花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月

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花街五日目

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 情報屋から連絡を受け、マルスは花街へ来ていた。

(昼間にそれらしい人物を目撃して、いまだに建物から出ていないと言っていた。本人だといいが…)

 見張りをしていた情報屋と交代し、建物の前で立っているとフードを深く被った人物が出て来た。情報屋が言っていた外見と一致する――

「…リオーラ様ですね、私はマルス=トルマトンと申します」

 素早く近づき、胸に手を添え軽く会釈をする。リオーラはマルスの男娼の姿に驚きつつも、名乗った家名に反応した。

「トルマトン…他の公爵家が何ようだ」
「貴殿を捜しておりました。何故、タシュリ家に帰らないのですか?身を案じている御仁がいらっしゃいます」
「…帰らないのではない、帰れないのだ」
「帰れない?」
「これ以上は聞くな。お前も巻き込まれるぞ」

 沈痛な面持ちになったリオーラが、周りを警戒していることにマルスは気がついた。

「私は来たのです。お話しになってください。我が主が報告を待っております」
「お前の主とは…」
「詳しいことは言えません。それでも、貴殿のために私が花街ここにいることを信じてください」

「……信じよう。公爵家の者が男娼のマネまでして、花街ここにいるのだ。ただ…長くは話せぬ。花街を拠点にして、あちこち移動しているのだ。時間があまりない」
「分かりました、こちらへ」

 薄暗く、人気がない場所へと移動するとリオーラがフードを外して見せた。間違いなく、捜していたタシュリ公爵家の子息リオーラ本人だ。

「何故、帰れないのでしょうか?」

 時間もないため率直に聞くと、リオーラが険しい顔を見せた。

「我が愚弟キュリラのせいだ。キュリラが私を殺そうとしている。現に毒を盛られ、左足に後遺症が残った」

 左足が少し震えているのが見てとれる。きっと長時間歩くのは無理だろう――

「後遺症は、落馬したのが原因だと伺いました」
は、弟によって仕組まれたものだ。落馬したのは、事実だが手首を捻ったくらいだったのだ」

 ため息をつき、手首をぷらぷらとして見せるが顔つきは険しいままだ。

「そして、鎮痛剤だと思って飲んだ薬に毒が入っていたらしい。死にはしなかったが、床に伏してる時にキュリラが私に言ったのだ。落馬して死んだ方が楽だったでしょうに、と…」

 リオーラは唇を噛み締め、やり場のない怒りを必死に押し止めていた。

「私の当主補佐として、親戚から我が家に入った義理の弟だったが…当主の座を狙っているようだ。その後も何度も命を狙われたので、屋敷を出たのだ」
「次期当主なら、断罪できるのではないですか?」
「断罪したくても証拠が全くないのだ。しかも屋敷内は誰が、弟に通じているか分からない。私はこのままだと殺されるしかない」
「殺させません」

 胸元に挿していた赤い花に手をかざし、マルスは何かを小さく唱える。すると青白い光が花の中へと消えていった。

「この赤い花に魔法を付与しました。貴殿に何かあれば、私が助けに参ります。この問題が解決するまで肌身離さずお持ち下さい」
「わかった…」

 マルスの手を取り、ギュッと両手で握り締めてきた。よほど命を狙われるのがこたえたのだろう、握った両手が震えていた。

「必ずお助けいたします」
「すまない、頼む」

 赤い花を受け取り、リオーラは人混みに紛れ込むように花街へと消えていった。

(まさか、キュリラ様が関わっていたとは…とりあえず、急ぎ兄上に連絡をしておかなければ)

 手のひらからフワフワと小さい文字が舞い、一つにまとまるとパチっと音をたてて消えた。

(文字を兄上の所へ飛ばした。あとは文字が勝手に文章になってこのことを知らせてくれる)

「マルス」

 声に反応し、見上げるとノルファがこちらを睨んでいた。

「赤い花を渡したのか…」
「え?…あっ!」

 花街で赤い花を相手に渡す行為は[身も心もあなただけのモノです]という意味になることをマルスは思い出した。

「ち、違います!そういうつもりで、赤い花を渡したわけでは――」

 強くビリビリと肌を刺してくる魔力を感じ、ノルファが怒っているのが分かった。

「…お前を誰にもやるつもりはない」

 重なった視線が痛い…マルスは鋭い眼光で睨みつけてくる黒い瞳が、花街で初めて逢った時よりも恐ろしく感じた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 あれからノルファは、全く喋ることなく宿屋へとマルスを連れてきた。椅子に腰をかけ、額に手を置いたまま動こうとしない。

「ノルファ、怒ってるんですか?」
「…お前は、やらなければならない事があると言っていた。アレがそうなのか?」

 怒りに滲んだ黒い瞳が、立ったままのマルスに視線を向けてくる。

「違いますが…でも、もう花街に立つ必要はなくなりました」
「マルス」

 椅子から立ち上がったノルファが、マルスの前に立ち塞がり顔が近づいてくる。

「嫌なら、抵抗しろ」

 グッと力強く、腰とうなじを掴まれ引き寄せらる。口内に生暖かい感触が入ってきたが、マルスは抵抗しなかった。

「んっ…ぁ……」

 倒れそうなほど激しく求められ、息を吸うのも難しい。ノルファの服を掴み、執拗に絡めてくる舌をただ受けとめた。

 何が変わってしまったのか、何がそうさせるのか、何もわからない。
 ただ、嫌という感情はなかった。腕の中が心地よいと言ったら、ノルファはどんな顔をするだろうか―――

「…何故、抵抗しない」
「…そんな悲痛な顔を見たら……抵抗する気も、おきませんでした。あなたに…そんな顔をしてほしくない」

 初めて自分からノルファの頬へ触れた。先ほど情熱的な口づけをしてきたとは思えないほど冷たい。

「マルス…俺は、お前が欲しい」
「……はい」

 真剣な眼差しが近づき、再び唇を塞いでくる。マルスは目を閉じ、ノルファを受け入れた。
 服の中に入ってきた手が容赦なくシャツを脱がしていく。硬く男らしい手が肌に触れてくる。

「あ…っ」

 思わず反射的に手を掴んでしまった。しかし、ノルファは優しくマルスの手首を掴み、口づけをしてくる。

「好きだ。その嫌いだと言っていた、緑色の瞳も…全てが愛おしい。お前の全てを受けとめてやるから、俺に…俺だけに、マルスの全てをくれ」

 悲しくもないのに、涙が溢れた。心がいっぱいに温かい何かに満たされていく―――

「意外と泣き虫だな」

 ノルファはマルスが泣き止むまで、抱きしめ続けた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 室内に荒い息だけが聞こえ、部屋に灯る光がゆらゆらと二人の影を映しだしている。

「…ふぅ、あ、あっ……」

 すでに前も後ろも自分の精液で、ネチャネチャになっていた。挿入するために、ノルファの愛撫がひたすら続いている。

「あ…んぁ………ああっ!いっ、イクっぅ!」

 執拗に擦られ、すでに何度イッたかわからない。身体の痙攣が快楽でとまらない。

「はぁ、はっ…」
「マルス、可愛い…」
「んんっ」

 耳元でノルファが甘く囁いてくる。その声に身体が再び熱を持ってしまう。
 ぼやけた目線の先に、限界までたかぶったノルファの性器がそそり勃つのが見えた。

「…い、いれて……ください…」
「もう少し…お前を可愛がりたい」

「……俺の中を…可愛がって、ください」

 言ってはいけないことを、言ってしまったのではないだろうか…黒い瞳に獣が宿った気がした。

「…うあっ!」

 両脚を持ち上げられ、ノルファが中に入ってきた。圧迫感はあるが、丁寧にほぐされたおかげか、すんなりとノルファを受け入れた。

「あぅう…はっ、ぁっ……っ」

 ノルファの熱さを中に感じた。鍛えられた肉体が魅惑的で、美しい…ノルファの…こんなに焦った顔は、まだ見たことない―――

「はっ、はっ…俺を煽るな…壊したくなる」
「俺を…壊してくれるんですかっ……あ、ああっ!」

 腰を激しく打ちつけられ、マルスはノルファの肩を強く掴んだ。繰り返される挿入は、強靭な身体に相応しく、雄々しく貪り、奥を突いてくる。

「はぁ、あっ!あうっ…ううんっ」

 声を押し殺そうとするが、挿入されるたびに喘ぎ声が漏れてしまう。グチュ、グチュと淫らな音が耳に入ってくる。

「マルス…っ、はぁ…」

 艶めいた黒い瞳が近づき、何度も角度を変えて唇を重ねてきた。求められるのがわかる、情熱的な口づけに蕩けてしまいそうだ―――

「…うっ…あ、あっ…ひぃっ……!」
「くっ…ううっ……!」

 素早くズルリと抜かれた性器が飛び出し、精液がマルスの身体に吐き出された。マルスの出した精液も混ざり、もうどちらの液体なのかわからない。

「マルス…」

 耳元で囁かれた声は優しく、マルスだけに捧げられている。抱きしめてくる、このぬくもりを離したくない…

「好きだ、マルス…お前だけをずっと……」
「…はい」

 俺はずっと求めていたのかもしれない…
 その黒い獣のような瞳で、俺の闇も何もかもを食い殺してくれるのを―――
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