知らぬはヒロインだけ

ネコフク

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二十六話(アリサ⑤)

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 メェ~メェ~と見渡す限りの草原で草を喰むヤギヤギヤギ・・・・・・と羊。

 草原のバックには雲がかかっている高い山々。

 その中にぽつんと建っている教会。

 遠目から写真を撮ればカレンダーに採用されそうな風景の中、今日も大声がこだまする。

「あっちもヤギ!こっちもヤギ!そっちもヤギ!ヤギしかいねぇし!」

「あらあらシスターアリサ、人間もいますよ」

「女じゃん!女だけとか!マジなんなの!?」

「羊もいますよ」

「そんな冷静な返しいらないっつーの!ムキーーー!!」

 コーーーーーン

 1日おきに半日かけて森へ行き、倒木や枯れた木を持ち帰り冬へ向けて薪を作る。その薪を割る作業をアリサは大声で文句を言いながら斧を振り下ろしている。

 ここはサンラータ修道院。標高の高い山々に囲まれ修道院がある場所も標高2000m。近くの村まで登りは2週間、下りは1週間かかる。夏は涼しく冬の3ヶ月は雪のため物資の調達も無い寒さと高山病がお友達の所である。

 そこへ罰を言い渡されたアリサは食事時以外魔法で眠らされた状態で荷物と一緒に運び込まれ、次の日から修道女としての生活が始まった。

 朝晩1時間の礼拝、食事の後は教会の掃除やヤギと羊の世話、畑の手入れや水汲みや薪割り。もちろん食事も交代制で作っている。

 さらにヤギや羊の乳搾りやそれを使ったバターやチーズを作ったりと多忙で、アリサを入れ20人に満たない人数でこなしている。

「うぐっ、斧が抜けない・・・・・・」

「はっはっはっ、まだまだだねぇ」

「ほっといてよ!」

 薪を切って土台の切り株に斧が刺さり、上手く抜けなくて悪戦苦闘するアリサにシスター達は朗らかに笑っている。

 罪人としてアリサはサンラータ修道院へ来ているが、朝から晩までの重労働と年の半分は極寒になる過酷な場所で、逃げても村に着く前に魔獣がウロウロする森を抜けなくてはいけなく、脱走もできない天然の監護がサンラータ修道院なのだ。

 男性が行く危険と隣り合わせの労役より危険度が低く、狭いが個室を与えられ清潔を保てる分マシといえるかもしれないが、部屋に暖房が無い為寒さとの戦いは必須である。

「ほらほらさっさとやらないと日が暮れるよ!」

 そう言ってパッカパッカ薪を割るシスターを見てアリサはため息をつく。貴族令嬢になる前でも斧を振り回すなど極端な力仕事をしなかったアリサの腕は細い。
 しかしこの修道院にいるシスターは全員逞しい体つきをしている。細身でここに来たとしても薪割りや森に入り襲ってくる魔獣を蹴散らしながら木を拾うので、必然的に逞しくなると聞いてショックでしかなかった。

 しかも修道院でも男性の世話人がると思っていたら居ず、村から定期的に来る物資を運んで来る人間も間違いが起こらないようにと全員女性。ずっと乱れた生活をしていたアリサは悶々とした日々を送るハメになっていた。

「は~ヤリてぇ・・・・・・」

 斧を抜くのを諦めぽつりと呟きボーっと草を喰むヤギを眺めていると、一匹のヤギを十数匹のヤギが取り囲みアリサを見てメェメェと鳴き始めた。

「ブハッ!アンタメスに警戒されてるよ!」

「はあ!?真ん中のヤツってオス!?え、私ヤギのオスに手を出すと思われてるの!?ヤギのオスなんてお呼びじゃないっつーの!」

 メェメェメェメェメェメェメェメェメェメェ

「歯ぁ剥き出しにして威嚇すんなっつーの!あっ、スカート噛むな!」

 煩悩にまみれたアリサの修道院生活は始まったばかり。ヤギに警戒された日々は続く・・・・・・
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