいはずなのに、名前を呼ぶのが怖ろしかった。逢いたかったのに、その瞳が自分を映すのが怖ろしかった。すぐ近くにいるのに、手を伸ばすのが怖ろしかった。わたしを殺そうとした酷い男と拒絶されるのが、何より怖ろしかった。
実際に酷い話だ。何の力も持たない少女が命を懸けてくれたのに、それを裏切り、返り討ちにし、手にかけようとした。恨まれて憎まれて罵られて当然だ。当然だと思いつつ、それを怖れる。救いがたい木偶の坊だ。
ばしゃんっ。――アキラは水飛沫を撥ね上げて泉から上がり、天尊に抱きついた。
「ティエン!」
ティエン、ティエン、と、アキラは何度も名前を呼んだ。胸板に額を擦りつけて抱き締めた。これが夢ではないと、目の前にいるのが偽物ではないと、全身で存在を確かめる行為だ。
「ティエン、生きててよかった。もう会えないかと、思った……ッ」
「俺が恐くないのか……?」
天尊は半ば茫然と疑問を口にした。
アキラは天尊の胸板から額を離して顔を見上げた。
「ティエンを? 何で?」
殺しかけてすまない、などと阿呆みたいな台詞は言えなかった。しかし、適切な謝罪の言葉は思い浮かばない。天尊がアキラにした仕打ちは、謝って許されるものではない。
――やはり俺は、無能な愚図だ。
「俺の所為で酷い目に……遭わせた」
「わたしのことはいいよ。もう痛くな――……え? 指が生えてる」
アキラはふるふると首を左右に振った。そして、ふと自分の手元に目を落として驚いた。
「龍が治した。身体には傷ひとつ残っていないはずだ」
(ホントにわたしの指なのかな)
アキラは自分の左手の薬指を凝視した。
天尊の言うとおり傷痕はまったく見て取れない。皮膚が突っ張るなどもなく、ちゃんと動くし触感もある。それがかえって不気味だ。根元から切断された指が何処へ行ってしまったのか自分でも分からない。耀龍はそれを探し出してくっつけたのだろうか。それとも肉の塊をこねくり回して指を再建したのだろうか。
「傷が癒えたからといって、それで俺のしたことがなかったことになるわけじゃない。俺はこの手で、アキラをッ……」
アキラは天尊の頬に手を添えた。天尊の目を真っ直ぐに覗きこんだ。
「ティエン。目の色、このままなんだね。紫色……」
「これは……」
天尊が何かを言う前に、アキラは「うん、大丈夫」と頷いた。
「ちゃんとティエンだ。ティエンが帰ってきてくれてよかった」
天尊はアキラとの再会を怖れたのに、アキラは何も怖れず、よかったよかった、と頷いた。ただただ喜んでくれた。恐怖も嫌悪もなく、歓心だけがあった。それが無性に嬉しくて抱き締めたくなった。
しかしながら、それが許されるのだろうか。傷つけたこの手で触れて抱き寄せるなどという不誠実が。
「許すのか……俺を」
「最初から何も怒ってないよ」
アキラは眉尻を引き下げ、天尊を安心させるようにニッコリと微笑みかけた。
天尊は罪悪感や悔恨、恋慕、渇望、綯い交ぜの感情が突沸した。熱のような感情が込み上げ、自分でも気づかない間に衝動的にアキラを抱き締めていた。
アキラはウッと呼吸が詰まった。太い腕で背骨をギュウギュウに締め上げられて痛い。
(く、苦しい……かなり)
――でも嬉しいほうが勝ってるから、もうちょっといいか。
逢えなかった時間の分だけ引っ付いていたい。奪われた何かを取り返すように。言葉で確認し合ったわけでもないのに、お互いにそれを望んでいる確信があった。お互いに長い間、逢いたいと願っていたことを感じ取った。皮膚と皮膚とで。
しばらくして天尊の腕の力が弛んだ。それでもアキラを腕のなかに囲って離さなかった。
ほんの少し自由になったアキラは、天尊の顔を見上げた。まだ何かを恐がっているような不安げな眼差しをしていた。アキラが許すと宣言しても、天尊が罪悪感を払拭するのは当然に困難だった。
「アキラ。愛している」
これも衝動的だった。取り返しのつかない罪悪感を抱きながら、このようなことを言う権利はないと断じながら、アキラを目の前にしては制御できなかった。理性でブレーキが利かない。激情に突き動かされる。愚かだ。盲目だ。溺れている。
「長い時間、会いに行けなくてすまない。こんなに髪が伸びるまで待たせて、本当にすまない。俺の気持ちは今も何も変わっていない。あのときと変わらず愛している。あのときも、今も、これからも、アキラだけを愛している」
「わたしも……ティエンが好き。……好きだよ……」
アキラは頬を染めて俯き加減になり、羞じらいながら小さな声で応えた。
天尊は眉間や額に皺を寄せて微笑んだ。
この人はまだ何か不安なのだろうな、とアキラは悟った。自分が思っている以上に、自分を傷つけたことに罪悪感を抱いている。自分のように全部終わったことだと片づけてしまえない。
アキラは天尊の胸板の上に頬を置いた。胸の重しを軽くしてあげたいが、その上手い方法が分からなかったから、寄り添うことにした。
――そんな顔しなくて大丈夫だよ。心臓を捧げられる恋だった。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
その泉は、只人では踏破が叶わない仙境の地にあった。行き交うのは獣や鳥ばかり。鬱蒼と生い茂る木々の葉に陽光が遮られて昼間でも薄暗く、何処からともなく風が吹き抜けて涼しい。時折、獣の足音や鳥の囀り、風の通る音が聞こえる以外は、清涼で静謐だった。そのような未開の森林の最深部にぽっかりと空いた空洞のように、その泉はあった。
その泉は清く、水底が目視できるほど大変透明度が高い。水底にはところどころから結晶が生え、それらはどれも薄紫や青緑に美しい。この世のものとは思えない幻想的な空間だ。
アキラは泉に横たえられていた。変わらず瞼を閉ざしたまま、岸辺を枕にして顔を水面から出し、その身体のほとんどは泉に浸かっていた。
天尊はアキラの傍、岸辺に生えた木に背中で凭りかかって座りこみ、アキラを見詰めていた。此処にやって来てアキラを横たえてから、この場からほぼ移動していない。
パキッ。――乾いた小枝を踏み割った音。
天尊の近くに黒いローブを纏った人物が立った。人相は頭から被った黒いベールに隠されている。ウェーブのかかった黒髪がベールの下から胸を過ぎるまで伸びる。
「ファシャオの倅。ティエンゾンの坊や」
黒いベールの向こうから聞こえたのは、落ち着いた大人の女性の声。若いのか年嵩なのか見当が付かない、不思議な声音だった。
娘の様子はどうだい、とローブの女性は泉のほうへ目を遣った。そして「変わらずか」と小さく呟いた。
「もうかなり長い時間浸している。ずっとこのまま浸し続けて身体は大丈夫か」
天尊はローブの女性を見ずに尋ねた。
「お前の目には泉のように見えていても、これは水ではない。浸かって冷たさもなければ濡れもしない。これの所為で身体が弱ることはない。そうさな、寝心地がいいとは言えんから、床ズレの心配でもしてやれ」
「ソルウィ・ヴィゾールヴ。泉でなければ、お前にはどう見えている」
天尊は目線をアキラに固定したままで、ローブの女性に再び尋ねた。
「ネェベルでできた蜜酒かな」
ソルウィが冗談のようにフフフと笑い、天尊は馬鹿馬鹿しいとでも言うように顎を左右に振った。とてもではないが冗談に付き合う気分ではなかった。
「どのくらいで醒める?」
「さあね。意識が戻らないのは怪我の所為じゃない。怪我ならいついつ頃と見積もれようが、これはそうはいかない。もうすぐかもしれないし、明日かもしれない。運が悪ければ数年かかるか、もしかしたら死ぬまでこのままかも……」
「次に同じことを言ったらこの森ごと燃やすぞ」
天尊は意識的に暴言を吐いた。
ソルウィはそれをフフフと笑って受け流した。
声音からは年齢が判らないと言ったが、冗談めかして笑うときのソルウィの声は少女のように甲高く、天尊の癇に障った。
「意識が戻らないのは怪我の所為じゃないと言ったな。お前には原因が分かるのか」
「坊やを見ればね、見当は付く」
天尊がようやくソルウィのほうへ顔を向けると、ソルウィの目がこちらを見ているのがベールの越しでも分かった。
ソルウィの腕がゆっくりと動き、生っ白い指先が天尊の肩に乗っかった。
「邪竜封じの法紋が千切れかけている。……いや、千切れたね」
天尊は肯定も否定もしなかったが、ソルウィは何らかの確信があって言葉を続けた。天尊の傍にしゃがみ込んで自分の太腿に肘を突いて頬杖にし、泉に横たえられた少女に目線を向けた。
「濃すぎるネェベルは弱い者には毒なのよ。特に、太古の気を纏った人ならざるネェベルなんかはね。見たところ、その子は元々この世界の住人でもない。この世界の在り様に馴染んでもいないところ、邪竜の瘴気に中てられでもしたんだろう」
ソルウィの見立ては、耀龍の仮説よりもよっぽど天尊を納得させた。
天尊はソルウィの横顔を、薄いベールに透けて見えるガラス玉のような眸を、ジッと見詰めた。
すべてを見透かしているような眸だ。目の前にいる人物の本性や心根だけでなく過去も未来も、この世の事象すべてを見たかのような。そのようなものは、天尊の性格上、通常なら最も気に入らないもののひとつに該当する。しかし、今は見透かされたかった。最早自分のものでさえない自分の過去を、自分の儘にはならなかった所業を、見通して包み隠さず教えてほしかった。
天尊は耀龍と麗祥のほんの少しの違和感を見落とさなかった。自分に何かを隠していると直感した。あの従順な弟たちが自分を欺いてまで隠したいもの、それは自分の決定的な過ちなのだろうと勘づいていた。勘づいてしまったからには、知らねばならない。目を伏せて知らない振りをしようとするのは、卑怯な臆病者のすることだ。
「ソルウィ。もうひとつ頼みがある。俺はここ一年くらいの記憶がハッキリしない。特に《邪視》が覚醒して何があったか、思い出させられるか」
ソルウィは横目で天尊をジロジロと眺めて、フゥン、と零した。
「あまり昔のは簡単にはいかないがね。物忘れの薬でも作ってやろう」
「薬でどうにかなるか?」
「儀式も少々必要だね。早ければ早いほうがいい。邪竜が目覚めている間、お前は隅に追い遣られ、夢を見ていたようなものだったろう。夢は思い出すのも憶えているのも簡単じゃあない。ただお前の場合は、お前が眠りこけていても肉体が記憶しているだろうよ。お前も邪竜も肉体はひとつだ」
ソルウィはベール越しに自分の目を指差して見せた。
「坊や。この泉が蜜酒に見える私の目に、お前がどのように映るか分かるかい。邪竜だよ。お前にはまだ、あの穢らしい邪悪が纏わりついている」
ソルウィのガラス玉のような澄んだ眸は、きっとすべてを見透かす。その人物の過去も未来も。隠そうと厭おうとに拘わらず、その本質も。どのように視えるかを知る術はない。
その双眸には、蛇のように身の長い黒い竜が、天尊に蜷局を巻いているのが視えた。
一度封印から解き放たれてしまった所為か、天尊の身体には、その徴候が色濃く表われている。紫水晶の双眸――《邪視》たる由縁――それこそが邪竜の持ち物だ。
「一時安定しているように見えても、いつまでも続くとは限らない。お前に宿るのは神代の邪竜。奇跡でも起きて人の身で御せるなど思わんことだ」
「……分かっている」
さてと、とソルウィは腰を持ち上げた。天尊からの依頼を果たすには準備が必要だ。
「お前も泉に浸かるといい。その身の瘴気が浄化されキレイになったほうが、きっとその娘の目覚めも早い。身がキレイになったら、ひとまず邪竜封じの法紋を繋ぎ直してやろうかね」
ソルウィからトントンと肩を叩かれ、天尊は返事こそしなかったが素直に立ち上がった。丈の長いコートのような上着を脱ぎ、シャツのボタンを外して脱ぎ捨て、自分が座っていた木の根元に放った。
天尊の背中には、邪竜封じの紋様を描いた――自由を得る為の代償――青黒い刺青が浮いていた。幼い頃に彫られ始め、成長とともに彫り進められ、成人したときには背中全面を覆っていた。これは〝まじない〟に精通した腕のよい彫り師が施した特別な彫り物。普段は鳴りを潜めているが、邪悪なる存在が暴れ出したときにそれを縛りつけて封じこめる為に紋様が表出する。
天尊は裸足になり、ソルウィに言われたとおり、バシャバシャと泉のなかに入っていった。アキラの横に並んで腰を落とした。腰の辺りまで泉に浸かってアキラにジッと視線を注いだ。
ソルウィは人形のように横たえられた少女と並んだ天尊の背中を眺めてフッと笑みを零した。
(青春じゃあないか。あの坊やが飽きもせず何時間も女の寝顔をただ眺めているなんて)
日没近くなった頃。
ソルウィは準備は整ったと告げた。
天尊を泉から上がらせ、その岸辺に胡座を掻いて座らせた。天尊の背中には変わらず刺青が浮いていたが、ソルウィ曰く、泉によって邪竜の瘴気はかなり浄化されたそうだ。
ソルウィは天尊の口に物忘れの薬と酒を含ませた。薬とは言っても、天尊にとっては得体の知れない木の実や葉を擂り潰してさらに生の葉で巻いたもの。非常に青臭くもあり煙草のような臭いもする。噛むとさらに悪い。仄かな甘さが合わさって気持ちの悪い味だった。たとえご馳走だと言われたって、自分から頼んだのでなければ決して口にしない酷い代物だ。
何度も噛んでいる内に頭痛がしてきた。グチャグチャと奥歯に力を入れる度に蟀谷に鈍痛が伝わる。頭蓋のなかから響いてくるような痛みだ。
ソルウィは天尊の額に手を置いて〝まじない〟の呪文を唱え始めた。それは天尊にも何ら理解できないものだった。
〝まじない〟を、麗祥は前時代的で非効率なものだと断じた。この世界の解明され定義された物理やエネルギーの法則に則った、天尊たちが扱うプログラムとは、まったく異なる摂理を頼るものだ。不確かで曖昧で摩訶不思議だが、ヒトがプログラムを確立するよりずっと昔、ヒトが存在する以前より存在する、名状しがたい力の懸河。神話の時代へとつながる言語、もしくは歌謡。それ故に、神代の邪竜に近しいものだ。
ソルウィ・ヴィゾールヴ――最も古き〝まじない〟の女――神々の舞い手にして歌い手。そして、神々の声を聞く者。
焚き火に照らされた人影が跳ね回るように踊り狂う。歌うような笑うような女の声が暗闇の森に谺し、獣の遠吠えが幾重にも輪唱した。
いつの間にか日が暮れていた。
天尊の意識も真っ暗闇に落ちていた。遠くのほうからいくつもの声が聞こえる。暗闇に映像がフラッシュした。あっという間に近づいてきて、目まぐるしく明滅し、ぶつかって四散した。
――「どうして帰ってきてくれないの」
――「ティエン、帰ってきてよ」
――「貴様は無能な愚図だ」
――「うああああーッ!」
――「もう一年近く変化がない。このままプロジェクトごと破棄されるんじゃないか」
――「私が使ってやらねば価値はないというのに、こうも手を煩わせるとは。まったく、愚鈍で穢らわしい化け物め」
――「ダメです。何をやっても覚醒しません。こんなはずはないのに……」
――「実験を次のフェーズへ移行する。対象を覚醒させろ」
――「投薬開始。対象の意識レベル、徐々に低下中。心拍数、脈拍、沈静化。ネェベル、安定しています。意識レベル、さらに低下――……」
――「まさか今回の研究対象がエインヘリヤル少佐殿とはな」
「ッ……! ぐああッ」
天尊は酷い頭痛のなかで覚醒した。頭部を鈍器で殴られたような頭痛だ。ガクンッと地面に手を突いた。起き抜けに反射的に頭を振ってさらに気分が悪くなった。
いいや、そのようなことはどうでもよい。自分のことなどどうでもよい。恐怖、憤怒、後悔、御しがたい感情が途轍もない勢いで渦巻いて臓腑が震える。土を握り締める手がぶるぶると震える。
この手で少女の細い首を絞めた。この顎で華奢な骨を噛み砕いた。この喉で温かい生き血を啜った。記憶とともに生々しい感触が蘇ってきた。脈打つ鼓動、柔らかさと温かさ、苦悶の表情、甲高い叫声。それらをすべて握り潰して、この少女を食べてしまおうとした。
あの血肉の味を、甘く覚えていることにゾッとした。自分自身に吐き気がする。虫唾が走る。憎らしい。殺してやりたい。罪悪感などとうに通り越して殺意を覚える。
――やはり俺は化け物だと思い知った。
「俺がッ……俺が……アキラをッ……!」
バチンッ。バチバチッ。バヂンッ!
天尊の周辺の空間を電流が走って弾けた。
巻きこまれてはたまらない、とソルウィはふわりと軽いステップで天尊から距離を取った。
「莫迦者。落ち着かんか。せっかく眠りこけておる邪竜を起こすつもりか。言ったろう。お前と邪竜は――」
ズドォオオンッ!
近くの木に雷が落ちた。一瞬にして黒く焼けた樹木は、メキメキメキッと軋みながら倒れた。
ソルウィは口を噤んで天尊を見詰める目を細めた。
(最早、坊やには私の声は届かんか)
天尊のちぐはぐな様は、非常に危ういバランスで維持されている。奇跡など期待するなと言ったが、拮抗している現状が奇跡のようなものだ。封印が綻びた状態で《邪視》が沈静を保ち、天尊が自我を保っていられるのは神々の気まぐれでしかない。《邪視》の存在を許容し、頼り、欲したときに、或いは、この世界や自分自身を呪ったときに、すぐさま取って代わられる。
己に眠る大いなる力の奔流を否定し、無視し、拒絶するのは、人の身にはとても困難だ。〝力〟は甘美な麻薬。目が眩まない者はいない。
ぴちゃんっ。――雫が落ちる音。
天尊はハッとして水音のほうへ目を向けた。
上半身を起こしたアキラが、こちらに背中を向けて泉に座って佇んでいた。その髪の毛の先端から、水滴がまたひとつ滴り落ちた。
「ア……アキラ……」
天尊はゴクリと生唾を嚥下した。名前を呼ぶだけで緊張した。
ややあって、アキラはゆっくりと天尊のほうを振り向いた。アキラの真ん丸な黒い目が天尊を見つけた。
天尊はその場に手足を縫いつけられたように動けなかった。喜ばしいはずなのに、名前を呼ぶのが怖ろしかった。逢いたかったのに、その瞳が自分を映すのが怖ろしかった。すぐ近くにいるのに、手を伸ばすのが怖ろしかった。わたしを殺そうとした酷い男と拒絶されるのが、何より怖ろしかった。
実際に酷い話だ。何の力も持たない少女が命を懸けてくれたのに、それを裏切り、返り討ちにし、手にかけようとした。恨まれて憎まれて罵られて当然だ。当然だと思いつつ、それを怖れる。救いがたい木偶の坊だ。
ばしゃんっ。――アキラは水飛沫を撥ね上げて泉から上がり、天尊に抱きついた。
「ティエン!」
ティエン、ティエン、と、アキラは何度も名前を呼んだ。胸板に額を擦りつけて抱き締めた。これが夢ではないと、目の前にいるのが偽物ではないと、全身で存在を確かめる行為だ。
「ティエン、生きててよかった。もう会えないかと、思った……ッ」
「俺が恐くないのか……?」
天尊は半ば茫然と疑問を口にした。
アキラは天尊の胸板から額を離して顔を見上げた。
「ティエンを? 何で?」
殺しかけてすまない、などと阿呆みたいな台詞は言えなかった。しかし、適切な謝罪の言葉は思い浮かばない。天尊がアキラにした仕打ちは、謝って許されるものではない。
――やはり俺は、無能な愚図だ。
「俺の所為で酷い目に……遭わせた」
「わたしのことはいいよ。もう痛くな――……え? 指が生えてる」
アキラはふるふると首を左右に振った。そして、ふと自分の手元に目を落として驚いた。
「龍が治した。身体には傷ひとつ残っていないはずだ」
(ホントにわたしの指なのかな)
アキラは自分の左手の薬指を凝視した。
天尊の言うとおり傷痕はまったく見て取れない。皮膚が突っ張るなどもなく、ちゃんと動くし触感もある。それがかえって不気味だ。根元から切断された指が何処へ行ってしまったのか自分でも分からない。耀龍はそれを探し出してくっつけたのだろうか。それとも肉の塊をこねくり回して指を再建したのだろうか。
「傷が癒えたからといって、それで俺のしたことがなかったことになるわけじゃない。俺はこの手で、アキラをッ……」
アキラは天尊の頬に手を添えた。天尊の目を真っ直ぐに覗きこんだ。
「ティエン。目の色、このままなんだね。紫色……」
「これは……」
天尊が何かを言う前に、アキラは「うん、大丈夫」と頷いた。
「ちゃんとティエンだ。ティエンが帰ってきてくれてよかった」
天尊はアキラとの再会を怖れたのに、アキラは何も怖れず、よかったよかった、と頷いた。ただただ喜んでくれた。恐怖も嫌悪もなく、歓心だけがあった。それが無性に嬉しくて抱き締めたくなった。
しかしながら、それが許されるのだろうか。傷つけたこの手で触れて抱き寄せるなどという不誠実が。
「許すのか……俺を」
「最初から何も怒ってないよ」
アキラは眉尻を引き下げ、天尊を安心させるようにニッコリと微笑みかけた。
天尊は罪悪感や悔恨、恋慕、渇望、綯い交ぜの感情が突沸した。熱のような感情が込み上げ、自分でも気づかない間に衝動的にアキラを抱き締めていた。
アキラはウッと呼吸が詰まった。太い腕で背骨をギュウギュウに締め上げられて痛い。
(く、苦しい……かなり)
――でも嬉しいほうが勝ってるから、もうちょっといいか。
逢えなかった時間の分だけ引っ付いていたい。奪われた何かを取り返すように。言葉で確認し合ったわけでもないのに、お互いにそれを望んでいる確信があった。お互いに長い間、逢いたいと願っていたことを感じ取った。皮膚と皮膚とで。
しばらくして天尊の腕の力が弛んだ。それでもアキラを腕のなかに囲って離さなかった。
ほんの少し自由になったアキラは、天尊の顔を見上げた。まだ何かを恐がっているような不安げな眼差しをしていた。アキラが許すと宣言しても、天尊が罪悪感を払拭するのは当然に困難だった。
「アキラ。愛している」
これも衝動的だった。取り返しのつかない罪悪感を抱きながら、このようなことを言う権利はないと断じながら、アキラを目の前にしては制御できなかった。理性でブレーキが利かない。激情に突き動かされる。愚かだ。盲目だ。溺れている。
「長い時間、会いに行けなくてすまない。こんなに髪が伸びるまで待たせて、本当にすまない。俺の気持ちは今も何も変わっていない。あのときと変わらず愛している。あのときも、今も、これからも、アキラだけを愛している」
「わたしも……ティエンが好き。……好きだよ……」
アキラは頬を染めて俯き加減になり、羞じらいながら小さな声で応えた。
天尊は眉間や額に皺を寄せて微笑んだ。
この人はまだ何か不安なのだろうな、とアキラは悟った。自分が思っている以上に、自分を傷つけたことに罪悪感を抱いている。自分のように全部終わったことだと片づけてしまえない。
アキラは天尊の胸板の上に頬を置いた。胸の重しを軽くしてあげたいが、その上手い方法が分からなかったから、寄り添うことにした。
――そんな顔しなくて大丈夫だよ。心臓を捧げられる恋だった。
熒閂の最新話はクロスフォリオにて先行公開( https://xfolio.jp/portfolio/ke1sen/series/1023833 )
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