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16話 王太子と兄
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悔しさ、悲哀とも取れぬ複雑な心境を一度心の奥に押し込めてルードルフは気持ちを取り直し、今日公爵邸を訪ねてきた本題に入る。
「そう…か、ではその茶会の話題作りの為にも流行りの劇を観に行くのはどうだろうか。最近、令嬢方に人気の脚本家が描いた物語だそうだ。」
「まあ、よろしいのですか? ありがとうございます、私お茶会で何をお話すれば良いのか悩んでおりましたの! 兄様とお話するようなことは、あまり会話が弾まないだろうとお父様とお母様に言われてしまったので、とても困っておりましたの。ね、兄様。」
思わぬルードルフの提案にティアルーナは可憐な笑みを浮かべると丁度気になっていたのです、と嬉しげに手をぱちりと合わせると、部屋の隅でまるで影のように存在感を殺して本を読んでいたロイスに話を向ける。
「そうだな、まあ話を聞く限りルーナが話す事柄ならなんだって喜んで聞いていそうな者達だが。」
さらりとティアルーナの愛称を口にして、隣国の『学園』で彼を知るものが見たのであれば双子か、はたまた幻覚だろうと言うこと間違いなしの穏やかな笑みを浮かべながらそう返す。
「でも、お友達になるには会話が弾まないことには不可能だと耳に入れましたので…楽しみですわ。」
「はあ………」
「殿下、何か?」
今度は隠すことも無く大きく溜息を吐き出したルードルフに、彼から見れば意地の悪い笑みを浮かべてロイスがそう問いかける。まるで、心の内を見透かした上での質問のようだと思いながらルードルフは首を振った。
「いや、何も。ただ、その…貴殿は何故ここに?」
「もう時期解消される婚約の相手と言えど、未婚の妹を殿下であっても異性と二人きりにするわけにはいきませんし、可愛い妹に何かあっては困りますので。」
不遜無礼極まりない発言をしれっと口にするロイスだがもうルードルフにはその発言を咎める気力すら残っていない。ティアルーナに思いの丈を伝え、アプローチをしようにもメアリの次にロイスという障害が立ち塞がるのでは手の打ちようもない。しかし、王国きっての名家であるヴェルガム侯爵家の次期当主だ。次期国王としてロイスを無下にして公爵家と関係を悪化させる訳にもいかない。
「それにしても…この短い間に随分親しくなったようだな。」
ルードルフが恨まがしい目線でそう悔しげに言えば、ロイスはティアルーナとはまた違った美貌のかんばせをきょとんとさせた後、微笑を浮かべる。
「ルーナは頭が良いですし、特に改良については事欠くことがありません、素晴らしい才能です。初めはそれだけでしたが、関わる内に思ったのですよ。こんなに愛らしい妹がいるだろうか、と。幼い頃は滅多に関わることもなく、今までは離れて暮らしておりましたので…余計に。」
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「殿下、何か?」
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「いや、何も。ただ、その…貴殿は何故ここに?」
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