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16.すごく綺麗です
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ハルが妙にニヤニヤしていることに気がついたゼインが、冷ややかな視線でハルを見る。
「別にお前のことを言ったわけじゃない」
「でも、ゼインさまと結婚しているのは私しかいませんよ?」
「…………」
ゼインはしばし沈黙した。こんなときまで無表情のゼインは、今いったい何を考えているのだろう。
「いいか。俺がお前をそばに置くのは今だけだ」
「はいはい、そうですね」
ゼインは王太子だ。そしてこの結婚は父親同士が決めた政略結婚。そう簡単に離婚はされないはず。きっとゼインは照れているのだろうとハルは考えた。
「では、ゼインさまのそばにいられる今を精一杯楽しむことにします」
ハルはオムレットの横に添えてあったイチゴを頬張りながらゼインの顔を笑顔で眺めてみる。相変わらず凛々しくて見惚れるほど綺麗な顔だ。
なぜだろう。ゼインと一緒にいるとすごく心が楽だ。
結婚する前までは、ゼインに嫌われていると思っていた。てっきり冷遇されると思っていたのに、ゼインは口は悪いが態度は優しい。「抱く気はない」と言われても「あっちに行け」と言われても、どうしてか、時折ゼインからの愛情を感じるときがある。
もっとゼインのことを知りたい。
好きな食べ物は何か、何をしているときが一番好きなのか、どんな考え方をしているのか。ゼインとたくさん一緒にいて、これからゼインを知っていきたい。
ニコニコとハルがゼインのことを眺めていたときだった。ゼインの手のひらが弱い光を放った。
「ゼインさまっ、これって魔紋章ですかっ?」
ハルはゼインの右手首をとってゼインの手のひらを眺めてみる。
そこにあるのは見事な紋章だった。炎のような形をした細かな紋章だ。人の手のひらに、こんなに繊細な模様が浮かび上がるなんて奇跡だ。
「綺麗ですね。魔紋章って生まれて初めて見ました」
思わず見とれてしまうほどに神秘的だ。これが選ばれし人しか持っていない最強の能力なのだ。青白く光を放つ紋様はとても美しかった。
「ハルは、俺のことが怖くないのか?」
「え? どうしたんですか急に」
ハルは意味がわからず、キョトンとした顔でゼインを見る。
「俺の手だ。魔紋章が現れるということは、俺の魔力が高まっているときだ。いつ俺がお前を攻撃するかわからないんだぞ? 逃げないのか?」
なるほど、とハルは思った。きっとゼインは魔紋章のせいで怖がられ、避けられた経験があるのだろう。
それも、もしかしたら一度や二度ではないかもしれない。
「怖くないですよ」
ハルはゼインの手のひらを撫でる。
「ゼインさまの手、すごく綺麗です」
ハルはゼインを見上げる。ゼインもハルをまっすぐに見つめていた。
ふたりは至近距離で見つめ合ったままだ。
不思議だ。お互い見つめ合っているだけで、気持ちが高ぶってくる。ハルの心の中に、淡い期待が沸き上がってくる。
このまま、ゼインがもっと近づいてきてくれたら。そのまま唇を奪ってくれたら。
ハルからキスをしたら離婚されてしまう。でも、でもゼインからしてくれるぶんにはきっと切り捨てられることはないはず。
「食事をしよう。ほ、ほら、ハルは細すぎるからもっと食べたほうがいい」
ゼインはハルから目をそらしてしまった。そして何事もなかったように食事の続きを食べ始めた。
やっぱりゼインはハルをそういう対象としては見ていないのだろう。
「アルファと違ってオメガは逞しくなれないんですよ。でも、食べることは好きです」
ハルはゼインに倣ってフォークとナイフを持って、静かに食事を再開する。
ゼインがハルに手を出してくることなどない。調子に乗り過ぎたのだ。ちょっと仲良くなって、一度朝食を共にしたくらいで、好かれるはずがない。
こうしてゼインとふたりで食事をとれるだけで幸せだと思わなくてはいけない。あのゼインが、ハルが隣にいることを許してくれたなんて奇跡だ。これから少しずつ仲良くなれたらいい。
気を取り直してゼインと朝食を食べる。本当にたわいもない話をしながら。
「誰かと一緒に食事をするのはいいものだな」
食事の最中にゼインがつぶやいた。ハルはそれを聞き逃さない。
「そうですよ、ゼインさま。これからは毎日私がゼインさまの話し相手になりますから」
優しくゼインに微笑みかける。
ゼインがわかってくれてよかった。きっとゼインは誰かと食事をしながら会話を楽しむことを知らずに育ったんじゃないか。ハルにとっては当たり前のことでも、ゼインにとっては感じたことのないことなのだろう。
「俺はハルの話が聞きたい」
「私のことなどいいんですよ」
「いいや、ハルのことをもっと知りたいのだ。俺に話してくれるか?」
ゼインは漆黒の瞳でハルを見つめている。
なんだろう。ゼインに見つめられると頭の中が真っ白になる。うまく話そうと思うのに、どうも思考が止まる。妙に心臓がバクバクするのだ。
オルフェウスの目を見て話しているときには、こうはならない。ゼインとオルフェウスは同じ顔をしているのに。
「なんでもよいのだ。好きな空の色でも、今日楽しかった出来事でも、些細なことでも知りたい。ハルの目を通じて、この世界はどう映るのか、日々ハルが感じることを俺に話してくれないか」
「ははっ……」
ハルは思わず笑ってしまう。ハルはそんな大それた人間じゃないのに、ゼインは面白い人だ。
「じゃあゼインさまも教えてくださいね。私も知りたいです。ゼインさまのこと、もっと……」
ゼインとは今まで年に数回会えるかどうかだった。それも短時間だったし、お互いのことをよく知ることもできなかった。
なんだかゼインとの距離が縮まった気がした。これならゼインと結婚生活をやっていけるかもしれないと、ハルはひっそり微笑んだ。
「別にお前のことを言ったわけじゃない」
「でも、ゼインさまと結婚しているのは私しかいませんよ?」
「…………」
ゼインはしばし沈黙した。こんなときまで無表情のゼインは、今いったい何を考えているのだろう。
「いいか。俺がお前をそばに置くのは今だけだ」
「はいはい、そうですね」
ゼインは王太子だ。そしてこの結婚は父親同士が決めた政略結婚。そう簡単に離婚はされないはず。きっとゼインは照れているのだろうとハルは考えた。
「では、ゼインさまのそばにいられる今を精一杯楽しむことにします」
ハルはオムレットの横に添えてあったイチゴを頬張りながらゼインの顔を笑顔で眺めてみる。相変わらず凛々しくて見惚れるほど綺麗な顔だ。
なぜだろう。ゼインと一緒にいるとすごく心が楽だ。
結婚する前までは、ゼインに嫌われていると思っていた。てっきり冷遇されると思っていたのに、ゼインは口は悪いが態度は優しい。「抱く気はない」と言われても「あっちに行け」と言われても、どうしてか、時折ゼインからの愛情を感じるときがある。
もっとゼインのことを知りたい。
好きな食べ物は何か、何をしているときが一番好きなのか、どんな考え方をしているのか。ゼインとたくさん一緒にいて、これからゼインを知っていきたい。
ニコニコとハルがゼインのことを眺めていたときだった。ゼインの手のひらが弱い光を放った。
「ゼインさまっ、これって魔紋章ですかっ?」
ハルはゼインの右手首をとってゼインの手のひらを眺めてみる。
そこにあるのは見事な紋章だった。炎のような形をした細かな紋章だ。人の手のひらに、こんなに繊細な模様が浮かび上がるなんて奇跡だ。
「綺麗ですね。魔紋章って生まれて初めて見ました」
思わず見とれてしまうほどに神秘的だ。これが選ばれし人しか持っていない最強の能力なのだ。青白く光を放つ紋様はとても美しかった。
「ハルは、俺のことが怖くないのか?」
「え? どうしたんですか急に」
ハルは意味がわからず、キョトンとした顔でゼインを見る。
「俺の手だ。魔紋章が現れるということは、俺の魔力が高まっているときだ。いつ俺がお前を攻撃するかわからないんだぞ? 逃げないのか?」
なるほど、とハルは思った。きっとゼインは魔紋章のせいで怖がられ、避けられた経験があるのだろう。
それも、もしかしたら一度や二度ではないかもしれない。
「怖くないですよ」
ハルはゼインの手のひらを撫でる。
「ゼインさまの手、すごく綺麗です」
ハルはゼインを見上げる。ゼインもハルをまっすぐに見つめていた。
ふたりは至近距離で見つめ合ったままだ。
不思議だ。お互い見つめ合っているだけで、気持ちが高ぶってくる。ハルの心の中に、淡い期待が沸き上がってくる。
このまま、ゼインがもっと近づいてきてくれたら。そのまま唇を奪ってくれたら。
ハルからキスをしたら離婚されてしまう。でも、でもゼインからしてくれるぶんにはきっと切り捨てられることはないはず。
「食事をしよう。ほ、ほら、ハルは細すぎるからもっと食べたほうがいい」
ゼインはハルから目をそらしてしまった。そして何事もなかったように食事の続きを食べ始めた。
やっぱりゼインはハルをそういう対象としては見ていないのだろう。
「アルファと違ってオメガは逞しくなれないんですよ。でも、食べることは好きです」
ハルはゼインに倣ってフォークとナイフを持って、静かに食事を再開する。
ゼインがハルに手を出してくることなどない。調子に乗り過ぎたのだ。ちょっと仲良くなって、一度朝食を共にしたくらいで、好かれるはずがない。
こうしてゼインとふたりで食事をとれるだけで幸せだと思わなくてはいけない。あのゼインが、ハルが隣にいることを許してくれたなんて奇跡だ。これから少しずつ仲良くなれたらいい。
気を取り直してゼインと朝食を食べる。本当にたわいもない話をしながら。
「誰かと一緒に食事をするのはいいものだな」
食事の最中にゼインがつぶやいた。ハルはそれを聞き逃さない。
「そうですよ、ゼインさま。これからは毎日私がゼインさまの話し相手になりますから」
優しくゼインに微笑みかける。
ゼインがわかってくれてよかった。きっとゼインは誰かと食事をしながら会話を楽しむことを知らずに育ったんじゃないか。ハルにとっては当たり前のことでも、ゼインにとっては感じたことのないことなのだろう。
「俺はハルの話が聞きたい」
「私のことなどいいんですよ」
「いいや、ハルのことをもっと知りたいのだ。俺に話してくれるか?」
ゼインは漆黒の瞳でハルを見つめている。
なんだろう。ゼインに見つめられると頭の中が真っ白になる。うまく話そうと思うのに、どうも思考が止まる。妙に心臓がバクバクするのだ。
オルフェウスの目を見て話しているときには、こうはならない。ゼインとオルフェウスは同じ顔をしているのに。
「なんでもよいのだ。好きな空の色でも、今日楽しかった出来事でも、些細なことでも知りたい。ハルの目を通じて、この世界はどう映るのか、日々ハルが感じることを俺に話してくれないか」
「ははっ……」
ハルは思わず笑ってしまう。ハルはそんな大それた人間じゃないのに、ゼインは面白い人だ。
「じゃあゼインさまも教えてくださいね。私も知りたいです。ゼインさまのこと、もっと……」
ゼインとは今まで年に数回会えるかどうかだった。それも短時間だったし、お互いのことをよく知ることもできなかった。
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