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日常の中の非日常①
しおりを挟む日常というのは、同じ毎日を繰り返していると幸せも幸せと感じなくなる。そんなことを誰かが言っていたわね。
だからといって、包丁を首筋に宛てられるなんて非日常がほしいなんて誰もいってないわよ!
時は少しだけ遡り、今日は珍しく朝からアイリスがディランの所に行っている。すぐに戻ってくるとは思っていたけど、私はこの隙に正妃様に連れられて城下町に降りました。
シンプルな町娘の服装で町の活気や、市民の暮らしなどを観察するのです。これも王を支えるために必要なことなのだとか。勿論護衛の人がバレないように遠くで見守ってくれています。
色々な出店が建ち並ぶ大通りを通り、物流や人々の買い物する様子を見て景気などを確認していると、小間物を取り扱っている店の緑の光に目がいき、足を止めた。ここでは天然石を使った装飾品を売るところのようで、この商品の出所等を聞いたあとに、私は3つの商品を素早く買うと正妃様にあることを伝えるべく振り返りました。
しかし、大通りには正妃様や護衛の人の姿が消えていて、遠くに見えていた筈の馬車も無くなっていました。
かっと身体中の熱が高まり、頭にはどうしようの言葉が何度も浮かぶ。焦りのなか、何度も深呼吸をして無理やりざわめく心を落ち着かせると、口の中でアイリスの名を呼ぶ。
何時もなら『影渡』という技ですぐに現れるのだが、今は何の反応も感じない。恐らくまだディランの場所にいて私が部屋から居なくなっていることにまだ気づいていないのかもしれない。
「家に戻るべきか、待つべきか。」
普通の迷子ならその場を動くなと言いますが、何か今回は可笑しい。アイリスがディランの元に行ってから視察の話が出た事や、正妃様が私の事を確認しないで消える事もだが、護衛の人が何も言わずに次期王妃予定の女を守るために残す人物を用意しないまま消えるのがあり得ない。正妃様の身に何かあったのではなんて事も考えたけど、そしたら大通りは大騒ぎになる筈だ。
恐らく狙いは私ね。じゃあ、正妃様は無事のはず。
そういえば、今日の護衛は…まさか…。
「うぉぉおおぉぉっ…!」
「きゃあ!」
考え事をしていると叫び声と悲鳴が聞こえてきた。と思ったら、体に衝撃がはしり腕を引っ張られて胸元に圧迫感を感じると首筋にヒヤリとした感触がした。
衝撃が収まり生暖かな息づかいを後ろから感じながら、状況を確認する。
胸元の圧迫感の正体は薄汚れた男の腕。首筋に当てられているのは、周りの反応から包丁の様だった。
何か知りませんが、男の人に拘束されているみたいです。
再度、口の中でアイリスの名を呼ぶが反応はなし。
男からは何日も身体を洗っていない腐敗臭気に紛れて甘ったるいような刺激臭もして気持ち悪くなってきた。
しかしながらこの匂いは覚えがある。
ある更正病院で充満していた臭いだ。どうやらこの人は中毒者の様である。これでは、話しかけてもどうにもならないであろう。
「刃物と逆の方に首を傾けろ。」
にっちもさっちもいかなくなったとき、聞いたことのある声がしたあと、胸元の圧迫感が消えて男が吹き飛んだ。
包丁があった方向に飛んだので、咄嗟に首を傾けたお陰で怪我もなく解放されました。
いったい何が起こったのだと周りをキョロキョロ見ると、飛ばされた男を踏んで押さえつけている青年がおりました。その顔はやはり見たことのあるもの。
「勇者の子孫様!」
「その名で呼ぶな!お前もそうだろうがよ!」
そうです!あのアイリスと出会った卒業パーティーでアイリスの取り巻きの一人となっていた、勇者の子孫である、レイス・アルフォード様。
一応、私の遠縁の従兄弟になるらしい。まぁ、遠縁の遠縁だけど。
「…エルディアス様はこんな所で何をしておいでで?」
「えっとね、正妃様と視察に来ていたのだけど置いてかれてしまって。」
「はぁ?」
私の格好からなんとなく事情は察したらしいレイスは、私の回答の最初はやっぱりなといった表情だったが、最後の置いてかれた宣言で思いきっり驚かれてしまった。でも、私も同じ心情だったから気持ちは分かるわ。
「普通なら置いてかれないだろ。」
「そうよね。でも、心当たりがあるから。」
「あるのか。」
「今日の護衛の方は以前に私を階段から落とした侍女のお兄さんなんです。」
「何でそんなやつを護衛になど。」
いつもは違うんですよと、話していると私とレイスを除いた周りに『幻覚』が発動し影が動くのを感じた。
どうやらやっと気づいたようです。
レイスの首に切りつけようとする銀色が視界に入り手で阻害する。私に当たる前にピタリと銀色、ナイフが止まり、何処と無く不機嫌そうなアイリスが私の横に現れた。
黒のフード付きローブを目深まで被る様は怪しい人物だけど、顔を見られるわけにはいかないので我慢してもらっている。
「これが私の本当の護衛よ。」
「何故、部屋から出た。」
「王妃に視察に誘われたからよ。護衛の方が貴方やディランには『あらかじめ伝えてあるので、置き手紙を置いとけば大丈夫です。すぐに追い付きますよ。』と言ってましたわよ。」
「俺も、ディランもそんな事を聞いていない。」
声色を数オクターブ下げて話すアイリスが私を抱き締めて無事を確認するかのようにスリスリしていると、どうやら先程襲った男の臭いが付いていたようで顔をしかめた。
「レイス様は襲われていた私を助けてくれたのよ。」
「それ、俺の役目なのに。」
「いつも助かっているわ。とりあえず、お風呂に入りたいから移動しましょ。」
私の意図を理解したアイリスは影から闇を出して私とレイス様、気絶している男を包み込んで、お城の私の部屋まで移動してくれた。
影渡の応用編な訳だけど、今この国にこれが出来るのはアイリスだけでしょうね。
部屋に出現した私達が見たのはそわそわ、うろうろと歩き回るディランの姿でした。
ディランがこちらにこちらに気付き、ぱぁと表情を明らめたあとにレイス様の存在と気絶している男がいると分かると顔を歪めた。
本来なら抱き締めて無事を確かめたいのだろうが、何か可笑しな事が起こっていると察して踏みとどまっているのだろう。
軽く事情を説明して男を牢へ入れてもらい背後関係等を調べてもらことにした。
明らかにタイミングがよかったしね。
「私はお風呂に入ってくるから。」
臭いが気になり出した私はいそいそとお風呂に向かうことにする。
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