女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ

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15. 訓練場でのひととき「アレクシス視点」

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剣と剣が打ち合う乾いた音が、澄んだ空気を震わせる。

騎士団の訓練場は、今日も熱気に満ちていた。

その中央で剣を振るうのは、騎士団長の息子――アレクシス。

整った横顔、無駄のない動き。
まだ若いが、すでに次代を担う存在として期待されている青年だ。

その視線が、不意に止まった。

入口に立つ一人の少女。

エリシア嬢。

陽光を受ける淡い髪。

周りを見渡すと、後ろの侍女と護衛に守られながら、こちらを見ていた。




胸が、妙に落ち着かない。

剣を収めると、アレクシスは彼女のもとへ歩み寄った。


「エリシア嬢、先日はどうもありがとうございました。本日はどうされたんですか」

いきなり会えて、顔が赤くなってしまった。


「父が王城へ登城する予定があったので、一緒に来たのですが、王宮の訓練場を見たことがなかったですし、アレクシス様も訓練されているのかなと、少し寄ってみました」


「訓練をご覧になりますか?」


「ええ、ぜひ」

微笑まれた瞬間。

心臓が跳ねる。

(落ち着け。騎士として、堂々と)

訓練に戻ると、背後から声が飛んできた。


「おいアレクシス! 貴族令嬢だろ?」

振り向くと、団員たちが興味津々の顔でこちらを見ている。

女性の少ないこの国。
しかも貴族令嬢など、騎士達が色めきだす。



「綺麗だな」

「ちょっと挨拶くらい――」

アレクシスは静かに割って入った。


「……あの方は俺の客人だ」

声は低いが、よく通る。

団員たちが一瞬で口をつぐむ。


「軽々しく近づくな。粗相があれば家同士の問題になる」

一人が肩をすくめた。

「わかったよ、わかった。アレクシスそんな怖い顔すんなって」

「邪魔しねえよ」


それでも一人が小声でぼやく。

「でもなあ、俺も話しかけたいな……」

アレクシスは一瞬だけ視線を鋭くした。



ほんのわずかな間。

「俺が困る」

「は?」

団員たちが顔を見合わせる。


「え、なんでお前が困るんだ?」

「……いいから、持ち場に戻れ」

ぶっきらぼうに言い放つ。

「はいはい」

「わかったって」


笑いながら散っていく団員たち。

だがアレクシスの胸は、まだざわついていた。

(困るに決まっている)

あの人に、軽い視線を向けられるのは。

妙な焦りが生まれる。

こんな感情は初めてだ。




訓練が落ち着いて。

「お待たせしました、エリシア嬢」


彼女は柔らかく微笑んでいた。

「賑やかですね」

「……失礼いたしました。騎士たちは少々無骨で」

「皆さまの訓練、迫力がありますね」



「……少し、静かな場所へご案内してもよろしいですか?」

「ええ」


訓練場の奥、小さな木陰へ。

喧騒が遠のき、二人きりになる。

風が、彼女の髪を揺らす。




「アレクシス様の訓練の様子、素敵でした」

顔が赤くなる。


「……光栄です」

声がわずかに低くなる。

「ですが……あまり近くで剣を見るのは危険です。もしお怪我でもなさったら」

「心配してくださるのですね」

微笑まれ、言葉を失う。

スマートに答えたい。

余裕ある騎士として。

だが――

「当然です」

少し早口になった。


「あなたは……その、守られるべき令嬢ですから」

(違う。そうじゃない)

言いたいのは、そんな公的な理由ではない。

だが口に出せない。


エリシアはじっと彼を見つめる。

「アレクシス様は、お優しいのですね」

優しい?

違う。

独占欲に近い何かを抱えている自分が、優しいはずがない。

「……俺はまだ未熟です」

正直な本音がこぼれる。
 

「騎士としても、人としても」

「ですが」

エリシアは微笑む。


「とても努力されていて尊敬します」

視線が絡む。

胸が痛い。



「……エリシア嬢」

「はい?」

一瞬、言葉を選ぶ。

そして。

「もし――」

声が低くなる。

「あなたが守られる立場であるなら……」

喉が渇く。

「その一人に、俺を加えていただけますか」

それは、遠回しな願い。


将来、一妻多夫が当然のこの国で。

その“夫候補”として。


エリシア嬢の顔が赤くなる。

「……私もアレクシス様とのお見合いは前向きに考えております」

二人して顔が真っ赤になり、下を向いてしまう。


胸の奥が、熱くなる。

(まだ始まったばかりだ)

騎士としても、男としても。

この感情の名を、まだ知らない。

だが。

今日のこの時間は、確かに特別だった。

そしてアレクシスは、静かに決意する。

次に会うときは、もう少しだけ――
余裕のある男でありたい、と。
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