花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?

銀花月

文字の大きさ
9 / 14

繋がり

しおりを挟む
 お互いに絡み求め合い、マルスは途中で気を失ってしまった。まぶたが閉じる瞬間、ノルファが髪に口づけをしてくれたのがわかった。

「マルス…ずっとそばに……」

 今までの想いが溢れるかのように、何度も何度もノルファは愛を囁いてきた。俺の心を愛で満たすかのように―――

 これからも、こんな俺と一緒にいてくれるのだろうか?

 この満たされた気持ちを、信じていいのだろうか?

「……ノルファ?」

 目が覚め、起きあがるとノルファの姿がどこにもなかった。しかし、先ほどまで居たであろう温もりが隣にまだある。

「軍議にいったのか…」

 服は着ていなかったが以前同様、綺麗にされていた。ただ、腰のだるさと身体の所々に残された赤いあとが、交わった証として残っている。

 ノルファのモノだとわかるように残されたあとを見て、マルスは初めて愛される幸福を感じた。


 その後、花街から帰って日課のために森へ鍛錬をしに行った。

「うぅ…顔を合わせずらい」

 昨晩の事を思い出し、マルスは鍛錬に身が入らなかった。いつノルファが、この場所へ来るかわからない。

「どんな顔で会えばいいんだ」

 魔導師団の仕事が始まるまで、森の中にいたがノルファが現れることはなかった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「報告は受けましたよ。よくやりました」
「ありがとうございます」

 マルスは再び、宰相の元へと来ていた。詳しい報告とこれからの指示を仰ぐためだ。

「まさか、キュリラ様が次期当主のリオーラ様の命を狙うなど……王にはご報告しました。証拠が出れば、すぐにキュリラ様は処刑されるでしょう」

 タシュリ公爵家の現当主は、我らが王の弟だ。甥であるリオーラ様は王の信頼が深く、将来を期待されている。
 その方に手を出したら、命はないとわかっているはずなのに―――

(よほど当主の地位が魅力的なのだろう)

「証拠は今、調べさせています。でも話を聞くかぎり、残していないと思ったほうがよいでしょう」
「連絡はすぐ取れるのですか?」
「渡した花に、魔法を施しましたので連絡は取れます」

「何かあったら、魔導師団で仕事をしていようと駆けつけなさい。頼みましたよ」
「はい、お任せください」

 お互いの緑色の瞳が交差する。苦手な色だったが兄上を見ても、いまは何も思わない。

 これもノルファのおかげなのだろう…

 フッとノルファの顔を思い出し、朝会えなかったのが淋しいと思ってしまった。

(花街に立つ必要が、なくなったとノルファに言ったが…まだ花持ちの相手を断ってはいない。きっと、花街に行けば会えるはず)


 しかし、その日花街へ行ってもノルファに会うことはなかった。

 一緒に泊まっていた宿屋にも行ったが、今日は来ていないと言われてしまい、仕方なく借りている宿屋へ戻った。
 ベッドに座りながら、情報屋から受け取ったタシュリ公爵家をまとめた報告書に目を通す。

(やはり…証拠は残していないか。でもきっとまたリオーラ様を狙ってくるだろうな。それこそ、殺すまで…)

 ベッドに横になり、マルスは目を瞑った。考えるのはノルファのことだ。

(…今日は結局、一度も会えなかった。何かあったんだろうか?)

 一緒に過ごした時間に知ってしまった、ノルファの温もりを探してしまう―――

(初めてトルマトン家で眠った時よりも、一人で眠る今が一番淋しい…)

 きっと明日は会えるはず…と小さく呟き、マルスは眠りについた。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 朝になるとマルスは、急いで森へと向かった。鍛錬をしつつ、ノルファが来るのを待ったがやはり姿を現すことはなかった。

(出逢う前に戻っただけ…なのに……)

 マルスは魔導師団へ行く途中も、ノルファの姿がないか確認しながら歩いた。

 いつも通りの生活、いつも通りの仕事場、それなのに足りない―――

「うわ~、行きたくな~い~」

 部屋中に響き渡った声の主が、マルスの元へと駆け寄って来た。手には一枚の紙を握っている。

「大袈裟になんだ?」
「これだよ、これ!」

 差し出してきた紙を見ると[魔導師団実験承認書]と書かれていた。これは、危険が及ぶ実験の時に書かれる書類だ。
 魔導師団と騎士団の団長それぞれの承認がなければ、王宮内外でその実験が出来ないと決められている。

「カラリス副団長に押しつけられた…騎士団に行きたくな~い~」

 魔導師に嫌味ばかり言う騎士団にトゥルーカは行きたくないらしく、心底嫌そうな顔をしていた。

「…だったら、俺が行ってもいいか?」
「え?いいの?」
「騎士団の団長に承認の印をもらってくればいいんだろ」
「あ、ありがとう!マルス!俺のために~!!」

 トゥルーカが抱きついてこようとするのをササッと回避し、マルスは早々と騎士団の本部へと向かった。



 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「誰だ?」

 団長室の扉を叩くと部屋の中から声がした。すかさず、マルスは目的を告げる。

「魔導師団所属、マルス=トルマトンです。実験承認書の印をもらいに参りました」
「入れ」

 失礼します、と声をかけて部屋の中へと足を踏み入れる。団長と思わしき人が、机の上の書類をせっせと処理しており忙しそうだ。

「ベルベサリット様は、元気か?」

 書類に目を通しつつ、手を差し出してきたので、マルスは持ってきた書類を渡した。

「はい。毎日元気に魔導師の実験に付き合って、いらっしゃいます」
「最近は、カラリスしか会議に顔を出さないからな。たまに顔を出してほしいものだ」
「伝えておきます」

 団長が突然、手を止めてこちらを見てきた。承認の印を書き終わったらしい。

「これで、いいか?」
「はい、ありがとうございます」

 承認書に書かれた印を確認し、紙を受け取った。すでに団長は次の書類に目を通し始めている。

(用事が終わってしまった…)

「なんなら、帰り際に訓練場を見て帰るといい」
「え?」

 思いもよらない声がけに、思っていたことが口に出ていたのかとマルスは慌てた。

「短剣の使い手なんだろう?お前の手のひらには、短剣を使う者にあるタコが見えた。違うか?」

 思わず手のひらを見るが、どこにそのタコがあるのか全くわからない…

「俺は相手がどんな武器を使うか、手を見れば大体わかる」

 ニヤリと団長は不敵に笑ったが、マルスはその笑顔にゾッとした。魔導師団みんなには短剣が使えるのを隠しているし、ノルファ以外誰も知らない。
 それを手を見ただけで見抜いたのだ。きっとこの男にかかれば、暗殺者もすぐわかってしまうだろう―――

(騎士団は、本当に俺の天敵だらけだな)

「確か、第二騎士団が訓練をしているはずだ。見るだけでもいい経験になるぞ」
「…はい」

 深々とお辞儀をし、部屋を出たマルスは訓練場へと歩き出した。

「騎士団の幹部は、癖者くせもの揃いか」

 歩いていると前方から、剣の当たる音と人の騒めきが聞こえてきた。

(さっき第二騎士団が訓練していると言ってたから、ノルファもいるはず)

 こっそりと見つからないように移動し、訓練場を覗き見た。五十人近くの騎士が素振りをしたり、体力作りをしたり各自で動いているのが見えた。

「ノルファ、今日の予定だけど」

(ノルファ!?)

 声がした方を見ると、壁際で親しそうに話している二人組がいた。

「任せる。大丈夫だろう?」
「まぁ、問題はないかな。でもそろそろ、ノルファも夜勤やってくれ」
「ああ」

(ノルファだ…すぐそこにいる)

 マルスは今すぐ飛び出していきたい気持ちを抑えた。そして、今の自分の立場を改めて理解した。

 魔導師団員と騎士団副団長、普段なら接点もなければ、会うことも話しかけることもない。

(これが本来の立ち位置なんだ…)

 花街から離れれば…

 俺とノルファの距離は、こんなにも遠い―――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら嫌われ者No.01のザコキャラだった 〜引き篭もりニートは落ちぶれ王族に転生しました〜

隍沸喰(隍沸かゆ)
BL
引き篭もりニートの俺は大人にも子供にも人気の話題のゲーム『WoRLD oF SHiSUTo』の次回作を遂に手に入れたが、その直後に死亡してしまった。 目覚めたらその世界で最も嫌われ、前世でも嫌われ続けていたあの落ちぶれた元王族《ヴァントリア・オルテイル》になっていた。 同じ檻に入っていた子供を看病したのに殺されかけ、王である兄には冷たくされ…………それでもめげずに頑張ります! 俺を襲ったことで連れて行かれた子供を助けるために、まずは脱獄からだ! 重複投稿:小説家になろう(ムーンライトノベルズ) 注意: 残酷な描写あり 表紙は力不足な自作イラスト 誤字脱字が多いです! お気に入り・感想ありがとうございます。 皆さんありがとうございました! BLランキング1位(2021/8/1 20:02) HOTランキング15位(2021/8/1 20:02) 他サイト日間BLランキング2位(2019/2/21 20:00) ツンデレ、執着キャラ、おバカ主人公、魔法、主人公嫌われ→愛されです。 いらないと思いますが感想・ファンアート?などのSNSタグは #嫌01 です。私も宣伝や時々描くイラストに使っています。利用していただいて構いません!

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

待て、妊活より婚活が先だ!

檸なっつ
BL
俺の自慢のバディのシオンは実は伯爵家嫡男だったらしい。 両親を亡くしている孤独なシオンに日頃から婚活を勧めていた俺だが、いよいよシオンは伯爵家を継ぐために結婚しないといけなくなった。よし、お前のためなら俺はなんだって協力するよ! ……って、え?? どこでどうなったのかシオンは婚活をすっ飛ばして妊活をし始める。……なんで相手が俺なんだよ! **ムーンライトノベルにも掲載しております**

悪辣と花煙り――悪役令嬢の従者が大嫌いな騎士様に喰われる話――

BL
「ずっと前から、おまえが好きなんだ」 と、俺を容赦なく犯している男は、互いに互いを嫌い合っている(筈の)騎士様で――――。 「悪役令嬢」に仕えている性悪で悪辣な従者が、「没落エンド」とやらを回避しようと、裏で暗躍していたら、大嫌いな騎士様に見つかってしまった。双方の利益のために手を組んだものの、嫌いなことに変わりはないので、うっかり煽ってやったら、何故かがっつり喰われてしまった話。 ※ムーンライトノベルズでも公開しています(https://novel18.syosetu.com/n4448gl/)

世界一大好きな番との幸せな日常(と思っているのは)

かんだ
BL
現代物、オメガバース。とある理由から専業主夫だったΩだけど、いつまでも番のαに頼り切りはダメだと働くことを決めたが……。 ド腹黒い攻めαと何も知らず幸せな檻の中にいるΩの話。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

処理中です...