女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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2. 強気な公爵令嬢とのお茶会

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令嬢のお茶会――それは、社交界では小さな戦場と呼ばれていた。

通常、この世界の令嬢が会うとバチバチのバトルになってしまうため、複数人では会わないらしい。

貴族とは、小さい頃から社交に励むものと勝手に想像していたエリシアには、それも不思議だった。


少なくとも、私の侍女であるマリアは朝から落ち着かない。


「お嬢様、本当に大丈夫でしょうか……」

「大丈夫、だと思います」

そう答えながらも、内心は少しだけ緊張していた。

相手は、今年社交界デビューする三人の高位令嬢の中でも、最も気位が高いと噂されている人。



――普通なら、怖いと思うところだ。

でも私は、少しだけ考え方を変えていた。

(営業先のお客様、営業先のお客様……)

前世で働いていた頃、難しい相手ほど「大切なお客様」だと思えば、自然と優しく接することができた。

だから今日も、それでいこうと決めている。

公爵邸の庭園は、息を呑むほど美しかった。

白い石のテラスに並べられたティーテーブル。
風に揺れる薔薇の香り。

そして、そこに座る彼女。

濃い色のドレスを完璧に着こなし、顎を少しだけ上げてこちらを見る姿は、まさに“高位令嬢”そのものだった。

「……遅くはないわね。合格よ」

最初の一言がそれだった。

普通なら、きっとこれで相手の令嬢も一言言い返すだろう。

けれど私は微笑んで頭を下げた。

「本日はお招きいただき、ありがとうございます。
お庭、とても素敵ですね。薔薇の色合わせが上品で……」

ほんの一瞬、公爵令嬢の眉が動いた。

侍従たちの空気がわずかに張り詰める。

「……当然でしょう。私が選んだのだから」

「さすがです。季節の光まで計算されているみたいで、座っているだけで気持ちが明るくなります」

無理に褒めているわけではない。

本当に綺麗だと思ったことを、そのまま言葉にしているだけ。

公爵令嬢は紅茶を一口飲み、じっと私を見つめた。

「あなた……私に媚びているの?」

試すような声。

普通ならここで言葉に詰まるのかもしれない。

けれど私は、少し首を傾げて答えた。

「いいえ。素敵だと思ったので」

その瞬間、周囲の侍従たちの視線が揺れた気がした。

沈黙が数秒流れる。

……怒らせてしまっただろうか。

そう思った時。

「……ふふ」

公爵令嬢が、小さく笑った。

「面白いわね、あなた」

空気が一気に和らぐ。

「普通の令嬢なら、もっと必死に張り合ってくるものよ」

「私は、争うのがあまり得意ではなくて……」

「知っているわ。だから呼んだのよ」

え?

思わず目を瞬かせる。

「あなた、最近噂になっているでしょう。
どんな相手とも穏やかに話すって」

知らなかった。

そんなふうに見られているなんて。

その後のお茶会は、思っていたよりもずっと和やかだった。

公爵令嬢は自分のドレスの話、音楽の話、旅行の話を楽しそうに語り、私はそれを聞きながら時々質問を返した。

ただそれだけなのに。

いつの間にか、彼女の表情は最初より柔らかくなっていた。

「……あなた、悪くないわ」

帰り際、公爵令嬢はそう言った。

「またお茶をしてあげてもいい」

言い方が、なんだか少し可愛く思える。

「ありがとうございます。ぜひ」

頭を下げると、彼女は満足そうに頷いた。

馬車に戻った瞬間、侍女が小声で叫ぶ。

「お、お嬢様……!
あの公爵令嬢様が笑っていらっしゃいました……!」

「え?」

「今まで、穏やかに終わったお茶会は一度もないと聞いていたのですが……」

私はきょとんとしてしまう。

ただ、相手を素敵だと思ったから、それを伝えただけなのに。

(……私、何か特別なことしたのかな)

分からない。

でも、ひとつだけ確かなことがあった。

怖いと思っていたお茶会が、思っていたよりも温かい時間だったこと。

そして――

社交界の噂は、静かに広がり始めていた。

伯爵令嬢エリシアは、あの公爵令嬢と和やかにお茶会をした。

次に待っているのは。

金髪碧眼しか認めない、もう一人の令嬢とのお茶会。

私はまだ知らない。

その出会いもまた、少し不思議で優しい時間になることを。
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