女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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7. 初めての戸惑い「アレクシス視点」

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伯爵邸の門がゆっくりと遠ざかっていく。


革張りの座席に背を預けたアレクシスは、窓の外を見つめたまま動かない。

……いや、動けなかった。

(……何だ、今のは)

胸の奥が落ち着かない。

こんな感覚になったことはない。

訓練でも、試合でも、剣を握れば心は静まった。

なのに――

紅茶の香りと、柔らかな声が、何度も頭の中で繰り返される。

『ありがとうございます。少し、ほっとしました』

あの言葉。

思い出した瞬間、無意識に指先が握りしめられた。

(……俺は、何を言ったんだ)

騎士として完璧であれ。

父である騎士団長から叩き込まれてきた教えだ。

感情に流されるな。
言葉は簡潔に。
無駄な動揺は見せるな。

――なのに。

彼女の前では、言葉が少しだけ遅れた。

何を話せばいいのか、考えてしまった。

初めてだった。

女性と話して、こんなに間を意識したのは。

馬車が小さく揺れる。

窓に映った自分の顔は、いつもより少しだけ赤く見えた。



「……落ち着け」

低くつぶやく。

だが鼓動はなかなか戻らない。

彼女は、他の令嬢たちとは違った。

自分を売り込もうとも、騎士団長家に取り入ろうともしていない。

それなのに。

会話が途切れても、不思議と気まずくなかった。

沈黙が、静かだった。

(……隣にいて、疲れない)

それがどれほど珍しいことか、アレクシス自身が一番よくわかっている。

騎士として期待され、常に評価される立場。

誰もが“騎士団長の息子”として接してくる。

けれど彼女は違った。

ただ、普通に。

少しだけ遠慮しながら、けれど真っ直ぐに話していた。

――それが、妙に心地好かった。

馬車の揺れが緩やかになる。

城門が近づいているらしい。

(……次は、どうする)

これは家同士の見合いだ。

高魔力の血を残すための、合理的な縁談。


頭では理解している。

だが。

紅茶を持つ彼女の手。

控えめに笑った笑顔。

思い出すたび、胸が少しだけ温かくなる。

「……早くまた会いたいな」

ぽつりとつぶやく。

理由はいくらでも作れる。

社交会の確認でも、護衛の相談でも。

けれど本音は――

(……もう少し、話してみたい)

その瞬間、自分で言葉にしてしまったことに気づき、軽く息を止めた。

こんな感情を自覚するのは、初めてだった。

馬車が止まる。

扉が開き、外の光が差し込む。


アレクシスは立ち上がり、いつもの騎士の顔に戻った。

だが――

胸の奥だけは、少し違う。

赤髪を揺らしながら歩き出し、ふと小さく呟いた。

「……次は、もう少しうまく話せるだろうか」

誰にも聞こえない声。

それは、戦場では決して見せない、若い騎士の不器用な願いだった。
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