風魔法を誤解していませんか? 〜混ぜるな危険!見向きもされない風魔法は、無限の可能性を秘めていました〜

大沢ピヨ氏

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第39話 リザルト画面

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「……………………」


「……………………」



「……よ、よしっ。それじゃ、手分けをしてアイテムを回収しようか!」

「その前に一言イイっすか?」

 中村さんがおずおずと手を挙げた。


「ん、何か?」


「…………ざ、残酷すぎません?」

「う、うん……。まぁそれはもっともだけど、下手に近寄られて皆んなが怪我をするよりかはマシかなって……」

「そ、そっすよね……。すんません」

 もう少し、ガス玉のサイズを縮め、原型が残る程度の威力に抑えてもよかったのだが、下手に打ち損じると皆が危険に曝されるし……。

 なんとも加減が難しいな。




 目の前の草原では所々で土が捲れ上がり、その周りに大量のゴブリンが横たわっている。

 その多くが頭部を失っており、今もなお、死骸からは血が流れ出ていた。


「コータの魔法で何とかならんの?」

 中村さんが、小野さんに話しかける。


「いや無理だろ。俺の魔法ってそんなんじゃないぞ?」

 口ではそう断ったものの、一応は試してみるつもりらしく、小野さんは地面に広がった真っ赤な血に対して聖魔法を行使した。

 すると、地面を赤く染めていたゴブリンの血液が、みるみるうちに消えてなくなっていく。


「お!? なになに!? ちゃんと消せるじゃん!」

「いや? これ消えてないぞ? 血が透明になった? なんかそんな感じだわ」

 小野さんが言う通り、土や草にはまだ水滴が残っている。


「なにこれ? 聖血液? なの?」

「いや知らんし……」

「一応は触らないようにしておいて。動物の血って、あんまり身体に良さそうでもないし……」

「了解っす」

 浄化によって、聖血液に変化したのか、それとも水になったのか。いかなる現象が起きたのかは不明だが、小野さんの活躍によって、非常にグロテスクだった現場は、その見た目だけはサッパリとしたものになった。


◻︎◻︎◻︎


「やった! これ普通にナタっすよ」

「あ、こっちはオヤツかな?」


 皆がゴブリンの死骸から、金目の物を集めている。

 腰蓑こしみのしか残っていないような死骸からは魔石だけを取り出し、戦闘の爆発で開けられた穴へと放り込んでいる。

 何故か収奪に乗り遅れてしまった自分は、その、何も身につけていない死体の処理を担当することになったのだが……。


「あ、これまだ腕輪残ってるよー」

「はーい! すぐ行きます」

 少し離れた場所から、マキマキさんが駆けつけてくる。彼女は死骸の手首を軽く捻ると、いとも簡単に関節を外してみせた。


「はい、これで取れますよ」

「あ、ありがとう……」

 ゴブリンが身につけている腕輪は、手の幅より狭いものが多く、普通に引っ張っただけでは外せなかった。仕方ないので手首を切って取り外そうかとも考えたのだが、それを解決してくれたのがマキマキさんだ。

 彼女の『拷問』スキルを使うと、対象の関節をすぐに外せるようで、コリっと軽く力を込めるだけで、手首周辺がクタクタとなり、残酷なことをせずとも腕輪を手に入れることが出来た。

 関節を外すのも、それなりに残酷ではあるが。



 いま入手したような、魔物が身につけていた装飾品は『マジックアイテム』である確率が高い。

 浅層の魔物から手に入れたものなので、大した効果は期待できないが、一応は全てを持ち帰り、ダンジョンの入り口に設置されている判断石で確認しようと思う。


 そして、一通りのアイテムを集め終え、それを一度地面に並べてみる。


 金属類の武器は、

・錆びの浮いた長剣
・血まみれの幅広剣
・薪割り用のナタ
・金属メイス
・槍
・両刃斧
・ナイフが多数


 武器以外には、

・金属スパイク付きのバックラー5枚
・縁が金属で補強された丸盾5枚
・バックルが金属のベルト10本
火打金ひうちがね数個
・各種ポーチ類
・ポーションが3本

 その他に、腕輪、耳飾り、ネックレスなどの装飾品が計5点。


「……結構ありますね」

「これ、みんなゴブリン狩りをした方が良いんじゃないすか?」

「ばーか。あんなワラワラ出てくるのをどう倒せってんだ。社長がいなかったら囲まれちまうぞ」

「あー、そっか……」


 三人衆がそう疑問に思うのも無理はない。

 これらのアイテムを全て売却すると、数百万円は堅い。特にあの両刃斧は、使われている金属が多いので、相当な値段で売れるはずだ。

 ちなみに木や骨で作られた武器・道具類は全て穴に埋めてしまった。

 棘をビッシリと生やした棍棒なんかは、かなり強そうにも思えるが、売る時の値段が安いので、持ち帰るのは諦めることに。

 初心者用の装備としては需要がありそうなもんだが……。


「このまま使いたいものってある?」

「ポーションは私、伊吹くん、中村さんで常備しておきましょうか」

 そう提案したのは長良さんだ。


「了解。じゃあそれ以外は全部袋に詰めて、持ち帰ろう」

「あ、ちょっと待ってください」

 そういって小野さんが、地面に並べられたアイテムに聖魔法を振りかけると、こびりついていた血痕などが消え、清潔そうな見た目へと変わった。


「……泥なんかはそのままですね」

「血以外も綺麗になってない? 手垢?」

「ま、まぁ自分でもよくわかんないんで、何となく綺麗になったなーって思ってもらえれば……」

 彼はそう言うが、血痕が消えるだけでも相当にありがたい。これで売値も上がりそうだ。


◻︎◻︎◻︎


「生き残りが居ないかだけは注意してね」

「はーい」


 ゴブリンの片付けは終わり、続いて集落の中へと足を踏み入れてみる。


 中はどこを見ても荒れ果てていた。


 テントと呼ぶにはあまりに粗末な、皮を無理やりつなぎ合わせただけの覆いが四つほど周囲に点在している。

 ほつれた縫い目から、内側に置かれた寝具の端が風にめくれていた。


 集落の奥には、辛うじて『小屋』と呼べる程度の建物が一棟だけ存在していた。板と丸太を不器用に組んで作られたそれは、ボスゴブリンの棲家だったのだろう。

 中央の空き地には焚き火の跡が残っていた。灰の中にくすぶる赤い火が、つい先ほどまでここにいた者たちの気配を伝えている。

 横倒しになった串には、正体の知れない丸焦げの死骸が突き刺さったままだった。

 意外にも鼻を刺すような悪臭はない。むしろ、炙られた肉の良い匂いがまだ微かに漂っており、ここがつい先ほどまで生活の場だったことを思い知らされる。



「これ、ワニを隠す時に良さそうじゃないっすか。持って帰りましょうよ」

 そう言って、大島さんがテントの屋根をベリベリと剥がしていく。


「この柱しっかりしてますね。持ち帰って加工しますわ」

 中村さんはテントの支柱を引き抜いた。


「あ、これ金属の串っすね。貰ってきましょう」

 鉄串に刺さっていた肉を引き剥がしているのは小野さんだ。焦げた肉はそのまま焚き火へと投げ込まれた。



「………………りゃ……略奪だ……」



「しばらくしたら元に戻るって聞きますし、あまり気にしなくても良いのでは?」

 そう気遣ってくれたのは長良さん。彼らのいさぎよい略奪っぷりを見て驚いている自分に、そう声を掛けてくれた。


「そうなんだけど……。なんか、道徳的にさ……」

「ほら、マキマキさんも張り切ってアイテムを探してますよ?」

 長良さんが指を差した先には、テントの中にあった壺を覗き込み、顔を顰めているマキマキさんが見える。


「あんまり金目のものはなさそうに見えるけどな……。って、その杖、持ってかえるの?」

 長良さんの手には、ゴブリンメイジだか、ゴブリンシャーマンが持っていた杖が握られている。

「首領が装備していた杖ですし、何か特別な効能がないか気になりまして」

「ああ、そうか。マジックウェポンの可能性を忘れていたよ」

 件の杖は、最上部に獣の顔が彫られた木製の杖だ。意匠はあまり精巧とは言えないが、ボスモンスターの所持品だったのなら、何かしら特別な力が備わっているかもしれない。


「じゃあ俺たちは、あの小屋を確認しようか」

「行ってみましょう」


 こうして、長良さんと二人、ボスゴブリンが住んでいたと思われる、ボロボロの小屋へと足を向けた。


◻︎◻︎◻︎◻︎◻︎
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