女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

文字の大きさ
8 / 39

7. 初めての戸惑い「アレクシス視点」

伯爵邸の門がゆっくりと遠ざかっていく。


革張りの座席に背を預けたアレクシスは、窓の外を見つめたまま動かない。

……いや、動けなかった。

(……何だ、今のは)

胸の奥が落ち着かない。

こんな感覚になったことはない。

訓練でも、試合でも、剣を握れば心は静まった。

なのに――

紅茶の香りと、柔らかな声が、何度も頭の中で繰り返される。

『ありがとうございます。少し、ほっとしました』

あの言葉。

思い出した瞬間、無意識に指先が握りしめられた。

(……俺は、何を言ったんだ)

騎士として完璧であれ。

父である騎士団長から叩き込まれてきた教えだ。

感情に流されるな。
言葉は簡潔に。
無駄な動揺は見せるな。

――なのに。

彼女の前では、言葉が少しだけ遅れた。

何を話せばいいのか、考えてしまった。

初めてだった。

女性と話して、こんなに間を意識したのは。

馬車が小さく揺れる。

窓に映った自分の顔は、いつもより少しだけ赤く見えた。



「……落ち着け」

低くつぶやく。

だが鼓動はなかなか戻らない。

彼女は、他の令嬢たちとは違った。

自分を売り込もうとも、騎士団長家に取り入ろうともしていない。

それなのに。

会話が途切れても、不思議と気まずくなかった。

沈黙が、静かだった。

(……隣にいて、疲れない)

それがどれほど珍しいことか、アレクシス自身が一番よくわかっている。

騎士として期待され、常に評価される立場。

誰もが“騎士団長の息子”として接してくる。

けれど彼女は違った。

ただ、普通に。

少しだけ遠慮しながら、けれど真っ直ぐに話していた。

――それが、妙に心地好かった。

馬車の揺れが緩やかになる。

城門が近づいているらしい。

(……次は、どうする)

これは家同士の見合いだ。

高魔力の血を残すための、合理的な縁談。


頭では理解している。

だが。

紅茶を持つ彼女の手。

控えめに笑った笑顔。

思い出すたび、胸が少しだけ温かくなる。

「……早くまた会いたいな」

ぽつりとつぶやく。

理由はいくらでも作れる。

社交会の確認でも、護衛の相談でも。

けれど本音は――

(……もう少し、話してみたい)

その瞬間、自分で言葉にしてしまったことに気づき、軽く息を止めた。

こんな感情を自覚するのは、初めてだった。

馬車が止まる。

扉が開き、外の光が差し込む。


アレクシスは立ち上がり、いつもの騎士の顔に戻った。

だが――

胸の奥だけは、少し違う。

赤髪を揺らしながら歩き出し、ふと小さく呟いた。

「……次は、もう少しうまく話せるだろうか」

誰にも聞こえない声。

それは、戦場では決して見せない、若い騎士の不器用な願いだった。
感想 0

あなたにおすすめの小説

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハーレム異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーレムです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【恋愛】目覚めたら何故か騎士団長の腕の中でした。まさかの異世界トリップのようです?

梅花
恋愛
日下美南(くさかみなみ)はある日、ひょんなことから異世界へとトリップしてしまう。 そして降り立ったのは異世界だったが、まさかの騎士団長ベルゴッドの腕の中。 何で!? しかも、何を思ったのか盛大な勘違いをされてしまって、ベルゴッドに囲われ花嫁に? 堅物騎士団長と恋愛経験皆無の喪女のラブロマンス?

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

わたしさえいなければ、完璧な王太子だそうです。

ふらり
恋愛
人並外れた美貌・頭脳・スタイル・武勇を持つウィンダリア王国の25歳の王太子は、完璧な王太子だと言われていた。ただし、「婚約者さえいなければ完璧な王太子なのに」と皆が言う。12歳の婚約者、ヴァイオレット・オルトニーは周囲から憐みの目を向けられていた。 「私との婚約は、契約で仕方なくなのかい? もう私に飽きてしまっている? 私は今でも君にこんなに夢中なのに」 13歳年下の婚約者少女に執着溺愛する美貌も能力も人間離れした王太子様と、振り回される周囲のお話です。小説家になろうにて完結しております。少しずつこちらにもあげていくつもりです。ファンタジー要素はちょっぴりです。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。