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10. 魔術師団長子息との見合い
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本日、伯爵邸にお越しになるのは
王国魔術師団長子息、ユリウス・クローディア様。
女性の少ないこの時代。
高位貴族同士の縁談は、ほとんどが国の均衡の一部。
私も、その一人。
(きちんと、ご挨拶しなくては)
そう思って応接間へ向かった。
⸻
「お初にお目にかかります、エリシア嬢」
顔を上げた瞬間、胸が小さく跳ねた。
整った横顔。
夜色の黒髪。
紫がかった蒼い瞳。
……綺麗な方。
落ち着いた微笑みが、あまりにも自然で。
まるで物語の挿絵のようだった。
「ユリウス・クローディアと申します。本日はお時間をいただき感謝いたします」
声も穏やかで柔らかい。
完璧なご挨拶。
(少し、緊張してしまうわ……)
⸻
席に着くと、彼は落ち着いた調子で普段魔術師として国に仕えていることを話してくれた。
静かで理知的な口調。
「私は、できればエリシア嬢と結婚を前向きに婚約者となっていただきたい」
率直だった。
けれど冷たくはない。
誠実に“立場”を話している。
私は小さく頷く。
「私も、婚約については前向きに考えております」
それが現実。
感情だけで生きられる立場ではない。
⸻
「ですが」
「可能であれば、尊敬できる方とご縁を結びたいとも思っています」
私の言葉に、ユリウス様は柔らかく微笑んでくれた。
「私自身もそう思っております。また、エリシア嬢にそう思ってもらえるよう頑張ります」
その後は、和やかに会話が続いていった。
ただ、魔力の話に入ってからはそれが少し崩れた。
「エリシア様の魔力は、非常に安定していると伺いました」
私は控えめに答える。
「大きな力ではありませんが、制御は得意です」
その瞬間。
彼の瞳が、きらりと輝いた。
「制御が得意、というのは非常に重要です」
声の熱が上がる。
「通常、魔力は感情の波に左右されます。しかし安定型保持者は――」
止まらない。
身を乗り出し、指先で空中に魔法陣を描く。
……あ。
この方。
魔術のお話になると、夢中になるのね。
さきほどまでの完璧な紳士はどこへ?
少しだけ早口で、楽しそうに語る姿は――
なんだか、可愛らしい。
「……失礼いたしました」
はっとして、咳払いをする。
「研究者の悪癖です」
頬がわずかに赤い。
私は小さく微笑んだ。
「魔術がお好きなのですね」
「ええ。生活の一部のようなものです」
少しだけ照れたような笑み。
先ほどよりも、ずっと自然。
⸻
会話は穏やかに続いた。
彼は決して威圧しない。
こちらの言葉をきちんと待つ。
そして、さりげなく褒める。
「落ち着いていらっしゃる」
「素敵ですね」
その一言一言が丁寧で。
(口がお上手な方……)
けれど、どこか不器用。
先ほど、魔術の話で我を忘れてずっと魔術式について語ってしまったことを何度も謝罪された。
ちょっとおもしろくて、私は笑ってしまった。
ユリウス様からすると、令嬢の話を聞かず自分の魔術の話をたくさんしてしまったのに激怒しない私に驚いていた。
⸻
帰り際、彼は深く一礼した。
「本日は、大変有意義なお時間でした。お会いしていただきありがとうございます」
その声音は、柔らかい。でも若干落ち込んでいるようにも聞こえた。
「……私も、楽しかったです」
素直な気持ちだった。
彼は少しだけ目を見開く。
予想外だったのだろうか。
「失態してしまったのにそう言っていただけるとは……光栄です」
貴族の笑みではなく屈託のない笑顔でユリウス様が言った。
⸻
馬車が遠ざかる。
私は窓辺で小さく息をつく。
完璧な紳士かと思えば、魔術の話で止まらなくなる人。
美しくて、柔らかな態度で。
でもどこか純粋。
(不思議な方……)
政略。
国の均衡。
そういう理由は確かにある。
けれど。
今日の彼は、“義務”だけでは来ていなかった気がする。
ユリウス様も……素敵な人だな。
王国魔術師団長子息、ユリウス・クローディア様。
女性の少ないこの時代。
高位貴族同士の縁談は、ほとんどが国の均衡の一部。
私も、その一人。
(きちんと、ご挨拶しなくては)
そう思って応接間へ向かった。
⸻
「お初にお目にかかります、エリシア嬢」
顔を上げた瞬間、胸が小さく跳ねた。
整った横顔。
夜色の黒髪。
紫がかった蒼い瞳。
……綺麗な方。
落ち着いた微笑みが、あまりにも自然で。
まるで物語の挿絵のようだった。
「ユリウス・クローディアと申します。本日はお時間をいただき感謝いたします」
声も穏やかで柔らかい。
完璧なご挨拶。
(少し、緊張してしまうわ……)
⸻
席に着くと、彼は落ち着いた調子で普段魔術師として国に仕えていることを話してくれた。
静かで理知的な口調。
「私は、できればエリシア嬢と結婚を前向きに婚約者となっていただきたい」
率直だった。
けれど冷たくはない。
誠実に“立場”を話している。
私は小さく頷く。
「私も、婚約については前向きに考えております」
それが現実。
感情だけで生きられる立場ではない。
⸻
「ですが」
「可能であれば、尊敬できる方とご縁を結びたいとも思っています」
私の言葉に、ユリウス様は柔らかく微笑んでくれた。
「私自身もそう思っております。また、エリシア嬢にそう思ってもらえるよう頑張ります」
その後は、和やかに会話が続いていった。
ただ、魔力の話に入ってからはそれが少し崩れた。
「エリシア様の魔力は、非常に安定していると伺いました」
私は控えめに答える。
「大きな力ではありませんが、制御は得意です」
その瞬間。
彼の瞳が、きらりと輝いた。
「制御が得意、というのは非常に重要です」
声の熱が上がる。
「通常、魔力は感情の波に左右されます。しかし安定型保持者は――」
止まらない。
身を乗り出し、指先で空中に魔法陣を描く。
……あ。
この方。
魔術のお話になると、夢中になるのね。
さきほどまでの完璧な紳士はどこへ?
少しだけ早口で、楽しそうに語る姿は――
なんだか、可愛らしい。
「……失礼いたしました」
はっとして、咳払いをする。
「研究者の悪癖です」
頬がわずかに赤い。
私は小さく微笑んだ。
「魔術がお好きなのですね」
「ええ。生活の一部のようなものです」
少しだけ照れたような笑み。
先ほどよりも、ずっと自然。
⸻
会話は穏やかに続いた。
彼は決して威圧しない。
こちらの言葉をきちんと待つ。
そして、さりげなく褒める。
「落ち着いていらっしゃる」
「素敵ですね」
その一言一言が丁寧で。
(口がお上手な方……)
けれど、どこか不器用。
先ほど、魔術の話で我を忘れてずっと魔術式について語ってしまったことを何度も謝罪された。
ちょっとおもしろくて、私は笑ってしまった。
ユリウス様からすると、令嬢の話を聞かず自分の魔術の話をたくさんしてしまったのに激怒しない私に驚いていた。
⸻
帰り際、彼は深く一礼した。
「本日は、大変有意義なお時間でした。お会いしていただきありがとうございます」
その声音は、柔らかい。でも若干落ち込んでいるようにも聞こえた。
「……私も、楽しかったです」
素直な気持ちだった。
彼は少しだけ目を見開く。
予想外だったのだろうか。
「失態してしまったのにそう言っていただけるとは……光栄です」
貴族の笑みではなく屈託のない笑顔でユリウス様が言った。
⸻
馬車が遠ざかる。
私は窓辺で小さく息をつく。
完璧な紳士かと思えば、魔術の話で止まらなくなる人。
美しくて、柔らかな態度で。
でもどこか純粋。
(不思議な方……)
政略。
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そういう理由は確かにある。
けれど。
今日の彼は、“義務”だけでは来ていなかった気がする。
ユリウス様も……素敵な人だな。
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