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1. 始まり
朝露を含んだ薔薇が、庭園の石畳に淡く香っていた。
エリシア・フロレンティアは、バルコニーの手すりにそっと指を置き、目を細める。
広がるのは伯爵家の庭園。
白いアーチに絡む花々、遠くで働く庭師たちの姿。
穏やかな光景なのに――胸の奥には、時折ふしぎな感覚がよぎる。
(……ここは、私の知っている世界じゃない)
前世の記憶。
日本という国で、会社員として生きていた日々。
満員電車で出勤し、仕事を覚え、毎日必死に新社会人として奮闘していた自分。
気づけば、この世界に生まれ変わっていた。
伯爵令嬢として。
扉が控えめにノックされる。
「エリシア、入ってもいいかい?」
優しい声に、彼女の表情が自然と緩んだ。
「ええ、お父様」
入ってきたのは、父のルーカス・フロレンティア。
淡い金色の髪と、穏やかな瞳。
いつも優しい大好きな父だ。
「今日も庭にいたのか。朝は冷えるだろう」
そう言って、肩に薄いショールをかけてくれる。
子どもの頃から変わらない仕草。
「……大丈夫ですわ」
「大丈夫、はエリシアの口癖だな」
苦笑しながら、ルーカスは小さな封筒を差し出した。
王宮の紋章。
エリシアの心臓が少し跳ねた。
「数日後から始まる王宮社交会の招待状だ。先ほど届いてね」
女性の少ないこの国では、社交会は一大行事だ。
「……王宮社交会……」
思わずそう呟くと、父は優しく笑った。
「もう17歳だ。早いよなぁ。でも、エリシアがまだ嫌なら今年はまだ辞退してもいいんだよ」
この世界では女性が少ない。
強気で苛烈な令嬢が多い中、控えめなエリシアに父はいつも過保護だ。
「私も同行する」
「お父様も?」
「当然だろう。一緒に登城しよう。それにエリシアは可愛いから心配だ! 」
いつも優しい父に、胸の奥が少し温かくなる。
ただ可愛いというのは親の欲目もあるだろう。
そう言われても、素直に頷けない。
確かに、鏡の中の自分は整っていると思う。
淡い金の髪に、柔らかな瞳。
ドレスも似合っている。
でも。
――貴族は、みんな顔が良い。
だから、家族に褒めそやされてもいまいちピンと来ないのよね。
初めての王宮でも、父と一緒なら心強いとエリシアは微笑んだ。
*
昼下がりの応接室。
紅茶の香りの中、父は書類を確認していた。
「社交会には、近衛騎士だけでなく、第一騎士団が警備に入るそうだ。騎士団長も動くらしい」
「大事なのね……」
転生しても未だに、前世の日本人を引きずっている自分。
伯爵令嬢として生を受けて、成長はしたけれど、女性が少ないせいか、ほとんど外出などなく育ったエリシアとしては、いまひとつピンと来ない。
自分とは縁のない世界だと、どこかで思っていた。
「緊張しているのかい?」
父の問いに、エリシアは小さく首を振る。
「……大丈夫よ」
本当は、いろいろと不安だった。
でも過保護な父親は、そんな事を言ったら今年はやめておこうと言いそうだ。
不安だけれども、1年延ばしたところで結局いつかは行かなければならないのだ。
その後も心配する父親をなだめながら、社交会についての確認をしていった。
エリシア・フロレンティアは、バルコニーの手すりにそっと指を置き、目を細める。
広がるのは伯爵家の庭園。
白いアーチに絡む花々、遠くで働く庭師たちの姿。
穏やかな光景なのに――胸の奥には、時折ふしぎな感覚がよぎる。
(……ここは、私の知っている世界じゃない)
前世の記憶。
日本という国で、会社員として生きていた日々。
満員電車で出勤し、仕事を覚え、毎日必死に新社会人として奮闘していた自分。
気づけば、この世界に生まれ変わっていた。
伯爵令嬢として。
扉が控えめにノックされる。
「エリシア、入ってもいいかい?」
優しい声に、彼女の表情が自然と緩んだ。
「ええ、お父様」
入ってきたのは、父のルーカス・フロレンティア。
淡い金色の髪と、穏やかな瞳。
いつも優しい大好きな父だ。
「今日も庭にいたのか。朝は冷えるだろう」
そう言って、肩に薄いショールをかけてくれる。
子どもの頃から変わらない仕草。
「……大丈夫ですわ」
「大丈夫、はエリシアの口癖だな」
苦笑しながら、ルーカスは小さな封筒を差し出した。
王宮の紋章。
エリシアの心臓が少し跳ねた。
「数日後から始まる王宮社交会の招待状だ。先ほど届いてね」
女性の少ないこの国では、社交会は一大行事だ。
「……王宮社交会……」
思わずそう呟くと、父は優しく笑った。
「もう17歳だ。早いよなぁ。でも、エリシアがまだ嫌なら今年はまだ辞退してもいいんだよ」
この世界では女性が少ない。
強気で苛烈な令嬢が多い中、控えめなエリシアに父はいつも過保護だ。
「私も同行する」
「お父様も?」
「当然だろう。一緒に登城しよう。それにエリシアは可愛いから心配だ! 」
いつも優しい父に、胸の奥が少し温かくなる。
ただ可愛いというのは親の欲目もあるだろう。
そう言われても、素直に頷けない。
確かに、鏡の中の自分は整っていると思う。
淡い金の髪に、柔らかな瞳。
ドレスも似合っている。
でも。
――貴族は、みんな顔が良い。
だから、家族に褒めそやされてもいまいちピンと来ないのよね。
初めての王宮でも、父と一緒なら心強いとエリシアは微笑んだ。
*
昼下がりの応接室。
紅茶の香りの中、父は書類を確認していた。
「社交会には、近衛騎士だけでなく、第一騎士団が警備に入るそうだ。騎士団長も動くらしい」
「大事なのね……」
転生しても未だに、前世の日本人を引きずっている自分。
伯爵令嬢として生を受けて、成長はしたけれど、女性が少ないせいか、ほとんど外出などなく育ったエリシアとしては、いまひとつピンと来ない。
自分とは縁のない世界だと、どこかで思っていた。
「緊張しているのかい?」
父の問いに、エリシアは小さく首を振る。
「……大丈夫よ」
本当は、いろいろと不安だった。
でも過保護な父親は、そんな事を言ったら今年はやめておこうと言いそうだ。
不安だけれども、1年延ばしたところで結局いつかは行かなければならないのだ。
その後も心配する父親をなだめながら、社交会についての確認をしていった。
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