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6. 赤髪の騎士と初めての対面
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その日、伯爵邸の空気はどこか張り詰めていた。
廊下の絨毯は念入りに整えられ、花瓶の位置まで細かく直されている。
理由はひとつ。
――騎士団長の子息が来る。
(……本当に来るんだ)
鏡の前でリボンを結び直しながら、小さく息を吐いた。
高位貴族の見合いなんて珍しくないはずなのに、なぜか落ち着かない。
前世の感覚が残っているせいか、どうしても自分に何人もの求婚者が来るなんて実感がわかない。
一応、伯爵令嬢だし、魔力も高いほうだ。
おそらく適齢期の女性として条件は良いのだろうが、実感がわかないのだ。
「お嬢様、お客様がお見えです」
侍女の声に、胸が小さく跳ねた。
深呼吸をして、応接室の扉をくぐる。
そして――
視界に入った瞬間、思考が止まった。
そこに立っていた青年は、まるで炎のような赤髪をしていた。
鮮やかな朱色が光を受けて揺れ、少し長めの前髪が額にかかっている。
鍛えられた肩幅、すらりとした長身。
騎士服を着こなす姿は凛々しく、まさに“騎士”という言葉が似合う。
けれど――
強い印象の髪色とは対照的に、瞳は落ち着いた琥珀色で、どこか真面目そうだった。
(……え、待って)
胸がどくん、と鳴る。
(すごく、かっこいい……)
思わず見入ってしまって、慌てて視線を落とす。
顔が熱い。
父が穏やかに紹介する。
「こちらが騎士団長家のご子息、アレクシス殿だ」
「……初めまして。アレクシスです」
低くて少しだけ硬い声。
彼は一歩前に出て礼をした――が。
ほんの一瞬、動きがぎこちなかった。
完璧に見えるのに、どこか少しだけ不器用。
(……あれ?)
意外で、思わず目を瞬く。
アレクシスはすぐ姿勢を整えたが、わずかに耳が赤くなっているような気がした。
「エリシア嬢、本日は……その、時間をいただき、ありがとうございます」
言葉を選ぶような話し方。
騎士らしく真面目だけれど、少しだけぎこちない。
それが妙に人間らしくて、緊張が少し和らいだ。
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます」
席につくと、紅茶が運ばれる。
沈黙が落ちるかと思ったけれど――
アレクシスが先に口を開いた。
「……社交界には、まだ慣れていないと聞きました」
「はい……少しだけ苦手で」
「……そう、ですか」
短い返事。
会話が途切れそうになり、私は内心で焦る。
(どうしよう、騎士団長の子息様なのに……)
けれどその時、彼が少しだけ視線を泳がせた。
まるで何か言いたいのに言葉が出てこないような。
そして、ぽつりと続ける。
「……無理に慣れる必要はないと思います」
思いがけない言葉だった。
「あなたのような方のほうが……その……落ち着きます」
言い終えたあと、アレクシスはほんの少しだけ目を逸らした。
赤い髪の隙間から見える耳が、また少し赤くなっている。
(……不器用な人、なのかな)
最初に感じた“完璧な騎士”の印象が、少しだけ変わる。
でもそれが、逆に安心できた。
私は思わず小さく微笑む。
「ありがとうございます。少し、ほっとしました」
そう言うと、アレクシスの瞳がわずかに柔らいだ。
ほんの一瞬だけ。
その変化に、胸がきゅっとする。
(……もう少し、話してみたい)
見合いはまだ始まったばかりなのに、そう思っている自分に驚いた。
赤い髪が光に揺れるたび、視線を逸らそうとしても、つい追ってしまう。
騎士としては完璧そうなのに、どこかぎこちなくて。
でも、その不器用さが――
とても、素敵に見えた。
廊下の絨毯は念入りに整えられ、花瓶の位置まで細かく直されている。
理由はひとつ。
――騎士団長の子息が来る。
(……本当に来るんだ)
鏡の前でリボンを結び直しながら、小さく息を吐いた。
高位貴族の見合いなんて珍しくないはずなのに、なぜか落ち着かない。
前世の感覚が残っているせいか、どうしても自分に何人もの求婚者が来るなんて実感がわかない。
一応、伯爵令嬢だし、魔力も高いほうだ。
おそらく適齢期の女性として条件は良いのだろうが、実感がわかないのだ。
「お嬢様、お客様がお見えです」
侍女の声に、胸が小さく跳ねた。
深呼吸をして、応接室の扉をくぐる。
そして――
視界に入った瞬間、思考が止まった。
そこに立っていた青年は、まるで炎のような赤髪をしていた。
鮮やかな朱色が光を受けて揺れ、少し長めの前髪が額にかかっている。
鍛えられた肩幅、すらりとした長身。
騎士服を着こなす姿は凛々しく、まさに“騎士”という言葉が似合う。
けれど――
強い印象の髪色とは対照的に、瞳は落ち着いた琥珀色で、どこか真面目そうだった。
(……え、待って)
胸がどくん、と鳴る。
(すごく、かっこいい……)
思わず見入ってしまって、慌てて視線を落とす。
顔が熱い。
父が穏やかに紹介する。
「こちらが騎士団長家のご子息、アレクシス殿だ」
「……初めまして。アレクシスです」
低くて少しだけ硬い声。
彼は一歩前に出て礼をした――が。
ほんの一瞬、動きがぎこちなかった。
完璧に見えるのに、どこか少しだけ不器用。
(……あれ?)
意外で、思わず目を瞬く。
アレクシスはすぐ姿勢を整えたが、わずかに耳が赤くなっているような気がした。
「エリシア嬢、本日は……その、時間をいただき、ありがとうございます」
言葉を選ぶような話し方。
騎士らしく真面目だけれど、少しだけぎこちない。
それが妙に人間らしくて、緊張が少し和らいだ。
「こちらこそ、お越しいただきありがとうございます」
席につくと、紅茶が運ばれる。
沈黙が落ちるかと思ったけれど――
アレクシスが先に口を開いた。
「……社交界には、まだ慣れていないと聞きました」
「はい……少しだけ苦手で」
「……そう、ですか」
短い返事。
会話が途切れそうになり、私は内心で焦る。
(どうしよう、騎士団長の子息様なのに……)
けれどその時、彼が少しだけ視線を泳がせた。
まるで何か言いたいのに言葉が出てこないような。
そして、ぽつりと続ける。
「……無理に慣れる必要はないと思います」
思いがけない言葉だった。
「あなたのような方のほうが……その……落ち着きます」
言い終えたあと、アレクシスはほんの少しだけ目を逸らした。
赤い髪の隙間から見える耳が、また少し赤くなっている。
(……不器用な人、なのかな)
最初に感じた“完璧な騎士”の印象が、少しだけ変わる。
でもそれが、逆に安心できた。
私は思わず小さく微笑む。
「ありがとうございます。少し、ほっとしました」
そう言うと、アレクシスの瞳がわずかに柔らいだ。
ほんの一瞬だけ。
その変化に、胸がきゅっとする。
(……もう少し、話してみたい)
見合いはまだ始まったばかりなのに、そう思っている自分に驚いた。
赤い髪が光に揺れるたび、視線を逸らそうとしても、つい追ってしまう。
騎士としては完璧そうなのに、どこかぎこちなくて。
でも、その不器用さが――
とても、素敵に見えた。
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