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こだわり侯爵令嬢
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大きな窓から差し込む光が、磨き上げられた床に揺らめいていた。
私は深呼吸をひとつした。
(……今日は、侯爵令嬢とのお茶会)
今年デビューした高位令嬢の一人。
金髪碧眼に強いこだわりを持つ――リュシエンヌ侯爵令嬢。
噂では、少しでも趣味が合わない相手とはすぐ言い争いになるらしい。
扉が開く。
「……あなたが伯爵令嬢?」
澄んだ声とともに、彼女が現れた。
流れるような金髪。
美しく澄んだ碧眼。
まるで絵本の中の王女様みたいだった。
「本日はお招きありがとうございます」
私が礼をすると、彼女は椅子に座りながらじっとこちらを見る。
「あなた、一応金髪なのね」
いきなり髪色の話。
私は少しだけ笑った。
「そうですね。リュシエンヌ様のような輝く金色ではなく、淡い金色ですが」
「私、幼い頃から物語が好きでしたの。理想の王子様は――金髪碧眼。だから、将来の相手も絶対にそうでなければ嫌。色にもこだわりがあって、輝く金髪と澄んだ濃い碧眼でないとね」
はっきりとした宣言。
普通ならここで反論なり、相手が否定して空気がピリつくのかもしれない。
(……でも)
私は心の中で、前世の仕事を思い出した。
――営業先のお客様だと思えばいい。
相手の“好き”を尊重する。
それだけ。
「素敵ですね」
私がそう言うと、侯爵令嬢の目が少しだけ丸くなった。
「……否定しないの?」
「どうしてですか? 好きなものを大事にできるって、すごく素敵だと思います」
紅茶が運ばれる。
彼女は無言でカップを手に取った。
「皆、わがままだと言いますのよ。理想が限定的すぎるって」
「理想があるからこそ、ぶれないんじゃないでしょうか」
私がそう言うと、彼女の指先が止まる。
「……あなた、面白いわね」
少しだけ口元が緩んだ。
「でも、あなたの髪の色は私の理想とする金髪ではないですわ」
「そうですね」
素直にうなずく。
「でも、髪色はそれぞれ素敵ですよね」
「え?」
「輝く金髪が似合う人も素敵。でも、違う色でもその人に似合っていたら素敵だと思います」
しばらく沈黙。
窓の外で風が木々を揺らした。
侯爵令嬢はゆっくりと私を観察するように見つめる。
「……あなた、不思議な人」
「よく言われます」
「私の考えに言い返さないし、でも私に賛成しないし」
思わず笑ってしまう。
「好きなものを否定しないのと、自分を偽るのは違うと思うんです」
彼女はふっと小さく息を吐いた。
「なるほどね……だからあなた、周囲と揉めないのかしら」
紅茶を一口。
そして、まっすぐ私を見て言った。
「あなたなら――髪色は合格ですわ」
「……合格、ですか?」
「ええ。私の美学に反しないという意味で」
ほんの少しだけ、意地悪そうな笑み。
「仲良くしてあげてもよろしくてよ」
思わず胸が暖かくなる。
「はい。ぜひ、よろしくお願いします」
初対面とは思えないほど、空気はやわらいでいた。
――こうして、強い理想を持つ侯爵令嬢とのお茶会は、
思っていたよりずっと穏やかに終わったのだった。
私は深呼吸をひとつした。
(……今日は、侯爵令嬢とのお茶会)
今年デビューした高位令嬢の一人。
金髪碧眼に強いこだわりを持つ――リュシエンヌ侯爵令嬢。
噂では、少しでも趣味が合わない相手とはすぐ言い争いになるらしい。
扉が開く。
「……あなたが伯爵令嬢?」
澄んだ声とともに、彼女が現れた。
流れるような金髪。
美しく澄んだ碧眼。
まるで絵本の中の王女様みたいだった。
「本日はお招きありがとうございます」
私が礼をすると、彼女は椅子に座りながらじっとこちらを見る。
「あなた、一応金髪なのね」
いきなり髪色の話。
私は少しだけ笑った。
「そうですね。リュシエンヌ様のような輝く金色ではなく、淡い金色ですが」
「私、幼い頃から物語が好きでしたの。理想の王子様は――金髪碧眼。だから、将来の相手も絶対にそうでなければ嫌。色にもこだわりがあって、輝く金髪と澄んだ濃い碧眼でないとね」
はっきりとした宣言。
普通ならここで反論なり、相手が否定して空気がピリつくのかもしれない。
(……でも)
私は心の中で、前世の仕事を思い出した。
――営業先のお客様だと思えばいい。
相手の“好き”を尊重する。
それだけ。
「素敵ですね」
私がそう言うと、侯爵令嬢の目が少しだけ丸くなった。
「……否定しないの?」
「どうしてですか? 好きなものを大事にできるって、すごく素敵だと思います」
紅茶が運ばれる。
彼女は無言でカップを手に取った。
「皆、わがままだと言いますのよ。理想が限定的すぎるって」
「理想があるからこそ、ぶれないんじゃないでしょうか」
私がそう言うと、彼女の指先が止まる。
「……あなた、面白いわね」
少しだけ口元が緩んだ。
「でも、あなたの髪の色は私の理想とする金髪ではないですわ」
「そうですね」
素直にうなずく。
「でも、髪色はそれぞれ素敵ですよね」
「え?」
「輝く金髪が似合う人も素敵。でも、違う色でもその人に似合っていたら素敵だと思います」
しばらく沈黙。
窓の外で風が木々を揺らした。
侯爵令嬢はゆっくりと私を観察するように見つめる。
「……あなた、不思議な人」
「よく言われます」
「私の考えに言い返さないし、でも私に賛成しないし」
思わず笑ってしまう。
「好きなものを否定しないのと、自分を偽るのは違うと思うんです」
彼女はふっと小さく息を吐いた。
「なるほどね……だからあなた、周囲と揉めないのかしら」
紅茶を一口。
そして、まっすぐ私を見て言った。
「あなたなら――髪色は合格ですわ」
「……合格、ですか?」
「ええ。私の美学に反しないという意味で」
ほんの少しだけ、意地悪そうな笑み。
「仲良くしてあげてもよろしくてよ」
思わず胸が暖かくなる。
「はい。ぜひ、よろしくお願いします」
初対面とは思えないほど、空気はやわらいでいた。
――こうして、強い理想を持つ侯爵令嬢とのお茶会は、
思っていたよりずっと穏やかに終わったのだった。
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