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15話 王太子の訪問と憂鬱
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ティアルーナとロイスが意気投合し、時間にも気が付かず話し込んだ日から十日ほど経ったその日、王太子ルードルフは再び公爵邸を訪れていた。初対面の頃よりかなり打ち解けた様子のティアルーナからルードルフは『友人』として近況を聞くのが近頃の日常となっていた。彼も最初の頃は戸惑っていたが、もうここ数度は慣れたように相槌を打っていた。
「それで、夜も遅い故別れようとした所で兄君から食事の誘いがあったのか。」
「ええ、そうなんですの! ルードルフ様が下さったヒュロ草のお陰でその後兄様と一緒に食事を摂ることが出来るようになって、近頃は研究以外のことでも会話が弾むようになりましたの…! 何もかも、ルードルフ様のお陰ですわ。ありがとうございます…!」
ティアルーナとしては最上の思い出であるロイスと初めて語り合った日の出来事をこの日も飽くことなくルードルフに語って聞かせていた。既にこの話をされるのは三回目であり、当然そのあとに続く言葉をルードルフは知っているのだが彼女が楽しいのならそれで良いか、という心境で対して苦に思うことも無く静かに頷いていた。
(しかし、名前ではなく愛称で呼んでもらうよう頼むべきだったか…? いや、だがいきなりそのように迫られても困るだろうし…。)
「……………………………。」
「ルードルフ様…? どうか、なさいました?」
黙り込んでしまったルードルフを見て、流石に飽きてしまっただろうかとティアルーナが不安げに彼の顔を覗き込む。
「あ、ああ。いや、兄君との関係が良好になったのならそれは良かった…その、ティアルーナ…経過はどうだ?」
今までに無く近い顔にどきりとして思わず誤魔化すように座り直す。そんな彼の様子などには露ほども気が付かず、ティアルーナはぱっと表情を輝かせた。
「はい、もうすっかり良くなりましてお母様と社交界復帰の相談をしておりますわ。そのうち小規模なお茶会から徐々に、とのことです」
ティアルーナが毒に倒れたことは隠しようもなく、既に社交界では周知の事実だが、記憶が失われたことは公表されていない。元々あまり人と関わらず友人と呼べる存在もいなかった彼女だ、元々の人間関係や呼びかけ方を模倣すればなんの問題も無く隠し通せるだろう、というのがドーラとメアリの意見だった。ティアルーナとしても記憶喪失として扱われるよりは長期間毒に倒れ、復帰したという筋書きの方が良かったので既にドーラの手によってそのように手配されていた。いきなり夜会に出席するのも…ということで近々ドーラ主催で極々小規模な茶会を開く予定だ。
「そうか…気を使う必要のない相手との小規模なものとはいえ急に、というのも大変…ではないか? そのようにあまり急がなくても」
「いいえ、メアリによるとお友達、という訳では無いらしいのですが……お茶会で、お友達になれるかもしれませんわ」
ティアルーナはそう言って嬉しげに頬を緩め、順番に茶会の参加者の名前をあげていく。ティアルーナは茶会に出ればそれを切っ掛けとして、いずれ社交界に復帰する。そうなればルードルフとティアルーナの間に待つのは婚約解消という運命だけだ。そうなれば当然、このように気安く顔を合わせることも会話をすることも許されず、いずれルードルフとティアルーナはそれぞれ別の相応しい相手と新たに婚約を結ぶことになる。
(君は、やはりそれに何も思わないのだろうか…)
ルードルフは誰にも気付かれぬほど小さく歯をぎり、と鳴らす。本来、記憶を失ったティアルーナには王太子妃は務まらぬ、との理由で解消される婚約だが異様とも言える程の記憶力と再現力を持つ彼女なら双方が望めば婚約の続行はそれほど難しいことでもない。だが、問題なのは…
(彼女が、それを望んでいない…っ)
「それで、夜も遅い故別れようとした所で兄君から食事の誘いがあったのか。」
「ええ、そうなんですの! ルードルフ様が下さったヒュロ草のお陰でその後兄様と一緒に食事を摂ることが出来るようになって、近頃は研究以外のことでも会話が弾むようになりましたの…! 何もかも、ルードルフ様のお陰ですわ。ありがとうございます…!」
ティアルーナとしては最上の思い出であるロイスと初めて語り合った日の出来事をこの日も飽くことなくルードルフに語って聞かせていた。既にこの話をされるのは三回目であり、当然そのあとに続く言葉をルードルフは知っているのだが彼女が楽しいのならそれで良いか、という心境で対して苦に思うことも無く静かに頷いていた。
(しかし、名前ではなく愛称で呼んでもらうよう頼むべきだったか…? いや、だがいきなりそのように迫られても困るだろうし…。)
「……………………………。」
「ルードルフ様…? どうか、なさいました?」
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「あ、ああ。いや、兄君との関係が良好になったのならそれは良かった…その、ティアルーナ…経過はどうだ?」
今までに無く近い顔にどきりとして思わず誤魔化すように座り直す。そんな彼の様子などには露ほども気が付かず、ティアルーナはぱっと表情を輝かせた。
「はい、もうすっかり良くなりましてお母様と社交界復帰の相談をしておりますわ。そのうち小規模なお茶会から徐々に、とのことです」
ティアルーナが毒に倒れたことは隠しようもなく、既に社交界では周知の事実だが、記憶が失われたことは公表されていない。元々あまり人と関わらず友人と呼べる存在もいなかった彼女だ、元々の人間関係や呼びかけ方を模倣すればなんの問題も無く隠し通せるだろう、というのがドーラとメアリの意見だった。ティアルーナとしても記憶喪失として扱われるよりは長期間毒に倒れ、復帰したという筋書きの方が良かったので既にドーラの手によってそのように手配されていた。いきなり夜会に出席するのも…ということで近々ドーラ主催で極々小規模な茶会を開く予定だ。
「そうか…気を使う必要のない相手との小規模なものとはいえ急に、というのも大変…ではないか? そのようにあまり急がなくても」
「いいえ、メアリによるとお友達、という訳では無いらしいのですが……お茶会で、お友達になれるかもしれませんわ」
ティアルーナはそう言って嬉しげに頬を緩め、順番に茶会の参加者の名前をあげていく。ティアルーナは茶会に出ればそれを切っ掛けとして、いずれ社交界に復帰する。そうなればルードルフとティアルーナの間に待つのは婚約解消という運命だけだ。そうなれば当然、このように気安く顔を合わせることも会話をすることも許されず、いずれルードルフとティアルーナはそれぞれ別の相応しい相手と新たに婚約を結ぶことになる。
(君は、やはりそれに何も思わないのだろうか…)
ルードルフは誰にも気付かれぬほど小さく歯をぎり、と鳴らす。本来、記憶を失ったティアルーナには王太子妃は務まらぬ、との理由で解消される婚約だが異様とも言える程の記憶力と再現力を持つ彼女なら双方が望めば婚約の続行はそれほど難しいことでもない。だが、問題なのは…
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