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誰が為に 〜ヒカルside〜
1.
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ヒカルside
弦に振られたのはこれで二度目だ。
弦は「ヒカルことが好きだ」と言うし、きっとそれは嘘ではなさそうだった。
でも、弦の「好き」とヒカルの「好き」では意味合いが大きく異なっていたのではないかと思う。
弦は友人以上の領域からはみ出すことを恐れていた。ヒカルがいくら誘っても、いつも逃げる。
弦に拒絶される度にヒカルの心は傷ついたし、プラトニックな関係でもいいかと諦めようとした。でも、どうしても男の性というもので、弦に触れたくなった。
弦は一真に対して特別な感情を抱いているようだった。
弦の話には何かと一真が登場する。弦のそばには何かと一真がいる。あの二人はもしかしたらヒカルには内緒で既に付き合っているのかもしれないとさえ思った。
弦をヒカルの家に連れてきたときのことだ。ヒカルが送ると言ったのに弦はそれを頑なに断って、結局一真の運転する車で帰った。
一真は嘘が下手だ。何が「未延に送らせよう」だ。免許取りたてのくせに、未延と二人で左ハンドルのマイバッハの運転練習を必死でしていただろうが。
ショックだったのは、あの日の電話に弦が応えてくれなかったことだ。何度かけてもヒカルの想いは届かなかった。まさかとは思うがあのとき二人は取り込み中だったのではないか。
それから弦はヒカルのデートの誘いをアルバイトを理由に断るようになった。
弦の家は裕福ではないようだが、弦の父親は仕事を持っているのだから、弦が必死でアルバイトをする必要なんてない。なぜそんな急に金が必要になる? おかしいな、と思っている頃に、一真の口からあり得ないことを聞いた。
「今日俺、弦とデートしてきた」
聞き捨てならなかった。追い討ちはその後に続いた一真の言葉。
「弦は俺のこと好きみたい」
反論できなかった。だってヒカルはアルバイトを理由に断られているのに、その間、一真と会う時間はあったということになる。
弦がヒカルと一真のどちらを選んだのかは一目瞭然だった。
ヒカルの誕生日も、結局一真のせいで台無しになった。
さすがにわざと事故に遭ったとまでは思わないが、よりによってなんで今日なんだ?! という怒りにも似た感情が押し寄せてきた。
幸い一真は軽症で家にいると聞き、それなら弦も誕生日デートを優先してくれるかと思ったが、弦は「一真に会いたい」と強く訴えてきた。
恋人の誕生日と、怪我をした友達と天秤にかけるものではないと頭ではわかっているのに、自分が負けた気がした。
今振り返ればあの頃から弦の気持ちは固まっていたのかもしれない。
貸していたものをいきなり全部返される。
冷たかった恋人が、手を繋いでくる。
あんなに身体の関係を拒んでいたくせに、急に抱いていいと言う。
それらはすべて失恋フラグだ。それくらいは見抜いてみせる。
弦は抱いていいと言いながらも、不安そうな顔をしている。絶対におかしい。
「……な、なんだよヒカル」
「おかしい。弦、俺に何か隠してる」
「えっ?」
「言えよ。今日の弦は変だ」
ヒカルは弦を組み敷いて、弦の頭の横に両手をついたまま睨みつけた。
「なんでもない——」
「ある。言えよ。見当はついてるから」
——俺はバカだ。
弦の真意に気づかないふりをして抱いてしまったらよかったのに。
怖い。弦を失うのが怖くて、みっともなく両腕が震えている。
「ヒカル……俺たち、別れようか……」
覚悟はしていた。いつか弦は一真のもとに行ってしまうのだと思っていた。
だがいざその瞬間が訪れたら、想像以上にショックだった。
泣き喚きたくなるくらいに苦しくて、無様に弦に「嫌だ! 別れたくない!」と縋りつきたくなった。
だが、ヒカルのプライドがそれを許さなかった。
心を無にして、感情を殺す。
いまこんな目に遭っているのは自分じゃないと、現実から心を切り離す。
そうすれば自分自身を守ることができた。
「弦はどうせ義務感だろ? 俺に同情してるんだ。付き合っておいて、一回もヤらせてあげないのは俺が可哀想だとでも思ったんだろ? だから最後にこんなことを言い出したんだ」
「違う……」
弦は律儀過ぎる。好きでもない、もう別れる恋人にどうして大切な身体を差し出せるんだよ。
「自惚れんなバーカ。誰がお前なんか抱くか! なんの興味もない」
突き放せ。
弦を思い切り突き放して、嫌われてしまいたい。そうしないと間違って弦に手を出してしまいそうだ。
無理矢理抱いて、弦の心も身体も傷つけてしまうわけにはいかない。弦だけは守らなければ。
「さっさとお前の行きたいところに行けよっ」
弦が行く先は間違いなく一真の腕の中だろう。
弦を恨むのは間違っている。
悪いのは一真でもない。
このどうしようもない、プライドと虚栄心を抱えた自分自身だ。
泣いてはいけない。
弦だけは幸せになって欲しいと心から願うから。
弦に振られたのはこれで二度目だ。
弦は「ヒカルことが好きだ」と言うし、きっとそれは嘘ではなさそうだった。
でも、弦の「好き」とヒカルの「好き」では意味合いが大きく異なっていたのではないかと思う。
弦は友人以上の領域からはみ出すことを恐れていた。ヒカルがいくら誘っても、いつも逃げる。
弦に拒絶される度にヒカルの心は傷ついたし、プラトニックな関係でもいいかと諦めようとした。でも、どうしても男の性というもので、弦に触れたくなった。
弦は一真に対して特別な感情を抱いているようだった。
弦の話には何かと一真が登場する。弦のそばには何かと一真がいる。あの二人はもしかしたらヒカルには内緒で既に付き合っているのかもしれないとさえ思った。
弦をヒカルの家に連れてきたときのことだ。ヒカルが送ると言ったのに弦はそれを頑なに断って、結局一真の運転する車で帰った。
一真は嘘が下手だ。何が「未延に送らせよう」だ。免許取りたてのくせに、未延と二人で左ハンドルのマイバッハの運転練習を必死でしていただろうが。
ショックだったのは、あの日の電話に弦が応えてくれなかったことだ。何度かけてもヒカルの想いは届かなかった。まさかとは思うがあのとき二人は取り込み中だったのではないか。
それから弦はヒカルのデートの誘いをアルバイトを理由に断るようになった。
弦の家は裕福ではないようだが、弦の父親は仕事を持っているのだから、弦が必死でアルバイトをする必要なんてない。なぜそんな急に金が必要になる? おかしいな、と思っている頃に、一真の口からあり得ないことを聞いた。
「今日俺、弦とデートしてきた」
聞き捨てならなかった。追い討ちはその後に続いた一真の言葉。
「弦は俺のこと好きみたい」
反論できなかった。だってヒカルはアルバイトを理由に断られているのに、その間、一真と会う時間はあったということになる。
弦がヒカルと一真のどちらを選んだのかは一目瞭然だった。
ヒカルの誕生日も、結局一真のせいで台無しになった。
さすがにわざと事故に遭ったとまでは思わないが、よりによってなんで今日なんだ?! という怒りにも似た感情が押し寄せてきた。
幸い一真は軽症で家にいると聞き、それなら弦も誕生日デートを優先してくれるかと思ったが、弦は「一真に会いたい」と強く訴えてきた。
恋人の誕生日と、怪我をした友達と天秤にかけるものではないと頭ではわかっているのに、自分が負けた気がした。
今振り返ればあの頃から弦の気持ちは固まっていたのかもしれない。
貸していたものをいきなり全部返される。
冷たかった恋人が、手を繋いでくる。
あんなに身体の関係を拒んでいたくせに、急に抱いていいと言う。
それらはすべて失恋フラグだ。それくらいは見抜いてみせる。
弦は抱いていいと言いながらも、不安そうな顔をしている。絶対におかしい。
「……な、なんだよヒカル」
「おかしい。弦、俺に何か隠してる」
「えっ?」
「言えよ。今日の弦は変だ」
ヒカルは弦を組み敷いて、弦の頭の横に両手をついたまま睨みつけた。
「なんでもない——」
「ある。言えよ。見当はついてるから」
——俺はバカだ。
弦の真意に気づかないふりをして抱いてしまったらよかったのに。
怖い。弦を失うのが怖くて、みっともなく両腕が震えている。
「ヒカル……俺たち、別れようか……」
覚悟はしていた。いつか弦は一真のもとに行ってしまうのだと思っていた。
だがいざその瞬間が訪れたら、想像以上にショックだった。
泣き喚きたくなるくらいに苦しくて、無様に弦に「嫌だ! 別れたくない!」と縋りつきたくなった。
だが、ヒカルのプライドがそれを許さなかった。
心を無にして、感情を殺す。
いまこんな目に遭っているのは自分じゃないと、現実から心を切り離す。
そうすれば自分自身を守ることができた。
「弦はどうせ義務感だろ? 俺に同情してるんだ。付き合っておいて、一回もヤらせてあげないのは俺が可哀想だとでも思ったんだろ? だから最後にこんなことを言い出したんだ」
「違う……」
弦は律儀過ぎる。好きでもない、もう別れる恋人にどうして大切な身体を差し出せるんだよ。
「自惚れんなバーカ。誰がお前なんか抱くか! なんの興味もない」
突き放せ。
弦を思い切り突き放して、嫌われてしまいたい。そうしないと間違って弦に手を出してしまいそうだ。
無理矢理抱いて、弦の心も身体も傷つけてしまうわけにはいかない。弦だけは守らなければ。
「さっさとお前の行きたいところに行けよっ」
弦が行く先は間違いなく一真の腕の中だろう。
弦を恨むのは間違っている。
悪いのは一真でもない。
このどうしようもない、プライドと虚栄心を抱えた自分自身だ。
泣いてはいけない。
弦だけは幸せになって欲しいと心から願うから。
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