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3.モヤモヤした感情
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そこから桐野はすごい。毎日「おはよう」と声をかけてきて、昼休みも一年の教室までわざわざ遊びに来て駄弁って帰っていくし、放課後も「今日一緒に帰れる?」と声をかけてくる。
つまり、異常に蒼井に構ってくる。
「桐野先輩といると目立つから嫌です」と蒼井が拒否しても、「なんで? 俺が喋りたい奴と喋ってるだけだから」と強メンタルな答えを返してくる。
「なんで俺なんすか」と訊ねると「俺が、アオのことすっごい好きだからだよ」と臆面もなく返してくる。
「毎日毎日、俺に付き纏って飽きませんか?」と呆れた顔で見ると「飽きるわけないじゃん。だってアオは俺の運命の人だから」とスピリチュアルヤバめの奴に変貌する。
本当にしつこい。別に嫌なことはされないし、好かれてるぶんには害はない。一部の女子からは「桐野君に付き纏われたい!」と羨ましがられるくらいなのだが。
ちょっと……迷惑かな……。
わけのわからない男に追い回されて、正直、逃げ出したい。
◆◆◆
次の日の朝は、桐野は風紀委員として立ってはいなかった。聞いた話だと、芸能活動と学業の平行で、学校を休まざるを得ない時が多々あるらしい。
——あいつがいない日は平和に過ごせそうだな。
やっと普通の学校生活になった。よかった、桐野が芸能人で。時々こうやって桐野がいない日があるほうがいい。
「ZEEZのライブチケット落選したぁ。これが最後のチャンスだったのに……」
「当日券の抽選なんて枠がほとんどないもんね……。激戦すぎて観にいけないよね。私一度も当たったことないんだけど」
休み時間に、クラスの女子たちが話している。確かZEEZって、桐野のグループの名前だったような……。
——そういえば、ライブチケット、桐野からもらったな。
「あの……」
桐野から貰ったチケットを後ろ手に持って、女子に声をかけてみる。
「なに?」
「ZEEZのファンなの?」
「え! そうだよ、めっちゃかっこいいもん。正直に言うと、桐野君がこの学校にいるの知っててこの高校選んじゃった」
桐野の話をするだけですっかり目がハートになってる。これは本物のファンだろう。
「だったら、これ、あげるよ。たまたま貰ったんだけど、俺興味ないから」
ZEEZのペアチケットを見せると、二人はそれを見てものすごく驚いている。
「え?! ちょっと待って! これ、東京の最終公演のチケットじゃん! マジで?!」
「しかもアリーナ席の最前列なんだけど!」
二人の反応が凄すぎて、こっちがびっくりするくらいだ。
「蒼井君、本当にいいの?! これ、すっごいプレミアチケットだよ?!」
「いいよ。俺はよくわからないし、どうせならファンの人が観に行ったほうがZEEZのメンバーも嬉しいんじゃないかな」
最前列なら尚更だ。ノリノリのファンがいてくれたほうがいいに決まっている。
「ありがとー!! 蒼井君! マヂ神!!」
二人の女子にがっつり抱きつかれた。とりあえず二人が喜んでくれて、チケットも無駄にならなくてよかったよ。
◆◆◆
月曜日。昨日の夜がライブだったというのに、桐野は朝から風紀委員としての仕事を全うしていた。
すっかり桐野に挨拶するのにも慣れ、いつものように「おはようございます」と桐野に声をかけた。
だが、桐野はこちらに目を合わせない。
あれ、気がつかなかったのかなと思うが、いつも目ざとく蒼井を見つけ出すくらいの奴がどうしたのかと思う。
昼休み。桐野は来ない。まぁ、毎日来るわけでもないので、気にしないようにする。
「昨日のライブ最高だったよ! 蒼井君、ありがと!!」と、女子二人にお礼を言われて、「これ、お土産」と、桐野のアクリルキーホルダーを貰った。こうしてグッズなんか見てしまうと本当にあいつは芸能人だったんだなと改めて思う。
放課後。桐野は来ない。いつもうるさいくらいの奴が来ないなんて、なんかちょっとだけ落ち着かない。
——どうしたんだよ、あいつ。
ああもう。
桐野がいても、いなくても、本当にヤキモキするな!
もしかして、俺が女子にライブのチケットを譲って、ライブに行かなかったから怒ってるのかな。
それとも俺に飽きたのか……? 熱しやすく冷めやすいタイプの奴っているもんな……。
「なぁ蒼井。いつものあの人、今日は大人しいな。なんか二人、喧嘩でもしたの?」
岡田が異変に気がついて声をかけてきた。
「さぁ。知らねぇ」
嘘じゃない。本当に理由がわからない。
あいつ、全力で追いかけるなんて言ってたくせに。
まぁいい。ストーカーはいない方がいいに決まってる。
◆◆◆
次の日の朝。風紀委員の列にいる、桐野にこれでもかと視線を向けてみる。だが、まったく目が合わない。
あれ?
蒼井のすぐ目の前にいた男子生徒に桐野が声をかけた。そいつはどう見ても真面目一徹、とても風紀が乱れているようには見えない。いつかの蒼井の時のように。
「えっ、えっ、俺何かダメでしたか?!」
ほら。案の定、男子生徒は桐野に声をかけられて驚いている。
「君、ちょっとこっち来てくれる?」
桐野は男子生徒を連行していく。その時、やけに馴れ馴れしくその男の肩に手を回している。
——え。待てよ。あいつが次のターゲットか?!
呆然と桐野と男子生徒の背中を見送っていると、桐野が少しだけ振り返ったようだった。だが、蒼井に対するその視線は冷淡で、それでいてお前に興味はないといった様子の目つきだった。そしてそのまま二人はいなくなった。
あれ、これ、俺もう桐野に嫌われたってことなのか……?
蒼井はそのまま校舎に向かう。なんでもないふりをして、なんにもなかったかのようにしていつもの道を歩いていく——。
あんな奴、いなくなってくれてよかったじゃないか。
何か足りないと思ってしまう感覚。桐野なんてどうでもいいと思っているはずなのに、気づけばいつも桐野のことばかりを考えてしまっているような——。
あいつはもう次のターゲットを見つけたんだ。俺が全然なびかないからつまらなくなって、きっと次の人に猛アタックを仕掛けているんだろう。
そういえばまた男だったな。まぁ、あんな美形なら男でもアリって思ってもらえるかもな。……性格に問題があるだけで。
あいつのライブって、どんなものだったんだろう。なんであいつは俺に特等席を用意してくれてたのかな……。
今となっては桐野が何を考えていたのか、もうわからない。
あんなに追っかけてきたくせに、急に挨拶も無しとか、なんなんだよ!
あー! クッソ! 苛々する……。
つまり、異常に蒼井に構ってくる。
「桐野先輩といると目立つから嫌です」と蒼井が拒否しても、「なんで? 俺が喋りたい奴と喋ってるだけだから」と強メンタルな答えを返してくる。
「なんで俺なんすか」と訊ねると「俺が、アオのことすっごい好きだからだよ」と臆面もなく返してくる。
「毎日毎日、俺に付き纏って飽きませんか?」と呆れた顔で見ると「飽きるわけないじゃん。だってアオは俺の運命の人だから」とスピリチュアルヤバめの奴に変貌する。
本当にしつこい。別に嫌なことはされないし、好かれてるぶんには害はない。一部の女子からは「桐野君に付き纏われたい!」と羨ましがられるくらいなのだが。
ちょっと……迷惑かな……。
わけのわからない男に追い回されて、正直、逃げ出したい。
◆◆◆
次の日の朝は、桐野は風紀委員として立ってはいなかった。聞いた話だと、芸能活動と学業の平行で、学校を休まざるを得ない時が多々あるらしい。
——あいつがいない日は平和に過ごせそうだな。
やっと普通の学校生活になった。よかった、桐野が芸能人で。時々こうやって桐野がいない日があるほうがいい。
「ZEEZのライブチケット落選したぁ。これが最後のチャンスだったのに……」
「当日券の抽選なんて枠がほとんどないもんね……。激戦すぎて観にいけないよね。私一度も当たったことないんだけど」
休み時間に、クラスの女子たちが話している。確かZEEZって、桐野のグループの名前だったような……。
——そういえば、ライブチケット、桐野からもらったな。
「あの……」
桐野から貰ったチケットを後ろ手に持って、女子に声をかけてみる。
「なに?」
「ZEEZのファンなの?」
「え! そうだよ、めっちゃかっこいいもん。正直に言うと、桐野君がこの学校にいるの知っててこの高校選んじゃった」
桐野の話をするだけですっかり目がハートになってる。これは本物のファンだろう。
「だったら、これ、あげるよ。たまたま貰ったんだけど、俺興味ないから」
ZEEZのペアチケットを見せると、二人はそれを見てものすごく驚いている。
「え?! ちょっと待って! これ、東京の最終公演のチケットじゃん! マジで?!」
「しかもアリーナ席の最前列なんだけど!」
二人の反応が凄すぎて、こっちがびっくりするくらいだ。
「蒼井君、本当にいいの?! これ、すっごいプレミアチケットだよ?!」
「いいよ。俺はよくわからないし、どうせならファンの人が観に行ったほうがZEEZのメンバーも嬉しいんじゃないかな」
最前列なら尚更だ。ノリノリのファンがいてくれたほうがいいに決まっている。
「ありがとー!! 蒼井君! マヂ神!!」
二人の女子にがっつり抱きつかれた。とりあえず二人が喜んでくれて、チケットも無駄にならなくてよかったよ。
◆◆◆
月曜日。昨日の夜がライブだったというのに、桐野は朝から風紀委員としての仕事を全うしていた。
すっかり桐野に挨拶するのにも慣れ、いつものように「おはようございます」と桐野に声をかけた。
だが、桐野はこちらに目を合わせない。
あれ、気がつかなかったのかなと思うが、いつも目ざとく蒼井を見つけ出すくらいの奴がどうしたのかと思う。
昼休み。桐野は来ない。まぁ、毎日来るわけでもないので、気にしないようにする。
「昨日のライブ最高だったよ! 蒼井君、ありがと!!」と、女子二人にお礼を言われて、「これ、お土産」と、桐野のアクリルキーホルダーを貰った。こうしてグッズなんか見てしまうと本当にあいつは芸能人だったんだなと改めて思う。
放課後。桐野は来ない。いつもうるさいくらいの奴が来ないなんて、なんかちょっとだけ落ち着かない。
——どうしたんだよ、あいつ。
ああもう。
桐野がいても、いなくても、本当にヤキモキするな!
もしかして、俺が女子にライブのチケットを譲って、ライブに行かなかったから怒ってるのかな。
それとも俺に飽きたのか……? 熱しやすく冷めやすいタイプの奴っているもんな……。
「なぁ蒼井。いつものあの人、今日は大人しいな。なんか二人、喧嘩でもしたの?」
岡田が異変に気がついて声をかけてきた。
「さぁ。知らねぇ」
嘘じゃない。本当に理由がわからない。
あいつ、全力で追いかけるなんて言ってたくせに。
まぁいい。ストーカーはいない方がいいに決まってる。
◆◆◆
次の日の朝。風紀委員の列にいる、桐野にこれでもかと視線を向けてみる。だが、まったく目が合わない。
あれ?
蒼井のすぐ目の前にいた男子生徒に桐野が声をかけた。そいつはどう見ても真面目一徹、とても風紀が乱れているようには見えない。いつかの蒼井の時のように。
「えっ、えっ、俺何かダメでしたか?!」
ほら。案の定、男子生徒は桐野に声をかけられて驚いている。
「君、ちょっとこっち来てくれる?」
桐野は男子生徒を連行していく。その時、やけに馴れ馴れしくその男の肩に手を回している。
——え。待てよ。あいつが次のターゲットか?!
呆然と桐野と男子生徒の背中を見送っていると、桐野が少しだけ振り返ったようだった。だが、蒼井に対するその視線は冷淡で、それでいてお前に興味はないといった様子の目つきだった。そしてそのまま二人はいなくなった。
あれ、これ、俺もう桐野に嫌われたってことなのか……?
蒼井はそのまま校舎に向かう。なんでもないふりをして、なんにもなかったかのようにしていつもの道を歩いていく——。
あんな奴、いなくなってくれてよかったじゃないか。
何か足りないと思ってしまう感覚。桐野なんてどうでもいいと思っているはずなのに、気づけばいつも桐野のことばかりを考えてしまっているような——。
あいつはもう次のターゲットを見つけたんだ。俺が全然なびかないからつまらなくなって、きっと次の人に猛アタックを仕掛けているんだろう。
そういえばまた男だったな。まぁ、あんな美形なら男でもアリって思ってもらえるかもな。……性格に問題があるだけで。
あいつのライブって、どんなものだったんだろう。なんであいつは俺に特等席を用意してくれてたのかな……。
今となっては桐野が何を考えていたのか、もうわからない。
あんなに追っかけてきたくせに、急に挨拶も無しとか、なんなんだよ!
あー! クッソ! 苛々する……。
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