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獣の王
しおりを挟む扉が開くとまぶしい光が目に入った。
光の逆光のせいかしばらくは目をパシパシさせていたが、すぐに慣れて辺りを見回す。
中には数十人の礼式服を身に纏う男、女達が赤い絨毯を境目に左右に広がっている。
その奥には、高台があり、2人の男女が座りと側使いらしき者が2人立っていた。
イェシル殿下は私をゆっくりとおろしてくれて、腰に手を当て身体を支えてくれながら、エスコートをしてくれた。
私の身体を気遣ってか、ゆったりと進む私達に周りはザワザワひそひそ。
『あの我が儘王子が下賤な侍女を嫁にだと。』
『まあ、でもその血が王家に混ざらないなら良いじゃない?』
『そもそも、厄介な王子が…。』
私でも聞こえる話し声は、イェシル殿下には当然届いているはず。それを、顔色一つ変えずに無視して進む姿に、これがいつもの事だと示していた。
彼が何も言い返さないなら、私は何も言うべきではない。
だけど、ただで終わるなんてことはさせない。
イェシル殿下は、私が気に入ってるとはいえそれ以上に色々と助けてくれている。今の今まで、私に文句がきてないのが証拠。
私がやることは一つよね。
すっと前を見つめると、もう高台の下である。
高台に座るどこかイェシル殿下に似た面持ちの方に、にっこりと微笑み掛けると、イェシル殿下の手が腰に回ったまま、淑女の礼をした。
彼はこの国の王でその隣は王妃だ。
「身体が回復したてのため、このような体勢で申し訳ありません。テンペスト国出身、クロエラ辺境伯の娘、ヒィスナ・クロエラ、今は訳あってレイリと名乗っております。お目通しの機会感謝いたします。」
「うん、大体のことはイェシルに伺っている。身体の方は平気かい?」
「はい。イェシル殿下の配慮により、養生させていただきまして、さらには、私に関する不平不満も完璧にシャットアウトしてくださいました。お優しい方ですね。」
にっこり。
私がそこまで言えば、先程のザワザワが一変、夜の湖畔の様に静まり帰った。
くふっと隣から振動を感じるが、まあ、気に入っていただき良かった。
「御主にも、聞こえる程だったか。」
「ええ。獣人ならよく聞こえるでしょうね。イェシル殿下から伝わっていると思いますが、私には前がございます。確信は無いもののずっとそうだろうと思っていました。」
何処の何者かも分からない小娘が、城で匿われているなんて噂は隠そうとしてもすぐに分かるもの。しかも本来は国同士の結婚なのに隠れるように城に閉じ籠るなんてかっこうの餌でしょ。
私がなんと言われようとどうでも良いし、本当の事だけど、イェシル殿下はチャンスをくれた恩人。
「お互い自国の王族の本心を察しないなんて。」
「お互いか。」
人間の国は第2王女の獣人の国はイェシル殿下の、どちらも分かってはいない。勿論私にも分からないけど、少なくとも、イェシル殿下は陰口を叩かれて良いような人ではない。
「それはそうと、我が義理の妹は、面白い知識をもっているという。」
「はい。例えば、目に入りましたが王妃様のお付けのネックレスはコロラドアイトですね。」
「え、ええ。最近採掘できるようになった石ですわ。キラキラして綺麗でしょ?」
「綺麗ですが、毒ですよ。」
我が義理の妹と言われたのは、イェシル殿下の嫁に認められた証、知識は周りに見せつけるため。
有能な者が身内に入ったと。
そこで、後でひっそりと伝えようとしていた内容を伝えてしまおうと思った。
王の前に来てから気づいた。
キラキラと光る金粉のような輝きが混じる黒い粒々が入った白い半透明の石。
コロラドアイトは水銀とテルルが混じった鉱石で、最近の仕事だとばかりに書いた水銀の危険性の事もイェシルが伝えてあるとは思うが、テルルも毒性がつよい。
すぐに王妃はネックレスが外されて念のため医者の元につれてかれた。
「加熱したりすると危ないです。」
「その言葉は偽りないな。」
「はい。それがコロラドアイトでしたら間違いありません。」
「発掘は一時中止だな。」
テルルには金が混じっていることもあるが、それを抽出するにはどうするかの知識はさすがに私にはない。
魔法で抽出できるのかな。
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