多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖

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2.ストーカー⁉︎

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 次の日。また朝の風紀委員達による服装チェックがある。

 その中に、いた! 桐野だ。

 目を合わせないように、他の生徒の陰に隠れつつ、スッと通り過ぎる。今日は話しかけられなかった。成功だ。



 今日は遅刻にならずに教室に行けそうだと思っていたのに、不意に後ろから腕を掴まれた。

「へぁっ?!」

 びっくりして振り返ると、桐野だ。あの後、追いかけてきたのか?!

「アオ。まさか俺を避けてる?」

 避けるに決まってるだろ。二日連続で遅刻とかマジで嫌だから。

「そんなことないですから離して……」

 とりあえず適当に言って逃れないと。

「ほんと? ほんとに避けてない?」
「はいそうです!」
「俺、アオに避けられたら死んじゃうよ?」

 いや、何言ってんだこの人。

「お、俺時間ギリギリなんで、それじゃっ!」

 桐野が力を緩めた隙をみて、その腕を振り払い、蒼井は猛ダッシュで走り去った。




 ——こんなの毎朝とかヤダな。

 なんだかわからないが面倒な奴に追い回されてるなと辟易する。

 授業中も『桐野どうしたらいいか問題』で頭がいっぱいで、集中できない。このままじゃ学業にも支障が出そうだ。



 昼休みになり、岡田が「一緒に食おうぜ」と声をかけて来てくれた。岡田は桐野のサインの一件以来、なんだか蒼井のそばに居てくれる。
 さてと。教室でゆっくり昼休みを謳歌しようと思っていたところだった。

「アオ。男と二人で何してるの? それ、浮気でしょ」

 また1-1の教室に突然現れたのは桐野だ。

「あの、意味がわかりません……」

 俺の隣にいるのは岡田だよ。昨日友達になったばっかりの、ただのクラスメイト!

「俺以外の奴と二人きりになんてならないでよ。お前はどれだけ俺を嫉妬させたら気が済むんだ……」

 はぁ? 嫉妬?! 何に?!

「いつだって当て馬がいるんだから……。俺、本当に辛い」

 あのー、アタマ大丈夫ですか?

「とにかく、アオ。俺と一緒にいてよ」
「いや友達とメシ食おうとしてるだけですよ、ほんとになんなんすか!」

 はぁ、マジでウザいぞ。

「そんなにそいつのことが好きなの? じゃあいいよ、俺も仲間に入れて。三人で食べよう」

 桐野はその辺の椅子を持ち出して、蒼井たちと同じテーブルにやってきた。いやあの、俺の許可も、岡田の許可も降りてませんけどね。

「アオとこうして一緒に昼メシ食えるなんて、幸せだな」

 桐野は蒼井を見ながらありえないくらいにニッコニコだ。やめてほしい、岡田がドン引きしているぞ。

 周りも、「え、なんでこんなところに桐野柊?」とか「あの笑顔、超絶ヤバ」とかなっちゃってるじゃないか!

「アオ」

 蒼井の顔をじっと見ていた桐野が手を伸ばしてきた。

「ゴハン粒ついてるよ」 

 桐野が蒼井の頬についたゴハン粒をそっととり、
 それを、こいつ、食べやがった!!

「え?!」

 蒼井が目を丸くしていると、「あ、ごめん、手で触るんじゃなくて、キスすればよかったよね? 今からしてもいい?」と恐ろしいことを言い出したので、引きつった笑顔でやんわりとお断りした。


 ◆◆◆


 放課後。

「アオー! 一緒に帰ろう!」

 桐野だ。うわー、やっぱり来た! 昨日も教室まできたくせに、今日もかよ。

「はぁ、なんなんすかもう……」
「アオももう帰るでしょ? 俺、アオと一緒に帰りたいから」

 たしかに帰る。帰るとこだけど……。

「さ、行こうっ」

 桐野に半ば無理矢理に手を引かれて、またもや強制連行だ。

 うう……助けてくれ……。




「アオは兄弟とかはいるの?」
「いません」
「アオは、今どこに住んでるの?」
「言いたくないです」

 教えたらストーカーされそうだ。

「最寄り駅は?」
「中学生の頃は好きな人とかいた?」
「なんでこの高校に入ろうと思ったの?」

 桐野は蒼井に対する質問ばかりを連発してくる。
 無視するわけにもいかずに、とりあえず適当に答えるのだが、喋りすぎて喉が乾いてきた。

 ふと自販機を見かけて「あ、ちょっと喉乾いたんで」と桐野に断りを入れて、ペットボトルのお茶を購入する。

 なんとなく自分だけというのも気が引けるし、あと一つ、同じものを買った。

「桐野先輩。よかったらどうぞ」

 そして桐野に手渡した。

「え?! いいの? ありがとう!」

 桐野は大袈裟なくらいに驚いている。 

「はい。昨日なんかチケットとか貰っちゃいましたし、貰いっぱなしは嫌いなんで」

 桐野にはなるべく借りがないほうがいい。こいつはいつ何をきっかけに強請ゆすってくるかわからないような奴だから。

「お前はいつも俺に……」

 なんてことないお茶なのに、妙に桐野はずっとそれを眺めたままだ。

「あ! もしかして嫌いでしたか?」
「いや、そんなことあるわけないだろ」

 じゃあなんで、すぐに飲まないんだよ。

「ね、アオ。もしかして思い出した……?」

 蒼井の目をじっと覗き込みながら、桐野はいつになく慎重に訊ねてきた。

 思い出すって。
 何のことだ……?

 ハテナマークしか浮かばずに、蒼井が答えに困窮していると、さっと桐野は「やっぱなんでもない」と蒼井から目を逸らした。

「なぁ。アオ」
「はい?」

 お茶をひと口飲みながら返事をする。

「俺と付き合ってよ」
「はぁ?!」

 待て待て待て待て、お茶を吹き出しそうなくらいにびっくりするぞ!

「もうね。決まってるの。ここからお前は、俺のことをどんどん好きにさせるんだ。それで俺はお前が欲しくてどうしようもなくなるの。俺は絶対に諦めないから、お前は俺から逃れられない。それが運命なんだから、最初から恋人になろうよ」

 なんだこれは。愛の告白なのか、脅迫なのかわからない。

「いや、あの、俺、男……なんですけど……」

 こいつ、何を言ってるんだ?!
 愛だの恋だのは女とやってくれよ……。

「大丈夫。たしかに男女の時が多かったけど、男同士だったこともあったから」
「なんの話でしょうか……」

 やっぱり、桐野はイカれてるみたいだ。

「えっと、性別は関係ないって話?」

 何か問題が? みたいな顔するなよ。結構な大問題だと思う。

「俺、アオのこと好き。付き合って」

 いやいや、俺たち昨日出会ったばかりです。

「無理です。いろいろ無理です」

 男は無理。昨日会ったばかりのやつなんて無理。そもそもこいつが無理。

「またぁ、そんなツンツンするんだから。わかったよ、アオが追いかけっこが好きなのは知ってる。俺、全力で追いかけるよ」

 ひぇ。笑顔でストーカー宣言するなよ。怖っ!

 お前芸能人なんだからみんなに追われろよ。なんで反対に一般人を追い回してるんだ? しかも、よりによって、俺……。
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